Neetel Inside ニートノベル
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かみきさんの青春
第2話 友達作り大作戦!

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 小鳥のさえずりが聞こえる朝。時刻は八時二十分。
「んー? ああ、八時二十分かぁー」
 寝ぼけていた慎吾は、目をこすり、その場においてある目覚まし時計を再度確認した。
「……………」
 慎吾の思考が一瞬、完全停止した。
「って、えええええええええええええええええええええええええええ」
 慎吾の思考が動き出した。
 現在時刻は約八時二十分。朝のHR(ホームルーム)が始まる時間が、約八時四十分。ここから、慎吾が通う『東宮丘高等学校』まで徒歩で約三十分。単純に計算すると
――遅刻である。
「あばばばばばば」
 慎吾は迅速と呼ぶに相応しい速度で着替えをすませ、電気を消すのも忘れて家を出る。


     ***

「はぁ……はぁ……」
 荒い呼吸をそのままに、慎吾は自分の右腕についている腕時計を確認する。時刻は八時三十八分。どうやら全力疾走した甲斐があったようだ。
 慎吾はニヤリと笑うと、古びた教室の引き戸を勢いよく開け、自分の席に着く。
 
 HRが終わると、早速慎吾は実喜太に命じられた(?)作戦に移る。それは挨拶をして友達を作るというなんとも可愛いものであった。
「お、おはよぅ」
 慎吾は、黒板消しで黒板を拭いているクラスメイトに挨拶をする。が、慎吾の挨拶はクラスメイトの耳に入っていないようだ。

「お、おはよ」
 数多のクラスメイトに挨拶を試みるが、一度も返事が返ってない。大体は警戒した目で見られて終わりだ。
 つまりこれは作戦失敗ということだろう。
「く、くそう……大嫌いな挨拶までやったというのにいい」
 慎吾は心の中で叫ぶ。それに、よく考えてみると、実喜太は挨拶で友達ができるなどといったが、挨拶をされただけで友達になる物好きな人などそういない。だったら挨拶のあとの会話はどうだ!? と慎吾は考えたが、慎吾のコミュニケーション能力は乏しいため、それはムリである。つまり、会話全般は無理なのである。
 

     ***


「さよならー」
 学校の帰り道、慎吾はいつものように常人には見えるはずの無い物体と挨拶を交わす。
「ああああ、これがいけないんだあ」
 慎吾は幽霊に挨拶する自分に自己嫌悪した。
 すると、慎吾の背後から聞き覚えのあるような声が耳に入ってくる。
「あんたまたやってんの?」
  振り向くとあきれた表情で慎吾の方に視線を飛ばしている一人の生徒が目に映った。遠沢麗だ。
「またやってるって……なにが?」
 慎吾は麗の顔をのぞきながら言う。
「だぁから! 幽霊ごっこよ。幽霊ごっこ。高校生にもなってそんなことやってるから友達できないのよ!」
 どうやら麗には、慎吾が一人で幽霊ごっこをやっているように見えるらしい。
「幽霊ごっこじゃねぇよ! 本当に見えてんだよ! まぁ……証拠という証拠はないから、信じるのは自由だけどな。あと友達できないってのはおまえに関係ねぇだろ!」
 慎吾はなげやり気味に言うが、麗に幽霊ごっこをやっているように見えるということは、そういった見解をしている人も少なくはないということだろう。普通は幽霊ごっこをやっている人に話しかけたいとは思わない。つまりそういうことなのだ。
「はぁ……そうですか」
 麗は無感情な声でそういうと校門を抜け、早足で帰っていった。
「……またばかにされ……た?」
 慎吾は放心状態のままつぶやく。


     ***
 

 慎吾は家に帰ると真っ先に実喜太に文句をつける。
「おい実喜太!!」
「な、なんだ?」
 慎吾に怒鳴られ、実喜太はのけぞる。
「と、と、と、と」
「と? と、ってなんだよ?」
 実喜太は眉間をひそめる。、
「友達できなかった……」
 慎吾は肩を落として、完全に威勢がなくなった声でそういった。
 そんな慎吾の有様を見て、実気太は困惑した表情を浮かべて言う。
「そ、そう落ち込むなって。それにまだ方法はあるぞ!」
 実喜太が苦し紛れにそういうと、落ち込んでいた慎吾の顔がキラキラと輝きだす。
「ほ、本当か!!?」
「あ、ああ本当だ!」
 本当はほかに方法はないが、実喜太は慎吾の悲しげな表情を見たら、なぜだかなんとかしてやりたくなったのだ。
「どんな方法だ!?」
 慎吾はうれしそうに目を光らせ、身を乗り出して問うた。
「そ、それはだな、えっとなぁ……とにかく積極的にアタックすることだ」
「アタック?」
 慎吾は疑問そうに首をかしげる。
「そうだな、移動教室一緒に行こうぜ! とかいろいろ積極的に誘ってみるんだ。どうだ?」
「それいいな、早速明日からやってみるぜ」
 慎吾は右手の親指をピン、と立てた。それを見た実喜太はうれしそうに微笑む。

 
    ***


「ってことで、移動教室一緒にい、いかないか!?」
 そう怒鳴り散らすかの様に言うのは、慎吾である。
「べ、別にいいけど……」
 慎吾にいわれて、困った顔で慎吾に対応するのは、同じクラスの生徒である澪園勇太郎(みおそのゆうたろう)である。
 彼の容姿は非常に勉強ができて、スポーツが苦手そうな生徒そのものであった。つまりガリ勉強君のことである。か細い腕、そして無駄が無く綺麗に整えられた髪。さらに黒縁メガネ。本当に典型的だ。
 反対に慎吾の容姿は、癖毛でぼさぼさの髪に、童顔。そして低い身長。勉強ができなさそうな顔。正反対といっても過言ではないだろう。

「ねえ神木くん」
「え? あっ」
 不意に話かけられたコミュニケーション能力が乏しい奴は焦りの声をあげる。
「神木君って幽霊とか……興味ある?」
「え? あ、うん」
 というか見える。
「今度うちに遊びに来ない? 心霊写真とか見せてあげるよ!」
 よくわからないテンションで勇太郎は慎吾を誘う。その顔はすごく輝いていた。
「お、おう。いってやらんこともないぞ」
「じゃあ明日これる?」
「べ、別に大丈夫だが」
「だったら明日ね!」
 約束が成立する。中学生の時の三年間、放課後友達と遊ばなかった、というか遊べなかった慎吾にとって、これは貴重な約束である。


     ***


「――ってことなんだがな」
「おおおおお! よくやったな慎吾!」
 慎吾が遊ぶ約束をしたことを話すと、実喜太はベッドの上を飛び上がりながら喜ぶ。
「そ、そんなよろこぶなって……恥ずかしいだろ!」
 

       

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