Neetel Inside ニートノベル
表紙

蒼き星の挿話
燃え盛る炎の中で

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 私が死を目前にして少々動揺していた間に、事態は大きく動いていた。
 ジノーヴィ達はミラージュで四聖唱女に接触し、リーズナ―実働部隊と一戦交えたらしい。
 リーズナ―はどうやら私の支援なしでもやっていけるように、クレストやキサラギとより強い繋がりを持つ為、三国の戦争に積極的に参加する様だ。その動きはあまりに迅速で、あらかじめベスタリオが綿密に計画していたことがうかがえる。
 私が悩んで浪費した空白の時間を把握しきり、ミラージュへ行くと、そこはまさに大戦が始まる直前だった。
 戦場の状況を把握するために私は知覚範囲を広げ、意識を集中する。クレスト、キサラギ、そしてその中に紛れたリーズナ―の実行部隊。そしてそれを迎え撃つはミラージュの四聖唱女とそれを盲信する兵士達。さらにそれとは別に機会をうかがう所属不明の一団、その中にジノーヴィは居た。
 さらにその場所とは戦場を挟み正反対の場所にダンテリオの姿を確認し、私はその近くで体を再形成した。
「やあ、そろそろ来ると思ってたよ」
「…お前ほど戦場に似合わない男もいないな」
「戦争そのものには興味はないけど、自分の研究の成果、その集大成がここにあるんだよ?それに、友人の事も気がかりだしねぇ」
 そう言いながらダンテリオは戦場を真っ直ぐ見詰めている。
「君はどうなると思う?」
「結局あれの復元は阻止できなかったからな。まあ一度は世に出た技術だ仕方ない」
 少しフレームの歪んだ眼鏡の位置を戻しながら、ダンテリオはにやりと笑って口を開く。
「かもね。ここまで抑えられただけでも上々だよ。とりあえず、ここでミラージュの力を削ぐことができれば色々やりやすいんだけどねぇ」
「どうあれここで流れが変わる。お前はしっかりと見極めていればいい」
「何か気がかりかい?」
 長い付き合いだからこそわかる表情の変化、というやつだろうか。自分の内側を見透かされる様で、妙な感覚だったが
悪い気はしなかった。
「ああ、ようやく手に入るかもしれない」
「その時は教えてくれ。僕もその瞬間に是非とも立ち会いたい」
 ダンテリオがそう言うと、私はその場から姿を消した。

 この戦場が全てのターニングポイントだ。
 ジノーヴィが復讐を成し遂げ、リーズナ―の行動を大きく阻害し得ることのできる場。
 ムーンライトソードという誰でも使用できる武器によって、コトダマ使いの存在が大きく問われる場。
 そして私にとっては自分が成し遂げてきたことがどういう結果をもたらすか、その答えの出る場、でもある。

 戦争が始まった。
 多くの兵士、騎士、コトダマ使いが投入される。
 ジノーヴィ達は頃合いを見てコトダマを用いて戦場を混乱させて突入を開始した。
 戦場から一切の音が消える。そんな異常な状態で戦闘、ましてや冷静な判断などそこで戦っていた者達にできるはずもなく、ジノーヴィ達は一気に戦場をかき分けリーズナ―実行部隊の下までたどり着く。
 バスタードソードブレイカ―を振るい、コトダマを用いて戦うジノーヴィ。そして、その傍にはコトダマを打ち消す短刀を駆使して戦う騎士が居た。
「やはり、か」
 私はその姿を見て、ムーンライトソードがこれからの時代を変えていくことを確信する。
 幼いころから禍紅石を埋め込まれ、国に特権階級として扱われてきたコトダマ使い達の在り様は一転するだろう。コトダマの強みは広範囲、長射程の一撃必中攻撃だ。それがちっぽけな短剣と一人の人間の命で簡単に防がれる。もはやコトダマ使いは戦場の覇者足り得ない。
「やはり、か」
 私は戦場を少し離れたところで、ムーンライトソードがコトダマを打ち消し淡い光を発している様を窺う。。
 コトダマ使いの時代は終わる。明確な対抗手段が存在する今では、コトダマ使いは国の絶対的な戦力とは言い難い。人は新たな力を求め、組み合わせ、思考錯誤の上、作り出すことだろう。
「しかし、それももはや…」
 そう、もはや私には関係ない。しかし、それでも見届けたのは自分の成した結果、自分が残すモノが何なのかを知っておきたかったからかもしれない。
 私はそう結論を出してジノーヴィの方へ意識を向けると、私の中で何かが激しく渦巻くような感覚に襲われた。これは、”私”だけの感覚ではない。今まさに死をもたらすモノが目の前に居ることで”わたし”の魂が震えているのだ。

 ジノーヴィはニーシャを殺した。ニーシャが彼の家族を殺したのと同じように、コトダマを使って。
 コストを支払い、感情を禍紅石に奪われ棒立ちになるジノーヴィ。そこへ、リーズナ―実行部隊のコトダマ使いがワーストワードで繰り出した炎が迫る。
 私はとっさに炎とジノーヴィの間に割って入り、力場を形成してジノーヴィを炎から守った。
「――!」
 虚ろな目をしたジーノが私の姿を捉え、眼を見開く。
 何か言葉を発しようと口を動かしながらも何も言えない様は、私にラドルフの最期を思い出させた。
 私に向かって伸ばされるジーノの手を、私はしっかりと掴んで告げた。
「お前はまだ死なせない」

 かつてラドルフが死んだ後に回収された禍紅石、それが放つ炎の中で私とジノーヴィは出会う。わたしの終わりは、もう目前まで迫っていた。

       

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