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第三話【事態の収束】

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以外と大丈夫だった。
全く平気なワケではなかったけど、思ってたよりは酷くなかった。

3年1組での一日目は最初に思っていた『嫌度』が37だとしたら、実際は29くらいだった。

恐怖を感じるという感情の必要性を春子は知った。
恐怖を前もって感じることで、実際やってくる苦痛を軽減するのだ。


「ただいまんこー。」

「それ先に言ったら意味ないやん、おかえりんこー。」

春子はあえて、普段通りの態度でいた。
両親もそうしてくれた。

「あ、ねーちゃん。おかえり。」

春子の妹である由紀は、普段全然話しかけてこない癖に、こんな時に限って気を使って話しかけてくる。
気の使い方が下手だ。

でも気を使ってくれてるというそれだけで嬉しい。

「ねーちゃん!」

「なんや。」

「風邪ひいてへんか。」

「ひいてへんし。」

「そうか。」

「うん。」

「…。」

「うがいとかしてくるわ。」

「もう、うがいしてからこっち来いや!しね!」

「しなへんし。」


うがいをしながら春子は考える。

自分がしてしまったことは戻らない。
自分が今からされることも回避できない。

でも人間は、適応する生き物だ。
これからも何とかやっていけるんじゃないかと思った。


うがいを終えると後ろに由紀がいた。

「ねーちゃん。」

「んー?」

「しねって言ってごめんな。」

「うん。」

「お母さんに怒られてん。」

「そうか。」


春子は何とかやっていけると思った。
春子がまた、いつものように“1組”で机に伏していると
後ろから不意に、自分を呼ぶ声が聞こえた。

自分に対しての呼びかけじゃなかったら恥ずかしいので、無視していると

「志村さん、志村さん!」

やっぱり、自分に対しての呼びかけらしかった。

「んー?」

「志村さん、話があんねんけど。」

1組のクラス委員、委員長?
いかにも委員長的で、いかにも
「みんなのリーダーやし!」
と言った感じの女が話しかけてきた。

「志村さん、もう一回自分のやったことについて考えようや。」

真面目な表情で彼女はそう言う、その顔に悪意はない。

「志村さんがやったことは凄い恥ずかしいことなんやで!」

真面目な表情で彼女はそう言う、その顔に悪意はない。

「反省しな同じ事繰り返すんちゃう?聞いてる?」

真面目な表情で彼女はそう言う、その顔に悪意はない。
その顔に悪意はない。

悪意がないからタチが悪い。

彼女の話は
テヲトリアッテ
ヒトリジャイキテイケナイ
アイテノキモチニナッテ
と言った感じの話だった。

別に間違ったことは言ってないので聞いておいた。

話し終えると、満足したのか、彼女は去っていった。
そして二度と話しかけに来なかった。

春子は、友達フラグかと一瞬期待した自分に嫌悪した。



秋、文化祭の季節になった。
1組のみんなはあれやこれや意見を出したり、忙しい。
みんなの役割はどんどん決まって行く。
春子は気にしないフリをして、じっと様子を眺める。

1組の担任の先生が春子の顔を見て呟く。

「志村さん…アナタも何か行動しなさいよ…。
さっきから何も発言してないじゃない。
もっと話題に入って行きなさい。」

やれやれと言った顔で春子を見つめる。

何で、やれやれって思われなあかんねん…。

普通こうなるやろ、3年間で出来あがった人間関係の中に放り込まれて
みんなは無視したり奇妙な目で見てくるのに、その中に嬉しそうに入って行けって?

それはな

そんなことが出来るのはな

狂人や

そんな事出来るやつがいたら、狂人や。


もう嫌になった。
じっとする事すら許されなくなった。
人として不自然な行動をとることを強要されはじめた。

もう終わりや


違う!


違うぞ。
全然終わりちゃうし。

この状態がいつか思い出になるときが来る。

「あんときはいややったなー」って言える日が来る。

だからこれからも
学校に通い続ける。

休んでたまるかよ、不登校とか絶対ならん、ならん。
14, 13

  

文化祭当日

1組の出し物は
「身近の文化に触れる、社会風土研究。」
だった。

春子は
「資料が乱雑になってないかたまに点検する係」
になった。

1組のクラスメイトは自分たちの教室にはおらず
みんなでわちゃわちゃと出店を回っていた。

春子はどうしようかとちょっと思った。
4組の友達のところに行こうかと考えたのだ。
別に文化祭だし、いいよな。もともと、4組の友達と喋るな!ななんて言われてないし
それに、そんな事言われる筋合いもない。

でも足がすくんだ。

もういやなんだ、関わるのが怖い。
4組の友達は自分のことどう思ってるんだろう、拒絶してくるかな。
もし笑って接したとしても腹で何を思ってるか分からない。
じゃあもういいや、今日は一人でいよう。

一人でいると、凄く違和感があった。
一人でいるのは悪い事なんだって思えた。不自然なんだって思えた。

座り方も、顎に手をやるしぐさも、目のやり場も
足の位置も、座ってる場所も、呼吸も
全て間違っているようだった。

自分のすべてが「違反」に思えた。

一人でいるのが不自然じゃないところを探した。
トイレに行くのは一人でも不自然じゃないけど、長時間は居られないし
徘徊しても、凄く自分が浮いて感じるし

そうや、体育館のステージを見に行こう。

春子は体育館へ向かった。
体育館は暗くて、ちょっと暖かくて
人はいっぱいいて、ライブだの、劇だのやっていた。

今日は無難にここにいようと思った。

『えー次は、3年4組の発表です。』

拍手とともに春子が以前いた3年4組のメンバーが見えた。

3年4組の出し物は合唱だった。
合唱と言っても、音楽の時間に習うような硬い曲ではなく
歌謡曲を合唱用にアレンジしたものだった。

男女混成だが、女子、男子の中でもそれぞれ
「声の高いのが得意な人、低いのが得意な人」に分かれていた。
伴奏のピアノも滑らかな指遣いで曲を奏でる。
演奏の合間合間に、演奏者の遊び音も入る。
指揮者はスーツなんか着ちゃってちょっと大げさなぐらいにタクトを振る。
でもちゃんとリズミカルに指揮は行えている。

そこには顔をよく知ってるみんながいた。

そこにはよく授業中に眠ってるあいつもいる。
人の弁当をすぐ貰おうとするあいつもいる。
勉強ばっかりしてるのになぜか成績の悪いあいつもいる。
体育の時間だけめっちゃテンション高いあいつもいる。
音読の時にやたら感情こめて読むあいつもいる。
ポーカーのルールについて聴いてないのに言ってくるあいつもいる。
リップクリーム塗りすぎなあいつもいる。
学校になぜか麻雀牌をもってくるあいつもいる。

歌っている一人ひとりが、精いっぱいの声で歌う。
怒鳴りもせず小さくもなく、きれいな音色で。
いっぱい練習したんだろう。
学校の無い日もみんなで集まって練習したのだろう。

春子は涙が出てきた。
周りに見られてもいい、感動して泣いてるんだって思われるだろうから。

春子は顔がぐしゃぐしゃになるぐらい泣いた。

鼻水とか涙とか、泣いた時独特のにおいが鼻の中に広がって。

こめかみがやけに疲労して、おでこが疲れて。

しゃっくりが出て、息がおかしくて。

まぶたが疲れて、それでいてどこか変な感じになって。

眠くなった。
へいへいへいへーい!

今までのこと全部

うっそ どぇーす!

へいへいへいへーい!!!!!

うっそ
どぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええーっす!


と言う夢を春子は見た。

目覚ましの時間よりも15分早く目が覚めた。

まだ薄暗い、夢うつつの中で春子は考える。

あー…今日は学校休もうと思ってたんやった…。
目覚まし切っとこ…。

春子は、後15分程で鳴るはずだった目覚ましを切った。


今日は修学旅行だった。
どうせとけ込めない中で行くぐらいなら、修学旅行中、大いに家で休んでやろうじゃないか。
そう言う考えだ。
両親も納得している。

とりあえず春子は考えるのをやめて、二度寝しようとする。

なかなか眠れない。

余計な事が頭に沸いてくる。
今頃みんなはワクワクほいさっさしながら用意してるんやで。

「整髪料とか持って行くんかいなアンタ!カバンかさばるで!
おいていきー!」

「うっさいんじゃ!
持って行くし!死ねやぼけ!」

「こんなもん持って行く人誰もおらんわ。」

「持って行っきょるわ!井上とか!江原とか!」

こういう会話しとるねん。
しとるねんで。

寝るわ

うん
寝る

……
……

寝るで



寝るし


うん





今頃みんな駅前に集合か


寝よ


うん

寝れへん…

あああああああああくそ!!!!!!

目覚ましなんかかけんかったら良かった!

…あ、勝手に起きたんやった。
16, 15

  

春子はなかなか寝付けないので1階に下りてきた。

「起きたんか―?」

母親が聞く。この親は、自分の子供が修学旅行をサボっているのに何も言わない。
分かってる、あえてそこには触れないでいてくれるのだ。

朝ごはんは特に作られているわけでなく
食卓にバナナ、おやつ、名前の良く分からないレトルト食品(まずそうだ)
そんなものが並べられている。

ただ別に「食え」と言われてるわけじゃなくて、ただただ、置いてある。
別に喰っても怒られなさそうだし、喰わなくても怒られなさそうだ。
そういう、いかにも「休日」って感じの居間。

妹の由紀は学校に行ってるからいない。

それがいつもの休日とは違うけれども
妹は休日はいつも部屋に籠っているので、あんまり普段と光景は変わらなかった。

「ゆーちゃん(由紀の事だ!)がなー、春ちゃんにこれ渡してって言っててん。」

封筒のようなものを渡された、手紙か?

「なんなんこれ」

「さあ?ゆーちゃんが見たらアカンで―って言ったからお母さんも見てへん」

うちの母親はそういうのには律儀なので、「見てない」と言ったら本当に見てないんだろう。
春子は手紙の内容が気になったのでバナナをほおばりつつ二階に上がろうとした。

「ちょ!あかんで!」

急に母親が怒った。

「ボロボロこぼれたらアカンからここで食べー!」

「んー・・・はよ読みたいねん!気になるねん!」

「あかん!」

「もー!ほんならここにバナナ置いてく!」

「あかん!食べてしまいー!」

あああああああああああくそ!
春子はイライラしながらもこれ以上言うのをやめて急いでバナナを食べた。
そして二階へあがっていった。

自分の部屋に入ると春子は深呼吸して、封筒の中身を確かめた。
中にはA4くらいの紙が入っていて、3つ折りにされていた。

「なんやろ…」

春子はその紙を開いてみると


「うんこ」


と紙にはそう書いてあった。

「…」

由紀らしいなと思った。
由紀はコミュニケーションが下手糞だけど
由紀なりに自分の事を励まそうとしてくれたんだろう。

春子はちょっと元気が出た。
このちょっとは大きなちょっとだった。

いつか逆の立場になった時
出来る限りの努力をしてやろうと思った。
中学で行われるであろう大体の行事も終わり、残るは受験のみとなった。

春子は正直言って頭がよい方では無い。
オブラートに包む必要もないので言ってしまうが、アホだ。
恐らくクラスでビリを争うほどだ。

そんなあほな春子も、受験はしなくてはならない。
いや、アホだからこそだ。
学校の成績も悪いので推薦を貰える訳がない。

…と言うか初めから無理だった。

イジメの加害者を推薦するわけにはいかないからだ。

春子はもともとそんな進学校へ行くつもりはなかったので、そこそこ頑張ればいい。
どんなアホでも行ける学校は県に1つくらいはある。
そこを目指せばいい。

正直、別に勉強もしなくてもいいかもしれない。

しかし、人生の通過点、1回くらいはしておくべき苦労。
そういう何だかフワフワした「義務」のようなものを果たすために
中学3年生は勉強しなくてはならないのだ。
どんな不良も、スポーツマンも、ガリベンも勉強する。
所詮中学生だ、親や教師から言われたら守る、勉強する。

よっぽどの異端じゃない限り勉強する。

ちなみに春子に異端になる度胸はない。

だから

勉強する。

「邪魔くさ…これいつ終わるんやろ、何でこんなんせなあかんにゃろ…。」

春子は机に向かって愚痴をこぼす。
学校から貰ったワーク的なものだ。
塾も通信教育もやってない春子にとって、これぐらいしかすることはない。

何回も聞いた本の名前、「新研究」。
「新研究」さえやってれば、大体いける、ってみんな言ってるし、やろう。

そんな感じだ。

でもアレや、「みんな」って誰やろ。
そういえば誰が言ってる?アレ?
先生とー…えー
アレ?

考えんとこ。

他にすることがない以上これをするしかないし。
遊んでるよりはマシだと思う。

それに、勉強やって、それで、みんなも勉強してて
「みんな勉強の事考えてる」モードって心地よい。

クラスとか仲良しとかそういうの考えなくていい。
いや、もう2度と考えなくていいんだ。こう高校行くし、みんなバラバラだし。
耐えたね、うん、もう終わった、もうペナルティは終わったから。

もういじめまがいみたいなこと絶対するわけないし
ペナルティも受けない。

もうないんだ。


そんな事を考えてるともう深夜になった。
勉強に身が入ってなかった。

でももう寝る、別にこの勉強は儀式だから。


春子はクラスメイトの夢を見た。
悪夢だった、どんな内容か覚えていないけど
理不尽で、不快で、気持ち悪かった。
そして目が覚めた、それだけだった。


春子は受験に合格し、高校生になった。
18, 17

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