私がムラクモで得た知識を用いたおかげで、この集落の製鉄技術は格段に進歩した。正直ここから先は、私が直接指示しなくとも人間たち自身の力で武器、防具の発達は進む。
私がやるべきことはこの集落の武装が整うまでの間、ドラゴン達の縄張り拡大を食い止めることだ。これに関してはそう難しくはない。繁殖期にドラゴンの卵を適度な数を残し、全て破壊してしまえばいいだけのことだ。そうすれば個体数の増加による縄張りの拡大をコントロールでき、尚且つドラゴンの生態を観察できる。
私がこの集落に新しい製鉄方法を伝えてから半年ほどが過ぎた。武器、防具、戦略などの準備が整い、ドラゴンの襲撃が来ても、いつでも対応できるようになっている。
対ドラゴン用の大型バリスタ、城門などを破壊するための破門槌を改造した大型のランス破竜槌、それらにつける毒、そしてドラゴンを焼き殺すための大量の油が用意され、守りは万全だ。
準備が整ってってからさらに2カ月、ついにその時が来た。
ドラゴンの襲来。けたたましく警鐘が鳴らされ、自警団が配置に付き、一般人は避難する。
「バリスタ!1番から5番まで構えろぉ!」
ラングが叫ぶ。標準はドラゴンに合わせられバリスタが軋む。
「放てぇ!!」
勢いよく放たれた5本のバリスタの矢。そのうち3本がドラゴンに命中する。
「ギッ、ギャーオォ!!」
苦悶の雄叫びをあげながらドラゴンが墜落した。命中した3本のうち2本がドラゴンの翼に、1本が左前脚に刺さっている。
人々は歓喜の声を上げながらも尚、自分達に敵意を向けるドラゴンに武器を構えた。
「再装填急げ!6番から10番標準合わせろ!破竜槌は待機だ!!」
「ガァアアアアア!!」
ドラゴンの咆哮。それに合わせるようにラングは声を上げた。
「放てぇ!!」
二度目のバリスタによる攻撃。それを予測していたのかドラゴンの尾が矢を払う。それでも全ては捌ききれないのか
2本の矢が体と翼を貫いた。
2度目の射撃で怯んだドラゴンを見てそれを好機と思ったのか、ラングはさらに指示を出す。
「破竜槌部隊!全隊突撃しろぉ!!」
破門槌の改良武器破竜槌。大きな丸太のような形状の先端に鋭い刃がついたそれを、両側で人間が抱え突進する。3本の破竜槌。そのうち2本は尾で弾かれるものの、1本は深々とドラゴンの横っ腹に突き刺さった。
ドラゴンの声にならない声が響き渡り、誰もが勝利を確信したその時、ドラゴンの目が赤く血走った。
「ガ、ガァ、グギャーオォー!!」
先ほどの苦痛による叫び声とは違い、敵に向けての咆哮。
その咆哮の先に居た人間達が急に倒れ、もがき苦しんだかと思えば皆動かなくなっていた。
「――!」
その現象に皆が絶句する。倒れた人間を良く見ると、倒れたもの達の肌がカサカサに乾き、ミイラ化してしまっていた。
強制的な水分の蒸発。それがあのドラゴンの咆哮によってもたらされたのは明らかだ。
ドラゴンは体に刺さった破竜槌を尾で無理矢理引き抜くと、前足の一本を負傷しているとは思えないほどの速さで動き始めた。
「あ、アぁああー!!」
さっきとは打って変わって人間達の叫び声が響き渡る。持ち場を離れ逃げ惑う人間を、容赦なくドラゴンが駆逐する。
「う、撃て!狙いなんていい!装填の済んだバリスタから撃ちまくれぇ!!」
その光景で我に返ったラングが指示を出す。しかし、先ほどより素早く動くドラゴンに矢は当たらなかった。
「グギャーオォー!!」
水分の強制的な蒸発をもたらす咆哮が、バリスタを使用していた人間の半分を飲み込む。
「くそ!」
忌々しくドラゴンを睨むラング。その正面には、今まさにラングに向けて咆哮を放たんとしているドラゴンの姿があった。
これまでか――そう思いラングは硬く眼を閉じる。
…。
……。
………。
いつまでたっても死の咆哮が訪れないことに気がついたラングはゆっくり目を開けた。
そこには先ほどまでの怪我のせいで多く血を流し過ぎたのか、ゆっくりと地面に倒れるドラゴンの姿が見える。地面に倒れるドラゴン。状況が理解できていないのか、しばし唖然とするラングだったが、皆の歓声でようやく安心したのかそのまま地面に腰を下ろす。
今日この時より、ドラゴンは絶対的な存在ではなくなった。人間の技術、戦略、組織力その全てを持ってして地上最強の生物は打倒されたのだ。