Neetel Inside 文芸新都
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始まり

○月×日

引越しの準備もあらかた終わった頃、電話が鳴り響いた。父の実家からだった。
どうやら祖父が入院したらしい。父が病院に呼ばれた。

○月×日

祖父が死んだ。運び込まれたときにはすでに手遅れだったらしい。トイレの金隠しに頭がすっぽりはまる様に倒れていたそうだ。
祖母は倒れた祖父を抱き上げようとして腰を痛めて半ば寝たきり状態になってしまった。
思えばこの件を境に、祖母がおかしくなっていったのだと思う。

○月×日

祖父の葬式の日、腰が痛いからとごねる祖母を車椅子に座らせ葬儀会場に。
坊さんのお経で一同寝むりそうになる。多分2、3人眠っていただろう。
無理してでも来てよかったと祖母は言った。本心かはわからない。親族の前での建前だろうか。
この時の祖母の精神状態はまだいたって普通に見えた。

○月×日
祖父が死に、祖父の年金の半分が遺族年金として祖母に支払われる事となった。
布団の中で横になり話を聞いている祖母の顔がどことなく嬉しそうに見えた。

祖父の荷物と入れ替わりに家財道具一式が運び込まれた。
入居先のマンションを断り、祖母の家で暮らすこととなったのだ。
独り身となった祖母の事を心配しての父の強行だった。
母の顔が何処と無く淀んでみえる。

○月×日
祖父の物を整理中、タンスの中から金融会社からの通知が多数見つかる。
どうやら祖父は生前色々な会社や親戚、友人から借金をしていたらしい。
遺産らしい遺産も無いので相続放棄しようと親族会議で決定。
数時間後、土地を担保に借りた数百万の借金があることが発覚。
ちなみに土地と家は祖母の名義だった。祖母は保証人になった覚えは無いと言う。
この頃から祖母の物忘れが酷くなっていった。

○月×日
親族会議で祖父の借金のうち、土地を担保にしている分だけを遺族年金で返済する事に決まった。
遺族年金の受け取り手たる祖母もしぶしぶそれに承諾。
労いの電話に混ざって金融会社からの電話が鳴り響く。

○月×日
祖父の墓の予定地を下見、とりあえず骨壷を入れビニールを掛けて石蓋をした。墓石の事は後で考える事にした。
途中一人で墓参りに来た老女がうずくまっているを発見。転んで墓石に頭でも打ったのか意識が朦朧としているように見えた
とりあえず救急車を呼ぶ。どうやら認知症の老人だったようだ。ふと祖父の顔が頭をよぎる。

おじいちゃん、呆ける前に逝ってくれて本当にありがとうございました。

       

表紙

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