Neetel Inside ニートノベル
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マックで!
第十七話「続き物!そのさん」

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 中心地は東京のように近代的なビルが立ち並ぶが、数百メートル離れると田んぼしか無い。
 そんな地方都市の必要十分条件を満たした街の駅前。都心のような豪奢なビル群から少し離れた繁華街の合間にあるマクドナルドの店舗に、本当の都心からやってきた少女たちが席を取っていた。
 時間は午後七時を過ぎた辺り。この時間でも蒸し暑い繁華街には客引きが姿を現し始め、高校生である彼女たちがいるには多少不健全な匂いを感じさせた。



「二日目おつかれー! とりあえず乾杯ってことで! かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」



 二階にある店舗の窓際の席だった。
 四人の顔には一日の旅程による疲れが表れていたが、それは決してただ不快なものではなく、今日やるべき事をしっかりとやり遂げた心地良い倦怠感から来るものに見える。
 乾杯の音頭をとったきょうこがMサイズのストロベリーシェイクを一気飲みして、空になったカップをテーブルに叩きつけた。



「うっまー! 今まで飲んだシェイクの中で一番うまいぜー! 浜松のシェイクにはなんかやばいもん入ってんじゃないのかー」
「……カップラーメンは関東と関西で味違うらしいけど、シェイクの味を変える意味はないだろう。……そもそもここは静岡県。まだ中部地方だぞ」



 きょうこの発言に的確にツッコミを入れながら、真奈はまだろくに水滴も付いていない、キンキンに冷えた野菜ジュースのカップを両手で持って、味わうようにちびちびと飲んでいる。



「私たち今静岡県にいるのねー。こんな所電車も、車も、飛行機も使わないで来れちゃうなんて、なんか不思議なくらいね」



 昨日の小田原のマックで言ったのと同じようなことを再びつぶやいて、サヤは、ほーっと息をついた。
 その吐息には本日の疲労が蓄積されていて、それを吐き出すことでリフレッシュしようとしているかのようだった。
 今彼女たちの口から出たように、ここは浜松の繁華街だ。
 浜名湖からほど近い、県内で静岡市に並ぶ大都市。静岡大学もここにある。
 


「二日目、三島から浜松か。ほとんど平地だったけど、向かい風がひどかったな! 坂道よりも向かい風のほうがきついような気がする」



 アイスコーヒーのカップから伸びたストローに口をつけたまま、鈴はそう言った。
 自転車に乗っていてきついことと言えば、坂道がまず一番に思いつくだろう。しかし長旅において、坂は登った分だけいつかは下るものだ。
 しんどい分だけ、あとに必ず楽な部分が待っている。
 それと比べて向かい風はなんのメリットもなく、ただただ体力を消費するのみ。精神的にもっとも重いシチュエーションなのだ。
 ちなみに東京→京都間の静岡県内のルートは向かい風がひどいことで有名である。



「確かにきつかったなー。でもあたし的にはやっぱり昨日の箱根越えがきつかったけどなー。はぁこねぇえごえ〜♪」
「……ちなみにその歌は、『天城越え』な」



 空のカップをマイクに見立てて熱唱するきょうこに、真奈が的確に解説を入れる。
 



「箱根越えは本当につらかったな。登っても登っても坂が続いてて、芦ノ湖が見えた時にはちょっと涙出そうになったよ」
「……本当に辛かったな……。でも下りは本当に気持ちよかった……時速何キロくらい出てたんだろうな……」



 鈴と真奈の体力不足組が、昨日の箱根超えを語る。
 東海道の難所、箱根ではあるが、実はただ京都に行きたいだけなら迂回してしまうこともできる。
 きょうこがネタ的にどうしても登りたいと駄々をこねたので、四人、特に鈴と真奈は非常にしんどい思いをするハメになったということだ。



「箱根の下りはすごかったわねぇ……。自転車のブレーキが壊れたら、タイムリーパーの男友達に助けてもらえそうなくらいの速度が出てた気がするわ♪」
「……そのためには下りきった先に踏切がある必要があるな……無かったけど」



 結局彼女たちは時をかけることもなく、今ここにこうしているわけだ。
 


「お、もう八時近いなー。夜遊びもいいけど、そろそろ宿に戻りますか。湯冷めしちゃうしな」
「そうだなーあんまり宿のおばちゃんを心配させちゃいかん」



 きょうこは携帯を開けて時間を確認し、そんなことを言った。
 言われてみれば彼女たちは全員わずかに髪の毛が濡れていて、ついさっきまで入浴していたことが見て取れる。



「……ビジネスホテルって名前だったけど、完全に民宿だよなアレは……。……どう見ても家庭用のお風呂から、宿主のおじいちゃんが出てきたときはさすがにびっくりしたよ……」
「そうねぇ。明らかに普段は民家です! って顔をした宿よね。でも安い割に綺麗だったし、こうして銭湯に行くのも楽しいじゃない」



 どうも一行は現在民宿を取っており、銭湯に入るために外出してきたようだ。
 確かに民宿の内風呂は宿主と共用であることが多い。
 翁が入った後の湯に浸かりたくないという少々わがままな潔癖さが、彼女たちの幼さを感じさせる。



「さて、じゃあホントに戻りますか! 明日はいよいよ名古屋け……いや、愛知県に入れるな! ういろう食べるぞー! ドクターウィロー食べるぞー!」



 きょうこの号令で、残りの三人もめいめい席を立つ。
 マックを出れば、そこにあるのは夏の夜の湿った、でも少し涼しい空気。
 精神的に少したくましくなった4人の少女は、夜の浜松の街をはしゃぎながら歩いて行くのだった。

     


       

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