Neetel Inside ニートノベル
表紙

なないろ空中庭園
思い出の空の下

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アルバムのページを捲り、写真一枚一枚に想いを馳せる。

大会での集合写真。
東部長の決勝戦。
二人で行った海。
リハビリをする蒼司さん。
復学したての頃のプールサイド。
グラウンドを走る橙子さん。
蒼司さんの家。
河原でのバーベキュー。
タバコ片手に寝ている顧問。

高校時代の写真は、このアルバムの殆どのページを占めている。

どの写真にも、眩しい程の笑顔が写っている。
心の底からの笑顔。

ページを捲る度に現れる、二人の写真。
いつでも一緒で、いつでも中睦まじい。

見ているこちらが照れるような。そんな青春。
文字通り、このアルバムは

青春の1ページだった。


最初に気が付いたのは、蒼司さんが目線をくれていないこと。
いっつも照れた雰囲気でどこかを見てる。

あー、写真取られるの苦手だったんだなー

ついつい笑みがこぼれてしまう。
かわいいんだぁ。ふふふ♪

大きな体で爽やかに笑っている東部長。
まるでイガグリみたいな坊主頭。
無精ひげが生えてるせいで、高校生には見えないし。
どの写真を見ても一番後ろに写ってる。
蒼司さんの身長と比べても、部長はとっても大きい。
酷い写真になると顔が写ってないのまであったり♪

どの写真でも腕組みをしてる橙子さん。
東部長の隣でいっつも顔を赤くしてる。
本人だけが隠せてるつもりだったんだろうなぁ。
強がってばかりいるけど、その表情じゃ部長に気持ちは伝わらないでしょ♪
さんざんヤキモキしたんだろうなぁ~
幼馴染もいいことばかりじゃないんだな。って、そう思える写真ばっかり♪

プールサイドでも白衣を着てる神凪顧問。
ベンチに座っていても、立っていても口にはタバコを咥えている。
なんだかいっつも眠そうで、調子でも悪いのかしら?なんて思っちゃう。
一枚だけある紫のコルベットの傍にいる写真。
この写真だけニヤニヤしちゃってる♪
すっごいスキなんだろうなぁってよく伝わってくる。

蒼司さんの家で撮った写真には、かわいらしい藍さんの姿。
小さくて、まるでぬいぐるみみたいな可愛い妹さん。
写真を見てるだけでも仲のいい兄妹なんだって解るくらい。
顔立ちもやっぱり似ているなー…って。
見ているだけで微笑ましいな♪

河原でのバーベキューに来てた黄寛さん。
藍さんの隣でいっつも笑っている。
穏やかで、明るい笑顔。
とても愛を感じる表情。どの写真を見ても同じように落ち着いている。
お姉さんの橙子さんとは正反対♪
ほんわかした弟さんだな~って思う。


このアルバムは、とても大事な宝物。
開く度にステキな想いが溢れてくる。

高校3年の二ノ宮朱里が閉じ込めた、ステキなステキな夏の思い出達。
秋を境に蒼司さんの水着姿は写らなくなっている。

夏と秋の狭間に起こった事故。
蒼司さんはそれから水泳選手を続けられなくなった。

でも、悲しそうな顔なんて一枚もない。

ストップウォッチ片手に、笑顔で写る蒼司さん。
きっと多くの事を乗り越えたのだろう。
そこには嘘偽りのない喜びが留まっている。

周囲の笑顔がそれを良く物語っている。
誰かを気遣う造られた笑顔なんて一枚もないもの。

みんなが、みんなで乗り越えて得た笑顔。


最近のわたしは、雨が降るとこうしてこのアルバムを開く。
夏の雨は激しいけれど、必ず後にはステキな贈り物が現れる。

その天からの贈り物を待つ間、こうしてアルバムに想いを馳せるのだ。
こうして待っていれば、雨を憂鬱に思うこともない。
だって、ステキな笑顔がすぐ訪れることが約束されているもの。

アルバムは幾つもあったのに、わたしはコレに惹かれてしまう。
ページを捲るたびに現れる光景はとてもわたしを癒してくれる。

悲しいことがあった時も、悔しいことがあった時も、このアルバムが勇気をくれた。
前向きに生きるエネルギー。
そんな姿はわたしを元気にしてくれる。

今日も生憎の雨。
お昼過ぎから降り続く雨も、じきに終わりが近づいているようだ。
少しずつ雲間から漏れる光が、わたしにそれを教えてくれる。

アルバムの最後のページに写っている大きな虹の写真。
学校の屋上で手を繋ぐ二人を跨ぐ様に描かれた七色の橋。

こんな虹が今日は見れるだろうか?
そう思いながら雨の終わりを待っているんだ。


だんだんと雨が細くなり、地面を叩く音が遠のいていく。

晴れ間が顔を覗かせる!
窓に駆け寄り空を見上げる。

「アカリ~そろそろパパさん起こしてくれる~?」
「あ、は~い!すぐいくね~!」

ちょっと残念だけど、窓を離れることにする。
少しだけ空に姿を現し始めた虹にお別れをして、階下へと駆け下りる。
蒼司さん、今日はすんなりおきてくれるかなぁ…


ベッドの上に残されたアルバム。

最後のページには、幸せそうに写る二人が微笑んでいる。

どこかの屋上のようなその広場を、

大きく包むような虹が印象的だった。

写真の下には大きな文字でこう書かれている。


『なないろの空中庭園にて』


わたしのお母さんと、お父さん。


二人の思い出の場所の写真なんだってさ♪



                      『なないろ空中庭園』

                          Fin





尼子 蒼司
高校卒業後、水泳指導者の道を目指して大学へと進学する。
現在母校で水泳部顧問を受け持っている。
担当教科は恩師に習い「物理」
特に流体力学を得意分野としているようだ。
現在は家庭を持ち、忙しいながらも幸せな生活を送っている。

尼子 朱里(旧姓:二ノ宮)
大学進学後、スポーツ医療の専門学校を経て今に至る。
自宅一階を改装し、開業するまでこぎつけた。
もともとは夫の為に学んだ道だが、多くのスポーツ選手を救う方法を選ぶ。
現夫の大学卒業を待ち、祝福されながら結婚。一女を儲ける。

東 碧爾
一時は水泳から離れることを決意するも、後輩から説得されその道を進む。
大学進学後から頭角を現し、オリンピックに2大会連続出場を果たす。
2度目の大会で自由形銀メダルを獲得し、現在はスポーツコメンテーターに就いている。
生来のキャラクターもあり、お笑い方面でのレギュラーを複数持っている。
未だ独身であるが、想い人は居る様子。

北村 橙子
大学進学後、陸上競技で国体に出場。
国体4連覇を成し遂げるが、オリンピックには出場せず。
在学中から勉強を始め、保育士の資格を取得。
現在、地元の保育園にて名物保育士として人気を得ている。
父兄からの縁談紹介をことごとく断り続けるが未だ独身。
週末になるとどこかに出かけるようだ。すごくにやけているとは弟談。

北村 黄寛
音楽大学に進学し、現在は国内有数のフルート奏者となる。
彼のフルート独奏「アヴェ-マリア」は大変な人気であり、ソロコンサートも度々。
愛する妻にマネージメントをまかせ、日本各地を飛び回る生活を送る。
結婚するも子宝には恵まれていない様子。目下の最優先課題との事。

北村 藍(旧姓:尼子)
短大を卒業後、音楽系の会社に入社。
主にマネジメント面で才覚を発揮するも、結婚を期に退社。
夫の専属マネージャー兼、所属事務所社長となる。
多忙な毎日の為、夫との時間が持てないことが最大の悩みとか。

神凪 紫織
現在は教職を退いている。
かつての教え子たちとは連絡を取っているようだが、行方は不明。
教え子達の証言によると元気に過ごしている様子ではある。
余談ではあるが、最近都心周辺の高速道路にてある噂が囁かれている。
紫のコルベットに乗った壮年の女性が記録を更新し続けているとか。
走り屋を自称する者達から「パープルゴッデス」と恐れられているとか。
…まさか?



尼子 灯
現在高校2年生。父親が勤める高校へと進学した。
両親の薦めもあり水泳部に在籍。
父からの指導と、母親のバックアップもあり2年生にしてインターハイ出場。
今後の活躍が期待される水泳界のホープである。
両親の良いところをうまく継ぎ、愛らしい笑顔で芸能界からもチェックされる逸材。
虹に思い入れがあるらしく、雨の日には機嫌がいいという情報も。
彼女の虹はこれから見つかるのだろう。


A certain day of 2011…

       

表紙

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