千文字前後掌編小説集
「我が娘成長記」
娘のココ(仮名)は現在八ヵ月半。一人でも数秒間立てるようになってきた。食欲旺盛、運動神経抜群、「まんまー」と言葉めいたものもほんの少し喋るようになってきた。しかしこれまでいろいろ大変なこともあったので、忘れてしまわぬようにここに記録しておく。
2012年11月某日
出生時の体重は3358g。帝王切開で産まれた為、出産直後は保育器の中。あまりにも物静かで心配だった為、後日大泣きしている姿を見て嬉しくなったことを覚えている。
生後一か月~二か月頃。
しきりに「うにー!」と叫ぶ時があった。ウニを食べさせるわけにもいかないので、海にウニを獲りに行く。ココは器用に針に刺さらず五匹掴み、殻を砕いて丁寧に中身を取り出した後、針だけ選んで私に食べさせてくれた。
とにかく寝かしつけるのも風呂に入れるのも空を飛ばせるのもまだまだ慣れていない頃で、常時寝不足だった。しかし私にはまだ仕事という逃げ場があったが、四六時中娘を見続けなければならない妻の苦労は、想像出来ないくらい大変なものだろうと思う。うとうとして寝過ごしてしまい、遅刻しそうな日にはココが背中に乗せて会社まで送ってくれたこともあった。
生後三か月~五か月頃。
野生が芽生え、狩りを覚え始める。公園での散歩で初めて犬と遭遇し、チワワにかかと落としを食らわせたのもこの頃。吠え立てるチワワに対し、「次は本気で行くぞ」というようにファイティングポーズを構えていたのが印象的。
寝ているかミルクを飲んでるか火を噴いているかだけだった頃と違い、様々な動きを覚え始める頃だから、嬉しさもあるがその分苦労も多くなる。河原沿いを散歩していた折、ふらついた僕が川に落ちた。ココが飛び込んでバタフライで泳ぎ、すぐさま助け上げてくれた。ずぶ濡れのままベビーカーに戻ったココはケロッとした顔をしていた。妻は大笑いしていた。
小さくなってしまったベビー服のボタンを、「ふんっ!」の一声と共に全て弾き飛ばしたのもこの頃。(※口に入れないよう、全て拾い集めました)
生後六か月~現在。
お座りが安定し、ハイハイのスピードもどんどん上がっていく。一瞬目を離していた隙に壁に突っ込んで穴を空けるのは日常茶飯事。100体以上の残像が一斉に泣き出した時はさすがに参ったが、可愛いからいっか、で済ませた。
あと通常のテレビ番組にはあまり興味を示していないのに(「おかあさんといっしょ」だけは嬉しそうに見ている)、CMになるとスイッチが入ってテレビ画面をじっと注視する。我が家では「お仕事始まりました」と言って、その隙に、風呂、飯、洗濯、買い物、掃除、結婚前に処分し切れなかったエロDVDの始末、小説執筆、などをこなしている。ごめん最後のはうまく出来ていない。
しかしこうして簡素にではあるが記していくと、毎日の忙しさに追われて、次々と成長し変化し進化していく娘について、既にいくつもののことが正確には思い出せなくなっていることに気付く。ココが言葉を覚えたらそれに振り回されることだろう。だってずっと「お父さん大好き!」と繰り返すことになるだろうから。
ここからは試しに娘にキーボードを打たせてみた。
〈愚か也。我が父は痴れ者也。我が母は昨日も今日も父を嬲っておる。それで父はへらりへらりと笑っておる。傷めつけられることに慣れているのだ。痛みという物に鈍感なのだ。それは強さであるか。否。それは長所であるか。否。ただの馬鹿なのだ。母もとうの昔にそう結論付けておる。父はよく私で妄想する。「今が一番可愛い時期ですね、ってよく言われるけどさ、うちの娘はこれから先もずっと可愛いんだよね。ね、今パパって言わなかった? パ、パ、ってなんかそれっぽいことなんとなくちょろっと言わなかった? え、言ってない? 妄想? いやそんなことないよほら今ココこっち見てる。うーうー言うてる、ほらもう一回、パ、パ、あ、痛い、痛いココ殴らないで。あは、あははは」頭がおかしいのではないだろうか。全くそのような妄想に現(うつつ)を抜かさずとも、私が父を愛しているのは当たり前ではないか。さて父を風呂に入れてくるか。〉
ではお風呂。
(了)
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