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ニートノベル二周年記念読み切り『ありがとう』/anaba

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「おめでとう」

俺がそう言ってプレゼントを渡すと彼は受け取りながら少し恥ずかしそうに笑った。プレゼントをその場であけてしまうところはやっぱりまだ子供だ。ただ子供といっても「彼ら」に幼児期は存在せず、そして彼は人間の何十倍何百倍もの寿命を持っている。彼らのような存在がいること、それを俺は知識としては以前から知っていた。

彼の名前は「ニート・ノベル」

「彼ら」の人生は少年期青年期が人生の9割を占めている。数十年しか生きられず、20年もすれば老いが始まる人間とは違う種の存在だ。そう考え事をしている俺の顔は難しい顔をしていたんだろう。気が付くと彼は不安そうな顔で俺を見上げていた。

俺があわてて笑顔で返すと彼はほっとしたような表情を見せる。プレゼントは石に描いた下手糞な絵、ここじゃまともなプレゼントは手に入らない。俺は平らな石を削って彼の顔を描いてみた。

絵の練習でもしとけばよかったな。

自分にやりたい事ができている事が、少し可笑しくて俺は笑ってしまった。死ぬこともできず、生きることもできない、やりたいこともない。それが俺だったはずなのに。彼と出会ってからやりたいことが少しずつ増えていた。そしてやりたいと思うそのほとんどは彼のためのものだった。

初めて彼とであったのは数ヶ月前、その頃の俺は壊すことばかり考えていた。毎日どこかの誰かを壊して自分の満足に変える。そんな日々だった。相手が誰かなんてことはどうでもいい事で、ただ相手が傷つき絶望し終わっていく様を見るのが好きだった。自分がそんな事を平気でできる醜い人間だという事に気づいてしまってからは手を汚すことへの罪悪感も次第に無くなっていった。

血と土ぼこりの焼け野原、俺と俺と似たようなゴミ共が同じゴミを殺して回る。彼はそんな地獄、クズ共の死体の山の下で埋もれていた。死体の間から手をバタバタとさせているのを見つけて俺は最初、その手を踏みにじった。濁った眼で見下ろしながら何度も踏みつける。

足首を必死で掴んでくる手に苛つき、その手を思いっきり踏んだ時、痛みで小さく声を上げるのが聞こえた。子供の声だった。

戦場で子供の声を聞いたのが初めてだったからだろうか。僕は驚いてその足をどかす。踏んでしまった手は赤く腫れていていた。戸惑っている自分にハッとする。今更いい人ぶって助けるのか。お前の人生にいい人なんていたか?一度でも助けられことがあったか?

被害妄想、一方的な思い込みが一瞬戻った俺の人間性を失わせていく。

殺せ。

殺せ殺せ

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!!!!!!!!




殺せなかった…


俺はその日、ここにきてから初めて「人」を助けた。赤くなった手を見ないように彼を死体の山から引きずり出す最中、俺は子供のように、わけも分からずに泣いていた。彼を取り出すと彼は死体の黒ずんだ血でまみれたまま少しの間呆然としていた、彼の赤く腫れた手の傷が消えて行く。そして彼は俺の目を見て微笑み小さく感謝の言葉を発した。

「ありがとう」

その日、俺は少し変わった。地獄から少し離れた場所に俺と彼は暮らしはじめた。

俺は彼について多くを知らない。ただ彼の体に刻まれた文字で俺は彼が自分とは違う存在、人間ではないということにはすぐ気づいた。焼けた肌から見える「それ」を見られることを彼は嫌がった。

言葉を忘れていた俺も次第におしゃべりになっていく。彼はあまり自分自身について語らなかったが、家族について教えてくれた。絵が上手な兄や姉や弟の話や、話が上手な妹の話、その話のどれもが暖かくて、彼はその思い出を大切に生きているんだろうと思った。

俺も自分の友達のこと、家族のこと、恋人のこと、趣味のことを彼に話した。彼は俺の話を楽しそうに聞いて、時には二人で大笑いしたりもした。

ただ、彼と違い、俺が話すことは嘘にまみれて、そのほとんどは俺の願望にすぎないものだった。

家族と幸せに暮らしたい。
友達と遊びたい。
恋人とふざけたりしてみたい。


―幸せになりたい―




今日は彼の2歳の誕生日だ。窓の外からは地獄を一望できる、そんな場所で俺はいもしない仲のいい家族や友達や恋人の話を彼にしている。

『俺は一生ここから出ることはできない』

それも承知で、頭でこしらえた嘘の世界を彼に語る。つたない想像力で、つまらない言葉で、精一杯…彼より先に死んでいく俺の話を、彼がいつまで覚えていてくれるのかは分からない。でも俺がいなくなってもきっとまた別の奴が現れるような気がしていた。地獄から俺が少しだけ足を踏み出して、絶望ではなく、希望を語るようになれた。同じような奴だっているはずだ。

とりあえずはもっと絵の練習をしよう。彼が大切そうに手に持つへたくそな絵を見て俺は思った。



おわり
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