セックス†ヴァルキリー
悪魔と踊ろう
目が覚めると隣に知らない女の子が寝ていた。
「…………」
俺はそっとかかっていた布団を持ち上げてみた。二人とも、何も着ていない。あまりにも黒い股間の茂みがこれがドッキリやイタズラではないことを教えてくれる。
昨日のことを思い出してみる。が、頭に霧がかかっていてはっきりとしてこない。昨日どころか一週間、一ヶ月、一年前まで真っ白だった。高校卒業あたりがごそっと抜けている。自分が進学したのか、就職したのか、それとも何もしてこなかったのか覚えていない……とりあえず相変わらずの細腕からして、肉体労働にだけは就かなかったようだけれど。
「ん……ん」
少しだけ開いたカーテンの隙間からさまよう塵を貫いて陽光がベッドへと降り注ぐ。その光を浴びて、女の子が、胸をあけっぴろげにして身じろぎした。たゆん、と静脈の浮いたッ白い梨のような乳房が揺れる。股間に血液が集まってきてしまって、俺はごろりとまた横になった。下半身に血液をもっていかれて、軽く貧血になったのだ。
ごくり、と生唾を飲み込む。
これはいったいどういう状況なのだろう? 部屋――そこが自分のものなのかそれとも彼女のものなのかは分からないが、部屋にはほとんど情報になりそうなものはない。酒の空き瓶もコンドームの空き袋もない。コタツがひとつと、本棚、テレビ、ゲーム機、ベランダ、そして閉まったドア。それ以外には何もない、せいぜい敷かれた赤茶色のカーペットくらい。あとゴミ箱――
ゴミ箱。
俺はゴミ箱を引き寄せて中を覗いてみた。
口の縛られたコンドームが二つ捨てられていた。中身はたっぷりと入っている。俺は女の子を見た。ヤッてしまった、ということだろうか。知らない女の子と? それとも俺が忘れているだけで、彼女は『彼女』、なんだろうか。あるいは……
俺はベッドを降りて、カーテンを開けた。
ベランダからの日差しを全裸で受け止める。下を見た。
靴がこちらに爪先を向けて、転がっていた。思い出せる。俺の靴だ。引き戸に手をかけると簡単に開いた。鍵はかかっていないということ。
つまり――
俺はもう一度、素っ裸の女の子を見下ろす。
強姦?
いやいやまさか。よく見てみろ。ここはどう考えてもマンションの十階以上。そこまで登ってきたということか? あるいは俺は隣に住んでいて――(どうしてそれすらわからない?)――壁を這ってこの子を襲いに来たというのか。
俺は頭を抱えた。
思い出せない――
よっぽどコンドームの縛りを開けて、中のにおいを嗅いで自分のものかどうか確かめようかと思ったが、それはどう考えても変態的だし、もし他人のものなら想像を絶する苦痛である。そんなことはしたくなかった。
どうしよう――
「ふ……う」
女の子の寝息が浅くなってきた。もうすぐ目覚めるのかもしれない。彼女が目を開けたら第一声に何を言うだろう。悲鳴? それとも、甘い囁き?
緊張でわけもわからず、俺の股間は猛りに猛っていた。先走り汁まで滴り始め、仮性包茎からにょきっと亀頭が露出している。枕元に置いてあるティッシュに手を伸ばせないのが苦しくて仕方ない。彼女が起きてこなければ抜いてしまってこの切なさから逃げ出したいところなのだが、もししごいている途中で目でも覚められたら恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。いや、ひょっとしてそれだけがこの状況から逃げ出せる唯一の通路なのか? 待て待てそんなはずがあるわけない――
「ん」
ぱちっと。
女の子が目を開けた。
「あっ」
アーモンド色をしたつぶらな瞳が、俺の股間を捉えた。
つうっと、先走り汁が竿を走った。
終わった。何か、何かが終わった気がする。俺は身をすくませて、悲鳴に備えた。
が、女の子はむくっと起き上がると、ぽりぽりと黒髪をかいて辺りを見回すだけだった。
「えっと」
女の子が言う。
「しちゃったんだっけ」
「た……ぶん」俺は消え入りそうな声でいった。
女の子は「そっかー」と言うとぽすっとベッドに倒れこんだ。
「あたしから誘ったんだよね、確か」
そんな覚えはなかったが、そうであってくれれば一番助かるので、俺は曖昧に頷いた。
女の子はふーん、と言いながら、こともあろうに、男のいる前でもぞもぞと自分の股間をいじり始めた。俺は耳を赤くして目を逸らした。
「何? 恥ずかしいの? 気にしなくていいじゃん、出したり入れたりした仲なんだし」
「はは……」
「あなたので、中が変わったかどうか確かめてるだけ」
女の子は、ん、とか、あん、とか言いながら、しばらく自慰に耽っていた。それが済むと俺の腕を掴んで、布団の中に引きずりこんだ。
「ねえ、もっかいしようよ」
「え……」
「だって、それ、そんなになっちゃってるじゃん」
女の子はくすくす笑って、俺の怒張をぴんと指で弾いた。俺はそれこそ女の子みたいな声を出してうめいた。
「聞いてもいい? ……今まで何回女の子とエッチしたの?」
俺は答えられない。記憶だけで言えば、まだ童貞である。
俺が黙っていると、女の子が何か思案げに俺の顔を見上げてきた。
「ねえ、ひょっとして覚えてない?」
「いや、そんなことは」
「覚えてないでしょ。昨日あんなに……」
おなかをさすって、
「激しくしたのに」
俺はイッてしまいそうになった。
女の子はぷるぷる震える俺の怒張を見てにやにや笑う。
「大丈夫、心配しないでいいよ。覚えてないのは多分最初だけだから」
「え?」
「ふふ……」
白くて長い指先が、俺の耳たぶをくすぐる。
「あたしのこと、なんだと思ってる?」
「なにって……」
それまで、俺は女の子の瞳は深い栗色だと思っていた。
違った。
その奥には、明確な赤色が宿っていた。
「あくまだよ」
「あく……ま?」
「そう。君はゆうべ、あたしと契約したの。もう一人でオナニーするのはいやだって。寂しくて寂しくて死んじゃうって。だからあたしが来たの。契約を履行して、君から対価をもらうために」
そんなことはした覚えが無い。俺は彼女から身を引き離そうとしたが、簡単に組み敷かれてしまった。彼女と俺の黒い茂みが接続しあう。
「大丈夫、魂なんて取らないから。あたしが君からもらうのは、記憶だよ」
「記憶?」
「そ。それも、いやあな記憶。君の楽しくない、辛いことしかなかった人生の記憶をもらったの。あ、でも安心して。もうこれ以上は取らないから。……ていうか、多すぎ! 十個かそこらでいいやと思ってたのに丸四年間分もくれるんだもん。おかげで超大口契約になっちゃった。わかる?」
「わかんない……」
悪魔の少女が、俺に囁く。
「君はもう死ぬこともなく、あたしとずっと……エッチしてられるってこと」
俺はイッた。
恥も外聞もなく、止める間もなく、白濁液が飛び散った。あっあっと声を出しても怒張は言うことを聞かず、俺と彼女を汚すだけ汚すと情けないさまを晒して萎びた。ぺたん、と俺の腹にもたれかかる芋虫のようなそれを、悪魔は指先でつまんで揺さぶった。
「いけないんだ」
俺は顔を背けた。息がまだ荒い。
「そういういけないおちんちんには、こういうことしちゃう」
悪魔が俺の玉袋に顔をよせ、ふっと息を吹きかけた。
「あうっ」
「ふふっ、今のでもう精液が溜まっちゃったよ? ほらあ、タマタマがパンパン。速く出さないとまたお漏らししちゃうね? どこに出したい? ねえどこに――」
我慢ならなかった。俺は上半身を跳ね起こして悪魔を押し倒した。その乳房に童貞丸出しでしゃぶりつく。悪魔があえぎ声を出した。
「あんっ、やあっ、ぺろぺろ上手……いつも、んっ、練習してたの? 頭の中で一人ぼっちで練習してたんだよね? 寂しかったね、かわいそう。ずっと童貞だったんだもんね。あ、覚えてないならいまも童貞かな?」
「うるさい!」
俺は悪魔が自慰で濡らしきっていた秘裂におのが分身を突き入れた。
「ああんっ!!!」
「黙れ黙れ黙れ! 出してやる、出してやるからな、中で!!」
「でっ……きるの? 一人でできる? おちんちんさすさすしてあげないと出ないんじゃない?」
「くっ……ああああああああ!!!!」
睾丸ごと放ってしまったかのような喪失感と共に快感が迸った。俺はすがりつくように悪魔の乳房に顔をうずめて、身体を一平方センチメートルでも多く相手の肌にひっつかせたいかのように身じろぎした。
悪魔がくすくすと笑う。
「早漏。それに短くって皮かぶりで……童貞なのも当然だね」
答える気力はない。そんなものはすべて彼女の膣の中にぶちまけてしまった。
「はあ……はあ……」
「ふふっ、じゃあ今日はこれでおしまいね」
悪魔はベッドから立ち上がって、布団をマントのように身にまとった。
「何か食べ物を買ってくるよ。何が食べたい? ……あ、無視するんだ? ふーん。出すもの出したら用済みってこと? 冷たいなあ。そういう悪いおちんちんには罰を当てなきゃ」
そういって、悪魔の指先が俺のペニスに触れた。すると、
「あ、ああっ!」
俺の肉茎がみるみる小さくなって、赤ん坊のそれのようになってしまった。皮があまりすぎてドリルのようになっている。それに引き換え、玉袋の方はさっきと同じくパンパンで、さわっただけで疼痛のような痺れが背筋を走った。
「ああ、元に、元に戻して……!」
「うわあ」悪魔が口元を手で隠してにたにた笑う。
「こんなに小さくするつもりじゃなかったのに……ごめんね? これじゃオナニーもちゃんとできないね」
「元に、元に戻して……早く……」
「だめだめ。あたしが帰ってくるまではこのままだから」
そう言い残して彼女は出て行ってしまった。俺は全裸のまま部屋をうろうろと歩き回り、髪をかきむしり、股間に枕を押し付けて泣き叫んだ。したくてしたくてたまらなかった。彼女にこの肉棒を突き込み、中をぐちゃぐちゃにかき回したかった。助けて欲しかった。もうこんなに辛いのは嫌だった。その思いが通じたのかどうか、赤ちゃん状態になっていた俺のペニスがわずかに枕を押し返した。俺はそのまま恥の塊と化すのも気にせずに枕に腰を押し付けた。そして、
「ああっ」
吐精した。枕にぱたたっ、と弱い精子がかかった。俺はその場にひっくり返って、とうとう爪の先ほどもなくなってしまったペニスを気にも留めずに、目を閉じた。まどろんだのかもしれない。目を開けると買い物袋を腕から下げた悪魔が立っていた。枕を見て、くすくす笑って、言った。
「うれし」