Neetel Inside 文芸新都
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さくらんぼ狩られ
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どちらが先に狩られるか。
桜散り始める大学四年目の昼下がり、俺は桜の葉が青々深まる頃たわわに実るであろうさくらんぼにそう叫んだ。

モラトリアム終盤ともなると大抵の人間は既に脱童しており、辞書でマンゴーと引いて鼻息を荒げる純粋無垢な神童にいたっては絶滅の危機にさらされている。カニバサミを喰らった奴隷候補連中は神童を陥れるべく「どーて-どーてー」と叫びまわっている。そんな最中でも学内有志の神童保全活動により永遠の純潔を約束されている俺は安心して研究に集中をすることができる。学内において俺は孤高の存在である。
人間とは切磋琢磨し合い成長していくものであり、独りよがりでは自分の成長を阻害してしまう。BBQの騒ぎの一瞬の隙を突き川に飛び込み消えていった腐れ縁の友人の言葉を思い出す。
俺はいとしのマンゴーに別れを告げ辞書のページを捲った。
切磋琢磨。友人同士で励まし競い合って向上しろとの意味らしい。骨・角を切り磨く切磋に玉・石を打ち磨く琢磨か。一体どの出っ張りと玉を互いに磨き合えというのか。俺は孤高であるが故に孤独である。

俺のこれまでのキャンパスライフについて語らねばなるまい。
当時、俺はドキドキの一年生であった。事件は心臓押さえた新入生歓迎会で起きた。河原BBQでおもむろに腐れ縁が俺の肩を抱き、妙なテンションで「実は僕ホモなんだ。」と叫び川に飛び込んだせいで、大勢のモブに何らかを勘違いをされ、以来三年間、俺はキャンパスの隅っこにぽつんと植えてある桜の木に独り寄り添うことを余儀なくされた。
また勘違いをし寄ってくるいい男達から貞操を守るためにふんどしを五丁締め、トランクスを十枚履き、ズボンは履けなかった。奴らのマグナムといえどこの防御壁を破るのは至難であり、その隙にデンドロフィリア(樹木に対して性的興奮を感じる性的嗜好)を装うことにより事なきを得なければならず、騒ぎは益次第に大きくなっていき、インターネットで大勢のホモに囲まれながら桜の木にすがり付く変態の図が晒され、局地的な騒動に発展した。「何も見えない。桜の木も存在しない。」という大学の工作活動により騒動は収まった。こうして俺のキャンパスライフは守られた。
これが神童保全活動の全容である。

子供の頃までさかのぼって思い返すと俺は小中高と女子に縁が無く、となりにはいつも腐れ縁がいた。いや、保育園からだったかもしれない。薄っすらと同じ産湯に浸かった記憶さえある。何故今まで気付かなかったのだろうか。完全に黒である。でも死んでしまっては少し寂しいな、と思って以来、満月の夜の夢に腐れが現れるようになってしまった。
死してなお俺を苦しめ続ける旧友を思い戦々恐々としていると、突然「こんにちわ」と背後から声を掛けられた。三年前の悪夢が蘇り、反射的に桜の木のウロに体をねじ込みピストン運動を繰り返す。
「今は何をしていらっしゃるのですか?」と声の主が笑いながら尋ねてきた。声の高さからどうやら女性であるらしい。
「この木はセイヨウミザクラですか。変な所にぽつんと植えてありますね。さくらんぼが実ったら採って食べてもいいのかな?」
可愛らしい声が親しげに話しかけてきた。たったそれだけのであったが、この瞬間、俺は彼女に惚れてしまったのだ。

       

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