The card.
彼女は俺に選べという。伏せられたカードは一枚。選ぶのはそれをめくるか、このまま帰るか。店内は賑やかな沈黙で満たされ午後の陽射しがあたたかく彼女のメガネとテーブルの上の読みかけの文庫本を流れている。背丈が半分になったカフェオレに浮いた氷がカラリと浮く。おれはこういう雰囲気が好きだ。でもカードをめくればきっとそれは終わってしまう。だからおれはカードをめくらない。このまま帰ることもしない。しかしおれはいずれそのカードをめくるだろう。たとえメガネ越しであっても彼女の目がおれを見つめている限り、そこにどんな羨望も誘惑も無かったとしても、おれの自由意思を尊重してくれているとしても――その目を知っているおれはいずれ、かならずカードをめくるのだ。
絶望さえも彼女は否定しないから。