音を置き去りにしたまま、滑らかにカーブを描く紅色の曲線が幾重にも奔る。
桝田の右腕が描いた、赤熱の軌道。
それらは
瞬間。
赤い線は、爆焔と化した。
「俺の
業務用の電子レンジの中にぶちこまれたような熱波の中、ぶしゅうと蒸気を排出する腕を振るって桝田が格好をつける。
柏木の『超能力』と同等の世界。俺も魔剣を手にしたせいか、どうにか目視することはできた。
が――桝田が俺の敵だったら、今の一撃であっけなく殺されていただろう。
「判断力、ゴミ。反射神経、カス。協調性……は隊長よりは上か。普通に。
ま、何にせよ……こんな糞カスゴミクズフンコロガシの群れを柏木隊長と一緒にするのはセンスを感じねぇな。
こんなポンコツ連中、そこの新入りの白金でも余裕だぜ? な、白金!」
「お!? お、おう……」
突如振られて挙動不審になる俺。
いや、正直勝てる気がしないんだが……。
それに俺は灰塵衆ではないが、状況的に黙っていた方がよさそうなので否定をしなかった。
十二体の量産型は、一人残らず地に伏していた。
数体は生きているようだが、四肢を切断されて動ず、子供に玩具にされた虫のように蠢いている。
和田はそれの一体に近付いて、足先で転がす。
「なるほど、超がつくほどの高熱で強引に傷口を癒着させたってかッ! てめぇ、再生力の高いニナカワ
そう言って桝田に笑いながら、ぐしゃりと何でもない事のように量産型の頭蓋骨を踏み砕いた。
こいつ、仲間を……!
憤り、一歩を踏み出す俺の肩を、桝田が掴んで制止した。
「待て白金。落ち着け……『踏み砕いた』? 怪人の頭を……あいつは……」
「……?」
止めた後何やら呟いたのを訝しむも、何事もなかったかのように桝田は和田に答える。
「ああ、自己紹介の途中で襲われたんでな。改めて名乗ってやる。
俺は灰塵衆第二連隊隊長にして最高幹部『四枚刃』が一人、桝田双道。
またの名を『
超かっこいいかどうかは別として、こいつの実力は生半可なものではない。
腐っても、クズでも、動画再生数が二桁でも……柏木の後任を任されるだけの事はある。
「……まさか、オーバートランスを使えるとはな……その右腕、興味深い」
桝田の魔剣を見ても表情一つ変えないまま、宮越がこちらへ歩き出した。
「『ナンバーズ』の三人を屠った武人に相見える事ができず残念だと思っていたが……思わぬ収穫だ」
「笑わせんなバイク王。セン隊長が来たら『アフターペイン』とか三秒で『アフターペイン跡地』に早変わりだぜ」
ざり、と桝田も宮越へと歩を進める。
気がつけば、戦う相手は半ば決まっていた雰囲気だった。
そして俺、
「白金、油断すんな。あっちの頭の悪い方
「!」
言われて、俺はにやにやと含み笑いを向ける和田を見据える。
「ま、こっち片付けるまで生きてたらアドバイスくらいはしてやるよ。ぶっ殺してこいや」
「ぶっ殺しはしない、が」
一旦区切って、俺は闘志を露わにする。
「……ぶちのめしてやる」
桝田の魔剣に共鳴しているのだろうか、右手が疼く。
そのにやけ面の鼻先に拳撃を見舞うべく、俺は和田へと疾駆した。
●
……と、格好つけてみたはいいが。
どうするかなー。どうするかねー。
いやだってさ、アレじゃん?
今更ボス呼ぶのもなんかかっこ悪いっつーかダサいっつーか。
んー、まぁ、大丈夫だろ。
いけるいけるの精神。やったれやったれの心意気。
「……変身」
俺の10m程前で、バイク王が変形してバイクになった。じゃなかった、変身した。
んー、見た感じは柏木隊長と似てるな、やっぱ。
あまりゴツさがなくてシャープになった? 的な?
しっかし――
そこで俺の意識は一瞬途切れた。
ブラックアウトした視界が急に元通りになる事でまだ命があることと首から上が残っていることに安堵と言うか焦燥と言うか、まあそんなことを思ってる内に。
「……まさか、それで終わりじゃないよな?」
バイク王が、心臓を抉り取るような鋭利なバイク王キックを俺の胸にぶち込んできた。
だよな。やっぱそうだよな。そうだと思ってた。
頭の悪い方は雑魚だが――こいつ明らかに、俺より強いよな。
そうだと思ったんだよ。
なんて言うか、あれだな。あれあれ。
「ひっ……
ひはっ、ははっ、はははははははははははッ!!!!!
あーっはっはっはっっはっっはっっはっっっっっっっっはァッ!!!!!!!」
超ウケる。