『幸せ』
ちょっと休んでみませんか。そう女神に誘われた俺は、快く快諾した。
少し疲れていたのだ。だから、休暇はありがたかった。
女神によれば、俺は異世界へと飛ばされるらしい。
べつに魔王とかがいるわけでもなく、平和な世界でのんびり暮らしたらどうか、という話だった。
俺はそれをオーケーした。
もう、本当の自分とか、心の在り方とか、そういうものに悩むことが疲れたのだ。もう何も考えたくない。ただ、それだけだった。
光に包まれて、俺は異世界へと飛んだ。
○
とある森に飛ばされた俺は、目が覚めてすぐ、近隣の村に助けを求めた。
手ぶらだったし、お金もないし。村人たちは俺を歓待してくれた。記憶がない、というと哀れんでくれ、「いつまででもいてくれていい」という。
この世界は永遠の豊作が続く世界なのだという。それは、この世界の人々の心が清らかで、まじめであるがゆえに、神様から贈られたプレゼントなのだとか。
俺はその恩恵にありがたく浴した。
○
もうどれほどの時間が経っただろうか。覚えていない。
俺は歳を取らない村人たちと一緒に、楽しく暮らし続けている。
何も変わらない日々。何も起こらない時間。
それだけが癒しだった。
過ぎ去っていく風の行方に思いを馳せることもない。この世界には幸福しか存在しないのだ。
俺はそこでゆっくりと暮らしていく。
もう何も考えなくていいのだ。
俺は幸せになったのだ。
幸せに……