Neetel Inside 文芸新都
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歳を取る機械
歳を取る機械

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 ベータ氏は公園のベンチで、一人寂しく物思いに耽っていた。
 彼はとある貿易会社の社長で、最近会社内で起こる問題について考えていたのである。
「うむ…これで社員の自殺は5人目だ。やはり与える仕事量が多すぎたのかも知れん。もしくは、書類に商品やお得意先の住所を書くだけの作業に嫌気がさしたのか。どうすれば良いのだ」
 ベータ氏の会社には金がないから、人手を増やす事だって出来ない。考えれば考えるほど分からなくなる問題に無理を感じたベータ氏は、諦めかけて立ち上がった。
「何かお困りですか、旦那様」
 声の方向にふと目をやると、目の前に男が立っていた。勿論覚えなど無い見知らぬ男だ。
「や、なんだお前は」
「私はハワ星からやって参りました、セールスマンで御座います。この度このロボットを地球の皆様にご提供する為、訪問させて頂きました」
 男は驚くほど流暢に、はっきりと話した。
「このロボットは成長し、歳を取ります。感情も備わっております」
「成長するロボットだと」
「ええ。時間が経つにつれ成長し、最後には本物の人間の様になります」
「欲しいところだが、高いのだろう」
「いえいえ、今回は初回サービスです。何体でも無料で差し上げますよ」
 あり得ないことを喋る男に疑心の目を向けながらベータ氏は聞いた。
「情報を記憶とか、出来るのか」
 この質問に、男は喋るまでもないと頷いた。その瞬間からベータ氏の悩みは解決した。
 
 次の日から数体のロボットがベータ氏、及び社員のパートナーとなった。
「これからはこのロボットに情報を取り入れるように。因みに、情報を入れたまま破損させると無論データは消え去る。丁重に扱え」
 勿論社員は信じられる訳がない。
「そんなに疑うなら、見せてやろう。おいこっちに来い」
 と、ベータ氏が呼ぶとロボットは歩み寄り、愛らしい声で喋った。
「ナンデショウカ」
「この電話番号を記憶しておいてくれ。0120-55…」
「ハイ、キオクシマシタ」
「じゃあ次はその番号を言ってくれ」
「ハイ、0120-55…」
 その様子を見て、社員もこぞって自らのロボットに情報を言い聞かせた。
 人によっては、私生活でもペットのように扱う者もいた。

 ある日のことだった。ベータ氏がオフィスに入ると、驚愕した。
「何だこれは。どのロボットも死んでいるではないか。誰かが壊したのかも知れぬ。監視カメラを見よう」 
 だがそうではなかった。監視カメラの映像を見ると、ロボットは、自ら頭をかちわったり、水に飛び込んだり、あるいは首を吊ったりしていたのである。
 つまりロボットは自殺したのだった。恐らく、単純作業に嫌気がさして。
「ああ、データも消えてしまっただろうな。これでは、人間もロボットも同じではないか…」

       

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