凛としてアナルファックピストルズ
頭脳警察
音楽ファンなら知っている人もいるだろうか。
2003年6月27日、テレビ番組「ミュージックステーション」にてロシアの女性デュオ、t.A.T.u.が控え室にいながら出演拒否したというトラブルが発生する。当番組は生放送であり、スケジュールは出演順を入れ替えるなどして慌しく進行するも結局t.A.T.uは番組終了間近になっても登場しなかった。
そこで同番組に出演していたミッシェルガンエレファントが急遽、予定にない「ミッドナイト・クラクション・ベイビー」を演奏した。セットも無しに。演奏のカッコよさもさることながら彼らの男気を評価して音楽ファンの中には「伝説」と(やや誇張気味に)評価する声も多い。
なぜ彼らはあのアンコールを成功させることが出来たのか。実はあれはあの番組では彼らにしか出来ないことだった。なぜ?それはミッシェルだけがあらかじめ録音した音源を用いたカラオケをしていた他のアーティストと違い、楽器やアンプなどの機材を全て持ち込んで生演奏していた…つまり音楽番組でさえ生音にこだわっていた彼らにしかあのアドリブともいえる演奏を準備できなかったんだ。
これをどう評価するかは見ている人次第なのは確かだ。だけど、彼らのライブへかける熱意は本物だったんじゃないかなと僕は思う。
別に僕はそう思うだけでミッシェルのメンバーがどう思ったかは知らないし、単なる偶然かもしれないし、予定調和かもしれない。ただまぁ何人かの視聴者に最高にロックな勘違いをさせてくれた、それだけ十分だろう。
†
「ああその放送なら私も見てたわ、本当にいいライブで、バンドで、いい時代だったわ」
「その時君何歳…いや、なんでもない」
僕はyoutubeで見たよ。
「昔は良かった、なんて歳を取った人はみんな言うけど今の音楽も負けてないと思うけどね。昔は昔だってたいしたことない音楽も多かったわ、今と同じようにね」
「結局時間が経っても記憶に残るようなアーティストだけを指差して「昔は良かった」と言うものさ。写りの良い写真だけを選んで『昔は美人だった』という具合にね」
「そうね。そうかもしれない」
†
「バックホーン、9mm、凛として時雨、ラストアライアンス」
「DOES、ピープルインザボックス、プラスティックガールインクローゼット」
「NCIS、テレフォンズ、サカナクション、アジカン」
「ざっと挙げただけでも期待してる若い人たちはいる」
「(随分偏ってる気が…)」
気のせいさ。
「ミッシェルの流れを汲むバンドでa flood of circleなんかもあるわね」
「洋楽の匂いが香るLilies and Remainsも。「Moralist SS」は一度検索してみるといい」
「COALTAR OF THE DEEPERSも実験的で面白いかも」
「女性ボーカルでいうと相対性理論…というよりやくしまるえつこも最近注目されてるね」
「対バンのサブカル臭が強すぎてライブは行ったことないけどね」
笑。
「ザ・コックローチは検索すると大変なことになったわ」
「はは、たしかに」
「相変わらずミドリには圧倒されるわね」
「ああ。圧倒といえば385のチョッパーベースしながら叫ぶ女性ボーカルもクレイジーだ」
「te`みたいなインストバンドも昔に比べて注目を集めてきてるわ」
「タイトルがいちいち長いけどね」
だがそれがいい。
「acidmanのエモも忘れちゃいけないわね」
「モーサム、ズボンズ、黒猫チェルシー、シアターブルック、毛皮のマリーズ…ロックンロールだってまだまだ死んでない」
「うん・・・ん、あれ?」
「幼虫社も、マイナーなバンドだが最近音信不通で悲しいよ」
「ちょっと待って」
「む?」
「・・・段々マイナーな話になって読者がついてこれてないわ」
「oh・・・」
ドント・クライ・アナルファックピストルズ。
いつかは僕らもフライ・ハイ。
君はまだ全てが想像のstyle。
「そろそろ時間だ、行こう。今日のメンバー募集の相手はドラムだ」
「まぁ。腕は確かかしら」
「楽器暦マイナス一ヶ月。正真正銘のド素人だ。好きな音楽はクラシックらしい」
「貴様!」
「大丈夫、彼はいい子でね。僕の後輩なんだ。ドラムをやりたいというので誘ってみた。そして僕は彼を正式にメンバーにしようと思ってる」
「・・・・」
「どうした、うつむいて」
「・・・凛と咲いて」