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『雪学校』

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「こらー! ぷんすかぷんだよ!」
「ほえ?」
 俺は寝ぼけた声を出した。俺のすぐそばで、里香が口をへの字に曲げている。
「もう、ゲームの途中に寝ないでよ。回復役、あんたなんだから」
「悪い悪い」
 そうだった。ここは文芸部の部室だ。俺はそこでコタツに入りながら、女子部員たちとゲームで遊んでいるんだった。
 幼馴染の里香。
「まったく、しょうがないんだから」
 部長の蜜柑。
「まあまあ、許してやろうじゃないか」
 後輩の百合。
「先輩、お疲れですか? 肩、揉みましょうか」
 クラスのマドンナの愛子。
「ふふっ、しょうがないなあ」
 みんな俺となかよしの美少女だ。
 俺は彼女たちとゲームしてばかり暮らしている。
 画面の中では、攻略途中のダンジョンと、俺らが作ったキャラがそれぞれ武器とか持ってる。
 愛子の家がお金持ちだから、買ってもらったのだ。
 みんなそれで楽しく放課後、ゲームしている。
 たまたま俺は唯一の男子部員で、そこで平和に過ごしていたのだが……
 突如、大変なことが起こった。
 なんと学校に吹雪が吹き荒れ、俺たちは学校に閉じ込められてしまったのだ。
 食料は大量にあったし、部室はたたみなので布団を敷けば寝れる。こたつもある。
 だからそれだけなら困らない。吹雪がやむのをまてばいいだけ。
 でも、この吹雪はやまないのだ。
「ほらほら、ゲームをクリアしないと外にでれないよ~ふにゅっ!」
「まったくもう! ここから出してよ!」
「やーだー」
 里香に口を押さえつけられているのは女神だ。白い絹の服を着ている。
 なんでもヒマだから俺たちを雪の学校に閉じ込めたんだとか。
 で、いま俺らがやってるゲームをクリアしないと吹雪はやまず、俺たちはずーっとこのままらしい。
 だからゲームをしなきゃなのだ。
「ほら、いくわよ。コントローラ持って」
「おお……」
 俺はゲームを再開した。でも眠かった。
 どうしてこんなに眠いんだろう。
 うーん、さむいからかな? でも、コタツあったかい。
 俺はキャラを操作して、里香たちをフォローしていく。
「あっ、だめです先輩、そっちは罠が!」
「まったく、シンタロウは仕方のないやつだな」
「もう、さっきも同じミスに引っかかってたでしょ!」
「ごめんごめん」
 俺はへらへら笑いながら謝って、ゲームを進めていく。
 だってそうじゃん。
 雪の学校に閉じ込められたとか、ぶっちゃけ困らない。
 だから、俺は、外に出たいとあまり思わないので、ゲームをクリアする気だって起こらない。
 やる気が出ない。
 みんなでここで、のんびりふわふわ、生活するのの何がだめなんだろう。
 食べ物は無尽蔵だし、みんなで食べるご飯は美味しい。
 暖房は完備されていて、トイレにいくために廊下にいくときだけがちょっと寒い。けど、それだけだ。
 お風呂だってある。女神が勝手に創造したやつが部室の隣に出来たのだ。 何にも困らないじゃん。
 ここでポチポチゲームして暮らすことの何が駄目なんだろう。
 俺はもう疲れたのだ。
 里香たちとずーっと遊んで暮らしたい。
 そう思うことは悪いことなんだろうか・・・
「シンタロウ、はやくはやく! なぞが解けて扉が開いたよ!」
「ああ、わかってるって」
 俺のキャラは壁沿いにゴリゴリしながら、出口へと向かう。もうまぶたがおっこちそうだ。コタツの中で里香の足を突っつく。
「きゃっ! な、なにしてんのよシンタロウ! もう、ばかーっ!」
「ぎゃふっ」
「こらこら里香、シンタロウを殴っちゃだめだ」
「あ、コントローラが……」
 俺のキャラが罠にハマった。
「もー、またシンタロウを助けにいかなきゃならなくなったじゃない!」
「すまんすまん」
「まったく」
 とか言いながら、みんな助けてくれる。
 あったけぇ。
 あったけぇ世界だ。
 これより他に欲しいものなんてないなあ・・・・
 俺はコタツにさらに深く身を入れ、ポテチを喰った。ちゃんと割り箸使うよ。おいしいおいしい。
 画面の中で、俺のキャラが救出され、パーティが新たな階層へとおりる。俺は回復と剣を使えるパラディン。里香はバトルマスター。部長は賢者。百合は全体回復役で、愛子は召喚師。ぶっちゃけ俺はなんもしなくてもいい。
 大きなドラゴンみたいなモンスターが出てくる。
「みんな、気をつけて!」
 里香の掛け声にみんなが頷く。
 俺はふざけてわざとモンスターを怒らせるように剣でちくちく突いた。魔物が怒って、攻撃力がアップする。
「もー、シンタロウ!」
「ごめんごめん」
 ああ。
 ゆるされるって、気持ちいいなあ。
 もっと悪いことしよ・・・
 でもそればっかりでも悪いから、ちゃんとチマチマ回復もこなす。そして魔物が暴れたら「うわーっ!」とパニックを起こして逃げ回る。それが楽しい。生きてる気がする。
「シンタロウ、そっちカバーして!」
「わかった!」
 とか言って、ちょっと強めの剣技を放つ。ぜんぜん効いてない。
 どかっ
 俺は魔物に弾かれた。
「ぐあわっ」
「大丈夫ですか、先輩。いま、回復しますね」
「ううっ、ありがとう百合。お前は俺の味方だなあ」
 ボコボコボコ。
 ちょっと頑張れば魔物は倒せる。そうしてアイテムとか拾って、俺たちは次の階層へいく。
 楽しい。
 生きてるって感じがする。
 でも眠い。俺はコタツの中で身じろぎする。
「おやおや、シンタロウがおねむのようだぞ」
「また寝るの、あんた? いつまで眠ってんのよぉ~~~~~~!」
「ぐええ」
 首を里香に締められる。しかたないだろ、眠いんだから。
 俺は疲れてるんだよ・・・・何に疲れてるのかわからないくらいに・・・
「鍋食おうぜ鍋」
「さっき食べたでしょごはん」
「でもいいかもしれないな。愛子、準備してくれないか」
「いいよ」
「鍋パーティの開幕だ!」
「よっしゃー!」
 俺たちはゲームを中断して鍋パーティを始めた。食材はたっぷりある。豚肉鶏肉牛肉、なんでもある。マロニーちゃんだってあるし、最後のシメでお雑煮の準備も万全だ。ダシになりそうな魚とかもたくさん入れる。
 こんなしっかりとしたご飯、学校でしか食べられないよ・・・・
 おいしいなあ・・・・俺はレンゲですくった鍋をたっぷり味わった。
「しあわせだな」
「そうだなあ」
 俺たちは幸せな鍋を囲んで楽しんだ。女神のやつもちゃっかり食ってる。いやしんぼめ。
「ほら、ニンジンも食べなさいシンタロウ」
「食べてるって」
 よく煮えてて、おいしいよ。
 俺はうつらうつらしながら、鍋を食べた。
 しあわせだ。
 ここにはいやなやつとか、へんなひととかいないんだ。
 幸せなことだけがある。
 だから、あのゲーム、ほんと俺はクリアしたくない。
 この吹雪がやんでほしくない。
 ずっとずっと、この今が続いて欲しい。
「こらこら里香、肉とりすぎだぞ」
「すきなの、いいでしょ」
 何も起きず、何も変わらず。
 文芸部のみんなと一緒にいたい。
 クリアなんていらない・・・・
 クリアなんてしたくない・・・・
 外を見ると吹雪が続いている。
 白い雪が俺たちを外界から守ってくれてる。
 俺はそれが嬉しいんだ。幸せなんだ。
 このままでいいんだ・・・何もかも・・・
「ねえ、シンタロウが本当に寝そう」
「じゃあ、もう電気を消して寝ようか」
「そうだね」
「ゲームは今日は、ここまでですね……」
 ぱちん、と電気が消される。
「おやすみ、シンタロウ」
 いつまででも寝ていてよくて、食事は尽きることがない。
 ここは天国だ。俺は天国に来たのだ。
 よかったなあ。
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