Neetel Inside 文芸新都
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お手紙いただきました
お手紙その1

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 手紙という物を初めて貰った。というよりも、それは私の靴箱の中に無造作に置かれいたという方が表現としては正しいだろうか。昨日の放課後、学校から帰る時にはそれが入っていなかった。私が登校する前に入れられていたという物だろうか、それとも私が帰った後に入れられた物だろうか。
 どちらにしても、勝手に靴箱の中に物を放り込まれるというのは、あまりいい気分はしない。
 さて、問題のその手紙には何が書かれていたのかというと、決して綺麗と言える程でもない文字で、私に対する気持ちがシンプルに書き綴られていた。
「それ何?」
 靴箱の前で手紙とにらめっこしていた私に声をかける人が一人。もう三年目の付き合いになる、同じクラスの同級生。私の通う学校はクラス替えという物が存在しない。中学校の友達によると、他の高校ではクラス替えがあるところも存在するそうだ。
「さあ、なんだか」
 手紙の内容に触れてもよかったが、こういった類の物をあまり人に公言したいと私は思わなかった。人によっては自慢したり、面白おかしく遊び道具にしたりと様々ではあると思うが、私にその気はさらさらない。
 私がそれについて濁す形の返答をすると、彼女もそれ以上の追及をしようとはしなかった。他人にあまり深く入り過ぎないその性格、私は彼女のそんなところを気に入り、この三年間親しくさせてもらっている。
 もっとも、気に入っている部分はそこだけではないが。所謂空気を読む事が出来る、気が利く、他人に優しいなど、いい部分を挙げるとキリがないかもしれない。そのせいか、男女どちらからも人気のある、この学校ではちょっとした有名人であると言えるだろう。
「まあ、とりあえず行こっか」
 そう言って彼女は教室に向かう階段の方を指差す。
 気がつくと周りには登校してきた生徒でごった返していた。ちょうど皆登校して、玄関付近が混雑する時間になっている。
 私は手紙をカバンの中に無造作に押し込み、彼女と一緒に三階にある教室に向かった。
 教室に着くと、まだ人はまばらであった。さっきの玄関の込み具合でいえば、ちょうど私達の後に続く形で皆教室に入ってくるだろう。
 窓際一番後ろに私の席がある。その横に先ほどの彼女の席だ。私は机の上にカバンを置き、先ほど無造作に放り込んだ手紙をスカートのポケットの中に入れる
「ちょっとトイレ行って来る」
 彼女にそう言い残し、足早にトイレへと向かう。さっきはあまり手紙を見ていなかったので、差出人がわからなかったからだ。教室で読んでもいいが、ちょうど人がいっぱいになりそうな頃合いだったので、それは避けたい。
 トイレの個室に入りカギをかける。差出人の名前はどこに書いてあるのだろう。手紙は少々変わっていた。内容はシンプルな物であったが……茶色の封筒にノートを一ページ分適当に折り曲げて突っ込まれているというのは、どうかと思う。
 手紙の内容としては『好きです』とただそれだけ、その一文だけが書かれていたのだが、好きな相手に渡す物としてはどうかと思う。もう少し工夫は出来なかったのだろうか。
 差出人の名前は、その『好きです』と書かれた反対側に書かれていた
「藤井……」
 苗字の後に『光』という文字が続いていた。藤井光という人物だろうか。読み方は、おそらく『ひかる』で合っているだろう。
 しかし、その様な人物とは知り合いであっただろうか。少なくても同じクラスにはいない。他のクラスの人間か、はたまた一年生や二年生の下級生だろうか。
 そもそも、こんな適当な茶色の封筒に入れられている物だから、いたずらの可能性も大いにあるだろう。あまり真面目に考えない方が良いかもしれない。もし、これがいたずらではないとしたら、適当に考えるのも失礼な話かもしれないが、相手側がこんな適当な物を私によこしている時点で真面目に考えろというのも到底無理な話だ。
 差出人の名前も確認したところで、その手紙をまたスカートのポケットにしまい教室に戻る事にする。

       

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