Neetel Inside 文芸新都
表紙

嘘の話
apoptosis【男】

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蒸し暑い夏
僕はバイトに行くため自転車に乗っていた
僕のバイト先は2kmほど先の駅前のコンビニだ
今日も同じ道のりを、同じ自転車で、同じスピードで進む
しかし今日はいつもと違うことが一つあった
女がいる。あり得ない位置に
線路だ
線路の上に女が立っている
遮断機は上がっているが、動く気配を感じない・・・
―――――――自殺
この言葉しか浮かばなかった
いや、違うかもしれない
もし助けて、なんか言われるのも嫌だ
「別に死のうなんてしてなかった」とかいわれたら・・・
まだ遮断機も上がっているし
そうだ!遮断機が下りたら助けよう
多分それまでに退くだろう

しかし退かなかった
そのまま突っ立っている
けたたましく鳴る警告音
――――――助けなくちゃ
体が動く
僕は自転車から急いで降り、女の人に向かって走った
そして後ろから女の人を抱き上げ、向こう側の遮断機をくぐった
ゴォォォォォォォォォォ
「ッハァ、ッハァ」
電車が通り過ぎた
僕は女の人を地面に降ろした
「あ、危ないじゃないですか!!!自殺なんて!何考えてるんですか!!」
思わず本音がでた
自殺をしようとしている人はデリケートだ・・・・ったと思う
きつく言い過ぎただろうか
女の人の顔を覗き込む
・・・・なんだこの顔
まるで化け物を見てるかの様な顔だ。キョトンとしてる
「人間・・・・」
女の人が初めて発した言葉はあの時の僕には理解できなかった
「ありがとう」でもなく「よけいなことしないで」でもなく
「人間・・・・」
・・・でもよく顔を見ると、かなり綺麗だ
まじまじと見ていることに気づいて恥ずかしくなったが
彼女はまだ動かない
「あの~・・・僕バイトがあるんで・・・すいません
もうこんなことしちゃだめですよ?」
逃げたかった
本当は警察とかなんかしなきゃいけないんだろうけど
だれも見てなかったし・・・
そんなことを考えつつ向こう側にある自転車をとりに行こうとすると
「まって」
逃げられなかった
「まって。こんな馬鹿ことしようとしているのを止めていただき
本当に有難うございました!お礼がしたいので電話番号教えていただけないでしょうか?」
とっとと教えて逃げよう
「090-×・・・・・・です」
僕は早口で言った
間違って覚えていてくれたらいいなぁっとおもったからだ
「ありがとうございます!それじゃあ必ず連絡しますね!」
彼女はどこかへ走っていった
僕は遅刻で店長に怒られた




     

店長に怒られたので
今日は少しまじめに働いた
こうしておけば午後には機嫌が戻っているもんだ
「おぉ?よくやってるねぇ」
「はい!遅刻した分はシッカリやらないと」
適当なことを言っておく
こうしとけば、いいんだ。すべてが日常に戻る

――――朝、女の人を助けた。綺麗で、奇妙な人
彼女が行っていたのは・・・・・
忘れたい
電話番号も間違って覚えていてもらえると、嬉しい
会いたい・・・普通の人だったら
でも彼女は違った。非日常的存在だ。こんなことを言ってはいけないんだろうけど
僕の『平穏』を乱す、いわばウィルスとかそんなんだ。

「そうか!じゃあ『外』たのむよ」
ふっと現実に引き戻された
引き戻してくれたのは店長、置き土産付き
「ちょっと!?こんな寒い日に『外』は勘弁してください」
『外』とはうちのコンビニではゴミ箱、箒、雪かきなど
冬にはやりたくないことの詰め合わせの事
「だめ、だめ。遅刻したでしょ?」
うっ。たしかにそうだ。これもあの娘のせいだ
そんなことを考えながら僕は渋々外に出た
寒い
一月だ。あたりまえ
早く終わらせようと黙々と地面の見えない白い大地を削る
寒い
冬だ。あたりまえ
お客さんが来たときだけ、「いらっしゃいませ~」、などと可愛く挨拶
しかし
一生懸命、雪かきしている間だけ朝の事を忘れられた
それだけが救いだった
寒いけど日常

また客がきた
「いらっしゃいませ」
下を向き硬い雪と格闘しながら挨拶

首が暖かい
嫌な予感がする
僕は下を向いて雪をかいていた
目線を少し前に進める
見覚えのあるブーツ
「寒くないですか?大変ですね」
聞き覚えのある声
今度は目線を上げる
見覚えのある服
それ以上目線は上げなかった
「あ、の~。お礼をしに来ました・・・・
たまたま道を歩いていたら、あなたが雪かきしてるのが見えたんで
そこの服屋でマフラーを買ったんです♪」
まだ視線の先は服のまま
あの綺麗な顔を見たらまた非日常が始まる
いやだ
怖い
「あの~・・・こんなのじゃ満足していただけませんでしたか?」
今気づいた声も可愛い
「あの~・・・」
「いえいえ!十分過ぎるほどですよ。本当にありがとうございます」
低姿勢
早く満足して帰ってほしかった
俺だって自分の言っていることが何だかおかしいことくらい分かっている
でも帰って欲しい。俺の平穏を乱さないでくれ

しかし
俺の『平穏』を乱すきっかけを作ったのは意外な人だった
「お~い。何さぼってんの?ん?その子は誰?」
店長だ。まずい
「あ~・・・えっと・・・その・・・」
だめだ。良い言い訳が見つからない
俺が言葉に詰まっていると彼女が口を開いた
「えっと私、実は朝・・・・『わぁぁぁぁぁぁ!!!』」
俺は叫んだ
自殺しようとしてる人を助けたんだ
なんか警察とかでてきそうで怖かったんだ
「どうしたんだ?急にでかい声出して!びっくりするだろ」
店長に怒られる
良い言い訳・・・・
「こ・・・こいつは・・・彼女・・そう彼女なんですよぅ」
・・・やばい
何とかしなくt
「はい♪そうなんです。ごめんね。寒そうだったからつい・・・・」
!!!!・・・まぁ助かった・・・のか?
「そうだったのか・・・やるじゃん君も♪まぁバイト中イチャイチャしないでね?
それじゃ!引き続き雪かきよろしく!!」
店長はあったか幸せ空間に戻っていった
「・・・ありがとう。店長には僕が朝君を助けたことがばれずに済んだ」
今度はまたコッチだ
「どうして私を助けた事ばれたら困るんですか?トカゲだから?」
・・・トカゲ?
「いや。色々めんどくさくなりそうだったし」
・・・トカゲ
「そうだったんですか♪でも嬉しいです!彼女にしてもらえるなんて♪」
!!??!?!
「え!?ちょっ・・・・・」
やばい、やばい、やばい、やばい、やばい
「じゃあ私帰りますね♪また連絡します!090-×・・・・・ですよね?
それじゃ!」
電話番号・・・・合ってた
彼女は行ってしまった
このころの僕には君が、あんなに愛しく
あんなに恐ろしく思うなんて思いもしなかった

ぶっちゃけ雪かき終わらなかったので店長に怒られた



     



やばい
やばい
やばい
あのタイプはまずいんだ
知っている
『そうだったんですか♪でも嬉しいです!彼女にしてもらえるなんて』
か の じょ に し て も ら え る な ん て
多分「ごめん。あの場を丸く収めるための言い訳だったんだ」
なんていったら、また死なれるか
コッチが殺される・・・・

僕は恐怖した
ただ、ただ怖い
これからが
明日が

あの女の影に怯えながら僕は帰路についた
バイト先から僕の家までは
ちょうど半分くらいまでの距離は、割と込んでいる
飲んだ暮れの親父、地べたに座っている若者
そんなのばっかりだ
しかし
もう半分は人が居ない
朝も昼も夜も
一人ぐらいとすれ違えたらいいほうだ
あと暗い
街灯が10m間隔でしかない
今日はバイトの帰りに雪が降っていたので
自転車は置いてきた。今は歩きだ
歩きながら暗い道を歩く

その時僕は掴まれた
狭い路地裏から出てきた手で
そして
ものすごい力で引きずり込まれた
『ガンッ』
壁に押さえつけられた
痛い
怖い
暗い
見えない
けど

わかる

あいつだ
僕は反射的に顔を引きつらせた
彼女は僕を壁に押し付けたまま動かない
・・・服装が違う
ギリギリ分かる
ミニスカだ。しかも赤い
上も半そでだ。やっぱり赤い
帽子もかぶっている。これも赤く、ナイトキャップみたいな形だ
・・・これは
サンタ?
何で?
暗闇に目が慣れてきたのかはっきりわかる
サンタの格好だ
「あ、気づきましたぁ?」
僕は体が動かない
なんで一月にサンタ?
でも動かない
「もう!そんなに固くならない!・・・って急にこんなとこに連れてきちゃったんだもんね
ごめんね?びっくりした?」
彼女は続ける
「それでね?プレゼントがあるの。何かわかるぅ?」
怖い
知りたくない
「え、えっとわかりません・・・」
怖い
「痛!!」
僕の肩に彼女の長い爪が食い込む
「え~?ほんとに?私がこんな格好してるんだよ?私にきまってるじゃん♪」
そういうと彼女は僕の肩から手を離し、スカートに手を掛けた
「ほら♪もうこんなになっちゃてる♪はやくぅ・・・」
彼女が自ら捲り上げたスカートの中は
下着すら身に着けていない、紛れも無い彼女自身だった
寒いんだ
寒いはずなんだ
なんで平気な顔してるんだ?なんでいきなり・・・
「は、はやく・・・私・・・もう・・・」
急に彼女の足がガクガクしだした
おかしい、やばい、コワイ
「あ!あの!まだ付き合ったばっかりで、そういう事は出来ないです!
まだ名前も知らないのに・・・それにさむいでしょ?はいこれ・・・」
僕は上手く話を変えたつもりだった。彼女に着ていたコートをかけた
「そ、そうなんですか・・・じゃあ今日はいいです。
そのかわり、あなたのうちに行っていいですか?
私、あなたと暮らしたかったからマンション解約してきたんです
行くところないんです。私あなたに断られたら・・・」
暗くてもわかる
笑っている
ハメられた
捕まった
逃げられない
「わかりました。僕の家に来てください。ただし早く新しい家を
見つけてください。一緒に住むには狭いんで。」
何を言ってるのかわからない
間違いと正しいの間
「え~?ずっと一緒にくらしてくれないんですか?・・・でもいいです。
いつか大きな家に引っ越して、そこで一緒に暮らしてくれるんですよね?
うれしぃ~♪」
殴り殺したい
殺したい、殺したい、殺す、殺す、コロス
「あ、私の名前は来羽 狂子って言います♪あなたは?」
ハッと現実に戻された
僕はなんてことを・・・・
おかしくなった
ちがう!!!
こいつのせいだ
だから大丈夫
大丈夫だ
「あ、僕は有栖 仙璃っていいます」
いったあと後悔した
偽名とかいえばよかった
「仙璃さんですか~♪」
うれしそうだな
「じゃ、寒いんで行きましょうか?」
僕は路地裏から出ようとする
「はい♪」
彼女は僕の腕に自分の腕を絡ませる
傍から見れば羨ましがられるだろうが




僕は死にたかった



     


家に着いた
お世辞にも広いとはいえないとは思うが
男としては整理整頓が出来てる方だと思う
しかし・・・
僕は腕に絡み付いている綺麗な女の人を見た
・・・見ていると魂が奪われてしまいそうなくらい美しい
魔性の女・・・
いや、そんな生ぬるい言葉じゃだめだ
むかしやったゲームに出てきた『サキュバス』
そんな感じだ

家の鍵で家の扉を開ける
そんな当然のことなのだが気が重い
本来は喜ぶべきことなんだろうなぁ・・・
こんな綺麗な女の人が部屋に来てくれるんだから
「あの~やっぱり私・・・」
彼女が上目遣いで僕を見る
「あ!あはははははは!寒いですね!!早く中はいりましょうか!」
僕の癖だ
焦ると大声になる
『ガチャッ』
僕の部屋は、入ってすぐ右にキッチン&冷蔵庫、左にUB
奥にリビング、何畳かは忘れた、・・・結構広いと思う
ベッドとソファーとテレビと机
これしかないのも部屋が広く思える要因かもしれない
「クシュン!」
!!!!
びっくりした
来羽さんがくしゃみをしたらしい
「あんな格好してるからですよ?お風呂はそこなんで入ってきたらどうですか?」
意外とドジな人なんだろうか?
まだサンタの格好だ
・・・まぁいいや
「あ、いいんですか?じゃあ入ります・・・覗いて・・・・もいいですよ♪」
遠慮します
殺されそう
「そんなことしません。安心してください」
彼女はお風呂場に消えていった

・・・・・・・・・つかれた
死にそうだ
死にたい
僕はベッドにヨロヨロと向かい倒れこんだ
何でこんなことに・・・
朝、助けなければ・・・

朝助けなかったら、それこそ僕は人としてどうだったんだろう
あれが正しかったに決まっているんだ
助けなかったら、グチャグチャの肉塊まみれになっていたかもしれない
それこそ警察がくる
でも・・・・今とどっちが・・・
僕は考えるのをやめた
過去には戻れないし
どっちにしろ悪夢のようになるんだから・・・

そういえば彼女は大きな鞄を持っていた
多分衣類やお金が入っているんだろう・・・
でも、もし刃物とか・・・!!!!!!!!!
『ガバッ』
俺はベッドから跳ね起きて、部屋にある凶器になりえるものをさがした
包丁、置き物、そのぐらいしかないことに安心したが
包丁は刃を少しかけさせて、置き物は捨てた
これでもし襲われても致命傷にはならないだろう・・・
もちろん適当な考えだったが気休め程度にはなった
あとは・・・・
鞄だ・・・
彼女の鞄・・・
あの中に
そう思うと僕は震えた
「あ~きもちよかった♪君も入ったほうがいいよ?」
彼女が風呂からでてk
ブフォッ!
裸で出てきた!!
寒いんじゃないのか!?
「ちょっ!服は無いんですか?無かったら貸しますから、きてください!」
僕は目線を床に向けながら話す
「あるよ?鞄に。でも君に見て欲しいから・・・」
そういうと彼女は一歩一歩僕に近づいてきた
動けない
足が視界に入る
両頬に彼女の手が触れる
お風呂に入っていたはずなのに冷たい
そして
僕の顔をゆっくり上へと引き上げる
足、腰、胸、全部が視界に入っては消えた
そして顔・・・・
近い
甘い吐息が顔にかかる
「ねぇ?しっかりみて?」
だめだ
動かない
指一本動かせない
怖い怖い怖い

唇が重なる
動けない
舌が絡まる
動けない
激しく長く
動けない
苦しい
うごけ・・・・・

解放される
二人の唇の間に唾液の橋が出き・・・・落ちた
「ッハァ!ッハァ」
苦しかった
「どうだった?私をわかってくれたぁ?」
解放されたのに動けない
「あ・・・う・・・」
僕は泣いていた
恐怖で
目線で
怖かった
化け物だ
人間じゃない
化け物だ
美しく・・・恐ろしい
「?どうしたの?どこかいたい?」
彼女は心配そうな声を出す
そして頭をさすりだす
怖い
でも・・・・・
ここで思考を止めた
危うい、引きずり込まれそうだった
「あの!お風呂行ってきます!!服、着ててくださいね」
そういって風呂場に逃げた
服を着たままシャワーを浴びて
聞こえないように僕はまた泣いた

蟻地獄
もがけば、もがくほど





落ちてゆく



     

僕は風呂場から出た
服は絞って洗濯籠に入れた。もう今日は洗濯は出来ないな・・・
来羽さんはテレビを見ている
服は・・・着ている
「あ、あの」
一言、声をかけるだけで物凄い勇気を消費する
「ご飯・・・まだですよね?僕が作りましょうか?」
これでも僕は料理が得意だ
母が死んでから僕はずっと家事を一人でこなしてきた
誰にも甘えない
でも、さっき・・・・
「うん?いいよ私が作る・・・って言っても冷蔵庫何も無かったよ?」
あぁ、そうだ。昨日全部使ってしまったんだった・・・
冷蔵庫にはちくわしかない
「フフフ・・・私材料買ってくるよ?何食べたい?」
怪しい笑のあとの普通の会話
まるで前から知っているかのような会話
でも違うんだ
異常・・・・
「あ、いや・・・俺が行ってきますよ。」
僕の部屋なのに生きづらい
僕の部屋なのに地獄のよう
「いいわ・・・行かせて?」
彼女はこんな事なのに、まるで懇願するような声を出す
「あ、っじゃあ、お金・・・」
僕は財布に向かって歩を進める
「大丈夫。お金はたくさん持ってるから」
そういうと彼女はゆっくりと部屋から出て行った


そう謎だ
僕にとって『彼女』は謎なんだ
分からない事は・・・怖い
当然の事だ
分からないんだ。暗闇と同じなんだ
見えない。掴めない。触れる事すら・・・

僕は彼女に触れたいんだろうか?
僕は彼女を知りたいんだろうか?
あの時
解放された時
思考を止めていなければ、僕は・・・




『好き』




足音が聞こえる
ソノ足音は近くなり僕の部屋の前で止まる
扉が開く
「たっだいま~♪今日はすき焼きにしようか~」
・・・楽しそうだ
「あ、鍋出します」
その後僕らは黙々と料理の準備を続けた

グツグツ

「おいしいですか?」
・・・・・・正直すごく上手い
「おいしいで・・・す」
なんだかすごく照れる
「あはは♪嬉しいです」
彼女は照れてはいないようだ
久しぶりにすき焼きなんて食べた
思い出す。鍵をかけたパンドラの箱が開きかける
ゲームをしよう
これ以外思いつかない
彼女に触れるための方法
「あの~・・・ゲームしませんか?お互いに質問して、答えられなかったほうが
罰ゲーム。う~ん内容は『なんでも一つ言う事を聞く』」
賭けだ
危険で、そしてチャンスだ
彼女は何者なのか。彼女は何故・・・
「いいわよ!フフフ・・・こういうゲームは好き。仙璃君からどうぞ?」
あせったら負けだ
世の中はそういう風に動いている
「じゃあ・・・さっき『お金はいっぱいある』って言ってましたけど
何の仕事してるんですか?」
・・・ジャブ
「・・・・よいっしょ」
彼女は急に立ち上がり、大きく伸びをした
そして窓へ歩み寄りカーテンを開けた。
長く揺れる漆黒の髪
スラリと伸びた四肢
そして、窓の外を指差し
言った
「・・・アレを形にする仕事」
僕も外を見る・・・・
月だ
綺麗な指の先に月がある
彼女は少しずつ指の位置をずらし
第三関節の上に月を乗せる
「私ジュエリーデザイナーなの」
・・・・ジュエリー
「結構有名なブランドよ?知らない?『Jack=Moon』」
!!!!!
Jack=Moonって・・・
「Jack=Moonってあの!?」
Jack=Moonとは二年前に突如現れた、シルバーアクセに独自の技法を加え
売り出している、とても綺麗な指輪を作っている会社のことだ

僕は立ち上がり机の引き出しを開ける
「これもJack=Moonなんですけど・・・」
唯一持っているアクセサリーだ
町でたまたま入った店で見かけ、あまりの綺麗さに買ってしまったものだ
3万・・・
「それ私がデザインした奴!名前は・・・『月光華』」
彼女は説明を続ける
「少し厚めのシルバーリングの真ん中に、溝を一周するように彫って
そこに着色したガラスを流し込んで、ゆっくり冷やした後、特殊なカットを施す
太陽の光を浴びれば、まるで川が流れている様に輝き
月の光を浴びれば、そこに無数の華が咲いたのごとく輝く・・・」
彼女は、まるでロボットのように説明を行う
月を見続け
悲しそうに・・・
「どう?」
ハッと気づく
口を開けっ放しだった
「あ、いえ・・・でもすごいなぁ。こんなの作れるなんて」
ホントにすごい・・・
「次は私の番ね・・・そうだなぁ、家族について」
家族・・・
一番嫌な話題だ
でも彼女に届くなら・・・・
「母親は・・・死にました。二年前」
僕はうつむく
「お父さんはぁ?」
彼女は聞く
父親・・・・・・・・
『ギリッ』
拳を強く握る
「父は・・・僕が六歳の時に母と離婚しました・・・
よく僕と母を殴りました。だから母は別れたんだと思います
ソノ後の暮らしがどんなに辛かったか。父は暴力はふるいましたが
金は入れてくれていたので・・・」
まだ僕は続ける
いい足りない
「僕が八歳の時に父が捕まったと母から聞きました。
なんでも連続婦女暴行事件を起こしたとかで・・・
被害者の中には幼い子もいたらしいです。あんな屑みたいな男の血を引いてる事を
恐ろしく思います・・・。そのあと僕らのところにも警察が着たりで
まぁ大変でした」
彼女はニコニコしている
「そっか。でも大丈夫。もう一人ぼっちじゃないよ?私がいる・・・」
僕はまた泣きそうになった
彼女が何を思って僕の傍にいるのか
もうどうでも・・・・
「さぁ僕の番ですよ?あの僕たち今日あったばっかりなのに
なんでここまでしてくれるんですか?」
あくまで低姿勢
感ずかれたら・・・・アウトだ
「・・・・ゴメンね?それには答えられない」

意外だった
簡単に答えると思ってた
思い上がり
思い違い
急に自分が恥ずかしくなった
「あ~ぁ負けちゃった!・・・何でもお願いして?」
もうどうでもいい・・・
「あの・・・一緒に寝てくれませんか?」
彼女は笑って僕に近づく
「かわいい・・・・」
ああ
もう
どうでも






いい

     

僕は目を覚ました
隣で寝ていたはずの来羽さんがいない
寝たと言っても、別に何もしていない
ただ頭を抱えられて安心を噛み締めていただけだ
でも今はいない・・・
そしてかすかに匂う生レバーのような臭い
これは・・・血?
血の臭いは覚えている
よく殴られては鼻血を出していたからかも知れない
僕は不安になった
どこだ?
彼女の影を探す

無い
ない
ナイ

・・・・トイレか?
僕はトイレの前に立ちノックをする
『コンコン』
・・・返事がない
ノブを回し・・・開けた



中では来羽サンが便器に座り、長方形の血の付いた厚手の紙を見つめていた
「来羽さん!?だ、大丈夫ですか!?それ血ですよね?」
僕はまるで子供だ
怖いんだ
失うのが
「フフフフ・・・」
来羽さんが笑う
「これ・・・ナプキン。私生理」
・・・・・・・・・
!!!!!
「う・・・あ・・・ごめんなさい!!」
扉を勢いよく閉めた
びっくりした・・・・
そっか、女の人だもんな
「ねぇ。これどこ捨てれば良い?」
後ろから話しかけられた
手には赤い『アレ』
「え~っとゴミ箱でいいです」
彼女はまた笑う
「舐めてもいいよ?」
そういって、差し出す
「い!いいですよ!!」
そう言って二歩ほど下がった
「冗談♪」
捨てた
そして
僕たちは朝ごはんを二人で作って、食べた
「じゃあ行ってくるね。昨日は仕事サボっちゃったし。マンションは解約しちゃったし
社長が怒ってると思うから」
そう言って彼女は出て行った
彼女はそんなに偉い役職だったのか?
社長をあんなに身近な響きでいえるなんて
・・・さて僕も行くか
あ、鍵・・・・
・・・今日は早めに帰ってこよう


僕はすっかりハマってしまった
分からない
何故?
初めはあんなに怖かったのに
寂しかったから?
甘えても、心が痛まないから?
でも彼女は・・・
いや
僕だって別に
彼女のこと
あって一日だ
おかしいんだ
初めは怖かった
怖かったんだ
今も完全に怖くないわけじゃない
でも・・・・
それでも・・・・



そうやって僕は何日も答えを出さないまま
彼女と暮らした
毎日違う料理を作ってくれたり
一緒に遊びに行ったり
僕と居てくれた
僕を見てくれた
でもその瞳は僕の中に誰か別の人間の影を見ているようだった

答えは出さない
いや出せない
出したら僕は戻れない
逃げ道を潰してしまう
彼女を失った時の心の逃げ道を

ダメなんだ
ダメなんだ
僕は一人で生きてきた
『頼る』を覚えた動物は
日に日に野生をなくしてく
日に日に自分をなくしてく
そして、野原に放たれて
その日で喰われて死んでゆく

でももう逃げられない
僕は籠の中
甘い蜜を与えられ
その味を覚えてしまった
失いたくない
失いたくない
この生活を
あなたを
自分自身を・・・・




失いたく・・・



「来羽さん・・・」
もう決めた
「なぁに?」
僕は彼女に触れる
「あなたを失いたくない」
彼女は笑う
「大丈夫よ?どこにも行かないわ」
僕は彼女に重なる






「ごめんなさい・・・愛してしまって。ごめんなさい・・・・」



     

「ここはどこ?」
僕はだれ?
ドウシテ此処にいるの?
「おはようアリス」
あ・・・
「狂子ちゃん」
あれ~?
何で名前知ってるんだろう?
あぁ何で・・・・





「おはよう♪」
目の前にはクルウさん
「おは・・・・」
僕は昨日の夜のことを思い出して恥ずかしくなってしまった
「あははw照れなくてもいいのに~」
うっ。
「初めてって訳ではなかったみたいだし」
確かに初めてではなかったけど
なんかこんな綺麗な人を穢してしまったみたいで・・・
「フフフ・・・さっ!今日はデートの約束でしょ?ほら!用意して?」
今気づいたが、クルウさんはお出かけな洋服だ
「ふぁい」
僕は寝ぼけ眼をこすりながら用意をした
「よっし!それじゃあ行きましょ?」
僕らは家を出た

ガチャリ


今日は映画を見る
確か題名は
『テメンニグル』
僕らは映画館に入った
「おもしろいかな?」
クルウさんは問う
「う~ん見ない事にはなんとも」
僕らは黙る
映画館が暗くなる
僕の手に彼女の手が乗る
彼女が僕に触れるたびに僕は昨日のことを思い出してしまい、赤くなる



映画が始まった
『・・・我々は塔を作った。その塔は人間の憎悪、嫉妬、憤怒、・・・負の感情を吸い
高くなる。地に落とされた我々が神に復讐する手段。・・・思ったより人間界は
悪意に満ちている。成長のスピードが速い。このまま行けばすぐ天界に届くだろう』



僕は考えていた
彼女を手に入れたつもりになってはいないか?
たしかに約束してくれた
どこにも行かないと
だけど・・・


僕の心の『テメンニグル』は
僕の醜い本音を吸って
グングンと大きくなる
いつか心を破り、砕き
僕は正気を無くすのか
誰への復讐?
僕の過去への
僕の・・・・
「あぁ~終わった!腰いたぁ~い」
クルウさんが伸びをする
「ちゃんと見てました?」
僕は意地悪な質問をする
「ぶ~。見てたよ!まず主人公が神に選ばれて塔を作ったルシファーを倒しに行くんだけど
一回目はずたぼろにやられるんだよね。で、いろんな修行をするの。まず・・・」
ヤバイこの人二時間の映画の内容、三時間かけて説明するタイプの人だ
「あ、もういいです・・・・すいません」
クルウさんはコッチを見る
「・・・で最後はヒロインとキス・・・」
顔が近づく。僕は拒まない・・・



「あそこは入ろ~?」
良い感じの喫茶店だ
「・・・ご飯まだですしね!」
入る
僕はきのこパスタを
彼女はパエリア
・・・・食べ終わる
僕は会話が頭に入らなかった
楽しすぎて
僕らは店を出る
「次どこいこっか?」
もう考えてある
「Jack=Moon行きましょ?この前新作出来たって言ってたじゃないですか」
彼女は微笑む
・・・・初めて見たかも知れない
微笑み
僕らは手を繋いで歩を進める




地面はすっかり凍っていて、滑る
僕も何回かこけた
そのたびクルウさんに笑われて恥ずかしかった
でもクルウさんはこけない
なんでだろうか?
まぁいいや
Jack=Moonについた
Jack=Moonの前も凍っている
「またこけるよ~?」
クルウさんが言う
「おっ先~」
クルウさんが走って中に・・・・あ

彼女の体が地面に吸い寄せられる
「おい!!」
僕は腕を掴んだ
そしてこっちに引き寄せて受け止める
「・・・・あっぶないな~。調子乗るからですよ?怪我はないですか?」
・・・彼女は答えない
「大丈夫ですか?どっか痛いんですか?」

ヒュン

僕は反射的に体を下げる
痛い
頬が痛い
触る
これは・・・血?
「え?クルウさん・・・」
彼女の手には剃刀が握られていた
「・・・・い・・・・・る・・・・・・してやる・・」
何か口走っている
足は振るえ
目は焦点が定まっていない
「クルウさん!!」
僕は叫ぶ
失う気がしたから
「あああああああああああああああああ」
彼女が負けないくらいの声で叫ん・・・・・











ドスッ








あれ?なんだろこれ
彼女が僕に抱きついてる
・・・違う
彼女が離れる
一歩・・・一歩・・・
僕から遠ざかる
何か痛い
血がいっぱい出てる
「あ・・・あ・・・・・・・・あ」
そんな顔しないで・・・
僕は
僕は


















ドサッ

     



・・・
・・

・・・僕は
僕は目を覚ました
こ・・こは・・・病院?
僕は・・・
クルウさんに刺されて・・・・
痛!!
腹が痛い
「あ、目覚めました?」
女の人が入ってくる
「あの~ここは?」
僕は尋ねる
「お、目を覚ましたね?」
まったく同じせりふを言いながら男の人も入ってくる
「貴方は・・・」
僕は・・・
クルウさんは
「僕は君の腹を縫った男だ!!って自慢することじゃないなw」
なんだこの人
「ああ、有難うございます。でここは?」
僕はいらいらしていた
「ここは普通の病院よ」
女の人が言う
「君は三日ほど寝ていたね」
男が言う
どうでもいい!!
僕が知りたいのは・・・・
「クルウさんは・・・僕と一緒にいた女の人は?」
男の顔が曇る
「彼女は・・・入院しているよ」
ここにいるのか!!
「会わせてください!!ここに入院してるんでしょ?」
女が口を開く
「彼女は・・・・ここには居ないわ」
今度は男
「彼女は精神病院に入院している」
!?!???
「なんで!?彼女は普通です」
僕は叫ぶ
腹が痛い
「・・・・・」
男は何もいわない
「会わせてください・・・・彼女に会わせてください!!」
違う男が入ってくる
「おおww熱いねぇwww」
誰だ?
「あんたは精神病院の・・・」

「あんたを迎えに来ましたよ。アリスさん。彼女が会いたいって
うるさいもんでねwww
で、借りてって良い?」
なんだここノリのよさ
「だめだ!!まだ傷が完全に塞がってないんだから」
あの~僕の意思は・・・
「いいじゃんwwじゃ借りてくわ」
そういうと僕を持ち上げ車椅子に乗せ、男は駐車場まで走った
「あの・・・」
誰?
「ああww俺は来羽 狂子の主治医だ」
僕はそれ以上聴きたいことも無かったので黙った


精神病院に着く
僕は車から降ろされ
男に押してもらって
車椅子で移動した

初めて入った
異様な雰囲気だ
人がうめき声を上げて床に転がっている
それを看護婦か引きずって部屋に戻す
何だここ?
僕は喋れなくなっていた
怖い
「はいついたよ~」
そう言って僕の乗った車椅子は部屋の前で止められる
個室のようだ
「入るよ?クルウちゃん」
男はノブを回す



そこにはクルウさんがいた
生気を感じない
真っ白な部屋に
ぽつんとベッドが一つ
「・・・・・仙璃君?生きてた?」
彼女は震える
「殺しちゃったと、もう会えないと・・・」
泣き出す
そしてベッドから走って抱きついてくる
「うああああああああああ」
僕は・・・・・
僕も泣く
でも、何もいえなかった
ありがとう?
ごめんね?
分からなかった
僕はひざにすがり付いて泣いているクルウさんの頭を撫でて泣いた
「悪いが、今から治療をするよ~?君に聞いて欲しくてね。彼女の真実を
だから君を連れてきた」

真実?
「治療方法は『催眠』彼女は真実に鍵をかけた。それを引き出すにはこれしかないと。
それに真実を知った彼女を受け止められるのは君だけなんでね」

僕は何を言ってるのか理解できなかった
「まぁいいやwwwじゃあ移動するよww」
僕は泣いているクルウさんをなだめて、別室に移動した
部屋の片隅に僕は置かれた
クルウさんは中央の椅子に座った
「さって!今からはじめるよ~?力を抜いて・・・」
男は淡々と続ける
僕に向けてではないが、コッチも変な気持ちになる。何でも喋ってしまいそうな
「は~いじゃあ幾つか質問するよ?いいかな?」
クルウさんは頷く
「よ~しいい子だ。じゃあまず、昔君に何か良くないことが起こったかい?」
子供に話しかけるような口調
「・・・襲われたの」
クルウさんは続ける
「怖かった、痛かった。でも助けてくれなかった。誰も誰も。私は泣いたの
イッパイ。でね好きになったら怖くなくなると思ったの。だから好きになったの」
・・・・・親父の事だ
僕は気づいた
まだ続ける
「それで皆トカゲになったの。けどあの子だけは違ったの。似てたから。でも・・・」
言葉、言葉、言葉
「でも?」
男は問う
「でも。違った。あの子は優しかった。私は・・・私は・・・」
・・・・・
「今は。ううん。明日も、明後日も、ずっと、ずっと、あの子が好き」
僕は・・・
「wwwだそうだ。じゃあ最後の仕上げだ。君は襲われた時に勘違いしたんだ。君は
隠したんだ。恐怖を。でももう大丈夫。だから安心しな?」
泣いていた
僕は
泣いていた
「私はもう大丈夫なの?好きじゃなくていいの?怖がっていいの?」
男は言う
「おう、あいつが守ってくれるってさ!」
僕を指差す
泣いている僕を
「・・・う・・・う・・・わああああああああああん」
彼女は泣く
僕は歩く
腹が痛い
けど・・・・守る!!!
「大丈夫だよ?もう大丈夫」
僕は彼女を抱き締める
「どうやらストックホルム症候群だったようだな」
男は言う
「はははwwwじゃあ俺はあの病院に謝ってくっからww」
僕は頭を下げる

僕たちは泣き続けた・・・・





彼女は大事をとってもう少し入院するらしい



僕も病院に帰った
「迎えに来てね?」
彼女と約束したので、僕は彼女の退院より早く治さなくてはw


それと・・・・・





復讐


     


僕はクルウさんより二日早く退院できた
その足でお見舞いに行ったりでその日は潰れた
僕はずっとある計画を立てていた
親父が生きていることは知っている
電話番号も
一人暮らしをしていることも
知っている

僕は電話をした
「もしもし?僕が誰だか分かりますか?・・・・仙璃です。あなたの息子の
明日少しお話したいことがあります。明日は開いていますか?」
電話の向こうから大丈夫だと言う振動が僕の耳に入る
「・・・・・分かりました。明日の18時ごろ、お迎えに上がります」
そう言って僕は電話を切った

明日
明日僕は親父を殺す

レンタカーで親父のところへ行く
いろんな事を想定して様々なものを持ってきた
ぼろぼろのアパートの前に親父が立っていた
物凄くしわの増えた顔
みすぼらしい格好
でも・・・・変わらない、あの目・・・・
「・・・仙璃です。この車に乗ってください」
親父は何も言わずに車に乗る
僕も何も言わず車を走らせた

僕は本当に殺せるのだろうか
なぜ僕は親父を殺さなければならないのか
どんなに考えても
答えは出なかった

僕はある自殺の名所に車を止めた

ここからの飛び降り自殺が年々増加しているとニュースでやっていたのを思い出した
「・・・着きました。降りてください」
僕と親父は車から降りる

無言

静寂しか聞こえない
僕は・・・・

「僕はあなたに死んでいただきたい」
静寂は散る
「あなたのせいで僕と母はつらい生活を強いられました。
あなたが僕たちを殴ったこと。あなたが犯した罪。全てが僕たちに廻ってきた」
親父は何も言わない
「・・・・僕はある人を愛しました。でもその人はあなたを愛していました
いえ、恐怖から逃れるためにあなたを愛さなければならなかったのです
けど、彼女は治療により、その感情を偽りだと気づくことが出来ました」
まだ親父は話さない
「僕は誓いました。彼女を守ると。
だから、あなたを殺します。あなたの影を微塵もこの世に残さないために
僕の言っていることは常識からかけ離れていることは分かっています
でも他の方法が思いつきません」
僕は続ける
「・・・・もしあなたが過去の行いを悔やんでいるなら。そこから飛び降りてください。
もしあなたが過去を栄光だと思っているなら、僕はあなたを殺します」
親父は黙って崖の先端に向かう
下は海だ
「俺は・・・」
先端に立った親父が初めて口を開いた
「俺は息子に殺されるなんて思わなかった。あんなに小さかったお前だ。いつも泣いていたお前だ
想像なんてしようともしなかった。けどお前は今。俺の命を握っている・・・・」
僕は・・・・
「・・・大きくなったな。俺は何もお前に教えられなかった。父親を殺す時の顔とか。
俺もこれは教わっていなかったよ・・・息子に殺される顔は・・・」
二人とも無表情だった
「今更こんな事いっても仕方ないが」







すまなかった







親父は飛び降りた
僕は車に乗ってクルウさんの居る僕の町へ帰った

僕の心はいつもと同じだった
何食べようとか
クルウさん大丈夫かなとか
親父のことなんて微塵も出てこなかった
僕が消し去ったから・・・

次の日クルウさんが退院した
「・・・おかえり」
僕は微笑んだ
「ただいま」
彼女は抱きつく
僕達は、僕の家へタクシーで帰った
「あぁ~久しぶり♪」
彼女は僕のベットへと走る
「クルウさん」
ベットへダイブしたクルウさんが振り向く
「結婚してくれませんか?」
彼女は笑う
「はい♪」

僕もベットに入った



     


僕たちは結婚式をした
小さな教会で
人は誰も呼ばなかった
結婚指輪はクルウさん
いや狂子がデザインしたもの
お互いの指輪の間が鎖で繋がれている
恥ずかしいことだけどお金は全部狂子持ちだ

結婚式が終わって
僕達は車に乗った
そして車を走らせる
「僕は今幸せだよ?」
彼女は微笑む
「私も」
僕はもう・・・・
「私たちずっと一緒だよね?」
彼女が問う
「僕がどんなに醜くなっても君が愛してくれるなら」
僕は・・・・
「私はあなたを永遠に愛するわ」
僕・・・・
「僕が死んだら?」
ぼ・・・
「一緒に死んであげる」









僕はアクセルを強く踏んだ


       

表紙

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Neetsha