クイツクセカゲ
その影は俺が手に入れたものを片っ端から喰い漁っていた。俺が手に入れたと思ったもの、友達とか、学歴とか、賞与とか、ツイッターのいいね数とかだ。そういったものをそいつは大して好きでもないフライドチキンみたいに噛みついて、すぐ捨ててしまっていた。そうされるたびに俺は胸がとても痛んだ。もっと大事にしたかったし、せっかく手に入れたと思ったのに。また手に入れるのにどれだけ時間がかかる? 特にツイッターのいいね数だ。いいねしてもらえたときだけ生きていると感じられるのに。
その影は俺によく似ていた。そいつはニヤニヤ笑っている。だが本当は俺がニヤニヤ笑っているのかもしれなかった。
そいつは言う、何も気にすることはないと。
俺が喰ったのは、おまえが手に入れたものじゃなく、おまえがそれを『手に入れた』と感じた気持ちなのだと。それを失ったからといって、喰われたものがなくなるわけじゃない。最初から何一つ、おまえのものなんかじゃなかったのだと。そしてそれは数え切れないほどたくさんあって、そう、最初からおまえは何も持っていない。手ぶらで来て、手ぶらで去るだけなのだ。
それのどこがいけない?
何かを手に入れたと感じた気持ちこそ重荷だった。俺は本当は何も欲しくなかった。俺が欲しかったのは手応えだ。俺が俺自身の手で触れたものだけだ。それ以外はすべて幻想、存在しない空隙だ。どれほど努力しても、どれほど正しくても、何かを手に入れるなどありえない。
俺たちは何も手になどしていない。
俺にあるのは俺だけだ。影も糞もない、影自身が俺なんだ。
誰にもこの影は渡さない。渡す必要もない。
俺が俺であればそれでいい。
ほかになにもいらない。