Neetel Inside ニートノベル
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凛としてアナルファックピストルズ
君に言いたいことはあるか、そしてその根拠とは何か

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 楽曲における最も重要な要素のひとつの歌詞。
 英語では[words]の他に [lyric(リリック)] と称されることが多い。
 抒情詩という意味で、ギリシャの楽器「リラ」という竪琴に合わせて詩を歌ったというのが語源。

 抒情詩とは何か?
 辞書を引くと【作者の感情や情緒を表現した詩】と書いてある。

 つまり歌詞には感情が込められてるということ。


「・・・らしいけど、必ずしもそうは限らないよね」

「アーティストによっては歌詞になんの意味も込めないものも多いわね」

「ブルーズみたいに日々の憂鬱を歌うもの、パンクのように反社会・反体制的なもの…時代によって歌詞の傾向も違う」

「でも歌詞は音楽性に並んでジャンルやバンドの方向性としても重要なファンクションであることは間違いないわ」

「パンクはもともとプログレの文学的で難解な歌詞や楽曲へアンチテーゼだったしね」


 【パンク・ロック】
 1960年~70年代アメリカ、ニューヨークで発生したと云われる。
 ハードロックのようにブルーズからの影響が全く見られず、単純かつ明快な音楽性が特徴。
 最初期は「パンクと言ったら反社会・反権力」などのアナーキズムは見られず、音楽性の革新に重きを置いていたとされる。
 今は潰れてしまったがニューヨークのライブハウス「CBGB」でテレビジョンやパティ・スミスやラモーンズなどが活躍した。
 後にラモーンズがイギリスでブレイクし、パンクロックが流行する。
 マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッド夫妻がセックス・ピストルズをプロデュースし、これがまた大ブレイクする。
 それまでのイギリスでは文学的で難解なプログレが大学生などのインテリ層流行っていたが、不況や社会不安が募っていたイギリスではプレグレはむしろ嫌悪の対象になり、この単純明快で勢いのあるパンクが圧倒的に受け入れられていったと思われる。
 反社会的なアナーキズムが取り入れられたのはイギリスのピストルズやクラッシュなんかの影響が大きい。


「パンクから派生した最近のメロコアやハードコアには、必ずしも歌詞に思想が取り入られてるわけではないわよね。SUM41みたいに「遊び」に見える程のバンドも多いわ」

「ニルバーナのカートも度々『歌詞に意味はない』と発言し文脈を感じない歌詞の曲を発表している。実際彼はライブによって本来とは違う歌詞で歌うこも多かったというよ」

「メッセージ性よりも言葉の持つ韻の方が印象的なのよね。それはそれで一つのアートだと思うわ」

「邦楽でもブランキーやミッシェルの連想ゲームみたいな不思議な歌詞も印象的だね。他にもそんなバンドもあるけど全部上げたらキリがないくらいだ」

「ブランキーはドラッグでもやってるんじゃないかと思えるほどね」

「ギク…」

「どうしたの?」

「なんでもない。…君は時々鋭いね」

「時々ってどういう意味よ」


 †


「まぁなんでこんな話をしたというと、僕らが曲を作るにあたってどんな歌詞を特徴とするかというのを相談しようと思って」

「・・・・・う、うぅ」

「ど、どうした」

「やっとやる気になったのね…」

「引き際を誤ると君が僕から去ってしまいそうだからね」

「帰っていいかしら」

「・・・ごめん」

 間。

「気を取り直して」

「なんだかんだ言ったけど実は私も歌詞はメッセージ性よりも韻を重視するわ」

「ほう」

「愛してるーとか、逢いたいーとか、歌詞の大半が「君と僕」で埋められてる歌には少々うんざりしてるもの」

「はは、耳が痛いね(筆者の昔の楽曲の歌詞を見ながら)」

「オリコンランキングの上位みたいなどこにでもあるような曲は避けたいところね。そういう意味では相対性理論は成功してるバンドだと思うわ」

「気持ちは分からないでもないけどね。でも売れるためにはやっぱりリスナーが欲しがる歌詞を書くことも重要な要素なのは確かだよ」

「どういうこと?」

「BOOWYの『marionette』という曲を知ってるだろう。オリコンでも1位になったヒット曲だ。だけど実は当時テーマに「愛」を含まない曲でランキング1位を獲得したのは結構珍しいことだったと言われてるんだ。つまり売れる曲ってのは大概が愛を歌った曲だったってことさ」

「売れるためには歌詞すらも客に合わせなきゃならないなんて大変ね」

「まあそう言うなよ。全部が全部じゃないし今は時代も変わってるから参考にはならないけどね」


 ちなみに昔「歌詞に「愛」が含まれてる曲の山手線ゲーム」をしたらGLAYの曲を探せばだいたい「愛」が見つかったという話を思い出した。


「…といっても、やはり歌詞を書くのは想像よりずっと大変なのね」

「だろうね」

「素人は字面で綺麗な言葉を並べればいいと思うけど、そういう曲に限ってクサいだけのありきたりな曲になりがちだわ」

「言葉の韻と発音の関係で歌いやすさもだいぶ違ってくるね」

「伸ばす部分の母音が「え~」で伸ばすのと「い~」で伸ばすのでも全然違うわ。歌いやすさも、聴こえてくる響きも」

「作詞者が表現したいこと、言葉も曲に合わせて少しずつ変化させなければいけない」

 例えば
・翼がない/つばさがない
も、メロディによっては
・羽がない/はねがない
に変化させる必要が出てくる

「文字数、言葉の持つ印象、それに付け加え韻や発声まで考えなくちゃならないのね」

「前後の文脈と、最終的に歌った時に違和感がないかどうかのチェックも怠ってはいけないよ」

「…精進するわ」


 †


「と、ところで年末の土曜日、じ、時間あるかい?」

「ん、どうしたの突然」

「じ、実はけ○おん!の年末ライブのチケットが2枚手に入って、よかったら一緒にどうかなって…あ、いや、予定があったら別にいいんだけど」

「まぁ…んーでも高いんでしょ」

「あ…い、いや、もらい物だからお金はタダでいいよ…!」

「そう?ん~どうしようかしら…」

「・・・」

「いいわ。お言葉に甘えるとするわ」

「そうか、じゃあまた」

「ええ、楽しみね。(ふふ、本当は抽選外れてがっかりしてたのよ)」


 ホントはヤフオクで1枚3万円。
 それでも僕らはアナルファック。
 終わらない恋の抒情詩に乗せて歌う。
 揺れる思い、踊る君の乳。
 転売目的のチケット抽選予約はやめてくれ。
 わりとマジで。


「uhhhhhhh yeahhhhhhhhhhhhh」


 凛と咲いて。

       

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