私は絶句した。
今まで一度も正体が露見したことが無い為、私の頭の中は一瞬真っ白になり、何も考えられなくなる。
「ねぇ、どうなんだい?」
私はダンテリオの声で我に返ると、努めて冷静に振舞う。
この物言いならば、確信には至っていないはずだ。そう、私の記憶ではミスは一つも無い。動揺し、自ら正体をさらすような真似だけは避けなくてはならない。
「用と言うから何かと思えば…、くだらない。そんなわけが無いだろう」
「え~、そうなのかい?でもなぁ…」
子供のように拗ねた態度で渋るダンテリオ。
よくよく考えると、この男がそういう風に考えるということは何らかの原因がある筈だ。ならば、ただここで突き放すだけではなく、そう考える原因を聞き対処するべきだろう。
「なんでそんな風に思った?私が人間ではないなどと言うからにはそれなりの理由があるのだろう?」
「うーん、まあ、あるといえばあるんだけど」
「なんだ、ハッキリしないな」
「…まあ、いいか。疑問なのは君がリーズナ―を作った時に集められた研究者たちなんだけど、どうやって集めたんだい?」
「それは当然、噂を集めて勧誘を――」
「そう、それだよ!」
待ってましたと言わんばかりに、ダンテリオは声を荒げる。そしてその表情は心なしか楽しそうだ。
「この前偶然知ったんだけど、最初期メンバーは皆君が一か月以内に直接勧誘しているにも拘わらず、勧誘された場所があまりにも離れているんだ」
確かにそうだ。私にとって距離などは大した問題ではない。だからこそ様々な国に点在していた優秀な人材を、短期間で集めることができた。
「だから君にそんなことが可能な理由をいくつか考えてみたんだけど、人間じゃないかもしくは人に知れ渡っていない長距離を短時間で移動する方法があるかのどっちかなんだ」
私は半ば呆れながら話す。
「…それだと普通後者の方を疑わないか?」
「まあ、そうかもしれないけど、そっちの方が正しいならその方が面白そうじゃないか」
ダンテリオはさも楽しそうに口元に笑みを浮かべた。
やはりこの男は他の研究者、人間達とは違う。凄まじいまでの知識欲と能力を持ちながらも、それがもたらす結果をあくまで自身の楽しみ、道楽をもたらすモノとして考えている節がある。
私はふとこの男に全てを明かす事を考えた。
命を持つ者達は世代交代を重ねるにつれ環境に適したものを多く残し、より多くの子孫を残すことのできるように種を適応させる。時には偶然生まれた変異種が他のどの個体よりも環境に適していた場合、後々種全体に大きな影響をもたらす場合も存在する。
だが、人間に限っては肉体的な変化、突然変異のみではない。
思想の変異種。周囲とは違う考えを持ち、疎まれ、蔑まれ、排斥される者達。
しかし、そんな思想を持った者の中でも稀に生き残る人間は存在する。自身を異端だと理解し、表面的には思想を偽り、そのまま生涯を終える者。あるいはその思想が周囲に何らかの恩恵をもたらす場合、周りの者が匿い、利用し続けられる者。
思想は世代交代によって受け継がれる遺伝子とは違い、一度周囲に受け入れられると瞬く間に広がるモノだ。仮に広まらなかったとしても、その思想を持つ者が周囲に大きな恩恵をもたらす限り凄まじい影響力を持つ。例えその恩恵の先にあるのが種にとってもっとも望ましくない結果である”滅び”に繋がっていたとしてもだ。
種が望まない未来をもたらす者、異端者、イレギュラーである者ならば可能性はある。
リスクは決して小さくは無い。だが、それでもダンテリオに全てを明かすことで、少しでも”わたし”の望みに近づくことができるのなら…。
「ならダンテリオ、少し、面白い話をしようか」
そう、”わたし”の目的はこの星に存在する全ての”命を持つ者達”の”滅び”なのだから――。