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第六話「幼い世界を大いに笑おう」

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 ロリータ。
 我が命の灯。
 我が肉の焔。
 我が罪、我が魂。
 L.o.l.i.t.a.
 舌の先が口蓋で3歩のステップを踏んで、
 3歩目にそっと歯を撫ぜる。
 ロリータ。
        ――ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」より抜粋。


第六話


 カーテンを閉め切った八畳ほどの部屋の明かりは、パソコンの画面と、小さなライトスタンドのみで、もしも「この世で一番暗い所で賞」が決められるとしたら、総合的な意味において、この場所がノミネートされるのではないかと思われる程でした。
 そんな負のエネルギーが累積された極地にて、今、3人の男と3人の女が、一触即発の状態で固まっています。「人形」のHVDO能力者である音羽(兄)は、部屋の奥から怯えた様子でこちらを伺い、自分の前には、どんどんカーペットに吸収されつつある2人分の水溜りと、それらをたった今自らの股間から排出したばかりの、おそらく今現在、日本で最も恥ずかしい2人組(ノーパン)が立っていましたが、視界に入っているのはたった1人の男でした。
 春木氏。彼は開いたドアの向こうにいて、部屋からは少し距離を取り、腕組みをして余裕たっぷりに、部屋の中の様子を眺めていたのです。
 正直、自分自身も混乱を極めているので、ここで一旦、ここまでの流れを頭の中でまとめて、仕切りなおしをしましょう。
「僕がしようか?」
 ずいと前に出た春木氏に、「結構です」と断りを入れると、「遠慮するなよ」と気持ち悪い程爽やかな笑みを浮かべて、あたかもメインプレゼンターのように、芝居がかったお辞儀をすると、滑らかに回る舌で、語りとしての自分の役目を颯爽と奪い去ったのです。
「つい最近、HVDO能力に目覚めた五十妻元樹は、行方不明の木下くりを救出しに、冒険の旅に出た。道中、同じクラスの委員長である三枝瑞樹の協力を得て、一度は木下くりの捕らわれているこの音羽邸にやってきたが、まさかここに居るとは気づかず、元能力者の等々力新から新しい情報を得に学校へと向かった。そこで何があったか僕は知らないが……」
 知らないならあらすじを語りだすな、と申し上げたい。
「まあなんとかして、この場所に気づいたのだろう。さぞや驚いただろうね。ついさっきまで木下くり救出作戦会議を開いていたその真下に、助け出すべき張本人がいたのだから」
 春木氏が手で示した方向に、今は人形と化したくりちゃんが座っていました。暗さの下でもはっきりと分かる程に肌が白く、命の形を失っても、なお余りある存在感。退廃的な美しさとでも言うのでしょうか、ゴシックな衣装に隠れたその四肢は、さぞやすべらかに違いないのです。


「春木氏。単刀直入にお伺いしますが、あなたもHVDO能力者なのでしょうか?」
「おいおい」と、春木氏は馬鹿にしたような笑みを浮かべ、「『単刀直入』と言うなら、『あなたの性癖は何ですか?』と聞くべき所だよ、ここは。僕から逃げる気が君に無いのならね」
 ほんの少しのやりとりからでも、春木氏が相当な手練である事は把握出来ました。自分は黙ったまま、あくまでも自分のした質問の答えを待ちます。
「ああ、その通り。僕はHVDO能力者。それから、部屋の隅で震えている彼も同じく能力者。ここに来たという事は、既に分かっているんだろうが、木下くりを人形にしたのは彼さ」
 と、春木氏に指をさされた音羽(兄)は、確かに春木氏の言う通りに震えていました。
「彼の能力はちょっと特殊でね。発動条件が厳しい代わりに、とても便利なんだ。だから僕は彼と組んでいる」
 確かに、人1人の自由を完全に奪い、ただの「物体」に出来る能力が、そう簡単に発動されてはたまりません。しかし便利、という言葉が具体的にどのような事を指しているのかは、自分にも分かりません。
「つまり、くりちゃんを誘拐させたのは、春木氏、あなたですか?」
 自分は明確な敵意を込めてそう尋ねましたが、春木氏はまるで武芸の有段者が素人をいなすようにあっさりと、自分の質問をいなしたのです。
「誤解されては困るね、五十妻君。『協力』と言っただろ? 木下くりを人形にしたいと言い出したのは音羽さんの方さ。僕はただそれを手伝っただけ」
 真意を確かめる為、音羽(兄)の方に向いて見つめると、「おっおっ」と独特の返事をしながら首を縦に振った後、横に振り、その後更に首を縦に振ったので、判断がつきませんでした。
「この事件の発端は君なんだよ、五十妻君」
 自分が「どういう意味ですか?」と尋ねる間もなく、春木氏は淡々と語りました。
「つい先日、君は木下くりに対して、この家の前でおもらしをさせ、音羽さんを攻撃したそうじゃないか。もっとも、彼は生身の人間のする行為に何の興奮も抱かないタイプだからね。全く効き目は無かったが、それでも彼は木下くりに興味を抱いた。『人形にしたら、さぞや美しいだろう』という風にね。だから僕が手伝ってあげたのさ。能力の発動条件を整え、こうしてピンチになった今、駆けつけてきた。どうだい? 協力者としては100点の動きだろ?」
 自分はここまできてようやく気が付きました。この春木氏という男と話をしていると、自分のペースをあからさまに乱される。まともな会話など出来る気配がまるで無い。ここは彼の演出する舞台で、自分はただの一登場人物に過ぎないような錯覚に捉われてしまうのです。あるいは、こちらの手札が相手に丸見えのババ抜きでしょうか。一度ババを握らされたら勝てる見込みの全くなくなるゲームをさせられているような物です。
「さて、もう1度、『単刀直入に』聞いてみたらどうだい?」
 そう言って、にこっと笑う春木氏の後ろに、悪魔のような物がちらと見えました。
 それが罠であると、相手を都合の良いように動かす策略であると分かっていても、しかしそれでも尋ねてしまうのです。
「……あなたの性癖は何ですか?」
「僕はロリコンだ」
 と、春木氏は誇らしげに言いました。


 ロリコン。
 諸外国においては、ティーンエイジャー全般に対して性的な感情を持つ者を一般的にそう呼ぶらしいのですが、ことこの変態国家日本においては、小学生の低学年から高学年を範囲とした性趣向を表している代名詞であるというのが現状のようです。
「ロリコン、ですか」
「ああ、別名児童性愛とも言うかな。僕のストライクゾーンは小学4年生から5年生と非常に狭い」
 あまりにも清々しく言うので、非難する気にもなれませんでした。いえそもそも、「僕はロリコンだ」と躊躇なくカミングアウト出来る人間に対して、一体どのような罵倒が有効なのでしょうか。こちらが教えて欲しいくらいです。
「中学生は対象外なの?」
 今まで黙っていた三枝委員長が、横から出てきてそう尋ねると、春木氏は「ああ、残念ながらね。僕が不登校になったのも、中学校には小学生がいないからさ」と答えました。音羽君が、「うわぁ……」と率直な反応を見せても、春木氏は樹齢百年の大木のようにどっしりと構え、一切揺るぎませんでした。
 戸惑う、というより若干引き気味の自分を他所に、春木氏は続けます。
「では次はこちらから聞かせてもらおうか。五十妻君、君の性癖は何だい?」
 HVDO能力者同士が、互いの性癖を告白するという事は、即ちバトルの開始を意味します。
 自分は返答に迷いました。しかし迷った時点で、勝敗は決していると言っても過言ではないのです。いえ、自分にロリコンの気がある訳ではありません。単純な戦況の問題なのです。
 相手がロリコンだと言うのなら、こちらは子供のおもらしをぶつけるべきだと判断するのが普通ですが、生憎、今自分が手持ちのポケモンは、本日付けで自分の奴隷となった三枝”ドM”瑞樹委員長と、いつも見下している実の兄の前で、たった今放尿ショーをご披露したばかりの音羽”混入”白乃君のみ。肝心のくりちゃんは人形化していて使い物になりませんし、しかもこちらの能力は既に相手に知られている一方で、春木氏の能力は未だもって未知です。
 勝率が、余りにも低すぎる。かといってここで逃げれば、くりちゃん救出の機会を失う事になります。
「君が何を心配しているか、僕は分かっているつもりだよ」
 黙ったままの自分に、春木氏は優しげにそう声をかけました。まるで恋人のように、頼れる教師のように、あるいは両親のように。
「僕の事を倒しうる『武器』がいないんだろ? 三枝さんも、音羽さんの妹も、今はもう汚れきっているみたいだし、僕を攻撃するにはまるで役に立たない」
 包んだオブラートを突き破る勢いで「汚れ」とばっさり斬り捨てられた2人は、かといって反論も無いらしく、ぐぬぬ、と歯軋りをして春木氏を睨みました。
「そんな君に、とっておきの武器をあげようじゃないか。……音羽さん、いや、人形師。能力を解除してくれないか?」


 人形師、と呼ばれた音羽(兄)の方を振り向いた瞬間、足元が、ぐらり、と崩れました。
 平行感覚を失い、一瞬だけ、目の前が暗転しました。
 それは今までに味わった事のない奇妙な感覚であり、精一杯この小さな脳を使って想像するに、おそらく、宇宙船で大気圏を突破した時のような、つまり、何か大いなる力から解き放たれたような気分にさせられたのです。
 そして瞬きをすると、そこは既に音羽邸ではありませんでした。
 つい2秒前の状態から、三枝委員長と音羽君の姿が完全に省かれ、周りの景色が、一瞬で差し変わりました。自分は一歩も動いたはずなどないのに、今立っているここは確かに、どこかの学校の教室なのです。
「驚いたかい? 高位のHVDO能力者は、こんな事も出来るのさ」
 と、春木氏。自分は興奮を抑え、あくまでも冷静を心がけ、「ここはどこですか?」と尋ねました。
「小学校さ。モデルは僕の母校だが、そことは違う。僕が作り出した、僕だけの空間。シチュ能力といってね、HVDO能力者の中でも結構レアなんだ。半径50メートル以内にいるHVDO能力者と、能力の対象者だけをこの空間に飛ばす事が出来る。だからあの負け犬2人は置き去りにされたって訳さ」
「……そうですか」
 見た目は、本当にただの教室。窓の外が大きなカーテンでもかかったように暗いのが不自然ですが、チョークの粉が満遍なく広がった使い古しの黒板と、穴があったり落書きがあったりな机と椅子には懐かしい見覚えがあり、黒板の反対側には、ランドセルを収納する為の棚、掲示板に書かれた今月の目標は「困っている人に手を差し伸べよう」でした。
「出来れば早急に現実世界に戻していただきたいのですが」
 自分は丁寧にそう言うと、春木氏は「ははっ」と小粋なジョークでも聞いたような反応をして、「それより、彼女を使って勝負をしようじゃないか」と言って、自分の背後を指差しました。
 机に座ったくりちゃん人形は、先ほどとは明らかに変わった様子でした。それは「人形」というよりも、ただ「眠っているだけ」のように見え、今にも目を開けそうな雰囲気をかもし出しているのです。
「おっ、おっ、能力は、解除した、おっ。後は勝手にやってくれ、おっ」
 くりちゃんの隣に立っていた音羽(兄)はそう言うと、くりちゃんから距離を取り、教室の隅っこに移動しました。あくまでもこれは、自分と春木氏の一騎打ちのようです。
「さて、ここで1つ良い事を教えてあげよう」
 春木氏はくりちゃんに近づきながら、嬉しそうにそう言いました。
「人形師、いや、音羽さんの能力は本当に特殊でね。発動条件が、『別のHVDO能力にかかっている人物に触れる事』なんだ。そして人形化した人間には、元からかかっていたHVDO能力が表面に現れない。まあ、現れないってだけで進行はしているんだけどね。……さて、これが何を意味しているか、聡明な君なら分かるだろう?」
「……いえ」
 あまり考えずに、そう答えました。いえ、考えたくはなかったのです。
「おいおい、君らしくないな、五十妻君。答えはね、『木下くりは、既に他のHVDO能力の対象にとられている』という事と、その能力者は……僕だという事さ」
 次の瞬間、目の前に広がっていった光景に対して、自分は、息を飲み込み、見つめるだけしか出来ませんでした。無理もない事だと思われます。何かが出来た訳でもありません。
 くりちゃんが、小さくなっていったのです。
 まるで人間の成長過程を逆再生し、更に早回ししたかのように、背は低く、顔は幼く、胸は……まあ対して変わりませんが、全体的に『子供』になっていったのです。青いキャンディーを食べたのか、謎の組織に注射を打たれたのか、それとも中国の天然温泉に修行中に落下したのか(これは違いました)、とにかく漫画的急激さ、説明不可能さでもって、くりちゃんは子供に戻ったのです。
 変化が終えると、元々着ていたゴスロリ服は、ぶかぶかになっていました。余した袖と長いスカート、弛んだ首下が、変化の大きさを物語っています。
 そして春木氏は、くりちゃんの耳元に近寄り、あの優しげな声でこう言いました。
「木下くり……いや、くりちゃん。そろそろ、目覚めの時間だよ」
 やがてゆっくりと、くりちゃんの大きな瞳が開きました。
「ふぇ?」
 目覚めたくりちゃんの第一声に、自分は底知れぬ恐怖を感じ、戦慄しました。
 もうすっかり、どこからどう見ても「子供」になったくりちゃん、いえ、ここはろりちゃんとでも呼ぶべきでしょうか。とにかく、成長途中の中学三年生から、成長途中の小学生と化したこの1人の少女の姿は、ロリコンにとってみれば、まさに垂涎の存在、御璽の如き威光を秘めている事は明らかでした。
 触れる事さえ躊躇われるような白い肌と、とろん、とした柔い眼差し、幼いながらも美しい鼻梁に、長い黒髪(体だけではなく、髪についても子供の時の状態に戻っているようです)がぱらぱらとかかっています。自分の記憶の中にいるくりちゃんの姿と照らし合わせるに、おそらく、小学4年生の頃の姿のように思われました。
「くりちゃん」
 優しく声をかける春木氏。誰に許可を取ってその名で呼んでるのか、と自分は少し嫉妬をします。
「ん~? その名前で呼ぶなと……」
 くりちゃんが寝ぼけ眼をこすりながら、いつも自分としているやりとりを春木氏と行うのを見て、嫉妬は悋気までレベルアップし、自分はたまらず声をかけました。
「くりちゃん、とっとと起きてください。緊急事態ですよ」
 それからくりちゃんは自分の体の異変に気づきました。最初は、小さくなった手の平に違和感。次に腕の長さに戸惑い。そして立ち上がると、目線の低さに驚愕。やがて窓ガラスに映った自分の姿を見て、発狂。
 余りの事態に声も出ないらしく、教室を見回し、助けを誰に求めて良いかも分からず右往左往するくりちゃんに、春木氏が告げました。
「子供の頃に戻りたい。と、そう言ったよね? 願いが叶って、良かったじゃないか」
「お、お……」くりちゃんはわなわなと震ながら、「お前も変態か!」
 と、今更ながらの突っ込みを入れました。春木氏は当然のように、
「ああ。変態だよ」
 にこやかに答え、くりちゃんは苦悶に顔を歪ませていました。
 どうやら、この2人は以前に接触した事があるようです。そこで自分は、音羽邸の玄関口でした、春木氏と三枝委員長のやりとりを思い出しました。春木氏が「子供の頃に戻りたいと思った事って、ある?」と尋ね、三枝委員長が「無いわ」と即答したアレです。
 おそらくは、アレが春木氏の能力の発動条件となっているのでしょう。三枝委員長は無いと答えて、くりちゃんは、あると答えた。発動した春木氏の能力は、完全な子供に戻るのに、ある程度の時間が必要な物だった。その間に音羽(兄)が能力によって人形化させた事によって、状態が固定化された。くりちゃんの人形を初めて見た時、「幼い」と感じた自分の印象はやはり当たっていたという事です。
「わ、私が子供の頃に戻りたいと言ったのは!」自分の事を指差し、「恥をかく前に戻ってこの変態野郎を殺しておきたいって意味だ! 本当に子供に戻りたかった訳じゃないし!」


「あっそう」
 興味なさそうに呟いて、春木氏が自分に向き直りました。
「ところで五十妻君は、小学生にはどんなコスチュームが似合うと思う?」
 今、くりちゃんが着ている服はぶかぶかのゴスロリ服。愛くるしくはありますが、性的な魅力には乏しい状態だと言えるでしょう。
 この質問に答えてはいけないというのは、いくらなんでも誰だって分かりきった事のはずです。いかに自分の性癖を押し付けて相手を勃たせるかという戦いにおいて、相手の好みを尋ねるなんて事、普通ならありえない事ですし、それが分かったら苦労しません。そもそも自分は、以前断言した通り、決してロリコンではないのですから、「小学生に似合う衣装」なんてこれまで1度も考えた事がありません。
 無言の自分に、春木氏は言いました。
「僕の別の能力でね、1日に1度だけ、10歳以下の子供を好きな服装に着替えさせる事が出来るんだよ。君はくりちゃんにどんな格好をさせたい?」
「裸にランドセルでお願いします」
 即答した瞬間、「何やってんだ!」という声と、「よくやった!」という声が両耳から聞こえました。何故に自分は躊躇無くエロスを追い求め、窮地に向かってダッシュしてしまうのか。未だに解けない謎ですが、しかしここは、この答えで大正解です。後悔などする訳がありません。
「ははは! 良い趣味してるじゃないか。裸ランドセルは僕の好きなコスランキングでも3位に入る。気があうね、五十妻君」
「ちょ、ちょっと待て! 状況が分からんけど、分からんけど絶対おかしい! 何もかもが間違ってる!」
 くりちゃんはそう叫びながら、何のきっかけも無くすっぽんぽんになりました。
 ゆで卵のようにつるんつるんの肌、まな板に2つ乗った、色素の薄いピンクのポッチ。そして一番目を引くのは、おへその下でひっそりと閉じた1本の縦すじ。しかもそれらが、両肩にかかった2本の赤いベルトと、靴下と靴でより強調され、まさに自分の注文通り、幼稚さと妖艶さの混在した、比類無き至極の裸ランドセルでした。
 やばすぎる。
 道徳的な意味でも、戦闘的な意味でも、作品の存続的な意味でも、これは非常にやばい。自分はそう確信しました。
「またあんたのせいで変態に巻き込まれたんだ! なんとかしろ!」
 と、裸ランドセルくりちゃんは、今、己がしている卑猥な格好にまだ気づいてないらしく、自分に近づいてきたので、否が応でも我が息子は元気になっていきました。春木氏の攻撃が始まる前、心のどこかで、いくらなんでも子供に欲情するのは異常だと思い、むしろ現物を前にしたら、親心的な物が芽生え、男の本能にストップをかけるのではないか、と寄せていた淡い期待は亜空間へと吹き飛びました。
「く、くりちゃん、格好。自分の格好を見てください」
 ぽたぽた垂れる鼻血をおさえながら、自分はそう指摘しました。
 くりちゃんは下を向いて、一瞬呆けた後、顔を真っ赤にすると、右手で胸を、左手で股間を隠し、なんだか本格的にいやらしい事になってきました。


「素晴らしい」
 と、春木氏は拍手をしました。
「完璧な幼児体系、挑戦的な美少女顔、清純さを表す長い黒髪、そして何よりもその恥じらい方。素晴らしい。素晴らしすぎる」
 春木氏の言葉は至極最もで、自分は心から同意しました。
 いやいや、同意してちゃ困るのです。
 現在、自分の勃起率は95%。春木氏は80%。
 本来ならば、まずは愚息の暴走を止め、しかるのちに攻撃に転じる所ですが、実は、つい先ほど三枝委員長を調教した際に、自分は新しい能力を手に入れました。それを使えば、行動の順序を逆転する事が出来ます。
「今すぐ戻せ! 私を元に戻せー! なんで変態の相手をしなきゃならないんだーー!」
 局部を隠しながらも、全裸で地団駄を踏むくりちゃん。ちらちら乳首が見えて、危険度が高まるのでやめていただきたい。
「くりちゃん、元に戻りたいのなら、自分に協力してください。春木氏を倒さなければ、くりちゃんは子供のままですよ」
 と諭すも、ほぼフル勃起、両目は全開、鼻血だらだらでは説得力も無いかのように思われましたが、意外にもくりちゃんは納得、普段の行いが良いのか、あるいは藁をも掴みたい一心なのか。
「……分かったよ。またあんたの言いなりになればいいんだろ……」
 数多の変態に陵辱されてきた経験を持つくりちゃんは、最早諦めの境地らしく、悲しげにそう言いました。そこに口を挟んできたのが、春木氏です。
「くりちゃん。僕の言う事を聞いてくれたら、元に戻してあげるよ」
 自分と春木氏のちょうど間に立つくりちゃんに、春木氏は続けます。
「五十妻君の味方をしたって、彼が僕に勝てるとは限らない。先に断言しておくけれど、五十妻君が負けた場合、僕は君を元に戻さない。僕の能力は制限時間が無いからね、僕が飽きるまで小学生の姿で過ごしてもらうよ」
 鬼畜な事をさらりと言ってのける春木氏に、自分もくりちゃんもはっきり言ってビビっていました。この人間はおかしい、という共通認識。
「でも、僕に協力してくれるのなら、五十妻君に勝ったら必ず君を元に戻してあげよう。どうだい? 悪い取引ではないと思うけど」
 くりちゃんは突然の提案に混乱しています。


 今、くりちゃんの手には重要な2つの選択肢が与えられました。
 1つは自分に協力し、春木氏を倒し、元の貧乳中学性に戻る事。
 1つは春木氏に協力し、自分を倒し、元の貧乳中学生に戻る事。
 こう並べてみると、果たして元の鞘にそんなに魅力があるのかは甚だ疑問ですが、このまま小学生として過ごす事は、おそらく耐えがたい事であり、色々な問題が発生します。
「くりちゃん」
 自分と春木氏が、同時にくりちゃんに声をかけました。
 自分はくりちゃんと同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学校に通ってきて、家は隣同士で、時に喧嘩し、時に助け合いながら、これまでの人生で、かなり多くの時間を共有してきました。自分はくりちゃんがブロッコリーを嫌いで、焼き芋が大好きなのも知っていますし、毎朝嫌々ながらも、くりちゃんは自分を起こしに来てくれます。さびしがり屋で、人見知りが激しく、だけど甘えん坊なくりちゃん。くりちゃんは、自分を知っていますし、自分はくりちゃんを知っています。一方で、春木氏とはほぼ初対面のはずです。
 だから、くりちゃんがどちらを選ぶかなどは、分かりきった事でした。
「春木……とか言ったっけ?」
 くりちゃんは、全裸ながらも精一杯虚勢を張って、春木氏に向き直りました。春木氏は笑顔で「はい」とだけ答え、自分は小さなお尻を眺めながら、くりちゃんの次の言葉を待ちます。
「あんたに協力する」
 えっ。
 くりちゃんは振り返り、両目に大粒の涙を溜めて叫びました。
「ざまあみろ! これからあんたのちんこを再起不能にして、あたしは変態から解放されるんだ! 今まで散々人をおもちゃにしやがって! 覚悟しろよ! へへーん!」
 くりちゃんは春木氏の仲間につきました。
 絶望。
 急激に、自分を取り巻く空気が重く、淀んだ物に変わりました。ブラダーサイトで見るに、くりちゃんの尿貯蔵率はたったの2%。この距離から飛びついて3回触るのは難しいでしょうし、暴れながら漏らされたのでは、春木氏を倒しうるエロさは得られないと断言出来ます。くりちゃんが味方するとなれば、春木氏が次にとる手は……。
「それじゃあくりちゃん、ポーズをとってもらえるかな?」
 春木氏は笑顔を崩さず、くりちゃんの肩に手を乗せました。
「……ポーズ?」
 くりちゃんは訝しげに見返します。
「うん。その机の上に乗って、M字開脚して欲しいんだ」
 くりちゃんは「話が違う!」というような顔で自分に視線をやりましたが、知った事ではありません。自分に反旗を翻したのは、むしろあなたの方でしょう。
「さあ、早く机に乗ってM字開脚でピースしてくれないか」
 さりげなく注文が増えたものの、追い詰められたくりちゃんは、しばらく無言で考えた後、覚悟を決めました。
「わ、分かった。それをしたら、あの馬鹿を倒せるんだな?」
「それはどうだろう。くりちゃんと五十妻君次第じゃないかな。くりちゃんが、五十妻君を発情させられるかどうか、だから。でも僕は、君なら出来ると思っている」
 ごくり、とくりちゃんは唾を飲み込みます。
「……やればいいんだろ! 変態行為もこれで終わりだ!」
 くりちゃんはまず椅子に乗り、股間を押さえながら、右足を机の上に乗っけました。ちら、と局部が見え、自分の勃起率は98%に到達。片足だけで乗る事はバランス的に不安らしく、胸を隠す左手のガードを解き、あいた手で机を押さえ、残る左足も机の上に乗せました。
 そしてこちら側に背中を向けたまましゃがみこんで、「くぅぅ」と小さく鳴きながら、大きく息を吸い込んで、一気に後ろに振り向きました。
 机の上、裸ランドセルでM字開脚をする小学生くりちゃん。
 その5秒後、自分の勃起率は「100%」に達しました。
33, 32

  

 走馬灯。
 自分の脳裏を瞬く間によぎったその映像を、果たしてそう呼んでも良い物なのかどうか、自分はオカルトの専門家でも無ければ、死にかけた経験も無いので分かりかねますが、それは確かに、この世から去る時に見る光景としては、まずまずといった出来で、死を覚悟した自分の気持ちは、とても自然な事だったのです。
 くりちゃんがこの数週間で晒してきた痴態の数々が、スライドショーのように流れていきました。コンビニの床を汚したのに始まり、体育の授業中に乳を晒し、おもらしもして、かと思えばちんこが生え、同級生に手コキされ、見ず知らずの男の前でふたなり放尿をご披露し、後輩にあわやレイプされそうになり、挙句の果てにはロリ化。極めつけは屈辱のM字開脚。自分はてっきり、走馬灯とは白黒の映画みたいな物だと思いこんでいたのですが、実際はピンク映画だったという訳です。
 しかしながら、結論から申し上げると、自分は死に至りませんでした。もちろん、性的な意味で。
 頭上を見ると、間違いなく勃起率は100%に達しており、これまでの経験から言うと、これはHVDO能力者同士の戦いにおいて、決定的敗北を意味します。
 ここで少し、HVDOの性癖バトルについて整理しましょう。対三枝委員長戦においては、彼女の興奮率は、プレイのピーク時に147%まで到達していましたが、これは自分の能力を抜きにして、彼女が勝手にそこまで羞恥していたのであり、元来の、彼女自身が持っている露出癖からなる興奮ですが、そこに自分が能力を発動させると、彼女は更に発情し、150%を突破すると同時に「敗北」の判定がなされました。
 しかし今回の場合は、その時のように自分が自発的に興奮した訳ではなく、春木氏の「攻撃」によって、ここまで勃起させられている訳ですから、等々力氏とのバトルを思い出してみても、これで決着はつき、くりちゃんがM字開脚を決めた時点で、自分のちんこは爆発させられているはずなのです。
 つまり今、「ありえない事」が起こっています。
 そして、自分のちんこが爆発しないという事の他にもう1つ、「ありえない事」が並行して起きていました。
 自分はくりちゃんの胸を見て、呟きます。
「お……おっぱい……」
 春木氏も、自分と同じ物を見て、勃起率を91%まで上昇させていました。
 なんと、あの平成に蘇った洗濯板こと、崩壊しないベルリンの壁こと、やたら使い勝手の良いまな板こと、くりちゃんの胸に、確かな膨らみ、おっぱいがあるのです。しかもそれは、「巨乳」と呼ぶにふさわしい、お見事な、生まれたての赤ん坊にとってみれば実に頼もしいであろう、立派なおっぱいだったのです。
 自分は春木氏に視線をやりました。春木氏は自分に視線を返しました。
 これは、どちらの能力でもない。
 そう気づいた時、自分を取り巻く、この2つの「ありえない事」の理由が判明しました。


「待たせたな!」
 振り向くと、教室のドアの所で立っていたのは、
「等々力氏……!?」
 制服姿の等々力氏は、手を円形に作り、見た事のある構えをして、そこにくりちゃん(自分のおっぱいをたゆたゆと触って、状況もろくに飲めてないくせに若干嬉しそうにしているおもらし女)を捉えていました。
「EDが治ったのですか?」
 自分がそう尋ねると、等々力氏はにやりと笑い、「ああ、まあな。どうやらそうらしい」と気持ち悪く、かつクールに決めましたのでぶん殴りたくなりました。
「お前らと別れた後な、頭のキレる委員長の事だから、もしかして、たったあれだけの画像から場所を絞り込むかもしれないと不安になってな。それで、人形師、音羽さんの家に来た瞬間、突然この空間に飛ばされたんだ。この教室だけ電気がついていたから、すぐに分かったぜ」
 春木氏のシチュ能力の射程は半径50m。音羽邸の玄関くらいなら、余裕で入る計算です。それぞれの位置関係はそのままに飛ばされるので、等々力氏はこの小学校の下の階あたりに移動した、という事でしょうか。
「話は全部聞かせてもらったぜ。おい、春木」
 春木氏は、自分を仕留め損なったというのにロクに残念がりもせず、至って普通に「やあ、初めまして」と挨拶をしました。
「へへ、余裕こいていられるのも今の内だぜ? 何せ俺が来たからには……はうあっ!」
 聞いた事のある大きな爆発音を経て、股間から煙を発しながら、膝から崩れ落ちる等々力氏。
 どうやら等々力氏の視界に、裸ランドセルロリ巨乳くりちゃんが入ってしまったようです。
 教室の床に仰向けに転がったので、自分は駆け寄り等々力氏の体を起こします。
 ぜえぜえと口で息をしながらもどうにか微笑む等々力氏は、切れ切れの言葉を吐き出しました。
「はぁはぁ……悪いな、五十妻。やっちまった……。ロリ巨乳、か……なんて威力をしてやがる……くそっ! 俺はロリを舐めていた……ようだ……ぜ」
「等々力氏ーーー!」
 と、死に行く兵士を看取るような格好で叫んでみましたが、内心で「復活して負けるまでが早すぎだろ、こいつ」と思っていましたし、気づいたら実際に言葉に出してそう言っていました。
「邪魔が入ってしまったね」
 しかし、等々力氏のおかげで窮地を脱する事が出来ました。春木氏がくりちゃんを巨乳化した事により、自分はその豊満なバストに目がいき、勃起率が100%になった。つまり、春木氏のロリ能力に敗北した訳ではなく、なおかつ、等々力氏の「丘越」のみに敗北した訳でもない。2つの能力の攻撃を同時に受けた事により、勃起上限が高まって、100%ではなくなった。という判定と解釈するのが妥当な所でしょう。とにかく、自分はかろうじて一命をとりとめた訳です。


 突然の乱入者によって、自分の勃起率は急速に落ち着きました、と言いたい所なのですが、等々力氏が再起不能になり、能力が解除された事によって、元のつるぺたに戻ったくりちゃんの悲しそうな表情を見ていると、むくむくと、自分の息子が元気になっていったのです。
 というより、はっきり言って、等々力氏の助けは全然必要無かったんじゃないかな。という疑問も芽生えてきた現在の勃起率は、96%を記録。抜き差しならない状況はなおも続きます。
「さて、仕切りなおしといこうか。あ、その前に等々力君にはここから出ていってもらおう」
 そう言った春木氏が指をパチンと鳴らすと、等々力氏の死体(形容すべきは内実にあります)が煙のように消え去り、乱入してくる前と同じ状態に戻りました。
 本当に役に立たなかったな。
 と、改めて思いましたが、いえ、等々力氏はきちんと、噛ませ犬にしては十分過ぎるほどの働きを果たしていきました。
 春木氏の頭上を見ます。そこにあるのは、勃起率95%という数字。
 等々力氏の命がけのロリ巨乳は、確かに、春木氏にダメージを与えていました。
 本来、現実においては、「ロリ」と「巨乳」は両立がほとんど不可能な属性です。「幼い」という事は乳が十分育っていない事を意味しますし、乳が大きいという事は「幼くない」という事を意味します。それが頻繁に両立されるのはあくまでも二次元世界だけの話であり、「巨乳小学生」と銘打たれたイメージビデオに出演しているのは、既に発育しきった、こいつ本当に小学生か!? と疑うような女子達ばかりなのが実情なのです。
 くりちゃんは小学校の頃から小柄で、前へならえと言われると両手を腰にあてるタイプの人間です。そのような「完全なロリ」に対して「巨乳」が加わるという事は、もはや奇跡であり、不可能世界の未知なる可能性だと言えるでしょう。
 等々力氏が春木氏に残していったダメージは大きく、これは千載一遇のチャンスですが、残念ながら、くりちゃんは現在、春木氏の支配化にあります。
「くりちゃん! 今なら春木氏を倒せそうです! 自分の指示を聞いてください!」
 自分は心から、くりちゃんにそう訴えかけました。しかしくりちゃんは聞く耳を持ちません。
「誰があんたの言う事なんか聞くか! 泣いて土下座したって許してやらないもんね! 大人しくちんこ爆発してればいいよ!」
 今すぐにこの女が泣きながらおもらしをする姿が見たい。と、思いました。
「悪いね、五十妻君。これも君の、普段の行いが悪かったと思って納得してくれよ」
 春木氏の口ぶりには、これっぽっちも悪いと思っている節がありません。春木氏はくりちゃんに例の笑顔を向けて、淡々と言います。
「さて、くりちゃん。次の指示だけど……とりあえず、オナニーしてみてくれないかな?」


 くりちゃんが全身白ベタになって、最近ではちびまるこちゃんくらいでしか見ないような縦線が何本か入ったのはもちろんの事ですが、自分は自分で、その単語を聞いた瞬間に、脳内100インチプラズマテレビにロリくりちゃんのオナニーシーンがちらりと浮かび、勃起率は98%まで上昇しました。
 くりちゃんは「え?」を何回か言った後、「ここで? 今? 何を?」と聞き返しました。
「ここで、今、オナニーを」
 アニメの最終回サブタイトルのような台詞を、本気の目で言いきった春木氏。くりちゃんは、混乱の最中でようやく「この人間はどうやら本物だ」という事に気づいたらしく、結局、いつものように、潤んだ瞳で自分に助けを求めてきました。
「知りませんよ。さあ、とっとと公開オナニーでも何でもしてください」
 と、「く」のあたりまで言いかけましたが、やはり背に腹は変えられない物で、仕方ありません、今はとにかくこの淫売を手懐け、春木氏を打倒しなければ、勝負の後に再調教を施す事もままならないのですから。
「くりちゃん、こっちにきてください」
 そう言われたくりちゃんは、春木氏の様子を伺いながらも、局部を手で隠し、そろりそろりと机を下りて、自分の近くにやってきました。一方で春木氏は何も言わず、ただくりちゃんの行動を眺めていましたが、自分がくりちゃんに2度触れ、能力の準備を完了させると、真っ白な声でこう問うたのです。
「くりちゃん、裏切るのかい?」
 くりちゃんは、一瞬気まずそうな顔になったものの、今一度覚悟をしなおして、はっきりと言いました。
「人として、それだけはやっちゃいけないような気がする」
 三枝委員長にも是非聞かせてあげたい台詞です。まあ、くりちゃん自身も、散々人前でおしっこを漏らしてきた口で何を言うか、という話でもありますが、文句を言っている暇はありません。
「さあ、発動しますよ」
 自分はくりちゃんに最終確認をしました。もちろん、ポージングは以前のように、股間を突き出して、女の子の一番大事な所を相手に向ける形。こちらから特に指示しないでも勝手にやってくれるあたりに、調教の成果を感じました。
「五十妻君、先に言っておくが」春木氏はくりちゃんの性器をガン見しながら、「僕は放尿を既に克服している。だからその攻撃は、効かないよ」
「……命乞いですか?」
「いや、そういう訳じゃないが、こんなに熱い戦いなのに、興醒めするのが残念でね」
「なるほど。でも、安心してください」
 自分は凜として春木氏に言い放ちます。
「この一撃で、春木氏ほどの人物を倒せるとは思っていません。まずは状況を立て直す為に、くりちゃんには漏らしてもらうのです」
「え? ちょ、それどういう……」と、慌てるくりちゃん。
 黄命、発動。
 すかさず自分はくりちゃんの足と足の間に自らの頭を突っ込み、首と体を曲げて上を向くと、口を大きく開けました。第三者的視点で見れば、大男が裸ランドセルの小学生の股間に、不自然な体勢で顔を埋めて、しかも口が性器に接触しているという状況。間違いなく逮捕です。
 やがてくりちゃんのおまんこから溢れ出る、黄金色をした、命の水。
 黄金は命題に劣る。
 自分が生まれて初めて飲んだおしっこの味はしょっぱくて、ほんの少しだけ苦く、それから、どこか懐かしい、初恋の味がしました。
 くりちゃんは当然、必死の抵抗を見せるものの、中学生の男子が小学生の女子に力で負けるはずもなく、自分は華奢な体を強く強く締め付けて、心地よい絶叫に耳を傾けながら、秘所に張り付けた唇から、決して一滴も零さぬように気をつけながら、喉に尿を落下させていくと、くりちゃんは涙を溜めて、今すぐにやめるよう懇願してきましたが、当然許すはずもなく、ごくごくと勢い良く飲み干し、出なくなってしばらくして、膀胱が空っぽになったのを確認した頃、ようやく自分はくりちゃんの股間から顔を離し、びちゃびちゃになった口を袖で拭って、「おかわり!」と言いました。
 くりちゃんは突っ込みを入れる気力すら湧かないのか、両手両膝を床につけて肩を落としました。
「おや? これはどういう事だろう?」
 と春木氏が、くりちゃんの一番絞りを一気飲みして、どっぷり満足げな自分を見て、呟きました。言葉の端には余裕が見て取れますが、真贋織り交ぜたようないつもの口調とは違い、確かにそれは「疑問」を呈した呟きでした。
 無理もありません。現在、自分の頭上に表示されている勃起率は……0%。
 勝ち負けはともかくとして、これだけの猥褻な行為をしておいて、変態である自分が全く勃起しない訳がない。春木氏の抱いた疑問は最もでした。
 だがしかし、これこそが自分の手に入れた第4の能力なのです。
「絶対無敵時間……ピーフェクトタイム、とでも名づけましょうか」
 自分が三枝委員長を倒し、新たに目覚めたのは、「尿を飲んでから5分間だけは絶対に勃起しない能力」でした。発動できるのは1日に1度だけですが(当然、この点は春木氏には伏せておきます)、どのような卑猥な物を見ても、卑猥な行為をしても、自分は全く勃起しません。しかもこれは、敗北後のEDとは違い、HVDO能力はそのまま使えるのです。こちらは絶対に勃起しないのに、攻撃だけは出来る。つまり端的に言えば、最強の能力という訳です。
「なるほど、戦闘向きの能力だね。とはいえ、HVDO能力の性質から言って、無敵時間がずっと続く訳でもないだろう。せいぜい5分か10分という所かな? しかしその間は、僕が何をしても無駄という訳だね」
 春木氏は汗ひとつかかずに言ってのけましたが、数分後、股間の激痛に顔を歪めるのは確実と思え、かえってその表面上、取り繕った冷静さが、自分には滑稽にさえ見えました。
「くりちゃん。いつまでも落ち込んでいないで立ち上がってください」
 しかしながら、自分が無敵でいられる時間も限られています。可及的速やかにくりちゃんに対してより強い恥辱を与え、春木氏の興奮を引き出さなければ、今度こそ自分は終わりです。
 立ち上がったくりちゃんは、まるで魂だけでそこに立っているようでした。
「へへ……えへへへ……」
 長い黒髪を垂らして顔を隠したまま、不気味な笑い声をあげるくりちゃん。
 や、やばい……ついに精神が崩壊したか!? と不安になって近づいた所を、一閃。見事な後ろ回し蹴りが炸裂し、自分は目の前にほんの一瞬だけ広がった小さな小さなくぱぁに完全に意識を奪われ、防御が間に合わず、吹っ飛ばされました。


 裸ランドセルの小学生に馬乗りでボコボコにされる。
 このシチュエーションをご希望の方は、喜んで交代させていただきますので、今すぐに自分に連絡をください。もしくは助けてください。
 貴重な時間が刻一刻と減っていきます。怒りに我を忘れた阿修羅ザくりちゃんは、小学生とは思えぬ怪力で自分をぶん殴り続け、鼻血が。鼻水が。激痛が。自分の顔から飛沫となってほとばしりました。その怒涛のラッシュに、自分は両手で防御するのがやっとで、到底このマウントポジションを解除する事など出来ませんでした。
 薄れゆく意識の中で、自問自答が繰り返されます。
 自分は果たして、何か悪い事をしたのでしょうか? ただ単に、尿を飲んだだけではないですか。飲ませたならともかく、自分が飲んだのですから、こんなに激怒される理由が全く分かりません。自分は変態です。変態に間違いありません。尿を飲みたいと思って、行動する。それのどこが悪い事なのでしょうか。
 意識が吹っ飛ぶまさに直前、自分を助けてくれたのは、春木氏、いえ、春木様でした。
「その辺にしときなよ」と春木氏は言って、くりちゃんの両肩を抱き、自分から引き剥がすと、くりちゃんは獲れたての魚のようにビチビチと跳ねて暴れましたが、やがて大人しくなり、涙声を絞りました。
「……このっ……変態共がぁ……最悪だ……ちくしょう……!」
 ピーフェクトタイム、残り時間は4分。
 迷いは許されません。自分が今なさねばならない事は、春木氏を勃起させ、くりちゃんを中学生に戻す事。口の中に溜まった血を吐いて、真剣に叫びます。
「くりちゃん! お願いですから自分に協力してください! 元に戻りたくないのですか!?」
「そんな事言って、どうせまた裏切るつもりだろ!? もう変態に弄ばれるのはこりごりだ!」
 くりちゃんは両手で目を覆い隠して、激しく嗚咽していました。
 自分の手にはもう、策略など残されていません。
 興奮と怒号のるつぼで、肌をなぞる風に任せるのみ。
 そこに真実も偽りもなく、ただし心は澄み切っている。
 自分は、くりちゃんの心に向けて、言い放ちました。
「くりちゃん! 自分は中学生のくりちゃんが好きなのです」
 くりちゃんは、「ほへ?」と間抜けな声を出して、大きな瞳で自分を見返しました。こうなったら、叩きつけるように言ってやります。
「良く考えてください。いくら能力の発動条件だからといって、好きでも無い人間のおしっこを飲みたいと思いますか?」
 くりちゃんは「そぶっ」と言って舌を噛んで、慌てながら、「そ、そんな事急に言われても……、まだ心の準備というかそういう、その、とにかく困るんだけど……!」
 甘酸っぱい恋、青春のワンシーン。
 これで相手が裸ランドセルの小学生でなければ完璧にそうでした。


「横槍を入れるようで申し訳ないが」
 と、春木氏。自分は身構え、さりげなくくりちゃんの肩を掴んで引き寄せます。
「僕もくりちゃんの事が好きなんだ」
 くりちゃんは「とぅえ!?」と珍妙な鳴き声をあげていました。2人の男子に同時に告白されるモテ期と、小学生にされて裸に剥かれる絶望期が同時にやってきたくりちゃんは、どうやら前者に重きを置いたようで、「そ、そんな急に……あ、あたし困る……」といっちょまえの少女マンガのヒロインのように恥らっていました。
「ただし、僕が好きなのは小学生のくりちゃんだけどね。というか、小学生なら大抵の女子は好きなんだけど」
 そう言う春木氏に一切の躊躇いは無く、「生粋」あるいは「末期」という言葉が頭に浮かびました。くりちゃんはそれでもなお、「好き」と言われた事を大層気に入って、体をもじもじとよじっていました。
 春木氏は、元々端正な顔立ちを更にきりっとさせて、堂々と尋ねました。
「そこで五十妻君、これは提案なんだが、僕にもくりちゃんのおしっこを飲ませてもらえないか?」
 くりちゃんに、一言だけ言わせてもらいたい。
 あなたは恋に悩む乙女ではなく、「ヨゴレ」ですから、こういう事を積極的にやっていかないと駄目なのです。あなたに期待されているのは、ただひたすら、自分を含む協力な変態達に開発されていく事。ラブコメなら他所でやってください。
「分かりました。一向に構いません」
「構うわ!!!」
 乙女のように赤く染めた両頬も一瞬で吹っ飛んだくりちゃんは、大声でそう叫ぶと、一体どこに逃げようというのか、教室から飛び出そうとドアに向かいましたが、自分がきっちり捕獲しました。「やめろー! 離せー!」と暴れるのを押さえつけ、「お、お前あたしの事が好きなんじゃないのか!? 他人に飲まれてもいいのか!?」という反論を受け流し、「変態を信じたあたしが馬鹿だった!」と後悔を引き出しました。
「それでは」
 春木氏は屈んで正座をすると、軽く頭を下げました。
 おしっこを飲む時の作法という物を、恥ずかしくも自分は存じていなかったので、先ほどの強引な飲み方は、やや礼に欠ける行為であったかもしれない、と心の中で自分を戒めました。
 ですが、くりちゃんが先ほどよりも激しく暴れるので、自分は「手伝ってください!」と声をかけ、春木氏はくりちゃんの足首を握り、くりちゃんを横に引き倒して、両膝をくりちゃんの肩に乗せて、図らずも自分は春木氏と似たような体勢になりました。それはまるで、厳格な茶道の風景でした。
「殺す……! 絶対殺すからなぁ!!!」


「くりちゃん、お願いします。ここ1番だけ協力してください。くりちゃんのおしっこを飲めば、春木氏の勃起率はきっと100%に達しますから!」
 作戦は、敵である春木氏に聞こえてますが構いません。どの道、春木氏を倒せる手段など、そう多くはないのですから、今はただ、くりちゃんには人間ビールサーバーに徹してもらうしかありません。
 春木氏はポケットからハンカチを取り出すと、くりちゃんのまんまんをきゅっきゅっと拭いてから(これもきっと、女子のおしっこを飲む時の作法の1つなのでしょう)、両手をあわせて「いただきます」と言い、顔を寄せてまずは匂いを嗅ぎ、目を瞑って深く頷くと、大きく口を開けて性器全体にがっつりと吸い付きました。
 ピーフェクトタイム、残り時間は2分半。
 このわずか数分間の間にくりちゃんが受けた辱めは、察するに余りあります。ですが、それもようやくこれで最後になるはずです。この攻撃を受けて、立っていられる訳が、いえ、勃っていられない訳がありません。
 阿鼻叫喚のくりちゃん。自分は一瞬だけ手を離し、そしてすかさず能力を発動させました。
「うわああああああ! 死にたい死にたい死にたい死にたい!!!」
 くりちゃんの、本日二度目の失禁。春木氏はそれを、一滴も零さずに飲み干しました。それはそれは見事な飲みっぷりでした。
 自分はしばらくの間、くりちゃんの恥辱にまみれた素晴らしい表情に見とれていました。そして、はっと気づいて春木氏の頭上を見上げると、勃起率が凄い勢いで上昇していました。95%、96%、97%、98%……そして、99%。
 勝った。そう確信するのと同時、くりちゃんの放尿が終了しました。
「ふぅ……」
 春木氏は顔をあげ、くりちゃんのまんまんを拭く時に使ったのと同じハンカチで濡れた唇をそっと拭いました。
 自分は春木氏の勃起率から目を離さず、心の中で何度も何度も「勃て! 勃て! 勃つんだ春木氏!」と声をかけました。
 が、春木氏のペニスは99%で止まったまま、動こうとしません。
「あなどってもらっては困るね、五十妻君。僕は……変態だよ」
 それは一連の行動を見てれば十分に分かり過ぎる事でしたが、妙な説得力というか、威圧感がありました。春木氏の99%は、そこから上昇する事も下降する事も無く、ぴたりと停止していました。
「さて、僕は君の攻撃を受けきった。次は君に僕の攻撃を受けてもらおうか」
 ピーフェクトタイム、残り時間は1分半。
35, 34

  

 はっと目が覚めると、そこはいつもの通学路でした。
 振り向けば、強い日差しに照らされて、我が家とくりちゃんの家が並んであり、帰る所だったのか、それともどこかへ行く途中だったのか、制服を着ているのに、手には鞄さえありません。この暑さ、季節はおそらく夏。記憶が飛んでしまっている。今まで自分が何をしていたか、はっきりと思い出せないのです。
「夢?」
 誰にともなくそう尋ねて、自分は額に手を当てます。もしも自分が、今の今まで見ていたのが夢だとしたら、どこまでが夢だったのか、そしてどこからが現実なのか。ひょっとして、まだ自分は夢の中にいるのではないだろうかと、不安はどこからともなく遠慮もせずに、土足で侵入してきました。
 そもそも、HVDOなんてあったのでしょうか。まずそこを疑問に思います。自分が変態である事に間違いはありませんが、超能力なんて、いかにも馬鹿げている。この数日間で自分を取り巻いていた環境、その全てがただの妄想の産物で、自分は取り返しのつかない頭の病気にかかってしまったのかもしれません。
 とても心細い気分になって、眩暈もしてきました。足元がぐらついて、倒れそうになったので、電柱に手をつけて立とうとすると、驚くべき事に自分の手は電柱を事もなげにすっと通り抜けました。
 あわやバランスを崩して、電柱と接吻をかわす所でした。いや、そうなったとしても、自分の頭は手と同じく、煙に対してするように何事もなくすり抜けただけかもしれません。むしろその可能性が高いと思われます。
 霊体。
 果たして自分は死んでしまったのでしょうか。だとしたら死因は何ですか? 頭の病気ですか? 妄想がひどくなって視床下部か大脳新皮質がやられ、意識不明のまま呼吸困難に陥り呆気なく死んでしまったでしょうか。
 だとしたらそれもいい。HVDO能力の無い人生など、くりちゃんに辱めを与えられない人生など、今の自分には何の価値もありません。生きていてもまるで仕方ない事です。
 そう、くりちゃんに恥をかかせられない人生なんて、必要ない。と、自分は本気で思っています。
 実に奇妙な笑みが自然と零れました。それはとても不可解な、しかし今の状況には何より合理的な表情でした。
「何を黄昏ているんだい?」
 声がしました。自分は驚いて振り返ると、そこに春木氏がいました。
「夢でも見ていたのかな?」
「あ……いや……」
 上手く言葉が出せず、子音と母音を繋いでは砕いて飲み込み、結局自分はただ春木氏の次の言葉に情けなくもすがりました。
「だとしたら、勝負が終わってからにしてくれないか? 君と僕とはまだ、決着がついていない」
 春木氏が浮かべた不敵な笑顔を見た瞬間、自分は全てを思い出しました。
 そう、まだバトルは続いているのです。自分は春木氏の攻撃を受けてここにいる。夢オチでも発狂エンドでもありません。
 ピーフェクトタイム、残り時間1分。
 変態は、実在する。


「ここは……どこですか?」
 なるほど間抜けな質問でした。春木氏は手を太陽にかざして、
「それは君の方が詳しいんじゃないかな?」
 と質問返しをしてきました。確かに、ここは自宅の周辺です。が、今はそんな次元の事を尋ねているのではありません。
「質問の意図を汲んでいただきたい」
「ははっ。悪かったね。じゃあ、説明しようか」
 春木氏は自らの手を近くの塀につけました。すると、自分と同じくそれは壁を通り抜け、戻すと何事も無かったかのように春木氏の手はひらひらと揺れました。
「端的に言えば、ここは君の記憶の世界をビジュアル化した物だ。ここにおいて僕達はただの意識体だから、人や物に触れる事が出来ない。もちろんこれも僕のHVDO能力だ」
 自分は苦虫を噛み潰したくなりながらも「一体いくつまで能力あるんですか?」と冷静に聞き返すと、春木氏は呆気なく「7つ。いや、さっき等々力君を倒したから8つだな。そして君を倒して9つだ」と答えました。
 強敵と直感した自分に間違いはありませんでしたが、的中は喜べません。
「どうして自分の記憶の世界に?」
「おやおや、察しが悪いな。少し自分で推理してみたらどうだい? それでも分からなかったら教えてあげよう」
 にやにやとする春木氏にムカついたのもありますが、それは今はどうにか堪えて、忠告通りに自分で考える事もしてみましょう。
 春木氏の性癖はロリコン。ロリコンとは今更言うまでもなく、まだ年端も行かない子供を性の対象として見るという世にもおぞましい性的倒錯です(つい先ほど、裸ランドセルのロリ巨乳くりちゃんを見てバッキバキに勃起していたのは今は一旦忘れておきます)。自分の能力は、相手に排尿機能がついていなければ成立しないのと同じく、春木氏の能力は、子供がいなければ、ロリコンの良さを相手に伝える事が出来ないと見て間違いないでしょう。つまり、自分の記憶の中に潜ったのなら、そこにはおそらく子供がいるはず。
 自分は恐ろしい事に気づいてしまいました。
「どうやら気づいたようだね。何、君が気を落とす事は無いよ。正直言って僕にとって、この能力は秘中の秘、言わば奥義だった。それを使わせるまで追い詰めた君は、むしろ褒められたものだと思う」
 春木氏の言葉には、驕りや過信といったものが微塵もなく、ただ事実ありのままを述べている事が明確で、それはまさしく畏怖の対象でした。
 戦慄すると共に、ピーフェクトタイム終了。自分のちんこが活動を再開します
「おや、どうやら無敵時間も終わったようだね。それじゃあ、存分に戦ってくれたまえ。……過去の自分とね」


 道の向こう、学校の方向から、ランドセルを背負った1人の女子がやってきました。
 ロリくりちゃん。略称ろりちゃん。紛れもなくそれは、木下くりその人であり、春木氏の能力を受けて小学生化した姿よりも、ほんの少し年上の、小学五年生程度に思えました。いえ、思えたなどという軽い表現ではありません。自分はくりちゃんのこの姿を、見た事があります。
 まるでラッシュ、走るゾンビの如く蘇りだした記憶は言葉になる前に、むしろ映像として現れました。目の前にある姿が、過去に自分が見たくりちゃんと完全に重なり合い、真の恐怖はここから始まったのです。
 未だ理解は推測の領域を出ませんが、この突きつけられた状況、そして春木氏の台詞から導き出される能力の正体はおそらく、「対象が自身の性癖に目覚めた瞬間」の記憶を呼び覚まし、再度それを味わわせる事が出来るという、1人だけプロアクションリプレイでも使ったのかと疑いたくなるようなとんでもない攻撃だと思われます。
 性癖に目覚めるきっかけは人それぞれですが、大抵の人間は小学生のうちにその頭角を現しているもので、前後して「○○フェチ」といったような言葉を知り、概念は固定化され、それから長い時間をかけて練磨されていき、最終的に自分のような変態は完成せられるものです。春木氏のこの能力は、性癖の発芽地点まで問答無用でジャンプさせる。
 敗北。
 その二文字がまず浮かび、自分はそれをかき消すように首を振りました。いよいよ30m先くらいまで近づいてきたくりちゃんを見て、春木氏は感心したように言います。
「君は本当にくりちゃんひとすじなんだね。正直、嫉妬さえするよ」
 くりちゃんは顔を真っ赤にして、泣きそうな表情で地面を向いて早足で歩いてきます。
 自分には分かっていました。くりちゃんが、この物語のプロローグに従い、これから我が家の隣の家で飼っているペスという犬に吼えられ、おもらしをする事が。
「くりちゃんが好きで、おもらしに目覚めたのか。それともおもらしに目覚めて、くりちゃんが好きになったのか。これは命題だよ、五十妻君」
 自分は冷や汗を流しながら、必死になってこの状況を打破する案を考えました。自分には、春木氏のように強力な能力はありませんから、まずこの空間からの脱出は不可能。そしてこの世界に干渉する事も出来ず、しかも自分と春木氏の姿はくりちゃんからは見えていないようなので、これから起きるおもらしを止める事も不可能。
 1つだけ、解決策はあるのです。それは至極単純、目を瞑って、耳を塞いで、くりちゃんの人生初おもらしをやり過ごすという究極の手段があるにはあります。
 あるにはある。言い換えれば、実行する気は無いという事です。


 酷く凄惨な結果を招き、並々ならぬ後悔を伴うという事は、はっきりと分かりきっていました。しかし目を背ける事など出来る訳がないのです。生まれつきの本能か、はたまた変態としての鍛錬の証なのか、自分はばっちりと開いた両目を閉じれず、勃起率も80%を越えました。
 くりちゃんの背後50m程の距離に、当時小学5年生の自分の姿が見えました。これから起きる事など知る由もなく、小学生の癖に人生の全てに飽きたような仏頂面で、前方を行くくりちゃんの姿を漠然と眺めています。
 この期に及んで、自分の中では希々とした思考の流転が発生し始めました。
 よくよく考えてみれば、くりちゃんのおもらしがきっかけで、自分はこの性癖に目覚めたのです。という事は、自分がくりちゃんに対してこれまでしてきた陵辱行為は、言ってみれば自業自得ではありませんか。くりちゃんさえ漏らさなければ、自分は変態としての道を歩まず、ノーマルのままで天寿を全うし、HVDOなどという意味不明の存在とは関わらずに済んだはずなのです。
 今まさにその禁断の行為へと手を、いえ股間を染めようと意気込むくりちゃんを見ていると、段々と腹がたってきました。今すぐにでも現実の世界に戻り、中学生のくりちゃんをこう罵倒したい気分です。「この変態が!」屋外で排尿行為に及ぶなど、家畜以下の存在です。
「そろそろのようだ」
 言われなくても分かっていました。ブラダーサイトが無くとも、くりちゃんの顔に「もう限界」と書かれてあったからです。
 自分は自分の姿が見えないのを良い事に、ペスを飼っている家の前、くりちゃんの決壊予定地点に寝そべって、最適なアングルを確保して待機しました。怒りを露にしながらも、無論、既に一物はビンビンで、いつ爆発してもおかしくない状態でした。
 そしていよいよ、その時はやってきてしまいました。
 ペスが吼え、くりちゃんはびくっとその小さな体を弾けさせて、股間から、ぷしっという勢いのある音が鳴り、瞬く間にパンツは末期色に染まっていきました。VIP席からその様子を観覧していた自分が、興奮しない訳が無く、わざわざ確認しなくても自分の勃起率は既に99%を越えていると確信しました。
 その時、またあの声がしたのです。
『お前は、変態ではなかったのか?』
 今度は何の迷いも無く、はっきりとこう答えました。
「自分は変態です!」
 同時に、例の音が聞こえ、ちんこが爆発しました。突如として股間を走った激痛にのた打ち回りながら、自分は現実世界、音羽邸へと回帰したのです。
 自分、五十妻元樹15歳は、変態としての道を極める余り、人智を超える能力を会得し、並々ならぬ変態共をばっさばっさと袈裟斬りにして参りましたが、いよいよを持って敗北を味わう事となり、性的不能者へと成り下がってしましました。
 しかもそれは、ただ単に勃起しないというだけではなく、これまでに得てきた能力全ての放棄を意味し、今は第一能力すら使う事が出来ないのはもちろんの事、例え息子に元気が戻っても、再び他の変態共との死線をくぐらねば、第4の能力までを取り戻す事は叶わないとの事らしいのです。
 春木氏に決定的敗北を喫したその翌日より、毎夜、悪夢にうなされる日々が続いています。
 自分の内側には、あの日に抱いた疑問が今もぐるぐると渦巻いていて、それは分かりきった答えに向かわずに、ただ残酷に、つけられた深い傷跡を舐め、治りを遅くするのに徹しているように感じられ、非常に不愉快で、不条理で、不謹慎な物なのです。
 果たして自分は、ロリコンなのでしょうか。
 ロリコンではない男などいない。と暴論で押し切る事も出来るでしょう。誰それよりはロリコンではない。と回避行動をとる事も出来ます。そもそもロリコンで何が悪い。と開き直るのもまた1つの手です。
 しかし自分の厄介な性分は、この果てしない疑問と対峙する事を望み、また、それを解決した暁にこそ、我が息子を正しく勃起させられる、このまま暗い雲をかけたままちんこに血液が流れ、海綿体が硬化すれば、左曲がりもやむなしと思い込んでいる節さえあるのです。
 無論、今でもおもらしは好きです。しかし春木氏の攻撃を受け、過去の自分を見つめる機会を与えられた時、自分は幼女がおしっこを垂れ流す所が心底好ましく、それは自らの血肉と引き換えであったとしても、何が何でも眼窩に収めたい、やんごとなき理想絵図であると確信させられたのです。
 敗北の後、自分の中に残ったのは、意外にも後悔や絶望では無く、新しい発見であったとも言えるのです。気づかぬ内に、あえて潜めた内なる自己。ロリコンである事。おもらし好きである事。そして変態である事。
 きっと、等々力氏も似たような葛藤を経験したのでしょう。今の自分にはそれが痛みとして理解出来ます。お気に入りのエロフォルダを開いて、5本の指に入るような傑作エロ画像を目の前に表示しても、ぴくりとも反応しない息子を見ると、そこに以前の猛々しく男らしい姿は無く、まさにふにゃちん。いっそ美女のハイヒールでもって踏まれた方が、いくらか格好がつくと思えるくらいの体たらくぶりで、自分はその度、誰にも聞こえぬように嗚咽を漏らすのでした。
 惨敗。
 それから、春木氏は自分に敗北という屈辱だけではなく、とんでもない物もプレゼントして去っていきました。これから先のエピローグにて、この物語は一旦終幕を迎え、いずれ再勃起するその日まで、自分は変態として精神面での修練に努めたいと思います。
 エピローグ、自分とくりちゃんのその後。フルマックスロリコネルバースト。飽くなき衝動のその果てに、自分は世界の真理を見つけたのです。


エピローグ


「もとくーん、起きて。朝だよー」
 一点の曇りもない、純真な少女の声。瞼は無抵抗に開き、朝日に照らされた少女の柔らかい頬から、自分は目を離せなくなります。
「ああ……くりちゃん」
 まるで霞でも掴むかのように、手の平で宙をかくと、くりちゃんは「どうしたの? また怖い夢?」と心配そうに、手を握り返してくれました。
 自然と、涙が零れ、その言い訳に、太陽が眩しいからと答え、自分の1日は、始まります。
 くりちゃんは、自分が春木氏と戦ったあの日の姿、小学五年生の時の姿のままに、エプロンをかけ、右手にはおたま。表情だけではなく体全体から、優しさだとか母性だとか、女子にあるべき物をしとどに溢れさせ、泣いて土下座して頼み込んだら1発やらせてもらえそうな、そんな隙もあって、つまり端的に言うと、最高峰のロリなのでした。
 そんなロリに見とれて、いやいっその事、今日は学校になど行かず、1日中見とれていようと考えていると、
「もう! もとくん早く支度しないと遅刻しちゃうよ?」
 頬を膨らませて、ぷんぷん、というあざとい擬音が自然に似合う程なんともかわいらしい、人を癒す類の怒りを自分にぶつけるのでした。
 起き上がり、部屋を出て階段を降り、食卓につくと、ほんの少しの品目ですが、一生懸命やったのが伝わってくる料理が自分を迎えました。白米と、味噌汁と、目玉焼き。多少物足りない感はありますが、何より自分の為に朝早くから頑張ってこれを作ってくれたという事実が美味なのです。
 そして学校の支度をして、玄関。くりちゃんは寂しそうに、だけど仕方ないと分かっている、複雑な笑顔で自分を送り出してくれます。自分はいつものように、「早めに帰りますが、何かあったら学校に連絡してください」とだけ言って、今にも泣き出しそうな「……うん」を背にして、学校へと出発するのです。
 さて、泥水をすするべき敗北者である貴様が、何故ゆえにこのような超勝ち組ライフをエンジョイしているのか、と疑問に思われた方も若干名おられるかと思われます。その理由を説明するには、自分が春木氏に敗北したあの時点まで、少し時間を戻さねばなりません。


 記憶の世界から音羽邸に戻ってきた2人。股間を押さえて絶叫し、のたうち回る自分と、それを至って冷静に見下ろす春木氏。三枝委員長と音羽君は何があったのか分からずに混乱し、音羽(兄)は知らぬ間にどこかへ逃げてしまっていました。そしてくりちゃんは、自分の痛々しい姿を見て、あろうことか指をさして笑っていました。
 だからくりちゃんは馬鹿なのです。自分が春木氏に負けたという事はつまり、
「くりちゃん、君も笑っている場合ではないんじゃないかな?」
 何も喋れない自分の代わりに、春木氏が代弁してくれました。
「五十妻君が負けたという事は、君も小学生の姿から戻れないという事だよ?」
 くりちゃんは驚愕のあまり、顎が外れたように口をぽかんと開けていました。
「だだだだって! あたしはお前に協力しただろ!? 協力したら元に戻してくれる約束じゃ……!」
「でも裏切ったよね?」
 自分はここで初めて、春木氏の中に「怒り」という感情を発見しました。それはとても赤黒く、自分のような凡人では、到底汲み取れぬ程に深い、強烈な物でした。
「た、確かに裏切っちゃったけど、だってあれは……オナ……その、酷い事させようと……するから……」
 どんどん声がちっちゃくなっていくくりちゃん。勝ち目なんてある訳がないのです。ただでさえ裸ランドセルという無茶苦茶な格好をしていては、精神的に弱者の立場に立たされ、強く物も言えません。
「わがまま言う子、僕は嫌いだな」
 春木氏はそう呟くと、すっと手を伸ばし、くりちゃんの頭に触れていました。するとくりちゃんはまるで催眠術にでもかかったように、かくっと膝から折れ、その場に倒れてしまいました。
「五十妻君、聞こえているかい?」
 自分は返事もできませんでしたが、うずくまりながらも一部始終を見ていました。
「等々力君を倒して得た能力が非常に面白い物だったんでね、くりちゃんに試させてもらったよ。この能力は第一能力と同じく、僕が解除するか僕を倒せば、いつでも元に戻す事が出来る。君がどう行動するかは、君次第だけどね」


 春木氏はくりちゃんから、「記憶」を奪い去っていきました。
 くりちゃんが失った記憶は、現在から小学5年生のある日までの物。
 つまり今のくりちゃんは、おもらしをする前日までの、決して暴力を振るわない、無垢な心を持った、汚れを知らないくりちゃんになってしまったのです。
 よくよく思い出してみると、自分は、くりちゃんがおもらしをした現場を目撃した次の日、学校でその事を言いふらし(当時の自分に悪意はなく、ただその余りにも衝撃的な光景に興奮冷めやらず、誰かれ教えたくて仕方が無かったという事はここで明言しておきます)、何せ小学生ですから皆その手のスキャンダルは大好物で、ましてやクラス委員長まで勤める優等生が失禁をしたとあって、瞬く間に噂は広がり、それまでの人生で最高の大恥をかかされたくりちゃんは次第に塞ぎこむようになり、真面目である事も素直である事もやめて、周りの人間を敵視しながら成長し、格闘技を覚え、髪も染めたのです。
 自分が自らの性癖に目覚めたのはくりちゃんがきっかけですが、くりちゃんが孤立化したのは自分が原因だったという訳です。ははは。
 春木氏の能力によって、ピュアな心に戻ったくりちゃんは、自らがどのような事態になっているのか理解できず、しかしかろうじて幼馴染が中学生に成長した姿は分かったようで(「も、もとくん……?」と昔の呼び名で自分を呼ぶ、あのくりちゃんのかわいらしい事)、自分はHVDOや変態達といった様々な事情はとっさに隠し、ただ春木氏こと「悪い奴」が中学生になったくりちゃんを子供に戻してしまったのだよと教え、なんとか納得してもらったのです。
 そして、当然の事ながら、記憶を失ったくりちゃんを子供の姿のまま木下家に帰らせる事は出来ませんので、誰がその身元を預かるかで三枝委員長と音羽君と何故か等々力氏と議論になり、じゃんけんの結果、自分が預かる事と相成った訳です。
 やさぐれる前のくりちゃんは聞き分けが良く、賢い子だったので、今自らが置かれている状況をきちんと理解して、飲み込んでくれました。自分の家で暮らす事にも同意してくれて、自宅に電話もかけました(直接こんな姿を見せる事は出来ませんが、小学生と中学生では大して声も変わっておらず、しばらく五十妻家で暮らす旨を告げると、あの超楽観主義のくり母は、「お父さんには私の方から上手く言っておくから、女になってきなさいな」と謎のアドバイスをくりちゃんに与えていました)。
 当分学校には通えず、しかし何の役にも立てないのも嫌だとの事で、これは好機と自分はくりちゃんに料理を教えました。繰り返しになりますが、おもらしをする前のくりちゃんは思わずなでなでしたくなるような、本当に良い子だったのです。
 今日で学校は終わり、冬休みに入ります。
 くりちゃんは表面上は元気にしていますが、きっとこれからの事が不安で仕方が無いはずで、今の自分に出来る事は、なるべく一緒にいてあげて、その不安を少しでも取り払ってやる事だけだと思うのです。
 春木氏は別れ際、自分にこう言っていました。
「……きっと、君と僕とはもう1度戦う事になるだろうね」
 くりちゃんの記憶を取り戻したければ、復活して挑んで来いという挑発にも受け取れますが、今現在この暮らしを堪能するに、「もうくりちゃんこのままの方が幸せなんじゃないかな」「記憶が戻って、これまでに受けてきた数々の恥辱を思い出したら死んじゃうんじゃないかな」と自分が思っている事は否定出来ません。
 それでも、残酷に時間は経過していき、冬休みなどあっという間に終わります。
 あ。
 そういえば、我々中学3年生の目の前には、「高校受験」という大きな関門が待ち構えていたのでした。
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