「しかし、正月っていうのも終わってみればあっけないよなー!」
駅前のマクドナルド・ハンバーガーの店舗。今日も四人の少女たちは二階・窓際のボックス席に陣取り談笑していた。
時刻は16時過ぎ。テーブルの上にはポテトが散らばっている。そのポテトをつまみ上げながら今発言したのは、髪の長い少女、きょうこだ。
「確かにな~年末が近づいてくれるとけっこうワクワクするんだけど、年越して三ヶ日が終わったらもう普通の休日だし~」
髪を二つに結んだ少女、鈴が視線を上にやりながら言う。
今は1月の半ば。高校の授業はすでに始まっているだろう。まだ二年生である彼女たちは受験には無縁なので、こうしてマックでだべっているというわけだ。
「でも、年末年始っていろいろなテレビ番組があって面白いわよね♪紅白からゆく年くる年っていう流れはやっぱり見ちゃうわ」
眼鏡をかけた利口そうな少女、サヤはしみじみと呟く。冬休みにイメチェンを図ったのか、セミロングの毛先にはパーマが当てられていた。
「……紅白……ゆく年くる年……渋いなサヤ……。私はここ数年は断然ガキ使だよ……」
切り揃えられた前髪の間から視線をのぞかせて発言したのは真奈だった。
眼の前に散らばったポテトには目もくれずにプレミアムローストコーヒーをすすっている。
「ガキ使は面白いよなー! 私も今年はバッチリ見たよ! 梅宮辰夫と楳図かずおが出てくると思わず笑っちゃうよなー!」
「……うめうめコンビか……」
「そ、そんなコンビ名があるのかー!」
「……うん……ネットを中心に流行っている……」
「マジでかー! いいな今度から使おうー!」
「……どうぞ使ってくれ。……まあ嘘だけど……」
「おいっ!」
発言に伸ばし棒とビックリマークがたくさんつくのがきょうこ、三点リーダがたくさんつくのが真奈だ。
二人の掛け合いを残りの二人、サヤと鈴は微笑みながら見つめている。
「でも私はやっぱりジミーちゃんのビデオのコーナーが好きだな~」
「ジミーちゃん……?? なんかかわいい名前ね♪ どんな女の子?」
「!! ……かわいいぞ~ジミーちゃんは~。今年はフライトアテンダントの格好して出てたな~」
「すごいわね♪ 警察編とかホテルマン編とか空港編があったって聞くけど、ガキ使って職業訓練かなにかの番組なの?」
「!! うん、そんなところだ~。知らなくてもいいこともこの世にはあるさサヤ」
セリフに波線がついてしまうほど楽しげに話すのが鈴、音符がつくほど歌うように話すのがサヤだ。
二人の会話に真奈が割って入る。
「……ジミーちゃんは今年も面白かったな。……私としては警察の時のジミーちゃんが一番好きだったけど」
「DVは何の略か~? ってやつだろ~?」
「あれは面白かったよなー! 『ドンマイ……ドンマイバカタレです』」
きょうこのジミー大西の真似が予想以上に似ていたので、真奈と鈴は同時に吹き出す。ジミー大西を女の子だと思っているサヤだけが蚊帳の外だ。
「……しかし、DVって何の略なんだ……?」
「「……」」
真奈の疑問にきょうこと鈴は完全に黙る。サヤは見た目通り優秀なので、答えはもちろんドメスティックバイオレンスだと知っているだろう。
しかしサヤは何も言わないでニコニコしているだけだ。そうしたほうが面白い展開になることをよく知っているのである。
「デジタルビデオ!」
「甘いな~きょうこ。これはおそらく人名だ」
「じ、人名!? 誰の!?」
「ダルビッシュ」
「それはない!」
「……常識にとらわれてはいけない……これは、きっとセリフに違いない……」
「「な、なんだってー! なんの?」」
予想通りの展開にサヤは激しくむせて、くわえていたポテトを吹き出しかける。
必死に堪えるサヤにとどめをさしたのは次の真奈の発言だった。
「『ドラえもん、僕一人で大丈夫だよ』」
「「泣ける!」」