Neetel Inside ニートノベル
表紙

第3帰宅部
帰宅部の認識

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俺は動物園が嫌いだ。
でも小さい頃、親父に一度だけ連れて行ってもらったことがあった。
その時親父はライオンの檻の前で俺にこう言った。
「ここにいるやつらみたいになるなよ」
そういえばその日、俺は親父に捨てられたっけか。



まだ梅雨の明けきっていない6月の放課後、教室で幼馴染を待っている俺に天敵が声を掛けてきた。
いや、浴びせてきた!
「佐々木君! あなたいいかげんに部活に入りなさいよ! 校則でしょっ」
天敵は腕を前に組み仁王立ち。
今日こそは逃がさないという意気込みがそのポージングから伝わってくる。
「だから何度も言ってるだろ。俺は病弱なの。もやしなの。だから部活はできないの」
天敵の鋭い眼光から目をそらしながらめんどくせーって感じに言ってみた。
「私見たわよ! 昨日の朝、志野内さんと一緒にランニングしているところをね! 」
ビシッ!っと自信満々に俺を指さす天敵。
お前はどこの名探偵だ!
とツッコミをいれたくなる。
というか、なぜこいつが朝っぱらに川原で起きた一件を知っているんだ?
確かに俺は昨日、小夜のダイエットに付き合ってやった。
しかしそれは早朝5時のできごとだ。
まさかこいつは俺の揚げ足を取るためだけに早朝から俺を監視でもしているのか?
もしそうだとしたら、こいつも少しはできるようになったな・・・
じゃなくて、普通に怖いぞ。
だから詳しい経緯は聞かないでおこう。

三(さん)建(だて)花(か)蓮(れん)。
風紀委員であり学年のアイドルであり俺の天敵である。
入学から2カ月、こいつは何かにつけて俺に突っかかってくる。
まぁ、ファーストコンタクトがよくなかったのかもしれない。
俺もあの一件から学んだことは多い。
まぁ、そんな話は置いといて、というか語るのも忌まわしい。
みんなこいつのどこがいいんだ?
ちょっと他の女の子より背が高くて、目がでかくて、まつ毛が長くて、顔も小さくて、髪なんかサラサラで腰まで輝くロングヘアーで、人形みたいに白い肌で身体なんてちょっとぶつかっただけでバラバラになってしまうぐらい華奢じゃないか。
それらを総称してカワイイということは俺だって知っているが。
ただそれだけじゃないか!
ただそれだけじゃないか!
まぁ、二回も言ったけどさ、たいして重要なことでもないよね。
ただね? 三建・・・。
それだけじゃこの厳しい現実社会を生きていけないぜ! 
なぁ! 三建さんよぉ!
と言ってやりたいが少々長いのでやる気のない目で睨みつけてこいつの防御力をダウンさせてやることにした。
「ちょっと何ジロジロみてんのよ。気持ち悪いわね」
心外な。俺はお前の防御力を下げつつ将来を心配してやっているというのに。
ここは適当に賛辞を送ってごまかすとしよう。
「いや、なんだ・・・ 三建のうなじって綺麗だなーっておもっ・・・ 」
目の前から拳が飛んできた。
「どの角度から見えるんだ?!この変態っ」
いいパンチもってるじゃねえか嬢ちゃん。
脳みそがガンガン揺れたというか、グアングアン揺れている。
「いてーな! そのぐらい軽く流せ! 」
「軽く?立派なセクハラよ。変態前科一犯よ。あっ、失礼あなたは変態常習犯よね?」
こやつ、やっぱりあの一件のことを根に持っていやがる。
だけどせめて変態常習犯でも変態常習犯という名の紳士でいさせてくれ。
「まぁいいわ。なにはともあれランニングができるならさっそく陸上部に入部よ」
「おい!その理由だと全校生徒が陸上部に入部しなければいけないぞ」
「あなたの場合はそうでもして理由つけないと理由にならないじゃない」
「嫌だよ。俺は家でやることが山ほどあるんだ。だから部活はやらない」
「なによそれ? さっきまでは病弱って言ってたじゃない」
「さっきまではそうだったんだよ」
「あきれた・・・ 」
ちょっと三建さん?
なんで拳を握りしめてるの?
殴るの?
グーは男の子でも痛いのよ?
とその時、教室のドアが勢いよくバッシーン! と音を立てた。
「そーちゃーん! おっまったっせぇい! 」
待ち人が到着し俺は胸を撫で下ろした。
志(し)野内(のうち)小夜(さよ)。
俺の幼馴染であり同居人であり家族である。
急いできたのだろう。
幼馴染は息を切らしている。
「走ってきたのか? 髪が凄いことになってるぞ」
朝にかけた乙女のゆるふわパーマとやらが見る影もない。
小夜は急いで手鏡を取り出し髪型を整える。
「ふぁーん・・・ お化粧もちょっと崩れてるよぉ・・・ 」
「そうか? 全然わからないがな。というかノーメイクと何が違うんだ? 」
小夜はキッと俺を一瞥してからあきれたように
「そーちゃんは乙女心をわかってないから、お目目に節穴さんが住んでるんだよ」
そいつはいったいどんな妖怪だ?
俺が思うにきっと眼球だけでなく崩壊した日本語に住みつくのも好きなんだろう。
だいたい小夜は化粧なんてする必要はないんじゃないかと思う。
お嬢さん、それはほとんどスッピンなのでは?
と思うぐらい化粧が薄いのだ。
あっ・・・そういえば高校の入学したてで一度だけ志野内小夜らしからぬ意中の彼を狙い撃ち☆魅惑の小悪魔メイク!なるものに挑戦したことがあったな。
・・・黒歴史とはああいうもののことをいうのだろう。
今から呪術で彼を呪い殺します☆きゅぴん。
そう・・・あれはメイクを飛び越えた儀式の一種だった・・・。
その日は一晩中、小夜の啜り泣く声が隣の部屋から聞こえてきたっけ。
元々、小夜は凄まじい童顔なので幼いころからまったく顔が変わらない。
そんなこんなで顔も幼く整いすぎてるので化粧が難しいみたいだ。
むしろ小さいころから小夜を見慣れた俺としては化粧なんていらないと思うのだが。
そう思う俺の机上で化粧を直すため小夜はカバンを漁りだした。
「あー! チークがないっ! もう今日一日だけ死んでしまいたい・・・」
いつだったか弁当に好物のチーカマが入っていない時と同じリアクションだ。
「私のでよかったら貸そうか?」
小夜の顔がパアっと晴れる。
「ありがとー花蓮ちゃん! 困った時は青田買い様だね」
それを言うならお互いさまだ。
非常事態に新人を勧誘してどうする。
俺はもう小夜のこういった言動には耐性があるので余裕でスルーできる。
だって幼馴染だからね。
一方、小夜との付き合いが浅い三建さんは眉間に皺を寄せとても難しい顔をしている。
多分、訂正すべきか、なかったことにすべきか考えているのだろう。
こいつ、クソがつくほど真面目だからな・・・・。 
こんなとことん間違った日本語は訂正したくてしょうがないのだろう。
だけど小夜はそんなとことん間違った日本語を本気で使っている。
なんだかんだいって三建は優しい奴だ。
小夜に恥を掻かせないようにここはきっと目を瞑ってくれるはずさ。
俺はそう確信した!
「そうそう、青田買い様よ・・・ ね? 」
のみ込まれた・・・ だと・・・ ?
こいつの優しさは底が知れねぇぜ。
俺は少し三建花蓮を見直した。
しかし同時に三建が小夜に向けている笑顔が引き攣ってることに気付いた。
昔テレビで観たのだが、人間は過度なストレスがかかると一瞬で胃に穴があくことがあるという。
俺はこの話を、まっさかー、そんなおおげさなー。
と話半分に受け取っていた。
しかしなぜだ? 
不思議とあの時知り得た生命の神秘をすんなり信じられた。
そう、たった今な。
「花蓮ちゃん、どしたの? 顔色悪いよ? もしかしてお腹痛いのっ!? 」
小夜の割には良い勘してるよ。
「いえ、大丈夫よ。私の胃はそんなにやわじゃないわ。決して青田買い様のせいじゃないから大丈夫。うん大丈夫!私はやっていける!」
小夜はキョトンとしている。
俺は少し泣きそう。
天然おバカさんという名のボディーブローから立ち直った三建は自分のカバンからコスメセットを取り出す。
大人っぽいデザインのものかと思いきや最近、人気のやる気のまったく感じられない瞳が売りの癒し系病み熊キャラのモチャグマ君があしらわれたポーチを出してきた。
「あーモチャグマだぁー!花蓮ちゃんも好きなの?」
童顔少女大喜び!
そういえば最近はまってるっていってたな。
「たまたま弟がUFOキャッチャーで獲ってきたのよ。せっかくだから使ってあげてるの」
「へえ、三建って弟いるんだ。」
さぞ姉に苦労させられているだろうに
「ええ、3歳下の弟だけどこれがまた生意気でさ」
「姉によく似たんだな」
「あぁ?」
わお、びっくりするほど低音ボイス。
軽いジョークですよ。かるーいジョーク。
「きっと花蓮ちゃんに似てカワイイ弟さんなんだろうねっ」
風紀委員の顔がどんどん紅潮していく。
小夜グッジョブ!
三建も結構単純な奴だよな。
「そんなカワイイだなんて・・・ みんなが言うだけで私にはわからないわ・・・ そうだ! 志野内さんこのポーチほしかったらあげるよ」
機嫌直るの早っ!?
「えっ?いいの?!凄く欲しい!!ちょうだい!」
両手をまっすぐに三建めがけて伸ばしてニッコニコの童顔少女。
「花蓮ちゃんはもう天使だね!花蓮ちゃんマジ天使って感じっ!!」
「よかったら中身も貰っていいよ」
もうなにこのカワイイ追い剥ぎ幼馴染。
二回褒めただけでコスメセットを獲得しやがった。
というか小夜も狙ってやってないかこれ?
あと俺はこの美少女が将来、結婚詐欺に遭わないか心配だよ。
しかしこの好機を利用しない手はない。
「うんうん、本当に三建はカワイイよな」
「黙れ変態」
はい、即答ですねー。
「そーちゃんって変態さんなの?」
「違うぞ小夜!俺は断じて変態などではない!」
って、なんかこの子お化粧始めてますけど。
「気をつけて志野内さん、変態は皆決まってそう言うわ」
おいっ!小夜!そうなんだぁ、って顔をするな。
てか俺は無視で三建の話は聞いとんのか!
「だいたい校則も守れないような人は皆変態なのよっ!変態呼ばわりされたくないのならさっさと部活に入りなさい」
そして結局というかなんというか最終的にはそこに落ち着くのか・・・。
すると貰ったばかりのコスメで眉毛を直している小夜が不思議そうな顔をした。
「え?そーちゃんはちゃんと部活入ってるよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」←俺と三建
驚愕の新事実が発覚した。
どうやら俺は知らない間に何らかの部活に入部していた。
らしい。
「ちょっとどういうことなの佐々木颯太!?  」
「知るか! 俺はどこにも入部なんてしてないぞ」
そんなことした覚えはない。
嘘偽りなく本当にないのだ。
まさか俺は自分でも知らない間に青春を謳歌しようとでもしていたのか?
だとしたら明日は休んで病院を探そう。
「ねぇ志野内さん、佐々木君はいったいなんの部活に所属しているの? 」
三建は少し焦り気味に小夜に詰め寄った。
そうだ、小夜に直接聞けばいいじゃないか。
俺としたことがあまりのサプライズニュースに気が動転としていたぜ。
さぁ小夜、ファイナルアンサー!
「えーっと、なんだっけ? 第3だったっけかな・・・ いや第2かな・・・ 」
ちょっとさっそく雲行き怪しくなってきたんですけど。
よし、このまま小夜が思い出せなかったら全部なかったことにしてしまおう。
と思った瞬間。
「第3帰宅部! そう、確か・・・第3だったよ! 」

なんだよ、帰宅部かよ。

俺は良い意味で期待を裏切られて少しホッとした。
三建なんかあきれて声もでないみたいだ。
ほらほら、帰り支度まで始めてますよ。
「ほら、早く化粧終わらせて帰るぞ」
「えーなんでよ。てか、そーちゃん信じてないでしょ」
「あのさぁ、そんな部活あるわけないだろ? だいたい俺は入部届けなんて提出した覚えはないし。」
「あー、それなら小夜が真澄ちゃんに出しといたから心配しないで☆ 」

バカカ?コイツハ?

「何してくれてんだ! お前は!!」
俺は怒鳴った。それも本気で。
「だって・・・そーちゃん中学もずっと帰宅部だった・・・ でしょ? だからまた帰宅部に入ると思って・・・ ダメだった? 」
「ダメに決まってるだろ! 人としてさぁ!! 勝手に俺の青春をいじくりまわしてんじゃねぇよ・・・ 」
「ぶー」
小夜は可愛く不貞腐れてるつもりだろうが、今はそんなの通用せんわ。


うちの高校は校則で部活に入部しなければならないのに俺は部活に入っていない。
そのことは三建はもちろん、担任の真澄ちゃん(28歳・女・独身)にも再三にわたって注意されてきたが適当にはぐらかしてきた。
まぁ、俺なりにだがそれにも理由はちゃんとあるのだ。
しかし、どんな理由があろうと部活に入っていないことはまぎれもない事実。
そんな俺がありもしないふざけた部活動の入部届けを出したのだ。
完全に教師をバカにしている。
きっと俺への真澄ちゃん(28歳・女・独身)の評価も下がっただろうさ。
そういえば最近、真澄ちゃん(28歳・女・独身)がどことなく俺だけに冷たい気がしていたがこういう裏があったんだね・・・ 。
「おーい、そーちゃん? 大丈夫? お腹痛いの? 」
もーいーよ。
疲れた。
だいたい第3帰宅部ってなんだよ。
帰宅部は未来永劫にして古今東西で非公式な活動である。
少なくとも俺の脳内辞典にはそう記載されている。
公式版が出回っているなど聞いたことがない。
そういえばこのおバカさん、もとい幼馴染はつい先日まで東京特許許可局というありもしない機関を信じるならまだしも、東京特許許可曲なる社歌があるとまで・・・ 。
きっとそれと同じように帰宅部も正式な部活動だと今まで思い込んでいたのだろう。
そんな残念な幼馴染にしっかりと正しい知識を教えてやるか。
「小夜、いいか? そもそも帰宅部っていうものはな・・・ 」


「あった」


さっきまで小夜の言動にあきれ果てて声も出なかった三建がポツリと一言。
いつの間にか三建の手には薄い冊子のようなものがある。
新入生のための部活動紹介と表紙に書いてある。
そんなのもらったっけか?
どうやら、さっきは帰り支度をしていたわけではなくこれを探していたようだ。
しかし何があったというんだ?
「なにがあったって? 痴漢にでもあったんか?」
「・・・・ちょっと待っててね。」
あれ? もしかして俺ってば空気読めてないのかな?
三建は俺の挑発をスルーしながら冊子の最後のページを俺の眼前に開いた。
「ほら! 第3帰宅部あったよ!」
「って見えねーよ!」
俺は一歩後ろに下がり三建の開く冊子を眺めた。
そのページは筆で殴り書きしたのだろう。
丸々一ページ使って。

来んな!!

と書かれ、下のほうに小さく第3帰宅部と書かれていた。


三建はその場で思考停止して固まっている。

俺は驚愕の事実に不安になり小夜に意見を求めようとそちらを向いた。

「ほらね」

童顔少女は自信満々に胸を張ってる。

                               つづく

       

表紙

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Neetsha