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2夜目 思い出・二人目・マスター背中を流しに来たであります。

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静「お兄ちゃん。遅いですよ。まだまだ回りたい店がたくさんあるんですから。」
十紀人「待ってくれ。お兄ちゃんは少し疲れたよ。」

俺は今、我が麗しの妹こと静の買い物に付き合うべくして街に来ている。
既に両手は大量の荷物で埋まっていてこれ以上は持てない状況だ。
まったく女の子の物欲というものは底知れぬ物よ。
これだけ買っておいてまだ買い足りないとは・・。
といってもこの買い物袋の中身はクロと白雪の服やら生活用品が大半を占めている。
自分のためではなくて人のために買い物をしているところが静らしくて可愛らしいというものだ。
白雪たちが来て既に一週間が立っている。光陰矢のごとしとはよく言うものだな。
今日は休日なので以前約束した買い物に来ていると言うわけだ。
街は休日とあって人々で賑わっている。そんななかこの大量の荷物をもっての移動は至難の技だと言えよう。

静「家が賑やかになってうれしいですね。」
十紀人「あぁ、騒がしいくらいだよ。」
静「それぐらいが丁度いいのですよ。」

そう言って横に並んで歩く静を見ると本当に楽しそうな顔をしている。
確かに俺たちふたりだけであの家では広すぎで心もとない。

静「それにお兄ちゃん気付いてますか?あの二人が来てからお兄ちゃん笑顔が増えました。」
十紀人「そんなことはないと思うぞ?」
静「あるんですよ。」
十紀人「そうなかぁ。」
静「はい。」
十紀人「そういう静も毎日楽しいそうにしているな。」
静「はい。私はお兄ちゃんが笑顔でいてくれることが嬉しいのですよ。」

こんなことを恥ずかしげもなくサラッと言われるとこっちが恥ずかしくなってしまうではないか。
赤くなった頬を隠すように俺はそっぽを向き話を変える。

十紀人「けどいいのか?見たところ白雪やクロの物ばっかり買っているけど静は欲しいもの無いのか?」
静「私物もいろいろ買いましたよ。それにまだ買い物は続くんですから。」

そういって静はいたずらぽっく顔を膨らませる。
それがどうしても可愛くて、もしこの両手が空いていたら俺は髪の毛がぐじゃぐじゃになるくらい頭を撫でていただろう。

静「お兄ちゃんこっちですよ」
十紀人「あぁ今いくよ」

いつの間にか妹は服屋の前まで先に行って嬉しそうにしながら手招きして俺を呼んでいる。
いつもしっかりしてるが甘えるときもしっかり甘えてくる静はなんともかわいい。
ほんとにいい妹だ。

静「あっ!お兄ちゃん危ないです!!」
十紀人「えっ?」

気づいた時は遅かった手を振る静に見とれて前を見ていなかったためだ。
目の前には人の影、急いで足を止めるがぶつかってしまい尻餅をつく。

十紀人「痛つつ・・。」
静「お兄ちゃん大丈夫ですか?」
十紀人「俺は大丈夫だ。」

俺に駆け寄って来る静は心配そうに俺の顔を覗き込む。
顔をあげるとそこにいたのはなんと俺の命を狙っている死神少女こと黒川だった。
黒川も尻餅をつたのだろう地面に座ってうつむいたまま動かない。
最初会った時と同じメイド服を着ている。

黒川「・・・。」
静「えぇっと大丈夫ですか?」
黒川「・・・。」

静が黒川に駆けよると黒川はゆっくりと顔を上げて俺の方を見てくる。
目が合った瞬間、殺されると思ったが彼女はそんな素振りを見せなかった。

黒川「あなたですか。」
静「え?お兄ちゃん知り合いなんですか。」
十紀人「いや、まぁ知り合いといえば知り合いだけど・・・。」

あまりお知り合いにはなりたくなかったが・・。

黒川「・・・任務失敗です。」

そう言った黒川の目線を追うと手に握られていた買い物袋の中にあった卵のパックが見も無残な姿になっていた。

十紀人「今日の任務は買い物だったのか?」
黒川「・・・。」
十紀人「悪かったな。・・立てるか?」

俺は立ちがり黒川に手を差し出すが黒川は手を取らず立ち上がった。
俺は出した手を戻して黒川を見た。

静「お兄ちゃん。私はちょっと疲れたのでそこの喫茶店で休憩します。」
十紀人「わかった。すまないな。あとでパフェでもおごるよ。」
静「期待していますね。お兄ちゃん。」
十紀人「まかせろ。」

静はいつのまにかまとめられた荷物をもってさっさと喫茶店に向かって歩いて行ってしまった。
しかし、流石が俺の妹といったところだ。
俺が散らかした買い物袋たちを俺が気がつかない間にまとめて俺が次に行動しやすいように行動する。
しかもその行動に違和感を感じさせない。知らない人ならそうなのかと思ってしまうが妹のさりげない行動は俺のためにしている行動だ。
我が妹は何時だってそうだ・・それは俺と会ったその時から変わらない。
そんな静の優しさに俺はなんど救われたことか・・。
喫茶店はオープンカフェになっていて最近のはやりの服を着た若者たちで賑わっている。
レジに向かおうとする静の後ろ姿を見送りならがら昔のことを少し思い出して感謝の気持ちでいっぱいになった。
黒川に向き直ると生きている卵を探すべく黒川は袋の中を覗いていた。
その姿があまりにも黒川の性格と不釣合でとてもかわいいらしかったから思わず吹き出しそうになってしまったのを俺はグッとこらえた。

十紀人「時に黒川よ。まだ時間はあるのか?」
黒川「・・・32分56.27秒ほど時間は余っています。」
十紀人「・・まだ、時間があるってことだよな。たしか近くにスーパーがあったはずだ。」
黒川「あ、待ってください。」
十紀人「置いてくぞ。」

俺は黒川から買い物袋を奪い手を引いて近くにあるスーパーを目指して歩き出した。
スーパーは思いのほかすぐ近くにあった。
自動ドアを潜り店内に入るとスピーカーからはタイムサービスのナレーションが掛かっており無駄に涼しい風が俺を包みこんでちょっと寒気がした。
黒川「あなたは強引のようですね。」

立ち止まると黒川が愚痴を漏らしてきた。
口調は怒っていようだが顔はいつものポーカーフェイスだった。

十紀人「卵だったよな。」
黒川「・・はい。そうですが人の話を・・」
十紀人「ちょっと待っててくれな。」
黒川「あっ・・。」

俺はそれだけ言い残して卵売り場を目指した。
素早くLサイズ卵78円という特価の卵を手に取りレジに進む。
会計を待ちながら黒川の方を見るとスーパーの入り口付近でただ佇でいた。
メイド服姿の彼女は周りから見て浮いていて通りすがる主婦の人がチラチラと黒川を見る。
黒川はそんなこと気にしないで外の方に眼をやっていた。
会計が終わると俺は黒川を連れてスーパーを出た。

十紀人「お待たせ。はいこれ」

手に取った卵を黒川に手渡す。

黒川「これは・・。」

黒川は卵パックを見て不思議そうに首をかしげる。

十紀人「ほら、卵を割ったのは俺が悪いから。これはお詫び。」
黒川「・・・・・ありがとうございます。」

黒川は迷っていたがしっかりと受け取ってくれた。

十紀人「これで任務失敗じゃないよな。」
黒川「・・はい。」
十紀人「さて、じゃぁまだ時間もあるし少し送って行くよ。」
黒川「・・・。」

黒川は無言で歩き出した。
きっとこれは彼女なりのOKってことだろうと思い俺は黒川の後に続いた。
歩き始めると黒川は一言も話さなかった。
まぁ俺も聞きたいことがないわけではないがなぜか喋る気にはならなかった。
いや、喋るよりも見ていたほうが面白かったからだ。
小さい体を揺らしながら荷物を持って歩く姿はなんとも可愛らしいものだ。
荷物を持ってあげようとも思ったがそんなことしたらこの可愛らしい姿が堪能できなくなるので思いとどまって持ってあげないことにした。
この沈黙を破ったのは以外にも黒川の方だった。

黒川「なぜですか?」
十紀人「ん?なにが?」
黒川「なぜ私を助けたのですか?」
十紀人「助けた?俺は何もしていないけど?」
黒川「卵です。貴方に買っていただけなければ私は任務を失敗していました。」
十紀人「まぁぶつかって卵をダメしたのは俺だしなぁ。ならお詫びに買い直すのが普通だと俺は思うけど?」
黒川「・・・わかりません、私は貴方を殺そうとしたのですよ。普通は恨むのが人間というのじゃないのでしょうか?」
十紀人「ん~恨むと言っても俺は死んでないしな。確かに怖かったし痛かったけど恨むほどのこともないかなって。」
黒川「・・でも、私と貴方は敵同士です。」
十紀人「君にとって俺は敵かもしれないけど、俺にはかわいい女の子を敵だとは思えなくてね。」
黒川「か、かわいい女の子ですか・・。」

黒川の無表情の顔が一瞬だが歪んだような気がした。
そのまま黒川はまた黙ってしまったがその黙って歩く横顔はどこか微笑んでいるように見えた。
俺はその横顔を見ていたくなり無理に話しかけるのをやめて横でただその顔を眺めていた。
しばらく黒川の隣を歩いていると黒塗りのいかにも金持ちが乗ってそうな車が俺たちの近くに止まった。

黒川「迎えが来たようです。」

扉が開かれると中から俺と同年代くらいのいかにも高そうなスーツに身を包んだ男が出てきた。

男「これはこれは道明くんではないですか。お久しぶりです。」
十紀人「誰だ?」

はて?相手は俺を知っているみたいだが俺はこの男に見覚えがない。
もしかすると父の友人の子かもしれない。だったら俺の名前を知っていても可笑しくはないが。

男「相変わらず気に入らない男だね君は、僕の顔など忘れてしまったのかな?」
十紀人「すまない。俺は男には興味がないんだ。」
男「ふふ、ならいやでも思い出させてあげるよ・・伊集院粋という名前を言えば思い出すかな?」

その名を聞いた瞬間ドロッとした感覚が俺の全身を支配する。
自然と拳に力が入るのが分かる。

粋「おっと、どうしたんだい?急に怖い顔をして。」
十紀人「どうしてお前がここに。」
粋「どうしてもなにもそこにいるおもちゃは僕の物なんでね。迎に来た、それだけだよ。」
十紀人「おもちゃ?」

俺の横にいた黒川は粋の横に付き俺を見つめてきた。
なるほど・・・。

十紀人「そういう事か。」

これで納得がいった。
確かに一人俺を殺したほどに憎んでいる奴がいたな。
黒川の主人が粋なら俺を殺そうとしても可笑しくはない。
子供の頃にある事件が元で会わなくなってしまったからわからなかったが言われてみれば幼い頃の面影が若干残っている。

粋「今日は見逃してあげるよ。うちのおもちゃが世話になったみたいだったから。黒川。」
黒川「はい。」

黒川は黙って車の中に乗り込んだ。
そして粋は俺の横に来て口を俺の耳の近くに持ってきた。

粋「僕は君の全部を奪ってあげる。君が僕にしたようにね。」

そう言い残し粋は振り返り車向かって歩き出した。

十紀人「粋ぃ!!」

俺は粋に向かって駆け出していた。
両手を繋ぎ人差し指だけを立てて思いっきり下から上に突き上げる。

粋「ぐぐっっっっ!!」
十紀人「またつまらぬものをついてしまった。」

完璧に決まった浣腸に酔いしれながら粋の声にならない叫びを聞いた。

粋「ぐぐ。・・き、君はよほど僕を怒らせるのがうまいみたいだね・・。」
十紀人「尻を抑えながら言われても怖くないな。」
粋「僕は絶対君を許さない。不幸のどん底に落としてやる。今度改めて君にあいさつをしに行くから覚悟しとけ。」
十紀人「お尻を抑えながら言われても怖くないが期待してるよ。黒川、またね。」
黒川「・・・・」


黒川は何も返事をしなかったが目線を俺に向けてまた戻してくれた。
なぜだか俺はそれだけで満足できた。
粋はガードマンらしきもの支えられながら車に乗り込みその場を去っていった。

十紀人「さて、妹も待っているし戻るか。」

粋の車が立ち去るのを見送って俺は妹が待つ喫茶へと走って戻った。
喫茶へと戻ると妹の頬はかなり膨らんでいて怒っていた。
これはさらに財布の中身が寂しくなりそうだ。
妹とのお店周りが終わり頃には既に日が沈みかけていてあたりをオレンジいろに染めていた。

静「お兄ちゃん、そろそろ帰りましょうか。」
十紀人「そうしてくれるとすごく助かるが。」
静「待たせすぎなお兄ちゃんがわるいんですよ。」
十紀人「うぅ~面目ない。」

俺は両手いっぱいプラス両腕いっぱいの荷物を持って返事をする。

静「お兄ちゃん。今日は私に付き合ってくれてありがとうございます。」
十紀人「いやいや、静にはいつもお世話になっているからなこれぐらいどって事ないさ。」
静「そうですか?ではお礼に今日は腕によりをかけて美味しい晩ご飯作りますね。」
十紀人「ほほぉ~これは早く家にかえらないといけないな」

静ははいと元気よく返事をして腕まくりをしてない力こぶを作ってみせた。
これは楽しみだなとチャチャをいれながら家路に付く。
家につくころには既に日が暮れて月が出ていた。
玄関で出迎えてくれたクロにあいさつを交わして家の中に入る。
静は夕食の準備をします荷物はあとで仕分けするので玄関に置いといてくださいと言って台所に向かって行った。
俺は言われたとおり荷物を玄関に置くと食事が出来るまでの時間を部屋で過ごすために自分の部屋に向かった。
部屋にもどると電気をつけないでベットに倒れこむ。
そして今日あったことを・・・あいつを思い返す。
伊集院粋、伊集院財閥の一人息子・・忘れたいくらいの名前だ。いや、俺が忘れようとしていた名前だと言った方がいいだろ。
そしてもう一人の名前、生涯俺が背をっていかないといけない名前。
桐条桜・・。俺の初恋の相手で許嫁、俺の命の恩人でもある。
そう・・あれは俺がまだ小学生のころの事だった。
そのころの俺と粋はまだ仲が良かった。
学校帰りに公園で当時流行っていた番組のヒーローごっこをして毎日遅くまで遊んでいた。
そんな俺達をいつも迎に着てくれたのが桐条財閥の一人娘の桜姉ちゃんだ。
桜姉ちゃんは美人で優しくていつも笑顔を絶やさないほんとに理想の女性だった。
俺も粋も桜姉ちゃんが大好きで桜姉ちゃんの言うことなら何でも聞いた。
この頃から俺は桜姉ちゃんに恋心を寄せていたのだろう。
俺はベットから立ち上がり机の一番上の引き出しを開ける。
中には伏せてある写真立てが一つだけ置いてある。
俺はそれを手に取り机の上に立てる。
そこにはまだ幼い俺と粋に挟まれてひまわりのような笑顔を咲かせた桜姉ちゃんが写っていた。
しかし、今もうこの写真に写るひまわりのような笑顔を見ることはできない。
・・・そうだ桜姉ちゃんは死んでしまっているからだ。
すべてが狂いだしたのは俺が粋の気持ちに気づいてやれなかったせいかもしれない。
今思うと俺はなにもできないただ無力な存在だった。守っている気になって結局は守ってもらっていた・・。
俺と粋の関係が壊れてしまったのは桜姉ちゃんが死んでしまったあの夜からだ・・白雪と会った時のように紅月が出ていた夜。
そうだ・・月が真っ赤に染まった夜だった。
その日、俺と桜姉ちゃんは両族の親に呼び出されてある料亭に連れて行かれた。
部屋に入ると真鯛の刺身や河豚などの豪華な日本料理が並べられていた記憶がある。
しばらく料理を楽しむと両族の親が真剣な顔をして口を開いたのだ。
そして俺達は知った俺たち二人が許嫁になったことを・・・。
俺は喜び桜姉ちゃんもいつもの笑顔を喜んでくれた。それが嬉しくは俺ははしゃいでいた。
子供ながらに政略結婚てのはわかっていたが俺には関係なかった。
俺はほんとに桜姉ちゃんのことが好きだったし桜姉ちゃんとならなんでも楽しめるような気がしたからだ。
俺はジッとしていれずに桜姉ちゃんを散歩に誘い当時住んでいたところの近くにあった堤防沿いを寄り添いながら歩いていた。
街は色とりどりの明かりをつけて堤防から眺めると赤や黄色や青などの宝石をばらまいたようにイリュミネーションがすごく綺麗だった。
俺は恥ずかしくて黙って桜姉ちゃんの横を歩いていた。
こうして桜姉ちゃんと二人で歩くのは初めてだったから変に緊張してしまっていたのだろう。
そんな俺に気を使ったのか桜姉ちゃんは俺に優しく話しかけてきてくれた。

桜「まさか、私と十紀人くんが許嫁になるなんてね。」
十紀人「俺はうれしいよ。だって俺は桜姉ちゃんのこと大好きだから。」
桜「本当?そう言ってもらえるとうれしい。」
十紀人「俺、大きくなって桜姉ちゃんを守る。」
桜「ふふふ、期待しますね正義の味方さん。」
十紀人「うん!!約束」
桜「はい。約束ね。」
十紀人「・・・桜姉ちゃん」
桜「ん?どうしたの?」
十紀人「手繋いでいいかな?」
桜「もちろん。」

初めて握った桜姉ちゃんの手はとても柔らかくて気持よかった。
なにより桜姉ちゃんの頬が薄くピンク色になるのが可愛らしくて子供ながらに愛おしくすら思えた。
それにつられて俺の顔も赤くしてそれを隠すように繋いだ手をを大きく振って歩き出した。
堤防沿いには外灯に照らされて二人影が並び仲が良さをあらわしている。
この幸せな時間がこれからすっと続くと思っていた。そう、ずっとだ・・・。
あれは丁度、堤防と堤防の間に架かる橋の真ん中に来た時だ。俺達の前に粋が現れたのは・・・。

桜「粋くん。」
十紀人「あっ!粋聴いてくれ!俺と桜姉ちゃん、許嫁になったんだぜ。」

その時点で粋の異変に気付くべきだった。
だけど俺は桜姉ちゃんと許嫁になれたことが嬉しくて粋にあれこれ自慢してしまったんだ。
それが粋を傷つけているとも知らずに・・・。

粋「なんで・・・。」
十紀人「ん?どうしたんだ?粋。」
粋「なんで僕が選ばれなかったんだ!!」

粋は俺の胸ぐらをつかみ橋の手すりの部分に押し当てる。
俺はいったい何が起こったのはわからなかった。

桜「粋くんやめて!!」
粋「十紀人!!君さえいなければ桜姉さんの許嫁は僕になっていた!!許さない!!許さない!!」

桜姉ちゃんが粋を止めに入るが粋の力の方が力が強かった。
手すりを越えて自分の体が宙に浮くのを感じた。
俺は粋なら祝福してくれると思っていた・・だから粋に言われたことにショックを受けてなにも抵抗せずいたんだ。
俺はそのまま川に落ちていくしかなかった。
空中にいる俺の体にそっと優しく包むこむ感覚がした。
そして耳元から優しい声が流れんできた。

桜「私がずっと守ってあげるからね。約束だよ。」

それが俺が最後に聞いた桜姉ちゃんの声だった。
俺はそのまま意識を失い。次に起きたときには病室のベットの上だった。
あとで聞いた話だが桜姉ちゃんは俺を守るために俺を包みこんで川に飛び込み泳いで岸までたどりたどり着いたがそこで力尽きてしまったそうだ。
発見されたのは岸に上がっていた俺とその数キロ先で死んでいた桜姉ちゃんだった。
俺は自分が許せなかった。俺が守るって約束したのに逆に守られてしまって俺だけが生き残った。
自分の非力さ、守ると言ったものを守れなかった悔しさすべて俺が弱かったせいだ。
桜姉ちゃんの葬式には出席したがそこに粋の姿はなかった。棺桶の中でも桜姉ちゃんは綺麗で死んでるとは思えないほどだった。
・・・それ以来俺は誰とも話さなくなり自分だけの殻に籠った。
しばらくして引きこもりになった俺を見かねて親父は外に連れ出した。
そんな時だった俺が親父に妹がほしいと言ったのは・・。きっと寂しさと埋める相手がほしかったんだろう。
その次の日に静が来てくれて俺の身の回りの世話をしてくれた。
静は優しく俺の作った殻を壊してくれた。今思い起こせば静にもたくさん迷惑をかけたな。

白雪「どうした電気もつけずに」

声のするほうを見るとドアのところに白雪が立っていた。

十紀人「昔を思い出していたんだよ。昔の思い出を・・。」
白雪「そうか。」
十紀人「どうしたの?」
白雪「静が呼んでいる。夕食の準備ができたみたいだ。」

俺は持っていた写真立てを引き出しの一番上に戻して白雪を見た。

十紀人「何も聞かないんだな・・。」
白雪「ご主人様の過去は気になるが、無理やり聞き出すのは無粋いというものだ。話したいと思ったときに話してくれ。」
十紀人「ありがとう。」
白雪「気にするな。」
十紀人「さて、もうご飯か。さすがは我が妹だな!!仕事が早い。さぁて食うぞ!!」
白雪「・・・。」

俺は元気よく部屋を出て白雪と共に静とクロと静の料理が待つリビングに向かう。

十紀人「白雪!早くこないと俺が全部食べちゃうぞ!!」
白雪「なっ!ご主人様、そんなことをしたら怒るぞ!」

静がつくる料理はうまい。昔の記憶なんて忘れさせてくれるぐらいに・・。
でも俺は忘れてはいけない。過去のこと・・。俺は静に会って桜姉ちゃんの分まで生きると決めたのだから。
それと何時までも逃げていいたらいけない。
ちゃんと向き合わなきゃいけないのかも知れない・・昔ままで止まってしまった俺と粋との関係に。
自分自身に・・・。
・・・
・・


朝、カーテンから挿し込む日差しを浴びて俺は寝苦しさで目が覚める。
胸に何とも言えない圧迫感を感じて胸の方に手をやると柔らかくもじゃもじゃとした感覚が手から伝わってくる。

十紀人「ん~。」
クロ「起きたか人間。」
十紀人「クロか・・。」

俺の胸の上にクロが座っていた。
どおりで息苦しいわけだ・・。

クロ「人間、朝だ。静が呼んでいる。」
十紀人「わかった。どいてくれクロ。」

そう言うとクロは俺の胸から飛び降りた。
ベットから出て俺はそうそうに服を着替える。
まだ完全に起きていない頭で洗面台まで行き顔を洗う。

十紀人「ひどい顔だな。」

鏡に映る自分の顔を見て俺はそう呟いた。
休日なにの俺の顔を沈んだように影を落としていた。
粋とあって昔を思い出したからだろう・・・。
俺は自分の顔を両手で叩いて顔を引き締める。
こんな顔で静とかに会ったら心配されてしまう。
リビングに行くと既に朝ごはんが用意されていた。

静「おはよございます。お兄ちゃん。」
十紀人「おはよう。」

クロは牛乳が入った皿をぺろぺろとなめている。
その姿だけ見れば普通の猫だ。
自分の席について静が用意してくれた朝食をとる。
そこで白雪がいないことに気がついた。

十紀人「そういえば白雪は?」
静「白雪さんは鍛錬をすると言って庭にでました。」
十紀人「そうなのか。」

朝食を食べ終わり俺は庭でデバイスの調整をしている白雪を見ていた。
白雪はそんな俺に気づかずにデバイスを握って素振りをしていた。
白雪のデバイスは黒川と違って日本刀のような形状をしている。
デバイスは朝の日差しを浴びて輝いている。
それを振ります白雪の姿は舞を舞っている様に美しいかった。
靭やかに揺れる髪先が美しく幻想的な世界に迷うこんでしまったのかと錯覚する。

白雪「ん?ご主人様か。人が悪いな。見ていたなら声をかけてくれ。」
十紀人「いや、あまりに美しかったのから見惚れていたんだよ。」
白雪「褒めても何も出ないぞ。」

そんなことを言いながらも白い肌をうっすらと赤くする白雪は見ていてとてもかわいいものだった。

十紀人「ところでそのデバイスだけどいったいどういう物なんだ?」
白雪「構造とか聞かれても私にはわからないが、これは私たちの武器だ。」
十紀人「武器か。みんな同じ形ってわけじゃないんだね。」
白雪「デバイスは所有者によって形を変える。その所有者が扱いやすく尚且つ所有者の能力を高めるために最善の形状になる。」
十紀人「能力?」
白雪「以前わたしたちにはそれぞれ武器と能力が与えられた話はしたな。武器がデバイスで能力というのがデバイスを通して発動する攻撃のことだ。そうだな例えば私のデバイスの属性は氷だから大気中にある水分を集めて氷を生成できる。」
十紀人「なに!そんなこと出来るのか?」
白雪「あぁ出来るとも。・・見せたほうが早いな。」

そう言って白雪はデバイスを自分の目の前にかざす。

白雪「デバイス開放・・唸れ雪風、氷夷弾!!」

白雪によって振り下ろされたデバイスから尖った氷のようなものが放たれ壁に突き刺さり砕ける。
威力は抜群だろうコンクリートの壁には穴があいてしまっている。

十紀人「なるほど掛け声がデバイスの能力開放になるというわけか?」
白雪「掛け声?」
十紀人「あぁ唸れとか氷夷弾とか。」
白雪「いや、基本的に掛け声なんていらない。」
十紀人「え?ならなんで技名ぽいの叫んだの?」
白雪「雰囲気だ。」
十紀人「いや、いらないなら言わなくても。」
白雪「はぁご主人様。わかっていないな。これは気持よく戦える気分の問題んだ。」
十紀人「そうなのか?」
白雪「まったく。そもそも技名ぽいではなくこれは技名なんだ。これを言うと言わないとではまず戦闘の時の気合が違う。気合が違うということはだな勝敗にかかわることなんだ。ご主人様想像してみてくれアニメと漫画で無言でたたかっていたらどうだ?つまらないじゃないのか?あーあーみなまで言わなくても分かっている。そんなものは実にくだらないに決まっている。それにそんな戦闘シーンでは絶対的に燃えない!!故にこの世に無言での戦いなどないんだ!!それに人は気合を入れる時に掛け声を発すだろ!?それはなぜだ?闘気をたかめるためだろ?それがただ叫ぶだけではなくて技名を叫ぶとなると自分のポテンシャルがあがるのではないか?いや絶対的に上がる!!それにだ――――――――。」

しまった変な地雷を踏んでしまったようだ・・・。
そのあと永遠と技名の大切さを語られ気づいたら太陽が真上に上がり静がお昼ですよと呼びに来たころにようやく開放された。
白雪はまだ語り足りないといった顔をしていたが俺は正直に助かったと思っている。
静の作った昼食を腹に入れて俺は白雪に捕まってまた永遠と技名の大切さを語られる前に家を出て散歩に出ることにした。
まぁどこに行くあてもないのだがせっかくだしあの場所に行こう。
そう俺は天気がいい休日は近くの公園に行きベンチで読書を楽しむことが多いのだ。
ちょうど俺の手には家を出る時にとっさにつかんだ読みかけの小説がある。
俺は公園に行きいつもの場所で読書をしろということだろう。そうに違いない!!
などと考えて俺は公園へと向かった。
昼下がりの公園は親子で運動する人たちやジョギングを楽しむ人やペットの散歩をする人でにぎわっていた。
やはり休日は目の保養に限る。俺はベンチに座り一番風通しのいいベンチに腰を下ろし本を開く。
そうだ、あくまで俺はここに本を読むためにきたのだ。やましい気持ちなど宇宙の塵ほどにもない。
しばらくすると犬をつれたスカート姿の美人さんが俺の前を通りすぎようとする。
今だ!!吹け神風!!

美人「きゃ!!」

来たーーーー!!
突如吹いた風が美人さんのスカートをいたずらに舞い上げる。
抑えるスカートの隙間から恥じらいながら顔を見せるおパンツ様はまさに芸術だ。
許されるのであれば写真を撮りバインダー保存したいくらいだ。
そう何を隠そうここはパンチらスポットなのだ。
時たま起きる神ががった強風が女性のスカートを舞い上げてくれるまさに神風なのだ。
いや、風にもし意識があるのなら俺は言ってやりたいグッジョブと・・・。
美人さんは犬を連れて恥らいながらその場を去っていく。
パンチラ+美人さんの恥らう顔を見れるというまさに一石二鳥!
これだけのスポットがあるのだ男であるなら来ない者はいないだろ。
・・・ごほん!!失礼した。取り乱してしまったようです。
俺はただここに読書をしに来ただけなのです。。
たまたまそうたまたまいたずら好きな風様が女性の方のスカートを舞い上げてしまわれた。
そこにたまたま読書をしていた俺がいたただそれだけの話なのです。
やましい気持ちなど宇宙の塵ほどにもないのです。

十紀人「白か・・。」
クロ「なるほど、人間はこれが目的だったのか・・。」
十紀人「なっ!クロ!!なぜお前がここに!!」
クロ「普段あまり外に出たがらないお兄ちゃんが休日の昼下がりだけは公園に散歩に出るのは何でだろうといたいけな少女にいわれてな様子を見に来たんだ。」
十紀人「おいクロ、物は相談だが、大トロでどうだ。」
クロ「ん~大トロだけではな・・。」
十紀人「なら中トロもつけようではないか」
クロ「なんだ。人間は読書を楽しんでいただけか・・。」

どうやら俺の財布からまた諭吉さんが飛んでいくようだ。
そんな会話をしてると目の前に人影が来るのを感じて目線をあげる。
そこにはその場似合わないカッコをした女性が立っていた。
赤がメインで赤と黒で構成されたゴスロリのようなファッションに身を包み深紅の色をした髪、瞳は白雪と同じ紅色をしている。
年は俺の上か同年代だろう。白雪に負けず劣らずの美人だ。
女性は何も言わずに俺を見つめていた。

十紀人「お嬢さん、俺に何かようかな?」
クロ「・・十紀人気おつけろ。」

クロの言葉で俺は瞬時に理解した。俺の目の前に立つ女性は黒川や白雪と同じ者だと・・。
俺は思わず身構える。クロは俺と女の間に割って入る。

クロ「お前は百鬼だな。」
百鬼「白雪と一緒にいた猫でありますか。」
クロ「なぜお前がここにいる。」
百鬼「お前にようはないであります。あるのはそこにいる人間であります。」
クロ「この人間には指一本触れさせないぞ。」
百鬼「邪魔するなら排除するまででありますが。」

百鬼と言った女性は静かに拳を上げて構える。

クロ「っく。」
十紀人「穏やかじゃないなぁ。クロ、百鬼というその少女は俺に何か用事があるみたいだ。その用とやらを聞いてからでもいいじゃないか?」
クロ「しかし!」
十紀人「ここで争ったら被害が広がるだけだ。それに話し合いで片がつくならそれに越したことはないと思うが?」

俺はあくまで紳士ぶりながらクロに言った。
クロはしばらく考えて口を開いた。

クロ「・・・そうだな。」
十紀人「だそうだが百鬼さん俺に何のようか話してもらえないかい?」
百鬼「お前の名はなんでありますか?」
十紀人「道明十紀人だ。」
百鬼「道明十紀人でありますか。・・単刀直入に言うであります。百鬼のマスターになれであります。」
クロ「・・・・」
十紀人「・・・・」

クロと俺は顔を見合わせる。

クロ「百鬼なにを言っている?」
百鬼「耳が聞こえなくなったでありますか?百鬼のマスターになれと言っているであります。」
クロ「百鬼よ、残念ながらこの人間は既に白雪と契約を交わしている。」
百鬼「関係ないであります。」
十紀人「クロ、俺としては美人に誘いを断りたくないのだが?」
クロ「いや、人間そういう話ではないのだ・・。」
粋「やぁ、忙しそうだね。道明十紀人。」
十紀人「粋!」
粋「あいさつに来たよ。」

俺達の会話を遮るように粋は俺達の前に現れた。
百鬼の後ろにはいつのまにか粋が立っていた。
百鬼に気をとられて気づくのが遅れたみたいだ。

百鬼「知り合いでありますか?」
十紀人「いや、ただの顔見知りだ。」
粋「顔見知りとはごあいさつだね。」
十紀人「粋、なんのようだ俺は今お前の顔がみたくないのだが・・。」
粋「それは残念だ。僕は君を殺したくてウズウズしてるというのに・・。」
クロ「・・・」

俺はあたりを見渡す。先程まで人で賑わっていた公園は今や人っ子一人見つからない。
つまりここにいるのは俺たちだけということになるのか?

粋「安心していいよ。十紀人。今ここにいるのは僕たちだけだから・・。」

粋は俺の顔を伺うように話す。どうやらここで暴れても問題ないことを俺に教えてくれたのだろう。
全くもっていらぬ親切というものだ。

クロ「十紀人。あいつはだれだ。」
十紀人「黒川の主だよ。」
クロ「そうか。まずいな・・。百鬼に加え黒川まで来られた・・。」
粋「ん?喋る猫かい?十紀人。君はいつも面白さなものを僕に見せつけるね。・・・実に不愉快な話だよ。」
十紀人「それは悪かったな。・・・さて、どうしたものか。」

再度あたりを見渡すがやはり俺たちだけであとは誰もいない。
ん?俺たちだけ?黒川の姿が見えない。

十紀人「クロ、黒川がいない・・。」
クロ「気づいたか。私も気になっている。しかし黒川ではない変な殺気を感じる。」
粋「今日は黒川は連れてきてないよ。・・・だけどそれによく似たものを連れてきた。出ておいで僕のドールたち。」

粋の合図で茂みや木の影から無数の人が出てきた。
いや、人ではないな・・それらはみんな同じ顔をしていた。
黒川によく似た顔だがちょっと違う、もっと作られた者のような感じがする。
いうなれば機械みたいな感じだ。

粋「黒川を元に作ったプロトタイプの戦闘兵器。通称ドールズ。今日はあいさつ変わりにここでテスト運用をしに来たんだ。君のおもちゃがいないのは残念だけど。君を殺せるならそれもまたいいものだよ。あぁ安心して君の妹・・・たしか静ちゃんだったかな?それとおもちゃは僕がもらってあげるから。・・・行け!!」
クロ「防御障壁!!」

既に俺達は数十体のドールズという奴らに囲まれていた。
これが命を狙われずになおかつちゃんとした女の子ならどれだけよかったことか・・。
粋の合図と共に襲いかかって来きた無数のドールズたちに向かってクロが以前見せた壁のようなもので俺を守ってくれた。

粋「ほぉその猫面白いね。研究材料にしたいよ。」

などと余裕の笑を見せてロクをジロジロと見る。

クロ「今体がゾクッとしたぞ。」
十紀人「クロ。いつも世話を掛けるな。」
クロ「いや、いいのだが・・しかし、オリジナルとは違ってやはりパワーがないな」
十紀人「相当の数だが大丈夫か?」
クロ「・・・心配するな。私がお前を守ってやる。」
百鬼「お前たちは変なやつに好かれているであります。」

粋の登場ですっかりと空気になっていたが百鬼はちゃっかりと防御障壁の中にいた。

クロ「お前まで守った覚えはないのだがな。」
百鬼「か弱い女をこの外にだすというでありますか?」
十紀人「クロ、それは駄目だ。出るなら俺が出る。」
クロ「っく!全く緊張感のない奴らだな。」

ドールズたちは何度も防御障壁に向かって体当たりをしてくる。
その度に壁が揺れるのがわかる。

クロ「っぐ!!流石に数が多いな・・。」
百鬼「十紀人。百鬼と契約するであります。そうすれば百鬼がお前を守ってやるであります。」
十紀人「なるほど、いい解決策だな。」
クロ「十紀人!やめろ!!」
十紀人「安心しろ契約の仕方はもう覚えた。」
クロ「そういう問題じゃないんだ!!」
十紀人「百鬼いいぞ!俺はお前と契約を交わす!」

百鬼はニヤリと微笑み俺に抱きついてきて耳元に口を近づけてきた。

百鬼「契約の言葉を言うであります。」
十紀人「任せろ。」
クロ「待て!!私の話を聞け!!」

クロの言葉は既に俺の頭の中に入ってこなかった。
白雪と契約を交わした時と同じだ。自然に文字が頭の中に流れこんでくる。
それを一つ一つ丁寧に口に出していく。

クロ「くそ!繋がってしまったか・・。」
二人「It contracts to thine and me」
百鬼「接続の確認であります。」

あの時と同じように眩き光に包まれて俺は眼を閉じる。
・・・。
眼を開けるとそこは一面が真っ赤なバラの花で埋まっていた。
バラの庭園とでも言おうかあたりは一面の紅の世界、そしてあたりは真っ暗だというのにバラが光っているかのようにあたりを照らしている。
俺の目の前に立つのはバラの色によく似た髪の女の子。

十紀人「・・百鬼」
百鬼「契約を交わすであります。」

百鬼の唇が俺の首筋に近づいてくる。
俺はただそれに身を委ねるだけだ・・首筋にチクっとした痛みが走る。
血を吸われていると感じるまでに時間がかかった。
俺のDNAが百鬼と俺を結びつけるのが実感できる。

百鬼「マスターを認識・・アクセス完了であります。道明十紀人を正式にマスターと認識であります。・・・マスターは百鬼が守ってやるであります。」
契約が終了したときバラの空間が崩れ落ちていく。
百鬼は口元から滴る血を手の甲でぬぐって残ったものを舌で拭き取る。
その姿は色っぽくってとても優雅だった。

クロ「・・・戻ってきたか。」

クロが心配そうに俺を見る。
壁はまだ壊れておらず、ドールズたちからの攻撃はつづいていた。

百鬼「さて、久々に暴れるであります。マスターはそこで見ているといいでありす。デバイスオンであります。」

百鬼の両手両足にアーマーがみたいなのが装着される。
一呼吸後百鬼は防御障壁の外へ飛び出して行く。
百鬼が防御障壁の外に出たあとあすぐにドールズたちは百鬼目掛けて襲いかかるが次々に倒されていく。
その姿はまさに一騎当千、ドールズを一切受け付けない立ち振る舞いは見ていてとても美しいものがあった。
踊っているように軽やかにドールズたちを倒していく。そんな彼女の・・百鬼の顔を見ると笑っていた。
戦いを楽しんでいる様に百鬼の口元はつり上がっている。
怖いと言うイメージはなかった。ただその立ち振る舞いがすごく自然で踊っているように見えたから俺はただ眺めていた。
そんな姿に魅了されていると不意に足の力が抜けて地に膝をついてしまう。

クロ「大丈夫か!?」
十紀人「あぁちょっと足の力が抜けただだけだ。」
クロ「やはりか・・。耐えられるハズないのだ。人間の生命力には限界がある。一人でもかなりの負担だというのに二人になるとお前の体がどれだけもつか・・。それに百鬼はマスターになった者の事など考えないで力を使う。このままではお前の生命力が尽きてしまう。今ならまだ間に合うかもしれん。人間、契約を解除するんだ。」
十紀人「クロ、俺を心配してくれるんだな。ありがとよ」
クロ「今はそんなこといている場合ではない。」
十紀人「心配するな。女の子の一人や二人背負って見せるさ。」
クロ「なにをいっている!これ以上負担をかけると死ぬかも知れないんだぞ!!それともお前には断れぬ理由があるのか!?」
十紀人「理由なんてないさ、ただ百鬼が俺を求めてくれたからだ。俺はかわいい女の子からの誘いを断るほど野暮じゃない。」
クロ「ふざけてる場合ではないんだぞ!!お前の命に関わることなのだぞ!!」
十紀人「ふざけてないんないさ。・・じゃぁ聞くが俺が断ったら百鬼はどうなる。」
クロ「・・・」
十紀人「これだけの技術だ誰もが欲しがるじゃないか?それに政府はお前たちを探しているんだろ?」
クロ「知っていたのか?」
十紀人「知らないさ。ただ白雪が言った。データを消してお前たちを逃したって聞いた時から気付いてた。・・そんな政府に捕まって兵器としてつかわれるか?それともサンプルとして利用され体のあちこちを調べ回されるか?ファザーって人が死んだ意味はなんだ?百鬼が他の人と契約すならいい。だけど百鬼は俺を選んでくれた。そういうこと全部、考えたら俺にはどうしても断れなかった。」
クロ「しかし、人間・・・。」
十紀人「クロ、心配してくれてありがとうな。」

俺はクロの頭を優しく撫でた。

クロ「・・たく、昔と変わらず要らんところだけ頭が回るんだな。」
十紀人「ん?何か言ったか?」
クロ「何も言ってない。」

顔を戻すとドールズの数は減りあと数体し残っていない状況になった。

百鬼「百鬼の武は最強であります。まだやるでありますか。」

あまり緊張感のないドヤ顔の百鬼は粋を睨みつける。

粋「まさか契約をかわしてしまうとわね・・。オリジナル相手だと分が悪いね、ここは引かせてもらうよ。いいデータも取れたことだしね。・・・撤退だ。」

粋は一度僕をみて撤退の合図をだした。
その合図とともに残り数体のドールズは引いていった。
置き去りにされたドールズの残骸たちを見ると無残なものだった。
足が取れている者や体の真ん中に穴が開いている者・・見ていて気持ちい物ではない。

十紀人「全く。粋、趣味が悪いぞ。」
粋「ふふふ。全ては君を殺すためだよ。目障りな君をね。」
十紀人「やれやれ、モテる男はつらいよ。」
粋「いつまでも、その余裕が続くと思うなよ。僕が君を不幸のどん底に落としてやる。」
十紀人「そうかい。・・2つお前にいいたことがある。」

俺は粋を睨みつけて言い放つ。

十紀人「こいつらは道具じゃないし兵器でもない。ちゃんと見てやっれ。・・それとこれのどこにお前の正義があるんだ?。」
粋「っぷ!あはははははははははははは!!僕のおもちゃを僕がどう使おうと僕の勝手だよ。それになにを言うかと思えば正義!?この世に正義なんてものはないんだよ!!あるのは悪だけだ!」
十紀人「・・・粋。」
粋「そんな目で僕を見るな!!。・・・ムカつくだんだよ。もういいあきたよ今日は帰る。」

そう言い残して粋はその場を去っていった。
俺はその後姿をただ見つめて見送っていた。
心が痛かった。昔の、まだ粋と出会う前の自分を見ているようで・・。
桜姉ちゃん、俺はあいつとどう接したらいいんだ?
答えるはずのない質問を自分の記憶の中の桜姉ちゃんに問いかける。

百鬼「行ったみたいであります。」
十紀人「そうだな。」

足に力を入れて立ち上がる。
若干だが頭がふらつくのを感じる。

十紀人「さて帰るか。ここにいたらいろいろとマズそうだ。」

遠くの方でサイレンの音がした。あれほどの騒ぎだ来ない方がおかしいだろう。
今のクロや百鬼を人目に晒す訳にはいかない。
俺達はそそくさとその場をあとにした。
家の帰り道クロは俺に問いかけてきた。

クロ「ところで十紀人、百鬼の事は静と白雪になんて説明するんだ?」
十紀人「うっ!!・・・・クロ。」
クロ「断る。」
十紀人「マグロのたたき。」
クロ「・・・・断る。」
十紀人「サーモンも付ける。」
クロ「・・・仕方がない奴だな。」

こうして俺達は家に帰ることとなった。
もちろん家に着くなり百鬼のことで俺は白雪と我が妹から説教を受けれこととなった。
クロのホォローでなんとか丸く収まったが白雪も妹も納得はしているが不満というような顔をしていた。
しかし、白雪も静もいろいろ文句おいったが百鬼を心良く受け入れてくれたれたのはいうまでもない。
我が家にまた新しい住人が増えたのだった。
・・


その日の夜、縁側に腰をかけて月を見ている百鬼。

クロ「百鬼。ちょっと聞いてもいいか?」

百鬼の背後からクロが話しかけてきた。

百鬼「なんでありますか。」
クロ「なんであの人間を選んだ。他にも人間はたくさんいるだろう。」

百鬼は少し沈黙のあとに答えた。

百鬼「・・・鼓動であります。」
クロ「どういう事だ?」
百鬼「マスターの鼓動は他とは少し違ったであります。温かい鼓動・・・すべてを優しく包み込む鼓動であります。百鬼もそれに触れてみたくなたであります。」
クロ「なるほどな・・。それに惹かれた言うことか・・鼓動か。」

クロは思い出す。以前白雪に同じ質問をしたとき白雪も今の百鬼と同じ顔で同じことを言っていたことを・・。
かく言うクロも十紀人の鼓動に惹かれていることを実感しつつあったためクロは素直に納得してしまった。
あまり感情を表に出さない彼女たちが十紀人の前では素直に喜怒哀楽を表に出す事はクロは見ていてとても不思議だった。
十紀人にはなにか彼女たちを引き付ける不思議な力があるのかも知れないなどとクロはそんなことを思っていた。

クロ「契約を結んで触れられたか?」
百鬼「まだわからないであります。」
クロ「そうか・・今日の月はきれいだな」
百鬼「そうでありますね。久々に綺麗な月を見ましたであります。」
クロ「今日のような月がみたいなら人間から生命力を絞りとるような真似をしないことだ。」
百鬼「・・・考えておくであります。」

クロは百鬼の隣に座り二人で夜の空に浮かぶ月を眺める。

百鬼「ところでマスターは今何をしているでありますか。」
クロ「先程風呂に入る言っていたが。」
百鬼「そうでありますか。用事を思い出したであります。」

そう言い残すと百鬼は立ち上がり部屋の中に入っていった。
一人残されたクロは台所が騒がしくなったのを耳にして顔をにやけさせる。

クロ「まったく、騒がしくなったな。」

・・・。

十紀人「くはぁ~いい湯だなおい。」

湯船に浸かると今日一日の疲れが癒されるというものだ。
これが露天風呂だったらさぞかし最高だったろうに。
まったくもって風呂とはいいものだ。どこぞの国では風呂で湯船に浸かる習慣が無いところがあるそうだが全くもって勿体無い話だ。
こうやって体をお湯に付けるというのはこんなにも気持ちのいいことだいうのに。
今度みんなで温泉にでも行こう。きっとみんなも喜ぶだろう。
そうだ、お風呂と言ったらあれを忘れてはいけない。
なんといっても風呂上がりのコーヒー牛乳は格別だろ。
人には牛乳やらフルーツミルクといた者もいるが、俺は断然コーヒー牛乳だ。
できるだけ湯船で体を火照らせてキンキンに冷えたコーヒー牛乳を一気に飲み干す。
これが最高の飲み方とうやつだ。
そんなことを思っていたらコーヒー牛乳が飲みたくなってしまった。

十紀人「さっさと体を洗って上がるか。」

俺は体を洗うために湯船から出る。

十紀人「ん?脱衣所がさわがしいな。」

脱衣所がなにやら賑やかだと思い顔を向ける。
次の瞬間、勢い良く風呂場の扉が開かれる。

百鬼「マスター背中を流しに来たであります。」
十紀人「わーわーわー!!」

いきなり現れた百鬼にビックリして俺は思わず前を隠して再び湯船にダイブする。

十紀人「ひゃ、百鬼!!な、何しに来た!!」
百鬼「さっき言ったであります。背中を流しに来たであります。」
白雪「待って百鬼!!私を差し置いてご主人様の背中を流すとはどういう了見だ!!私が先に決まっているだろ!!」
十紀人「いや!白雪!突っ込みどころがずれてるよ!」
百鬼「この案は百鬼がだした案であります。」
白雪「馬鹿者!お前が出す以前から私は考えていた!」
百鬼「先に口に出したほうの勝ちであります。」
白雪「そんなことが通じるか!!」
クロ「これは生命力ではなくて精力が削られそうだな。」
十紀人「誰がうまいこと言えと!!」

俺をそっち退けにしてなにやら二人で口論を始めてしまった。
これはしばらく出れそうにないな・・。
こうして我が家は一段と騒がしくなっていった。
余談ではあるがこの後この場を収めてくれたのは我が麗しの妹だった。
なぜか知らないが風呂から上がると静から俺が怒られてコーヒー牛乳がお預けとなった。
トホホ・・・。
まぁこれはこれで楽しいからいいかもしれない。
以前から見ればこの家はずいぶんと明るくなった
白雪とクロが来てまた我が家に新しい家族が増えたからかもしれない。
名前は百鬼ちょっとおちゃめでやんちゃな女の子だ。
明日からこの4人と1匹での楽しい生活がはじまるのだろうな。
そう思うと明日になるのがなんだか楽しみに思えてきて笑みがこぼれてしまう。
・・・
・・
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