Neetel Inside ニートノベル
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P-HERO
最終話:P-HERO 前半

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 夕立の商店街。その喧騒を避けるかのようにある酒場の路地裏。そこには一台の黒いセダンと、その脇に佇む男。見た目は四十歳後半辺りだが、雨に濡れているせいで若干老けて見えているのかもしれない。その男は雨雲に両手を伸ばしまるで子供のように笑っている。その雲はとても不思議で、晴れている場所と雲がくっきり分かれていて、さらに夕日の赤が混じりとても幻想的なものだった。
「ついに、ついに見つけたぞ! 奴の情報は本物だった! 最高だ、最高の気分だ!」
 部下と思しき男が運転席から傘を持って飛び出した。だがそれを雨に濡れた男は制した。
「この気持ちのよい雨水をなぜ避けねばならない? これは特別なのだ。まさに神秘なのだよ」
「しかし、お風邪を引いてしまいます」
「ふむ。だが不思議と体は冷えない。体の内からふつふつ湧く、子供が新しい玩具を目の前にした時のような感情が、まるで熱を帯びたように感じられるのだ」
「……既に兵は手はず通りに。後は時間の問題です。はやる気持ちもよく分かりますが、体を壊されては元も子もありません。これからの事もお考えになれば、ここは一先ず」
「そうだな。年甲斐もなくはしゃいでしまったようだ」
「お気持ちは良くわかります」
「では行くとしようか」
「はい」
 徐々に雨脚は弱くなってきていた。雲と晴れ間の境目もぼやけてきている。黒いセダンは走りだす。目的は一つ、世界を手に入れるために。


          ◆◆    ◆◆    ◆◆    ◆◆

     

 病院の中は静かだった。病室には英正と生徒会長、そしてベッドで安らかに寝息を立てている上座の姿があった。部屋の外では先ほど駆けつけた長野の姉さんが見張りをしている。窓を叩いていた雨もいつの間にか止んで、夕日の光も徐々に陰り始めていた。
「覚悟は出来たか?」
 英正には彼女を守る覚悟はできていた。だが自分の中で渦巻く思惑や葛藤が何を示しているかよくわからなかった。それ以前に何故このような迷いが生まれているのか、それが疑問だった。だが途中で面倒くさくなり考えるのを止めて目の前で起こっていることに集中することにした。
「はいっ」
 締りのない上ずった声で返答した。生徒会長は少し苦笑いをした後に、ついて来いと出口へ促した。英正は上座の顔を一瞥し出口へと向かった。
「あら、もう行くの?」
「色々準備もあるしな。今日が日向野君のデビューだし、それは華々しくしないとね」
 生徒会長の言葉はいつでも緊迫性や真剣さを感じさせない。それをどう捉えればいいか分からず英正はただ下を向いた。
『大丈夫だ。こいつはお前をヒーローにしてくれる』
(そうは言っても……)
『ヒーローになりたいんだろ?』
(……)
 ここで問答を始めてしまうと、自分の覚悟が揺らぐ事になる。流されるままに生きてきた英正が自分で決められたこと、上座を救ってヒーローになると言う事は絶対に貫きたい。そう思った。
 病院の駐車場は雨で冷めた風が心地よかった。駐車場は車だけで殺風景だったが、そんな中一つだけ異質な存在感を放つコンテナトラックが一台あった。生徒会長は迷わずそのトラックの後部へ向かい、扉に備え付けてある端末に何やら喋りかけた。と、次の瞬間扉が徐々に開き始めた。段々と中が顕になるにつれ、英正の表情は驚きへと変わっていった。
「さあ、入ってくれ!」
『うおおおおおお! なんだこれ、なんだこれええ!!』
 中は最新の電子機器が所狭しと押し込まれており、奥には何やら電話ボックスのような空間がある。そしてそれを挟むように二人の男女が左右に備え付けられたパソコンに向かっている。
「言葉も出ないか! そうだろう、そうだろう!」
「せ、生徒会長さんは一体何者何ですかっ!?」
「はっはっはっ。今はそんな些細なことは今は関係ないだろう?」
『些細じゃねえな』
(黙ってよう)
 生徒会長の後に続き、恐る恐るコンテナに足を踏み入れた。機材の発する熱気と起動音に少し不快感を覚える。だがそんな中奥の二人は涼しい顔で作業にあたっている。
「佐々木様、準備の方は既に完了しています」
 左側の女性が画面に目を向けたまま感情のない口調で言う。
「おっ、そいつが日向野だな!? こっちもいつでもいけるぜ!!」
 対照的に右の男は暑苦しい。
「さっ、さっ! 奥に、ずいずいーっと奥にね!」
 背中をグイグイと押され、わけもわからないうちに奥の空間へと押し込まれた。
 

     

 奥の空間に入ると、直ぐ様透明な扉がスライドし閉じ込められる形になった。戸惑いを隠せない英正をニヤリと不敵な笑みで一瞥した生徒会長はコンテナの外に響くほど大きな声で高らかに宣言した。
「これより、ヒーロー創造計画を実行する!!」
 その言葉に引っ掛かりを覚えたが、そんなものを嘲笑うかのようにコンテナの装置は起動を開始した。数秒霧状の何かが噴射され、吸うまいと息を止めた。次の瞬間シャッターが降り空間全体が暗闇に閉ざされた。そして、一瞬眩い光が英正を照らす。それに驚き思わず情けない声を上げた。体中を何かが覆う感覚を覚える。重みはさほど無いが少し体が締め付けられている。
「さあ、ニューヒーローとのご対面だ」
 シャッター越しのくぐもった生徒会長の声を聞いた。次にシャッターがゆっくりと上がる。まるで特撮の演出をするかのように、ゆっくりと。
「全身に噴出されたナノマシンが、特殊な光により記憶された形状になる」
 薄暗いコンテナ内を照明が照らす。スタッフの男は感嘆の声を漏らす。自分がどうなっているのか分からずにいると、女のスタッフが徐に壁を指さした。そこには全身が映る位の大きな鏡が設置してあり、それを見た英正は自分の変わり様に声も出なかった。
「この技術を開発した者達は世界の進歩と発展を担う技術になるようという期待を込めてこう呼んだ」
 全身に装備された装甲。肩に装着された火器が目立つが、多分全身に何かしら装備されているのだろう。
「Progress(進歩・発展)-HERO、P-HEROとね」
 顔面に装備された装甲が丸で鬼の面のように見え、お面のヒーローにはもう戻れないのだろうと英正は確信した。

       

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