Neetel Inside ニートノベル
表紙

ニトマン。(元→【新都社文芸戦争】)
4ページ 待機BOXと顔合わせ

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 “新人”。
 言うまでもなく、現代の新都社では毎日毎時間というペースで次々に新人作家が生まれている。実際の商業誌と違って誰でも気軽に投稿できるのが魅力ではあるが、一応のふるい落としは存在する。
 そもそも、新都社発足当時とは作品の掲載システムが異なっており、作家は編集に原稿を渡し、その誤字脱字等を編集がチェックした上で決まった日時に所定の雑誌へとアップロードするというのが現在の流れである。
 一方、初めて新都社に作品を載せる者の場合、まずは完成原稿(連載作品であればその第一話のみで可)を“連載待機BOX”へと投稿する。BOXには日々次々と作品が投稿されてゆき、目をつけた編集者から早い者順で作品を手にとっていいとされている。
 そこで編集者が作品を気に入りさえすれば、一度打ち合わせをするだけですぐに連載を始めることができる。そのハードルは高くなく、ほとんどの作品に誰かかしら編集はつき連載をすることはできるが、例えば最近ではエクレア氏の【まほーわ好きですか?】などは編集がつかず連載まで辿り着いていない。
 つまり商業誌の連載会議のように一握りの作品だけを拾い上げるのではなく、あくまで、あまりにも酷い作品・荒らし作品等をふるい落とすというだけの意味合いなのである。
 そして、才能ある作家の発掘も完全な早い者勝ち制度なので、何十何百といる編集者達は常に連載待機BOXに目を光らせている。

 ――夏季入れ替え戦が終わり、まだ間もない頃。この日も多くの編集者が待機BOXを覗いては入れ替わり立ち替わり目につく作品を持ち帰っている。
「ふ~……」
 男性編集、“北方”(きたかた)はデスクトップの前でため息をついていた。
(不作だな~……。入れ替え戦の作品読んだばっかだから尚更そう感じるのかもしれんが、目を惹くモノがまったくない)
 待機BOXの作品を数ページ読んでは切り捨て、また数ページ読んではウィンドウを閉じ。そうやって繰り返し繰り返し、“アタリ”に遭遇するまで北方は待機BOXに居座った。
 数時間が経った頃、一つの作品が北方の目に留まった。

 兄の聖戦 作者:TAK☆ITA

「なんだこのタイトル……」
 過度な期待はせずに原稿を開くと、しかし北方は目を奪われた。
(これは……なかなか……)
 すぐに北方は待機BOXに戻り、まだTAK☆ITAに編集がついていないことを確認すると作者名をクリックした。
 ダイアログボックスが表示される。

 “TAK☆ITA”先生の担当編集を務めますか?

「もちろん」
 北方は即答した。
 この事はすぐにTAK☆ITA本人にも知らされる。北方はTAK☆ITAへメールを送った。

『初めまして。この度担当編集を務めさせていただく北方と申します。今回の作品“兄の聖戦”を読ませていただきました。詳しい感想等お伝えしたいところでもありますし、まずは一度お話しする機会を設けていただければと思います。つきましては、専用のチャットルームを開設いたしましたのでお時間のある時に以下のURLまでお越しください。新都社編集者 北方』

 ――そして数日後。
 〒TAK☆ITA、北方
『北方:どうも、はじめましてTAK☆ITA先生。北方と申します』
『TAKITA:はじめまして! 編集を買って出ていただいてありがとうございます』
(おっ、雰囲気の良い子だな)
 北方は表情を明るめた。
『北方:いえいえ、こちらこそ。では、さっそく兄の聖戦についてですが』
『北方:好きな人は惹きこまれる話になっていると思います。今回は第一話までしか投稿されていないので詳しい評価はできませんが、是非この先を読ませて下さい。私が編集として精一杯サポートさせていただきます』
『TAKITA:本当ですか!』
『北方:ええ。ちなみに今後の展開は一体どういう方向をお考えで――』
『TAKITA:ベストファイブになれますか??』
「!」
(こいつ……。まあ、誰でも考えることか……)
『北方:いえ……、話を進める内に順を追って説明させていただこうと思っていましたが、まず三点リーダやスペースの使い方等、文章作法において望ましくない箇所が多く見られました。これは新都社では誰にでも言われていることですが、文章作法すらしっかりしていない作家というのはベストファイブどうこうという段階ではないと思うんです。今回、話の導入に興味を持ったので担当編集を申し出させていただきましたが、まずは文章作法からじっくりと協力して成長していただければと考えてのことです。申し訳ありませんが、やはり今すぐベストファイブがどうこうという話ではありません』
『TAKITA:文章作法ですか。しかし、そんなのは言ってくれればすぐに直せるんじゃないですか?? 今文章作法がしっかりしていなくても、話が面白ければベストファイブにはなれるんじゃないんですか』
(!! このガキ……)
『北方:い、いえ……。でははっきりと言わせていただきますが、文章作法のことを差し引いてもやはりまだ到底そのレベルではありません。まず文章力が決定的に欠けている。ずっとリズムが一本調子で、それは決して読みやすいのではなく逆に一々つっかかるような印象を受けます。これは、文章作法とは違って長い時間をかけて学んでいくことです』
『TAKITA:うーん』
『北方:それに、まだ第一話ですが正直ストーリーもそれほどのレベルではないと考えています。たとえば、導入があまりにも普遍的で読者はそれだけで離れていきます。こういった“セオリー”も含め、やはり長い時間をかけて学ぶことはたくさんあると思うんです』
『北方:しかし、TAKITA先生はまだ非常に若い。しっかりと経験を積めば、将来的にベストファイブの座につくことはもちろん可能です。そのお手伝いを、是非私にさせていただきたいんです』
『TAKITA:………………』
(あえて少しキツイ言い方をしたが……こんなことでふてくされるようならどの道成長なんてしやしない)
『TAKITA:……ごめんなさい。今まで誰かにこんな風に小説を批評してもらったことなんてなかったので、北方さんの言葉が本当にズッシリと来ました。僕の知らないことが一杯あるみたいです。是非、教えて下さい。生意気なことを言ってすいませんでした』
(! ……よかった)
『北方:ああ! いや、こっちこそキツイ言い方になって申し訳ない。君はこれからの作家だ。じゃあまず、簡単な文章作法についてだが――』



 ――時は少し前後する。
 数日前、TAK☆ITAが待機BOXに作品を投稿し、それを北方が持ち帰った、本当にその直後。
 ひとつの作品が、また待機BOXに投稿された。

 天才・一ノ瀬隆志が居ない 作者:和田駄々

 それは本当に一瞬だけ待機BOXに表示されて、すぐに編集者によって持ち去られた。
 ――有能な作家は、次から次へとやってくる。

       

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