私とお姉さまの日常
百合子とお姉さま
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
聖ゆりゆる学院。
生粋のお嬢様たちの通う学園には、
姉妹(スール)という独特の制度がありました。
【1 校門前で】
「百合子、パンツが曲がっていてよ」
「お、お姉さまっ?」
「もっと自覚を持ちなさい。そして淑女が、大きな声を出さないの」
「ご、ごめんなさい。あのっ……!」
「なに?」
「ぱんつ、自分でなおします。お姉さまの手を煩わせるなんて」
「ダメよ。妹の不始末を正すのは姉の役目。じっとしていなさい」
「は、はい……。あの、お姉さま……」
「今度はなに?」
「鼻血が垂れてます」
「――パンツさわってんだから、仕方ないでしょッ!!」
【2 教室で】
「ごきげんよう、百合子さん」
「ごきげんよう、友子さん」
「見てたわよ」
「えっ、なにをですか?」
「今朝、白パン様に両手を突っ込まれていたでしょう」
「あれはそのっ……。よくあることで……」
「フフ、百合子さんって真面目そうで、天然だからね。
写真もバッチリ撮ったんで、午後の一面記事に使うわよー」
「えっ、それは困りま――」
「――その写真ッ! 私が買い占めるわッ!!」
「お姉さま?」
「安心して、百合子ッ! 貴女は私が守るわッッ!!」
「元はと言えば、お姉さまが元凶です」
【3 体育で】
「1,2,3,4っと。百合子さんって、運動ニガテな方?」
「はい。5,6,7,8。友子さんは?」
「体力だけはあるよー。決定的瞬間を逃しちゃならんからね」
「今朝はどこから撮ったのですか? 全然気がつきませんでした」
「それは営業秘密ですー。
ところで百合子さんは、ブルマーも似合うよね。今度――」
――がたッ!
「? 今の音、なんでしょうか」
「……気のせいじゃない?」
「あそこにある、ユリア様の像が動きませんでした?」
「気のせいじゃない」
【4 中庭で】
「百合子、こっちへいらっしゃい。お昼、一緒に食べましょう」
「お姉さま。今から参ります」
――たったった。
「このベンチ、ちょうど木陰になっていいですよね」
「えぇ、涼しいわ。あら、百合子のお弁当、美味しそうね」
「よかったら交換します? 手作りだから、形悪いですけど」
「そ、そんなことないわよっ! じゃあ私からもオカズを、」
かぱっ。
「お姉さま……どうしてお弁当箱の中に、ぱんつが?」
「間違えたみたい。ちょっと学食でパンを買ってくるわね」
「はい。お待ちしています」
「パンを二つ買ってくるから。パンを、二つ、買ってくるわよッ!」
「はいはい。いってらっしゃいませ」
【5 パンツの屋敷で】
「――あら、今日は黒パンも、紐パンも、水玉パンもいないのね」
「みなさんお忙しいんですね」
「なによそれ、私が忙しくないみたいじゃないの」
「あっ、すみません。そういうつもりじゃなかったんです」
「冗談よ。まぁいいわ。百合子、紅茶をいれて頂戴」
「はい、お姉さま」
――さっ、しゅるっ。
「…………制服の上からつけるのね……」
「えっ?」
「なんでもないわ。エプロン、似合っていてよ」
「ありがとうございます。それじゃ、お湯、沸かしますね」
――――しゅー。
「……着衣でも、アリ、ね……」
「えっ?」
「なんでもないわ。そのエプロンから覗く胸部の膨らみを、
後ろから掴んで柔らかさを堪能したいぐらい似合ってるだけッ!」
【6 帰り道で】
「お姉さま」
「なぁに、百合子」
「どうして、頭にぱんつを被っていらっしゃるのですか?」
「これは防犯グッズよ。
百合子に身の危険が起きた時に、身代わりになってくれるわ」
「では、私が被った方がいいのでは無いでしょうか」
「――ダメよ。危険な役目を負うのは、姉の役目だものね」
「お姉さま……」
「かわいい、かわいい、妹だもの。貴女は」
「くすっ」
「な、なによ」
「お姉さま。その格好で言っても、ちょっと間抜けですよ?」
「……まったくもう、かわいくない妹ね。貴女は」
!!!ファンファンファンファン!!!
「おまわりさん! あそこです! パンツを被った変態が!!」
「じゃあね、百合子。ごきげんよう」
「ごきげんよう。お姉さま」
【7 電話で】
――prrrrr...prrrrrr...prrrrrr...prrrrr...prr.ガチャっ。
「……もしもし?」
『百合子? 私、ほら、私。お姉さま、なんだけど』
「はい。どうなさったんですか。こんな深夜に」
『あ、あのね。明日ね。買い物とかね! 行かないっ!?』
――ちらっ。
「今日、ですよね」
『そうね。今日の朝から。映画見て、お昼食べて、買い物して……』
「わかりました。時間は空いているから大丈夫ですよ」
『やっ……! こほん。そ、そうね。じゃあ――』
「待ち合わせ場所は、十時。学院の正門前でいいですね?」
『え? あ、うん、了解したわ! それと、百合子』
「まだなにか?」
『待ち合わせの目印に、履いてくるパンツを見せ合うというのは、」
「お姉さまは、相変わらずですね。十時、学院の正門前です」
『えっ、あっ、そうね。じゃあ、せめてパンツの色を――』
「おやすみなさい、お姉さま」
『白ッ――!!』
がちゃん。
【8 お店で】
「百合子、なかなか似合ってるじゃない。そのパンツ」
「ありがとうございます、お姉さま」
「あっ、こっちの紐パンツもいいわね。しましまよ」
「お姉さま、お気持ちは嬉しいのですが……」
「気にしないの。無理に連れてきたのは私なのだから。
お金なら出すわよ」
「それもあるのですが、その、とても両手で持ちきれません」
「持てない分は、私が頭に被るから平気よ?」
「そうですか。それでも足りそうにありませんが」
「じゃあ、重ねて履く! むしろ履きたい! 履いて帰るぅ!!」
「お姉さま、あまりワガママ言わないでください」
【9 映画館前で】
「お姉さま、見る映画は決まってます?」
「暗闇で百合子の太もも触れたら、なんでもいいわよ?」
「つまり決まってないんですね」
「映画館なんて、セクハラできれば、どこでも一緒よ」
「やめてください。買い物で疲れたので、先にお昼食べたいですね」
「席を立って、個室のトイレでパンツを履きかえるのね?」
「いいえ。ぱんつはもう履いてますから」
「じゃあ映画を見て、おさわりしましょう」
「お姉さま、会話の無限ループはやめてください。帰りますよ」
「ごめん。帰っちゃイヤ」
【10 まっくで】
「私、初めてまっくに来たわ」
「お姉さま。もしかして、ハンバーガーも食べたことありません?」
「あるわよ、失礼ね」
「すみません、お家がお金持ちだと聞いていたので」
「そこは否定しないわよ。ところで、ねぇ、百合子」
「どうしました?」
「ナイフとフォークは、どこにあるのかしら?」
「そんなものはありませんよ。手で掴んで食べるんです」
「えっ!?」
「……お姉さま。もしかして、サンドイッチとかも食器使います?」
「つ、使ってるわよっ、悪いっ!?」
「いいえ。なんて言うか、本当にお金持ちだったんですね」
「どうせ私は世間知らずよっ」
「お姉さま、今の拗ねたお顔。カワイイ」
「……ッ!!」
――ぽたぽたぽぽたぽたぽ。
「あっ、あっ、あっぁっ! ぱ、ぱんつっ、ぱんつドコーッッ!」
「落ち着いて。ひとまずナプキンで鼻を抑えてください」