安寧
世界を平和にしたい。
だから俺は世界を書き換えることにした。
すべての冒険をやり直す。
そのためだけに。
宿屋の息子のセロウが行方不明になった。別にどうでもいい。どうせ盗賊にやられたんだ。
だから俺は盗賊に聞いてみた。セロウをやったのかと。
そしたら違うと言っていた。じゃあ誰がセロウをやったんだ。
考えると疲れる。
俺は前世でポケモンをやっていたらランクマで負け続けて憤死し、異世界へ転生してきた。ポケモンはよくない。
勝ったの負けたの、めんどくさい。
嫌な気分になる。
そもそも与えられたルールに対応する、適応力を求められるゲームは俺は向いていない。疲れる。
向いていないことはすべきじゃない。おかげで死んでしまった。
いま、俺はレボール村というところで、静かに暮らしている。
俺を拾ってくれた錬金術師のアンナさんのところで、ヒモをしている。
ヒモが自分には向いていると思っていたけど、ヒモはヒモで退屈だった。
なにかしたいなあ。
かといって、ポケモンみたいな争うことはやりたくない。
だからいなくなったセロウを探してみたりする。
イライラは止まらない。俺は……
なにかが虚しい。それがなんなのかわからない。
いろいろ手を出してみては飽きる。かったるい。めんどい。
なにか慎ましく生きていくべきなんだろうと思う。
得ると疲れる。だから何も得なくてもいい。
のんびり暮らしていければそれで。
難しいことは考えると疲れる。
だからのんびりしたいのに。
この村は何もなくて困る。
そわそわする。
病気なんだろうか?
もしも魂というものがあるのなら、俺のそれを綺麗にしてほしい。
磨いたり、中性洗剤とかで。
何かが足りない。
何かがめんどい。
それがなにか分からない。
俺は、結果がすぐに手に入らないと不安になる。
狩人の魂が俺にはある。狩人は農業をしたりしない。
あんなに長い期間、手に入るかわからないものを脳死で続けるなんて俺には無理だ。
確実に手に入るもの。お手軽で楽ちんなもの。
狩人に必要なものはそれだ。
何も考えたくない。
いろんな要素が世界にはあるけど。
どれも退屈だ。
飽き飽きしている。
疲れたなあ。
せっかくの休みなのに。
気分が乗らない。
何がいけないんだろう?
すぐに手に入るものがほしい。
そうだ、俺は世界を書き換えることにしよう。
セロウは生き返った。沼地に落ちて死んだのだ。
それを俺が神から授かったギフトで蘇生した。
俺は何も考えたくなかった。
それが叶う世界を実現した。
誰もが平和で、なんの労働もしなくていい理想郷。
俺はそれを実現したのだ。
もう何もする必要がない。
疲れるだけだ。
世界は俺が書き換えた。
魔王も勇者ももういない。
平和で静かな安寧だけがある。