Neetel Inside 文芸新都
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千文字前後掌編小説集
お猿のダンス(Adventure Of A Lifetime)

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 森の中で音楽プレイヤーを拾ったチンパンジーがノリノリで踊り出し、バンドを組み、集団で踊り出す。Coldplay「Adventure Of A Lifetime」のミュージッククリップだ。
https://www.youtube.com/watch?v=QtXby3twMmI 
 娘が「お猿のダンス」と要求する時、この動画を見せる。英語の歌詞も適当に歌っている。気に入った曲があれば、初めて聴く曲でも歌い出す。ジャパハリネットの「哀愁交差点」https://www.youtube.com/watch?v=T7Dh4EOXGc4 を最初から歌えたのには驚いた。だけどおもちゃのギターで弾き語り始めるのは相変わらずエレファントカシマシ「今宵の月のように」なのはどういうわけだ。
 幼稚園に通い始めた娘は、同じクラスの「えみちゃん」が大好きで、ほぼストーカーのようになっている。入園式の写真に向かって「えみちゅわーん」と叫んでキスをしている。
子供向けの英語の動画が好きだった娘は、日本語と英語と関西弁をちゃんぽんで喋る。「パパこれ見て、OK? ほんまや!」「さよなら、シーユー、バイバーイ、気を付けてねー」「奥さん! 奥さん! ちょっとパパ、奥さん見てくるからここで待ってて!」妻がスーパーで買い物中にうろついていたホームセンターで、子供連れの奥さんを三人ほどナンパしていた。娘の性別は女だ。
 えみちゃんの母親はマレーシア人で、日本語の勉強中とのことだ。とはいえ、無口なパパさんよりよく日本語を喋っている。えみちゃんはまだまだ英語が多いようで、多分その辺りが娘の好みのど真ん中なのだろう。うちで見せている洋画や洋楽の動画ではあまり聴かない「イッツ・デンジャラス」というフレーズが、えみちゃんが我が娘に向けて放っている言葉ではないかと気になっている。

 今週の週刊少年ジャンプ「鬼滅の刃」第六十六話「黎明に散る」より
「君が足を止めてうずくまっても
 時間の流れは止まってくれない
 共に寄り添って悲しんではくれない
 俺がここで死ぬことは気にするな」

 妻のお腹の中で八週間生きた命を書いた「8 weeks beater」からもう五か月以上経つ。記憶と悲しみも日々の忙しさに紛れて薄れていく。生きている娘は大きくなっていく。妻のお腹にはまた新しい命が宿っている。前回前々回のラインは超えて十五週目に入っている。名前のことなど考えながら、一人目の時とは全く違っている環境に身震いもしている。あの時はまだ実家にいた。あの時には暴れ盛りの一人目はいなかった。あの頃は今よりもまだ早く家に帰れていた。私も妻も五年若かった。
「トゥナーアーアーアーアーイ ウィーアーヤーングー ソーレッツマイハイヤー ウィキャンフライヤー」
Fun.:「We Are Young」https://www.youtube.com/watch?v=Sv6dMFF_yts
を娘が歌う。私と同じように適当に。娘がまだお腹にいる時に知った曲だ。今になって聴かせると気に入ってくれてこちらも嬉しい。あとはレディ・ガガを見ながら尻を振って踊っている。四歳と七カ月の君はまだまだ若い。私は今年で三十七歳、妻は四十三歳だ。
 とりあえず早く帰れない一番の原因となっている、工場長からの説教タイムを減らすところから始めよう。

(了)

       

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