Hs(エイチ・エス)
ハイブリッド・ストレンジャー。
「はあい、そっれじゃあ授業終わります。」
先生が定例句を読みあげると、
チャイムの音が校舎に響き渡った。
4時間目が終わり、長い昼休みに入る。
そんなことなど気にせず、
僕は授業中を同じように机に向かった。
「またやってんのか、お前は。」
「ほどほどにしとけよまったく、」
「ノート貸さねえからな。」
須藤が隣のB組から飯を食いに来る。
なんだかんだ言ったって、須藤は
ノートを貸してくれる。いい奴だよ。
「お前がいつも書いてるそれ、」
「どこにも画像ないんだけど、もしかして」
「それってオリジナルなの?」
そもそも僕は授業を聞いていなかった。
勉強のために買ってもらったノートを
落書きのために費やしまくっていた。
「どのやつが好きなの?」
「とりあえず、クチのもん飲みこみなよ・・・」
口いっぱいに詰め込みまくった
須藤の顔は、ハムスターのそれに
そっくりだった。
「どれが好きってのはない。」
「でも、ごつい方が好き。」
「ふーん。」
「その辺は、父さんが結構カラダが
しっかりしてるからって所からきてる。」
「父さん好きなんだな。」
「・・・・まあ、ね。あと、
僕は、細身のカッコイイやつが好きじゃない。
ああゆうの駄目なんだ。
なんか、理不尽な感じがするっていうか。
ムキムキな人のからだってさ、なんか
すっげえ頑張って作った肉体って感じするじゃん。
なのにそれをあっさり凌駕してさ、
カッコイイ台詞をいって、それでおしまい。
なんか面白くないじゃん。」
昔は何も気にせずにかいていた。
仮面ライダーが好きで、俳優にイケメンが
使われていて、とか、そういう背景を
まったく気にせずに楽しんでいた。
ある時期から、僕の中のヒーロー象から
細い人が完全に消えてしまった。
「なんで?」
「なんでだろうね。」
一区切り終えて、僕も弁当を広げる。
「あ、ブロッコリーあんじゃん。くれくれ」
僕の弁当箱にあったブロッコリーを拾い上げた。
野菜が食べられない僕にとってはとても
助かることだった。そういった意味でも
昼休みの須藤は助かった。
「須藤はさ、」
「本当に悪の組織みたいなのがあったとしてさ」
「そいつらって、どんな奴だと思う?」
「えっ、俺? そうだなあ・・・・」
「すっげえ理系なんじゃね?俺山岡すげえ嫌いだし!」
「なんかいいな、それ!!」
思わず指さしてしまった。
相槌をうちながらひたすら笑った。
しかし、本当に
山岡みたいなやつらだったらいいのになあ
頭の片隅でぼーっと考えてしまう。
僕の悪と、須藤の悪はやっぱりイメージが違っていた。
「よくできたな、お前はほんっと優秀だ!!」
黒板の問題を解いた山岡は、
先生に誉められると、なんだか
けむたそうな顔をして
席へとむかった。
山岡のことを、須藤が次の様に話した。
「なんつーんだろう。うーん・・・
ただの優等生だったら、目にも
止まらない感じで、なんも喋らないで
特に関わりもない感じで終わるじゃん。
生理的に受けつけないとか、
そういう言葉で片づけたらそれまで
かもしれないけど、とにかく雰囲気が
なんか好かないね。あっ、」
思い出したような顔をして須藤が続けた。
「数学の授業あてられたときにさ、
もう全然分からなくて、馬鹿やったら
なんとなく許されるんじゃねって思って
軽くふざけたんだ。そしたらすっげえ
先生に怒られてさ、出てけって
言われたんだよね。そんときに山岡が
一番前の席に座ってて
ちらっと眼が合ったんだ。」
「すっげえ気持ち悪い顔でにやにやしてたんだよ。」
「それまでさ、俺、嫌いなやつとか
別にいなかったんだ。たしょう苦手な奴とか
はいたんだけど、不快って感じにまでは
いかなかったんだ。合わねえのかな、くらいの。
あの日のそれ以来から、なんとなく
山岡が目の中に入ると、軽くいらついてるんだよね。」
「やめようやめよう、なんか昼休みもったいない。」
頭をぐしゃぐしゃとかきむしる。
「しかしそんな当てつけみたいな理由だとは・・・」
「いやあ、俺も思うわ。」
「でもなんか、考えれば考えるほどドツボ。」
ちらっと山岡に目をやった。
机にむかって何かをつぶやいていた。
僕もこいつを嫌いになりそうになっていた。
先入観おそろしや。