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偽りの静寂

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 時間は少しさかのぼり、村周辺の森の中に場所は移る。
 木々の間をすり抜け、息を切らせながらリンとフィーの二人は全力疾走をしているところだった。
「も~!なんでこんなことになってるんですかぁ!!」
 半分涙目になりながら、フィーはリンに抗議する。
「だってあたしは声を出さなきゃ攻撃できないコトダマ使いなのよ!、元々隠密行動に向いてないんだから仕方ないじゃない!!」
「どの口がさっさと終わらせて合流しようなんて言ったんですかぁ~!!」
 走りながらリンは追手の数を確認した。数は3人。武器は剣2人、短剣一人だ。
 今まで急いでこの村を目指し、睡眠もろくに取れず、挙句の果てにこの全力疾走である。残りの体力を考ると、コトダマを使える回数は恐らく7~8回が限界だろう。
 走り回るより体力の残っているうちに、追手を始末いた方がいいと判断したリンは、即座に振り返って3本同時にナイフを投げた。
「喰らえ!投げナイフぅ!!」
 3本のナイフはそれぞれ頭、胸、肩に命中し、貫通する。肩に当たった男も死んではいないみたいだが、ほとんど動くこともできないようだ。
 これならば只の投げナイフで十分とどめを刺せる、そう判断したリンが投げナイフを構えたところで、マッチ箱くらいの大きさの箱がリンの方に投げられてきた。
「な!!」
 とっさに木の陰に隠れるリンとフィー。二人が隠れるギリギリのところでコトダマは放たれた。
「7番、バースト!」
 飛び散る無数の刃が、木々を傷つける。ジーノから昔の話を聞いていなければ、なす術もなく二人はやられていただろう。
 フィーがそっと箱が投げられてきた方を覗き込むと、15~16歳のガントレットをつけた少年が、30歳前後の無精ひげを生やした兵士と並んで立っていた。
 兵士は二人が隠れている木の方を睨みながら、不機嫌そうに口を開く。
「…仕損じた?ラスター、お前なんかミスったんか?」
「いえ、手応えはあったんですけどね。まあ、少なくとも完全に初見で、あの反応はないでしょう」
 兵士は大きく舌打ちをすると、益々機嫌の悪い目つきになった。
「最近、情報統制緩いんじゃねぇか?隠蔽工作部隊は何やってんだかなぁ」
「生け捕りにしますか?」
「ああ。でも無理すんなよ?次は、お前の番だからな」
 少年は小さく頷くと、懐から2つ箱を取り出して、それぞれ二人が隠れている木の陰に投げつけた。
「0番A、Bバースト!!」
 小箱から発生した強烈な爆風で、フィーは地面に叩きつけられる。
 リンはとっさに木の陰から飛び出してそれをかわすが、そこにはコトダマ使いの少年が距離を詰めながら、ガントレットの手の甲を前に突き出す様に構えていた。ガントレットの手の甲には、何やらガラス玉のようなものが埋め込まれている。
 コトダマ使いの少年は、右手のガントレットの手の甲をやや下に向けながらコトダマを放った。
「G‐Right‐A、バースト!!」
 その瞬間、ガラス玉の一つが弾け、破片がリンの右足を直撃した。
「痛ぁ!!」
 地面を転がりながら何とか体勢を立て直し、少年を睨みつけようとするリンだったが、既にガントレットの掌が視界を覆っていた。
「な…!」
 リンの思考は混乱してほとんど止まってしまっていたが、ゆっくり静かに話しかけるコトダマ使いの少年の声だけが、頭に響く。
「動くと、弾きますよ?」
 リンの背筋が凍る。自分の頭が破裂する所を思い浮かべてしまったリンは、思わず吐きそうになった。
 荒くなる呼吸を無理矢理鎮めようとするリンだったが、少年に話しかけられて心臓が跳ね上がる。
「何故あなたは――」

 ――。

 突如訪れる”静寂のようなもの”。
 ここにいる皆の意識は強制的に薄れ、揺さぶられていた――。

 ――あぁああああああああああああああああ!!――

 頭に微かに響く叫び声に、リンは何故か無性に悲しくなった。

 ――ジーノ…?
 リンの意識が少しずつ戻り始める。視界はまだぼやけたままだ。
 徐々に眼の前の光景を理解できるようになってきたリンは、眼の前の少年が頭を抱え、地面に膝をついて歯を食いしばっている姿を見て、必死に体を動かそうとしていた。
「なん、なんですか一体…」
 コトダマ使いの少年もゆっくりとだが、意識を取り戻し始めた。
 もう、投げナイフを懐から出す時間も惜しい。そう考えたリンは全力で左拳を握った。
「…あったま痛てぇ。今の、もしかしてニーシャか?…って、おい!!ラスター、前見ろ!!」
 コトダマ使いの少年がリンを見るのとほぼ同時に、そのコトダマは放たれた。
「左、ストォレートォ!!」
 とっさに右手のガントレットでガードするコトダマ使いの少年。グシャっと肉と骨が潰れる様な音が辺りに響き、少年の体は大きく後ろに吹き飛ばされる。
 後ろにいた兵士の男は咄嗟に少年の体を受け止めた。受け止めた衝撃を殺しきれず、地面を2、3度転がったってから体を起こす。
「ラスター!おい、生きてんだろうな!!」
 息はある。ただ右肩が外れ、意識が無い。兵士の男はほっと息を吐くと、少年を抱きかかえたままリンを睨んだ。自分の視線の先に居るリンを見て、兵士の男はギョッとする。
 リンはコトダマの反動で、左拳が潰れ、肩の関節も外れていた。痛々しいまでに負傷し、息を大きく荒げてながらも、リンは右手で投げナイフを構えている。
 睨み合って数秒程経った頃だろうか、例え手負いとはいえ、コトダマ使い相手では分が悪いと判断したのか、兵士の男はそのままコトダマ使いの少年を抱えたまま、ゆっくりその場を去っていった。
 視界から敵の姿が消えて少しすると、緊張の糸が切れたのか、リンはそのまま地面に倒れ込んだ。
「フィー、ごめん。もう動けないみたい。手を貸してくれない?」
 そう話しかけても、一向にフィーが近寄ってくる気配が無かったので、リンは何とか体の向きを変えてフィーの方を見る。
「フィー?」
「リン、さん?そこに、居るんですか?」
 わずか数メートルの距離、そこには木にもたれかかるようにしながら、手探りで移動するフィーの姿があった。
「な!あ、あんたもしかして眼が…」
 コトダマ使いの少年が、ガントレットに埋め込まれたガラス玉を破裂させる攻撃をしたが、あの破片はリンが考えているよりも広範囲を攻撃するものだ。もともとリンの足元を狙って発動したのだから、ちょうど爆風で地面に倒れ込んでいたフィーに当たっても不思議ではない。
 木の根に躓いたのか地面に転がってしまうフィー。
 それを見ながら、もはや動くこともままならないリン。
 二人は只、その場で互いを励ますことしかできなかった。

 兵士の男はコトダマ使いの少年を抱えて、仲間のいる場所へ向かっていた。ニーシャがコトダマを使わなくてはならない状況が起こっている今、悠長なことはしていられない。
 仲間の集まっている場所に戻ると、部下にコトダマ使いの少年を預けて指示を出し始めた。
「状況は?」
「つい先ほど、森でうろついていたニーシャ殿を保護。しかし案の定、記憶のほとんどを失っており、詳しい状況は不明です」
 コトダマ使いの少年と一緒に居た兵士は、けだるそうな眼差しで空を見上げながら呟くように言った。
「…しゃーない、引き上げだ。このままだとジリエラシティの騎士共と鉢合わせになっちまう」
 周りの仲間達に人と売りの指示を出して自分も撤退を始めると、彼は愚痴るように言った。
「全く、連絡係殿にどう説明すりゃあいいもんかね」
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