Neetel Inside ニートノベル
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カスタムロボOriginalNovell
10『マイ・ルール』

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 目を覚ますと、そこには白い天井が広がっていた。
 どこだここは、と辺りを見渡し、隣のベッドに眠るミズキを見つけた。どうも病院らしい。俺はミズキと二人部屋に寝かされていた、というわけだ。
 確か、サスケに負けて、気を失ったんだったよな。
 違法パーツか。……ああいうのもあるんだな、カスタムロボってやつは。くそったれめ。同じ条件でやったら絶対負けねえのに。
「――あ、セイジ!」
 イライラが募って、頭がどうにかなりそうな時、病室のドアが開いてアキラが現れた。
「よう、アキ――」
 軽く手を挙げ、無事だと告げようとしたが、それを遮るみたいにして、やつは俺に抱きついてきた。
「セイジぃぃぃぃ! 無事だったかぁぁ!!」
「うわぁぁぁ離せ鬱陶しい!!」
 なんとかアキラを離すことに成功し、ベッドの傍らにあった椅子に座らせた。
 泣いてる所を見るに、本気で心配してくれていたようだ。ちょっと照れくさくて、俺はぶっきらぼうに「ここはどこだよ」と口にする。
「ポリス隊の病院。俺が通報したら、すぐ来てさ。――あ、あの倒れてたポリス隊の人は無事だったって。ミズキもハーフダイブの疲れだから、気にするな」
「そうか」
 その時、病室のドアがノックされた。返事も待たずに開かれると、入ってきたのはポリス隊の制服を着た女性だった。黒い髪をポニーテールにした、モデルのように長身でスレンダーな大人の女って感じ。
「――おや、目を覚ましたようだね、セイジくん?」
 彼女は入ってくるや否や、俺に笑いかけてくるが、誰だかさっぱりだ。
「この人はミヤコさん。俺達をここに運んでくれたのはこの人なんだ」
 アキラの説明でようやく合点が行った。ミヤコさんはアキラの隣に立つと、俺の顔を覗き込んでくる。美人さんにそんなことされると、正直恥ずかしいので、俺は反射的に顔を鼻の頭くらいまで布団で隠した。それがどんな笑壺を刺激したかはわからないが、ミヤコさんがクスっと笑う。
「ふむ。異常は無さそうだな……キミは、違法パーツの使い手と戦ったんだろう?」
「……ええ」
「最近ポリス隊狩りを行っている、サスケという青年だな。――まったく。そんな相手と戦ってその程度で住むとは、キミはどんな鍛え方をしてるんだ?」
 鍛えた、というのが具体的にどの行為を差しているのかはわからないが、恐らくはカリンさんのおかげだよな。恐るべし、とも言う。
「これに懲りたら、次からは逃げるように。違法パーツは人の命を奪うこともあるんだからね」
 それは恐ろしいですね、次からは気をつけます。
 みたいなことを言って、俺は愛想笑いを見せた。本音はもちろん、次は必ず勝つだ。
 ――まあ、命が危ないらしいのはちょっと肝を冷やしたが。越えた橋だし、また渡る橋だ。見なくていいだろ。
「……ところで、ミズキは元気かな」
 突然ミズキの名を口にしたミヤコさんに、俺とアキラは思わずミヤコさんの顔をマジマジと見てしまった。
「……少なくとも、今は元気じゃないですね」
 病院のベットに寝転んでいるのを元気、とは言えないだろう。
 ミヤコさんは、「なるほどね」と呟いて額を押さえた。こういう軽口に乗ってくれるというのは、どうも良い人っぽいな。ポリス隊だからかね?
「ところで、セイジくん――かな? キミは、サスケと戦ったんだね?」
 頷くと、ミヤコさんは黙って俺にデコピンした。
 鍛えているからなのか、デコピン一発なのに妙に痛い。
「……まったく。相手は違法パーツ使い。ポリス隊員でさえ手を焼く相手だというのに、無茶をする。――無事でよかった」
 今日はじめて会ったというのに、ミヤコさんは本当に心配してくれているのか、顔が沈んでいる。その所為で、俺の気分まで沈んでしまう。柄にも無く反省してしまう。
 ――しかし、俺はそれでも、またサスケと戦いたいと思っている。やつにカスタムロボのなんたるかを叩きこんでやりたいと思っている。たとえ違法パーツを使われようと、だ。
「にしても、キミはすごいな。違法パーツの攻撃を受けて、その程度で済むなんて……」
 ミヤコさんが、俺の身体を値踏みするみたいにジロジロと見てくる。この人はなんていうか、遠慮しない人だよな。
「ああ、それはあれっすよ。セイジは一般人より精神力が高いんです」
 答えられないで居ると、代わりにアキラが答えてくれた。
 精神力が高いと違法パーツの影響って少ないのか、その因果関係がわからない。後から訊いた話だが、アキラによると、それも精神力の高さがなせる技らしいが。
「ふむ? そうなのか。だったら是非、学校を卒業したらポリス隊の試験を受けてみるといい。そうすれば、合法的に犯罪者と戦えるぞ」
 ――なんか、ミヤコさんの中で俺が、『犯罪者を懲らしめたい正義感の塊』みたいになってるんだけど。気のせいかな。絶対違う気がするんだけど。
「……おっと。そろそろ時間だ。君達はもう帰ってもいいぞ。ミズキが目を覚ましたら、よろしく伝えておいてくれ」
 時計を見ながら立ち上がり、それだけ言うと、ミヤコさんは病室から出ていった。
 その背中を見送って、俺とアキラの視線が交わる。
 どうしよっか? と二人のアイコンタクト。ポータブルホロセウムもあるし、ミズキが起きるまでバトるかー、と二人キューブを取り出す。その瞬間、ミズキが勢い良く上半身を起こした。
「うお……お前起きるタイミング良すぎ」
 アキラの苦笑に、ミズキは不機嫌そうに顔をくしゃっとして、舌打ち。
 ちなみに寝てたので、フードは被っていない。
「起きてたわよ。……ミヤコさんが入ってきた辺りから」
「そうなのか。ミヤコさんよろしくって言ってたぞ。知り合いなんだろ?」
 俺の言葉はなにかしらの逆鱗に触れたらしく、ミズキは思いっきり俺を睨む。背中がゾワッとする。あいつ地雷がわかりづらいよ。
「知ってるだけ。私、あの人嫌い」
 ポケットの中をまさぐり、中に目的のモノがなかったらしく、辺りを見回し、ベット脇にある引き出しの上でアメを見つけると、その包みをやぶいて咥え、口の中で転ばす。白い頬に小さな丸い膨らみができ、それをこっそり見ていると、奴はベットから降りて靴を履く。
「帰る」
 少しだけ早足で病室から出ていく奴を追うように、俺たちも病室を出た。


 ポリス隊病院から出ると、外はもう夕焼け。夕焼けになったら帰ろうなんて歳でもないが、俺たちはもうどこかで遊ぶ気なんてならず、各々家に向かって勝手に歩いていた。
 途中でアキラが別れ、俺はミズキと二人、夕焼けの道を、影の示す方向に歩く。
 あいつがなにも話さないから、俺は思わず「ミヤコさんとなにかあったんか?」なんて訊いてしまった。
 だってさ、勝手に不機嫌になって、俺に気まずい思いをさせるなんてのは、勝手すぎるよな。
「……あたしのハーフダイブは知ってるわよね」
 さっき見たからな。
「ロボティクス犯罪の犯人を検挙することにおいて、これ以上に便利な能力なんてないわよ。犯人の顔が直接見れるんだから。――だから、昔っから、警察にはよく会ってた。……嫌がる私に、何度も何度もハーフダイブを強要してきた。『犯人検挙の為だ』『正義の為だ』って、勝手なこと言って。意識が飛ぶまで何回も」
 訊いてはいけないことを訊いたな。
 思わず頭を掻いて、「あー」とか「んー」とか言いながら、ちらっとミズキを窺う。
 フードに隠れてよくわからなかったが、夕焼けに反射するモノが、顔に流れている様に見えた。――思い出して泣いているんだろうか。
「……だから、私はポリス隊が嫌い。あいつらの正義なんて、信じてない」
「そうなんか? でもお前、今日ポリス隊員が倒れてるの見て、迷わずハーフダイブ使ったじゃん」
「や、それはほら、あそこで使わないのも、後味悪いし……」
 俯いてなにやらごちゃごちゃ言ってるが、こいつはつまるところ、『イイヤツ』なんだな。
「ははははっ」
 それに気づいた瞬間、俺は思わず笑ってしまっていた。
「――え、何笑ってんの? 今笑うとこなんかあった?」
 割りとマジで怒ってるらしく、フードの向こうからでも氷の視線を感じることができた。
 俺は掌を壁みたいにつきだして、怒るなとジェスチャーする。
「悪い悪い。悪かった。――いや、別に悪意はねえよ。お前がイイヤツだな、って思っただけさ」
「……なにそれ?」
 氷の視線がお冷くらいにはなったかな。
「お前、結局ポリス隊助けてんじゃん」
 俺の一言から、二秒くらい間が開いた。そして、ミズキは舌打ちして、ポケットからアメを取り出して俺に差し出し、受け取ると早足で歩いて行ってしまった。
「……あいつ訳わかんねえなあ」ポリポリと頭を掻いて、俺は再びミズキを追いかけた。
 もしかしたらこのアメは、あいつなりのお礼なのかもしれないな。
 考え過ぎかな?


  ■


 結局ミズキは待ってくれなかった。
 俺の家についてしまったので、先を歩くミズキに「またなー!」と少し大きめの声で別れを告げて、家に入ろうとした時。ポストからはみ出す白い封筒を見つけた。
 取り出して差出人を見てみると、『アヴァロン実行委員会』と書かれていた。
 開くと、中に入っていたのは、トーナメント表とアヴァロンが行われるマリンパークのチケットだった。名前の知らないカスタムロボがポーズを決めている写真がプリントされたそれより、俺はトーナメント表が気になったので、折りたたまれたトーナメント表を開く。

第一試合『サリー&エリー』VS『カズマ』
第二試合『ミズキ』VS『ロボキチ』
第三試合『ナナセ』VS『リヒト』
第四試合『ジロウ』VS『ユリエ』
第五試合『ミナモ』VS『セイジ(特別枠)』

 トーナメント表には、そう書かれていた。
 ミズキとカズマの名前が入ってるな。――あいつら、別の参加条件をクリアしたんだな。やっぱすげえや。――さすがに、ミズキと決勝で当たる、なんていう運命のいたずらは今回はないものの、またやれるかなーと思うとワクワクする。
 っていうか、俺の名前の後ろに書いてある特別枠ってなんだ?
 あと、なんで一回戦第一試合のやつだけ、『サリー&エリー』ってコンビ名っぽいんだよ。
 ……いろいろ突っ込みどころはあるものの、まあ行ってみりゃわかるか。
 手紙をポケットにしまい、ドアを開けた。
「ただいまー」
 …………あれっ?
 いつもならまっさきに出迎えにくる妹一号二号が来ない。
 あいつらが俺より帰り遅くなるなんてあるのか。意外だ。
 そして、それにしっくり来てない俺が居るのも意外だ。
 靴を脱いで、階段を踏みしめるように上がって、二階一番奥の自室に入ると、ベットに向かってダイブを決めた。
 ダイブっていっても、ロボを動かすわけじゃなくて、落ちるって意味だからね。
 病院でたくさん寝たはずなのに、今日はとにかく疲れた。
 もう寝てしまおう。晩御飯までに、誰か起こしてくれるだろ……。

       

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