La Campanella −来訪者−
[Ⅱ]
2
産業革命ってのがきっと、あんたの世界でも起こったんだろう? あれだよ、蒸気機関ってのができたやつ。
ぼくの世界でもそうでさ。あれからしばらくはおだやかなもんだったな。といっても、ぼくが生まれる何世紀も前だから、じっさい体験したわけじゃないけどね。
ぼくの祖先はあんたらほどロマンチストじゃなかったようで、空のお月さまを目指すんじゃなく、早晩ドンパチやりあってたね。
そのごたごたの最中、そして終わってからの発達はすごいもんだった。
祖先たちは世界じゅうを、架空世界の網で結ぼうとした。こいつをぼくらは網<ウェブ>って単に呼んでたけどね。あんたに説明するのは難しいが、これでどの場所にいても、手持ちの端末で情報を引き出せるっていう……
え? あんたのとこにもあった? インターネット? ……なんだ。じゃあその説明は割愛するよ。
こいつが生活に入り込んできてからはすごかったね。あんたのところもそうだったんだろ? たちまち人類は、これがなきゃ生きていけない中毒<ホリック>状態におちいったのさ。
あらたな市場がいきなりある日、仮想現実に生まれたからみんな大騒ぎさ。あたらしい遊び場を発見した少年みたいにね。なにせ世界中をぼくらの祖先は踏破し、破壊しつくした。知らない場所は世界にないと思ってたんだけどね。だから世界の中に、もうひとつ世界が生まれたときは、みんなが歓喜したってわけさ。
そこらへんのことは、あんたらのほうがよく知ってるんじゃないかい。生きているうちに体験してるんだろうからさ。
ぼくはただ、歴史の教科書に載ってたことをうろ覚えで話してるだけだからさ。
問題はそこからだ。産業革命に次いでこの情報革命ってのが起こったわけだが、このふたつの革命には何世紀も開きがあったわけだ。ウェブのときもそれと同じで、世界中に網が行き渡ると、もはやマンネリ状態さ。一世紀経たないうちに産業もストップしちまったし、おまけに資源もなくなってきて、経済は麻痺するわで、そりゃ悲惨な状態だった。うちの国なんかひでえもんでさ、一億ちょっとの国なんだけど。一番ひどいときなんか、自殺者が年に二万人ほどいてさ……
え? あんたのとこは三万人? まじかよ。そりゃきついなあ。まあそういう状況に陥ってね。みんなこう思ってたんだよ。「だれかどうにかしてくれないかな」って。全人類がきっとそう思ってたんだろうな。だから誰もなにもしなくなっちまった。ぼくもそういうタチだから、みんながそれってのはゾッとしないね。
で、来たよ。救世主がさ。そいつがもたらした文明で、なんとか世界は救われたってわけさ。
……宇宙人? 残念。あんたらは宇宙がずいぶん好きらしいね。
ぼくらを助けに来たのは、べつの世界から来た人たちさ。まあ、違う地球<テラ>から来た人って意味じゃ、異星人と呼んでいいのかもしれないけどね。
これもぼくが生まれるかなり昔の話だから分からないし、なによりぼくは歴史の授業、とくに近代史にあまり興味のない劣等生だったもんでね。要約するとアルビオンの……ああ、西のほうにでかい大陸があって、そこにいちばんでかい国があるんだ。そこの首都だよ。世界の中心って言っていいね。そこの空にある日、「穴」が開いたらしい。そこから、「船」が降りてきた。とてつもなく巨大な船だ。
当時のニュースはぜんぶそいつで埋め尽くされた。ウェブも大混乱さ。
それがぼくの曾じいさんの時代だ。彼に直接聞ければよかったんだけど、これがとんでもないチェーンスモーカーでね。早世しちまってさ。ニコチンが禁止される前の人だからね。禁止されてからも、どっかでこっそり吸ってたらしいけど。