Neetel Inside ニートノベル
表紙

アンチヒーロー・アンチヒール
5-7 カウントダウン

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「いやー、うつろーは運がいい奴だなぁ。このあたしと鈴奈ちゃん、二人の美少女と共に下校できるとは。両手に花のラブコメ主人公状態、まさに青春ってカンジだね!」
「……片方は花って言うか食虫植物だけどな……」
「うつろー貴様! 鈴奈ちゃんをハエトリソウ呼ばわりするとはどういう了見だ!」
「お前の方だよ! っていうか何で聞こえるんだよ今の声量で!?」
 やんややんやと口喧嘩しながら歩く二人を、無口な私が斜め後ろから眺める形になります。
 服部くんは気弱なように見えますが、実際に話してみると(と言っても主に彼と喋っているのは春海さんですが)、
 結構強気の口調になったりもするようです。春海さんが話しやすい人だからかもしれませんが、以外な一面でした。
「ほら、うつろーがアホなこと言うから鈴奈ちゃん無言になっちゃったじゃん。あーやまれ。あーやまれー」
「ご、ごめん……って僕のせいじゃないだろ! ああ、でも、本当に気を悪くしてたらごめんね……」
 私への態度を見るに、やはり春海さんが特別と言うか、話しかけやすいからなのかもしれません。私と違って。
 
「いえ、私は元々根暗ですから。おかまいなく」
 
 ……ほら、言ってしまいました。
 こうやって、話を振られても場を凍らせるような事を言ってしまうのが私です。
 コミュニケーション障害、と呼べれば救いはありますが。
 私は、人間ではありません。怪物です。
 人の肉をむ、卑しき畜生です。私の本性を知れば、人は恐怖し石を投げることも忘れて逃げ惑うでしょう。
 他人を欺き、人間のふりをするならば……なるべく目立たずに、近づく人を遠ざける方がまだマシだと思っています。
 たとえそれが、自己満足だとしても。
 
 なんて声をかければいいのかわからずに中途半端に手を伸ばす服部くん。彼には悪いことをしましたが――
「ひゃわっ!?!?」
 今のは私の声です。
 あまりにも唐突に脇腹に刺激が来たものだから、飛び上がって変な声を上げてしまいました。
 一体何が、と後ろを見ると。
「自分のことを根暗だなんて言うものじゃあないよ、お嬢サン」
 私の脇をくすぐってしたり顔をする、春海さん。
 何だこいつと言った目を向ける私に、にひひと声に出して肩をぽんと叩いてきます。
「なーんて、ごめんごめん。鈴奈ちゃんがさ、なんか辛そうって言うか、人生に悩んでそうに見えたからさ」
「いえ、そういう性格ですから……」
「そうかな? ……なんかさ、あたしと似てない、鈴奈ちゃん。どこが……って言われたらアレだけどさ。なんというか、ふぃーりんぐ? 的な」
 「は? どこもかしこも上から下までこれっぽっちも近しい場所が見当たらないと思うんだけど……」
 眼鏡をくいと上げて疑問を口に出す服部くん。私も同意見です。
 性格や思考は真逆で、身長や体付きも結構違います……具体的にどことは言いませんが。共通点は、どこにも見当たりません。
 人間であるかそうでないかさえ違うのに。同じなのは、同年代の女子というくらいでしょうか。私を女子と呼べるならの話ですが。
「女の子に向かって上の口とか下の口とか言うな! ヘンタイがッ!!」
「グッフォ……ッ! 言ってないし、どんな過剰反応だよ……!? 下ってアレだよ、爪先だよ爪先……!」
「爪先で興奮したのか……ッ! なんてハイレベルなッ!!」
「この人日本語が通じない……!!」
 どつき漫才する二人が、私には眩しく見えます。

 私が怪物になったあの日から、もう七年にもなります。
 元からあまり明るい性格とは言えない私にも、人間だった頃はそれなりに友達はいました。
 色恋沙汰の話で盛り上がったり、大人の真似をして互いに化粧をして見せ合ったり。
 そんな、他愛もないことが、何よりも楽しくて。
 将来はどんな大人になれるんだろうと、想像を膨らませていました。
 今の私には、普通の人間としての未来も無ければ……普通の少女としての今さえない。
 修学旅行にでも行ってカイトくんと二、三日離れたりなんかすれば、お手軽に惨劇が出来上がります。
 視界が、手が、口元が、口内が。赤に染まった光景は。
 想像するだけで自らの心臓を食い千切り、命を絶ってしまおうかと考えるほどです。
 人間の友達を作ること。同年代の子供と遊ぶこと。
 そんな簡単なことが。私にとって、何よりも難しいので「あ、そう言えば今週末二人ともヒマ? よかったらさ、遊びに行かない? 引っ越してきて知ったんだけど、なんかこの近くにちょっとした遊園地みたいのあるらしいじゃん?」
 私の独白をガン無視して(独白なので当たり前ですが)突然遊びに誘ってきました。
 なんなんでしょうこの人。いや、善意でしょうし悪い気はしません。
 それでもなんなんでしょうこの人。
「僕は一応空いてるけど」
「はい一人参加けってーい!」
「行くとは言ってないぞ!?」
「鈴奈ちゃんは?」
「おい!?」
 
 遠慮します。
 と、言うはずでした。
 言わなければいけませんでした。
 ……でも。

「楽しいよ、きっと。なんたって、あたしが一緒だから」

「あ――」
 根拠の無い自信に満ちたその笑顔は、笑った顔なんてまともに見せてもくれないあの人に似ていて。
 私の首は、ほとんど無意識に縦に動いていました。

「決定、だねっ」

















 ●









「『コネクト・シックス』と『アルティマ・セブン』、『リジェネレーション・エイト』が敗北した、なんてねぇ。灰塵衆……侮れないなぁ」
 大将が、モニターを見ながら呟く。
 状況をどう見たらそうなるのか、口元はひどく歪んでいた。楽しそうを通り越して、嬉しそうですらあった。
『若作り』をしてまで手に入れた端正な顔だが、その笑みは不気味の一言だ。
「継戦能力にリソースなんて割くからそうなるんだよ、大将。あんな失敗作カスどもなんかじゃなく、あんたの最高傑作をとっとと使えば手っ取り早いのに」
 と言って俺は壁にもたれかかった。
「確かに君は強いよぉ、私の作品の中でも指折り……だけどねぇ。いきなり出すのはつまらないかと思ってさぁ」
「なーにボケてんだ大将。指折りじゃなくてトップだろ? ……ま、『千』を含めなければの話だが……」
 俺の言葉を聞いているのかいないのか、大将はモニターの熱源反応を食い入るように見つめている。
 小さな驚きの表情。から、徐々に。口端がどんどん吊り上がって行く。
 その表情は深淵を腐らせて煮詰めたような、悪意の塊。あんなもの、死神だって素手で触りたがらないだろう。
「……おやおやぁ。これはこれはぁ……予想以上に、面白いことになりそうだねぇ……!
『ベルゼブル・ワン』がターゲットの一人と接触しちゃったみたいだよぉ……!!」
 その名を聞いた途端、俺の『衝動』が活性化するのを感じた。
「あれが、か? ……チッ、随分あのメスガキをお気に入りのようだな。俺は閉じ込めときながら奴は放置、何のつもりだ……」
「家族のつもり、かなぁ……? あの子は可愛い可愛い、私の妹……って言ったらぁ、どう思うぅ?」
「引く」
「よしぃ、んじゃ、まぁ、そろそろ君にも動いて貰おうかなぁ」
 何がよしぃなんだ。
 そうは思ったが、そんなことはどうでもいい。それよりも俺は出番が回ってきたことに昂る。
 ああ、久々だ。
 久々に――

 
「『カーネイジ・ツー』……今週末からお披露目と行こうじゃないかぁ。灰塵衆も裏切り者も、みぃんなまとめて……」
「ブチ殺してブチ殺してブチ殺して――『殺戮欲』を持ってる幸せを、世界にお裾分けしてきてやるよ」
  
 吐き気を催すほどにクソ気持ち悪い大将の笑み。
 俺は存外――『好きじゃない』。

       

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