一体この憂鬱はいつ晴れるのだろう。そんな日は訪れないかもしれない。
藤原九十九は溜め息混じりに諦観している。
「寒いな」
そう呟きコートの襟を手繰り寄せた。見上げれば雪が舞い降りている。
以前はそうやって降り続けるそれの事をロマンティックなものとして見る事も出来たが、今ではそれも憂鬱さを増す一因だ。
自分はなにをしているんだろう。
そんな事をよく思うが、それを考えてどうにもならない。
堂々巡りのような思考と日常。
うんざり。
一言で片をつけようとすればそうなる。
ただ、そのうんざりする理由を説明しようとすれば、理論的な会話が苦手な自分では一日でも足りないだろう。
気を紛らわせようとコートから携帯電話を取り出したが、彼はその折りたたみ式の携帯電話をしばらく見つめて、ややあって嘆息を零した。そうして再びポケットにしまってしまう。
「バカか、俺は」
そう呟き、頭に積もった雪を振り払うように軽く首を振った。
そうだ。俺は今仕事中なんだ。
自分に言い聞かせながら、彼は白い絨毯のような道路をゆっくりとした足取りで進む。
ザクリ。
ザクリ。
手袋をしていても指先の感覚が鈍くなってくる頃、彼はその足を止めた。
この街では誰もが無意識の内に首を持ち上げてしまう。
そうして視界のふちに入るのは――
澱んだ空。
舞い落ちる雪。
分厚く高い壁。
そっと壁に手を這わせた。そうして触れただけでも分かる。
内側と、外側のこの境界線はきっと永遠よりも遠い。