Neetel Inside ニートノベル
表紙

蒼き星の挿話
心のカタチ

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 どれくらいの時間そうしていただろうか。
 私は全ての外部情報から切り離され、暗闇の中でただ考える時間を過ごしていた。
 正直、わたしの中に引き摺り込まれた時は、思考もままならないほど混乱し、そのまま消える寸前だったが、ゆっくり自分自身を見直す時間を与えられたことによって、次第に落ち着きを取り戻し今に至る。
 すると、ゆっくりと浮かび上がる様に私の意識は地表へと集まり、再び私は外部情報を認識できた。私は周囲に誰もいないことを確認すると、体を形成し自分の今すべきことを思い出す。

 私がまず向かったのはリーズナ―でも最も規模の大きい第一部署だ。そこへ移動した私は体を消した状態で私がいなかった間、どういった変化が第一部署にあったかを確認する。
 私が不在の間、他部署と連絡が取れなくなった第一部署は資金繰りに随分苦労していたらしい。他の部署とは違い、禍紅石とコトダマ使いという簡単には金に換えられない研究内容を担当していたからだ。
 無論禍紅石を国に提出すればそれなりの金額を得られるだろうが、そこは自分達の研究対象を売り払うのはプライドが許さなかったのか、なんとか踏みとどまったらしい。
 それでもかろうじて第一部署が崩壊せずに組織を維持していたのは、ベスタリオの存在が大きいだろう。ダンテリオの兄であるベスタリオは、前の失態の罰として利き腕を切り落とされ、権限を大きく奪われたものの、持ち前の統率力で皆をまとめ、第一部署に駐屯していた実行部隊を上手く使い、最低限の資金と物資を得ることに成功していたのだ。
 その後他の部署の状態を同じように調べた私は、一旦状況を整理するためとダンテリオの意見を聞くために、ダンテリオの部屋で体を形成した。
「…また随分と散らかっているな」
 ダンテリオの部屋の様子があまりにも酷かった為、つい声に出してしまったがダンテリオはそれに驚き、椅子から転げ落ちてしまった。
「うわっ!!……急に出てこられるとびっくりするじゃないか。というより今まで何してたんだい?こっちは随分と混乱してたんだよ?」
 床にぶつけた尻をさすりながら、ダンテリオは再び椅子に座り直す。
「すまんな。だが、今回のことは私自身もどうしようもなかった」
「と言うと?」
 私は事細かに今まで姿を現さなかった理由をダンテリオに説明した。
 昔の知り合いの死に遭遇してしまったこと、その時自身の意識が揺らぎ、消えそうになったこと、そしてその為に”わたし”に外界から隔離されたことを話す。
 一通り話を聞いたダンテリオは、顔をしかめながら自分の顎を撫でた。
「なんか妙な話だねぇ。まるで人間の様な反応じゃないか」
「やはり、そういうものか?」
「だって、自分の知り合いが目の前で死んで取り乱すなんて……。思ってたより君は脆いんだねぇ。もっと冷徹なイメージだったんだけど」
「正直、今回のようなケースは初めてでな。私自身も戸惑っている」
「でもまぁ、どうやって精神を安定させたんだい?引き籠り続けるなんてむしろ悪化しそうだけど」
「徹底的な自己再認識だ。自分が何故、どうしてここまで精神が乱れたのか無理矢理自分で考え続けさせられた」
「で、答えが出たわけだ?」
「一応は、な。私には開示されていない情報もあったので少々面食らったが、何とか納得はできた」
「……どういうこと?」
「私のこの精神構造は、大昔に世界が取り込んだ人間のモノを元に作られているそうだ」
「人間を元に?じゃあ、君は心は人間と同じってことかい?」
「大体はそうだ。だが、命を持たない物達の記憶や価値観も私には埋め込まれている。だからこそ、今回のようなことがあって混乱したのだろう」
 そう、命を持たない物にとって命を持つ者が死に、命を持たない物に回帰することは喜ぶべきことだ。しかし、人間としての私の心はそれを受け入れられなかった。
 故に私の心がどういうものであるかを認識し、そういう状態になる理由を理解し、その不安を緩和することで自己の安定を図ったのだ。その結果、私はこうして再び地上で活動できるまでに回復したが、心の奥底にある不安が消えたわけではない。
「でも、なんで人間をわざわざ取り込んで、君みたいなのを作ったんだろ?面倒な上に今回の様な不具合だって起きてる。あんまり効率的とは思えないんだけど…」
「人間を理解するためだ」
「理解?なんでまた?」
「人間は他の命を持つ者と違って高い知能を持っている。それらを扇動し、こちらの思った様に行動させるにはできるだけ多くを知る必要があったからだ」
「なるほどねぇ…。まあだいたいの事情は分かったけど、これからはどうするんだい?まだ君の中の不確定要素はそのままでしょ?」
「当面はリーズナ―の立て直しと、不穏分子の始末だ。リーズナ―を再びまとめ次第、お前達には本来の役割を果たしてもらう」
「今回のことに関しては君に原因があるからねぇ。べス兄さん辺りが反発するんじゃないかな」
「確かに、厄介かもしれないな…」
 前回と違いベスタリオに一切の非は無い。それどころか第一部署を維持することに成功した功労者だ。罰するのは周囲の者たちに示しが付かないだろう。それに逆境を跳ね除けここまでの統率力を身につけたベスタリオを排除するのはあまりにも惜しい。
 ならばベスタリオを理解し、利用する。今ならば、より自分自身を理解した今の私ならできるはずだ。
 ベスタリオの性格と過去を調べ上げ、ベスタリオが何を望んで、何を求めているのか。その全てを掌握し、操作する。
 これは、”わたし”が命を持つ者にしようとしていることと同じだ。なら今回のこれは予行練習といったところだろうか。
 私は早速ベスタリオについて、詳細に調べ始める。
 だが、その中でふと考えてしまう。

 ――何を望んで、何を求めるのか――

 私にとってのそれは一体何であるのかと…。

       

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