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int5.破綻縫合

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 物語の初め、ジュンは壊れていた。

 彼女に依るべきものは無く、彼女は空(から)だった。いつでも彼女は死に臨んでいた。それ故に、ユキは彼女を求めた。

 ……なぜ? どうして惹かれた?

 引く手は数多あったはずだ。なによりユキに好意を寄せる人間は実際にいたのだ。リューコを初めとして。

 なぜジュンでなければいけなかった? ユキは学校では孤独でなかったか? なぜジュンとだけ、彼女はこうも距離が近い?



 空になってしまったジュンには、ユキの心の内側まで見えなかった。

『本当は、もっと単純な好意だったはずなのにね……』

 心は不可視だ。誰にもみることはできない。

 時に、自分さえ。

 本当にそれは単純な好意だけだった?

 ユキが視えていなかったのは、誰の心の内だ?



 壊れているのが分かりやすかったから、ジュンは少しずつでも取り戻すことが出来た。

 不毛と思える追憶の中に、ジュンは少しずつ断絶した過去の断片を拾い集めてきた。

 混じり合う痛みが何かさえわからないまま、彼女はユキを求めた。

 そうして藻掻いた末に、彼女は心に人を抱(いだ)いた。

 いつのまにか空ではなくなっていた。

 だからようやくジュンは気付くことが出来る。


 二人の出口のない関係性に。



 互いが悩んでいた。『今在る二人の関係はなんだろう』と。

 必要とし合っているのに、ジュンがそれに答えを出せないでいるのは何故?

 ユキが答えを出せないのは、何故?

 何度も唇を重ねているのに、二人が二人とも、ただの一度も「好き」と言わなかったのは何故? 言えなかったのは何故?



 ――二人とも壊れていた。物語が始まったときには既に。





「それにね、今は一人っきりじゃないし」

 破綻でつぎはぎされた物語が、その言葉に折り返される。
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