――もう、何も分からなくなってきた。
どうしてこの世界に居て、どうして横にコイツが居るのか。
そして何で人が死んでいるのかも。
ナゼ、コンナニモタクサンヒトガ、シンデイル?
『ふふ、あなたは死体を前にして一体、何を考えているのでしょうかね?』
「……」
『自分の手で殺した相手を前に、あなたは何を想っているのか』
「…………」
『一度でよかったのに、何度も何度も手にした刃物で人を刺して。更にはこんなにも
たくさんの人を殺し続けた』
オレガ、ゼンブコロシタ……
『あそこまで嫌っていた人を殺すという行為をあなたはしてしまった』
「…………ぁ」
『もうあなたは、昔の頃には戻れない。人を殺すという行為をしてしまった以上、同じ
人間としては扱われない。例えそれがあなた本来の世界とは関係のない人間だったとしても』
「あぁ、あ……」
『あなたはもう人間ではないのです』
「あぁ、あ……あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
殺した。俺が人を殺してしまった。それも、こんなにたくさんの人を!
現実とは違う世界。それでも俺のこの手には血の匂いや人を刺した感触が残っている。
俺は、俺は――
『ふふ、何を泣いているのですか? 確かにあなたは人間ではなくなりました。ですが
ただそれだけです。何を思い詰める必要がありますか』
「うるさい! 元はと言えばお前が全部――」
『人のせいにするのはいただけませんね。確かに何度もあなたを誘導してきましたが、
最終的に行動を起こしたのはあなたの方ですよ』
「ぐ――っ」
『まぁ、あなたが自身の罪に耐えられないというのでしたら、一つ簡単な方法がありますよ』
簡単な方法だと……!?
『狂ってしまえばいい。正常な心でいられないのなら、壊れてしまえばいい。そうすれば、
あなたの心も楽になりますよ』
「ふざけるな! そんなこと出来るわけがないだろ!」
『何を言っているのですか? あなたはもうすでに――』
『私のこの一言を最後に彼は一言も発せず壊れきってしまったようですね。申し訳ありません
が、ここから先は私一人で話させていただきますよ』
退屈な日常。その日々の脱却を願っていた彼は見事に願いを叶えました。
ですが、それと引き換えに彼は大事な物を失ってしまいました。
人としての心。平和で退屈な日々のありがたみ。そして、未来も。
彼はもう二度と日常に戻ることは出来ないでしょう。戻っても殺されるか、病院に収容
されるだけ。ですから彼は――
この複数の死体に囲まれた空間。この空間の中で永遠の時を生きていくのでしょう。
実に残念な終わり方ですね。ですが、彼が落ちていく様を見届けるのは実に楽しかったですよ。
まぁ、一つ我儘を言うのでしたら、壊れたまま私の仲間になっていただけたらよかった
のですがね。残念ながらそれは叶わなかったようです。
『さて、彼を見るのはもう止めましょうかね。次の候補を探しにいきましょう』
私と同じ境地に辿り着ける壊れ切った人間を。
ふふふ、どなたに会えるかは分かりませんが期待をしてますよ。