貧乳少女ペタンは男装趣味の露出狂
第一話「黄金時代」
女子高生ペタンには乳がない。
「どうして私の胸は大きくならないの?」とペタンは母親に尋ねたことがある。
「だってお父さんもおっぱいなかったよ」と自らは巨乳の母親は答えた。
「そっか、仕方ないね」言ってから、あれそれおかしくない? とペタンは思ったが、一度納得してしまった以上、反論することは躊躇われた。自らの間違いを認めるよりも、間違ったままでもいいから突き進みたい年頃でもあった。
父にあったのは、ちんちんだ。
「お父さんにあったのはちんちんじゃない」
そう言うペタンの股間を母は少し悲しそうに見つめていた。
「お父さんのちんちんはね、そんなに大きくはなかったの。でも、私にはちょうど良かった。太さも硬さも、持続力も」
ペタンは亡父のちんちんについて語られたことより、母親が他と比べられるほどの数、ちんちんを知っていることに少し失望した。
「母さんはどれくらいのちんちんを知ってるのよ」
「そんなのちゃんと数えたことないわ」
二〇一一年八月十八日、女子高生ペタンはグレた。
別に主人公がグレたところでこの話に大した影響はない。元々ペタンは露出狂の変態だったから。
髪はショートカットにし、眉を整えたりせず、ブラジャーも着けず、ブリーフパンツを履き、女らしい格好は一切せず、自らの貧乳ぶりを利用して、銭湯に通ったりしていた。もちろん男湯に。
いくら女性としてはもの悲しい体型だからといって、もう十七歳、どうしたって少年の体つきとは異なるところがある。腰はくびれ、手足は細くて毛はなく、何より股間にあるはずの膨らみがない。そもそも、わざわざ小さめのタオルを持参して、隠しきれないでいる尻は、それが男のものであれ女のものであれ劣情を催させる何かがあった。
(あれ、あの子女の子じゃない?)三十二歳フリーター。
(なんという美少年、あの尻に儂のちんちんをどうにかねじこみたい)七十八歳変態。
(小学生くらいかな、親と一緒に来ていた時の習慣で男湯に来てるんだろうか。生きててよかった)四十二歳無職。
(あのお兄ちゃん、綺麗だなー)九歳、性の目覚め。
視線と妄想を一身に浴びてペタンは輝く。学校でもバイト先でも一切女の子扱いされない彼女の、毛穴一つ一つから眩い黄金色の光が滲み出る。その光は銭湯を満たし、彼女に邪(よこしま)な考えを抱いていた男達の心を浄化する。七十八歳の変態老人は、その翌日から恋愛対象を二十歳以下の男性から四十八歳未満の未亡人に切り替えた。
そんな聖なる光に包まれて、ペタンは湯舟の中でひっそりと股間をいじりオナニーをするのだ。胸は揉まずに。
ペタンが銭湯に行った三日後の朝、ペタンは母親と食卓を囲んでいた。
「お母さんねえ、昨日ナンパされちゃった。こんなの二年ぶり! 相手は七十八歳のお爺ちゃんだったけど、まだまだ元気でたくましかったわあ。老人のちんちんって長いのよね。なかなか硬くならないんだけど」
「母さん! お弁当にバナナは入れないでっていっつも言ってるじゃない!」
「せっかくあなたの潜在意識の奥底にちんちんの残像をこびりつかせようと毎日頑張ってるのに。反抗期かしら」
「いい加減にして!」
そう言いながらもまだまだ成長していく予定の彼女は、空きっ腹には耐えられず、弁当箱から取り除いたバナナをくわえて家を飛び出すのだ。遅刻しそうなので全速力で走りながら。
ほんの少し、輝きながら。