Neetel Inside 文芸新都
表紙

早く早く、負け犬の裏庭で
雨降る頃は

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雨の中の植物のにおいをかいで、
世界のやわらかさに
泣きそうになる
もう赤くない夕暮れの時間。
ものごとをそのまま透明に見たいと
願う分不相応なわたしは
めまぐるしく流れる血液に浸した臓器を一そろい備えて
そのうちの扁桃腺を腫らしていて。
最近はもう
消えてしまう気なんて露ほどもない。
どうせどんな目に遭ったって
どんな惨めになったって
私は生き残ってしまうのだ。
だから今は
あらゆるものを代謝して
美しい糸だけを吐き続けようと
一匹の蜘蛛のことを考えている梅雨。



***

 
 
窓の外ではぬるい風が吹いていて
バスの中は人でごった返している
湿った空気がわたしたちをねっとり繋いでいて
隣の人の汗は
おそらく私の水分でもある
そんな空間世界。
 
窓の外を歩いている人の
うしろに長く長く伸びる影はオーロラ色に
深く艶めいてひずんでいる
彼/彼女が足を踏み出すたび
オーロラ色の影が歪む
新しい影が地面に落とされると
古い影は大気に溶けて空へと向かう。
 
今、この瞬間なんだって、
唐突に私は悟る。
ボールペンの先端くらいに頼りない今、
この瞬間、しゅんかんに、
切ないくらいにわき目も振らず過ぎ去っていくあいだに、
私達の誰もが
全力を振り絞って私たち自身を創造しているんだって。
 
バスを降りたら
何も降らないけれど傘を差した
雨の気配と私は仲がいいので
一緒に帰ろうと思ったんだ
オーロラ色の影をひっそりと
心のうちに踏みしめながら。
 
 

       

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