第1話 ファーストキスと別世界
心夜は広大な草原を行くあても無く歩き続けた。ちょうど夕方になるころふと前を見てみるとそこには森があった。
心夜はその森に入った。『もしも』のことは一切考えていなかった。草原からぬけだしたくて無我夢中だった。
そこからまた森をさまよい続けた。あたりは暗くなり、いつの間にか夜になっていた。
しばらく歩いていると雷が落ちるような音と青い光があたりを覆った。まるで閃光弾のような光で目がおかしくなりそうだった。森中を覆った光は5秒もしない内に消えた。
そして心夜はその光が出たところを探した。
見つけた。そこには見たこともなく、全長4mはあるだろうと思われる生物が一体と倒れた少女が一人…。
少女は小さい体で、髪が長く、格好はなんとも貧相だった。
そして次の瞬間全長4mの生物の口から妙な色をした気体が勢い良く少女に向かって放たれた。その気体は1秒ほどたつと炎に変わった。それが段々少女の体に近づいていった。心夜はいままで味わったことの無い危機感を覚えた。それは人が死ぬという危機感だった。
とっさに心夜は少女の方へ向かって全力で走り出した。そして少女を抱きかかえると又全力で走りだした。
(あの生物からにげねぇとやべぇ!!)
心夜は直感でそれがわかった。
後ろも振り返らず必死に逃げている内に目の前に光が見えた。心夜はそこへ向かってまた走った。ついに森から出ることに成功した。
森の外の景色は心夜が最初に見た草原だけだった場所とは一転し、賑やかそうな町が広がっていた。しかしながら今は夜のため人は誰も出歩いていなかった。そのため心夜は少女を助けてあげることも、自分の状況を把握することすらも出来なかった。
心夜が途方に暮れていると抱えていた少女が目を覚まし、寝起きのような声で少女は言った。
「あれ…ここどこよ。」
「め、目ぇ覚めたんだな。」
心夜がそういうと少女は驚いた顔をした。
「ちょ、ちょっと!!試験はどうなったの!?」
「は?試験?なんのことだかさっぱり…」
「とりあえず降ろして。」
「お、おうわかった…。」
そう言うと心夜は少女を降ろした。
彼女がなにをいっているのかわからない以上、本当の事を話す以外に選択肢はないと思った心夜は少女に倒れていたことから謎の生物のことなどを全て話した。
「………そう。あんたが助けてくれたんだ。」
「まぁ…そういうことになるかな。」
「先に礼を言っておくわ。助けてくれてありがとう。」
「お、おう…。」
少しの間沈黙が続いた。
そして少女が口を開いた。
「なにがいい?」
「へ?」
「お礼に決まってるでしょ?」
「いや…そんな…。」
「いいから!!なんでもいいのよ。」
(なんかすんげぇ押し付けがましい奴だな…こいつ。)
「お礼か…ありがたいけどなにをしてもらえばいいのか…。」
心夜がそういうと少しの沈黙を経て少女が言った。
「な、な、なんでもいいのよ。キスでもお金でも食事でも…。」
「え、っと…じゃ、じゃぁキスの方向で…」
心夜はお金か食事がよかったが、なんだか悪い気がしてならなかったのでついキスなどといってしまった。
「キ、キキ、キス!?お、お金でもいいのよ。仕事である程度はもらってるから!!」
正直後悔はしていたが、貧相な格好の少女にお金をもらうわけにもいかなく、心夜は
「いいんだよ。」
といった。
「あっそ!」
すると少女は少し顔を赤くして目を閉じた。
(こうしてみると以外と顔は可愛いなぁ。性格はなんかむかつくけど。)
心夜はそう思いながら名前も素性もしらない少女とキスをした。これが心夜のファーストキスだった…。
少しの間二人とも黙っていた。
「あたしはリラン。リラン・マーフィーよ。」
先に少女が口を開いた。
「お、俺は三石心夜。」
心夜がそういうとリランは少し難しそうな顔をして言った。
「アンタもしかして今年のエヴェントス?」
「ちょ…なにがなんだかさっぱり…どういうこと?」
「え?エヴェントスっていう存在がどういうものかくらいは知ってるわよね?」
心夜はエヴェントスという言葉が妙に引っかかった。記憶のどこかにその言葉が眠っているような気がしてならなかったのだ。
「あ!!」
心夜は思いだした。
「小さい頃見た本にそう書いてあった!!10歳の誕生日に道端で拾った本!」
「思いだしたのね。」
「ああ!エヴェントスは自分のことを変えたいと思っている人が5年に一人パラレルワールドに行くという話だった。」
「そう。まさにそれよ。」
得意気な顔でリランはそういった。
「って事は俺が5年に一度それに選ばれたのか…!?」
リランはうなづいた。
だが、それは問題だった。本の内容によると次のエヴェントスが現れるか自分が変われるまでこの世界から出れないらしい。普通の人ならばその目的を達成することは出来る。安易じゃなくとも。
しかし心夜は自分自身の何を変えたいのかわかっていなかった。変わりたいなどと思ったことは無かった。こんな事例がいままであっただろうか。
「じゃあリラン…聞くけど自分自身が変わりたいと思っていなかったらどうなるんだ…?」
「そんなことはありえないわ。」
軽く否定されてしまった。だが、本当に心夜は自分を変えたいなんて思ってもいなかった。友達が居なくてもいい、両親が居なくてもいい。そう思っていたし、自分のことなんて考えたこともなかった。
「それにもう一つ聞きたいことがある。」
「なに?」
「なんで俺とお前は普通にしゃべってられるんだ?なんで言語が同じなんだよ。」
「確かにいえてる。でもそれはアンタの世界ならの話。この世界はエスプという力で言語を統一することができるの。」
「ふーん。それで俺もこの世界の中なら誰とでも話せるわけか…。言語を統一すること『も』できるってことはほかにも出来ることがあるってことだよな?なにができるんだ?」
「そうね…。まぁ簡単に言えばアンタが住んでいた世界でいう科学みたいなものね。それをエスプってこの世界では呼んでいるわ。」
「なら科学とエスプはなにが違うんだ?」
「んー。難しいところだけど、簡単に言えば、物質を操るのが科学、物質をゼロから構築するのがエスプかな。」
「ゼロから構築!?」
「ええそうよ。原理は私は良く知らないけど原子を生み出して、生み出した原子を操って物質を作りだす。それがエスプ。」
「…って…それ便利すぎないか?」
「もちろんデメリットもあるわ。他の物質を材料としてまったく別の原子を作っているから一応なにかを代償として構築してるの。」
「そうか。でもそれなら言語統一って関係なくないか?」
「まぁそれは少しタイプが違う能力ね…。今は長くなるから今度にして。」
そういうとリランは歩き出した。
「どこ行くんだ?」
「王様のところよ。」
にやりと笑うとリランはまた歩き出した。