Neetel Inside 文芸新都
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MTGについて少し話そうと思う
voL.18「単色ボーイは逝く!」

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 いまふりかえってみても筆者の高校生活はけっしてもどりたいと思えるようなものではないだろう。中学までスクールカーストのふもとあたりで粛々とTCGやラノベに没頭していた筆者は〝高校デビュー〟というシステムを積極的に利用し、整髪料で髪をツンツンにしてみたりストリートジャックやクールトランスといったファッション雑誌を読みあさってみたり《ベラドンナの匂い(UD)》のような香りのする香水をつけてみたりポーターのカバンを買ってみたりとカースト上位に這いあがるべく奮闘してみたが、それらは10ターン目にドローした《ラノワールのエルフ(7th)》や《極楽鳥(7th)》くらい無意味なものにおわり、最初の夏をむかえるころにはすっかりもとの位置へとおちついていた。そのころの思い出といえば当時発売されたばかりのドラクエ7を冷房のきいた自室でひたすらやっていたことくらいしかなく、入学祝いに買ってもらったN502iは《ゴブリン・ウォー・ドラム(7th)》よりめったに鳴らず、1ターン目に置かれた《反射池(TE)》よりいくらか役に立つ程度の置きものと化していた(未来や過去をうつしだす池も現在の時間までもはうつしてはくれなかった)。学区外ということで通学に1時間近くかかり、また勉学にもついていけず欠席と遅刻と早退をくりかえしていた筆者は9月の第2週に後期中等教育というのはまったく無意味だという結論に到達して高校生活をあきらめ、ひたすらアルバイトにあけくれた。
 そんなわけで男子校に進学してしまい三年間の青春失敗を確定させていたバイト先の同僚たちとともに墓地の肥料となっていた筆者は《生ける屍(TE)》によってふたたびドミナリアに〝into play〟され、ふたたびMTGを探求する日々にもどることになった。ちょうどウルザの悪夢が去り、ファイレクシアの侵攻がはじまったころである。
 そのときはプレーンシフトまで発売されていたのだが、これまで単色に慣れ親しんできた筆者にとって当時のスタンダードはまさに〝新世界〟であった。たしかにミラージュ・ブロックやテンペスト・ブロックにも多色カードや多色ランドはあったし多色デッキも存在していたのだが、基本はやはり単色であった。あくまで多色化というのは単色ゆえの弱点をおぎなうための手段であり、単色・多色それぞれにメリットとデメリットをかかえていた(筆者の「5CB」もある意味で攻撃力とひきかえに柔軟さを手にいれた黒単デッキともいえよう)。
 だがウルザ・ブロックのかわりに登場したインベイジョン・ブロックはそんな旧来の環境をあっというまに〝侵攻〟した。なぜならそれまで難解かつ実験的なカードや《スリヴァーの女王(ST)》またエルダー・ドラゴンのようなアイドルカードでしかなかった『多色カード』によってスポイラーのかなりの部分が埋めつくされていたからにほかならず、それらは前環境まで存在していた単色と多色のミリタリー・バランスをあっさり崩壊させるほど実用的かつ強力な効果を持っていたからだ。
「おい、こりゃあ……」
 一年ぶりに例の店をおとずれた筆者はシングルカードのガラスケースの前で思わずそうつぶやいてしまった。インベイジョン・ブロックのカードたちはどれもまばゆいばかりに金色であり、19世紀のカリフォルニアを彷彿とさせるゴールドラッシュは平板な高校生活にうんざりしていた筆者の心を一瞬で沸き立たせた。のちにそのヤバさを知ったウルザ・ブロックとはことなり、野良プレインズウォーカーの筆者にも一目でわかるほどインベイジョン・ブロックは〝ビビット〟にちがいなかった。ガラスケースのいちばん目立つところにならんだ《ウルザの激怒(IN)》はその名に恥じないエンド級の火力をそなえた怒れる一枚だったし(イカれていたのは値段もだ)、《吸収(IN)》《蝕み(IN)》はまさにこのブロックを象徴するようなバリューでハイブリッドなカードであり、《シヴのワーム(PS)》はこれまでの単色カードでは考えられないほど明快で痛快なファッティだった。二年前おなじ場所にならんでいた《時のらせん(US)》《ヨーグモスの意志(US)》《ガイアの揺籃の地(US)》《トレイリアのアカデミー(US)》《厳かなモノリス(UL)》《補充(UD)》などとくらべてみても非常にまっとうなブロックであることはだれの目にもあきらかだった。
 ガラスケースのむこうのあらたな宇宙の片鱗にひさびさの高揚感をおぼえながら筆者はその全貌を知るためにさっそく都内へと旅立った。このころになると近所の書店でも購入できるゲームぎゃざにも最新エキスパンションのカードリスト小冊子が付録としてついてくるようになり、高額かつ専門店にしか置いていないデュエリスト・ジャパンを買わずともフルスポイラーを入手することができるようになっていたが(もっともMTGしかプレイしていない筆者からすればゲームぎゃざは割高であった)、約一年のブランクを埋めるためにも筆者はわざわざ遠出してカードショップをたずね、デュエリスト・ジャパンを購入するついでにシングル価格をチェックするなどして生の〝マジック感〟をとりもどそうとした。
 その結果、現環境の情報を整理するとつぎのように集約された。

・《ウルザの激怒(IN)》《火炎舌のカヴー(PS)》《終止(PS)》などとにかく赤い除去がヤバい
・前述の理由により「スライ」や「ストンピィ」と小型クリーチャーが幅をきかせていた前時代より島嶼化がすすみ、ダームやワームなど生物のデカさがヤバい
・そんな巨大生物が速攻してくる「ファイヤーズ」とそれらの緑系に対抗できる「マシーンヘッド」がヤバい
・《嘘か真か(IN)》もかなりヤバい
・白もべつの意味でヤバい
・もはや単色でプレイするメリットなどひとつもないほど多色カードがヤバい

 手にいれたデュエリスト・ジャパンをめくってみてもいたるページ、いたる記事にそれらがいかに有用なカードか、いかにして使うか、いかにして対策すべきか、などということが書かれており、もはやマスクス・ブロックの影などどこにもなく、ときたまデッキリストのすみに《リシャーダの港(MM)》《果敢な勇士リン・シヴィー(NE)》《からみつく鉄線(NE)》の名前をみかける程度だった。
 しかしあと半年たらずで終幕となる仮面舞踏会を惜しむプレイヤーは《蒼ざめた月(NE)》より使えないレアをさがすくらい困難であり、またさがす必要もなかった。例の店をのぞいてみてもジャクロ先輩は当然のように「ネザーゴー」をメレンゲのようにこねくりまわしながらカジュアル・プレイヤーたちを《蝕み(IN)》んでいたし、おこづかいの増えた少年はたった一枚の《シヴのワーム(PS)》を相棒に《疫病吐き(IN)》を二枚ふくんだ五枚のカードの山をどうわけたものかと深刻になやんでいた。モルツはパックから《ウルザの激怒(IN)》を引くという夢を追いかけてカスレアボックスを黙々と肥やしていたし、店長もパックやシングルカードの売れゆきが好調なようで機嫌がよかった。ソリティアや禁止カードなどでピリピリしていたウルザ・ブロックやプロフェシーを買う意味を探求する会が政権奪取をねらうなど哲学的な勢力にのまれていたマスクス・ブロックのころにくらべるとこのころの雰囲気はおしなべて和やかであり、新規プレイヤーたちにとってもっとも参入しやすい時期でもあったと思う(はじめて日本語版が発売された第4版やミラージュからはじめたプレイヤーがバンドやフェイジングに混乱することも、ウルザ・ブロックからはじめたプレイヤーが《セラのアバター(US)》や《アルゴスのワーム(US)》を手札にかかえたままライブラリーをぜんぶ引かされることももうないのだ。これをお読みの読者のなかにもインベイジョン・ブロックからはじめたという人がけっこういるのではないだろうか)。
 このようにインベイジョンおよびプレーンシフトは多くのプレイヤーたちにとって夢にあふれるエキスパンションであった。先述の「ファイヤーズ」「マシーンヘッド」を構築するには(強力なデッキの例にもれず)そうとうな資金力が必要だったが、コモンボックスやカスレアボックスをあさってみるだけでも使えそうなカードやおもしろそうなカードをそこここに発見することができ、多色を推奨しているだけあって比較的安価にマナ基盤をそろえることもできることもあって学生のおこづかいでもなかなかバラエティに富んだデッキを組むことができた。高価な多色ランドがなくても(スピードをべつにすれば)2色3色程度は問題なくまわったし、5色さえじゅうぶん現実的なレベルであった。おかげで筆者と春日くんはそれぞれ黒中心、青中心とデッキの方向性をきめながらもパックや投げ売りボックスから手にいれたカードのほとんどを選択肢にくわえ、毎日のようにカードをいれかえては試してぞんぶんに遊び倒した(《アーボーグのドレイク(IN)》《バリンの悪意(IN)》《くすぶるタール(UN)》《終末の死霊(PS)》あたりにはよくお世話になったものである)。それくらいインベイジョン・ブロックは多様性にふくみ、またカードひとつひとつが一定の水準をたもっていたのだ。
 とはいえ筆者が《ファイレクシアの盾持ち(PS)》にあこがれないわけはなく、春日くんが《吸収(IN)》を欲しないわけがなかったのだが、われわれは安価に手にいれた既存のカードでそれなりにたのしみつつ着々と時が経つのをまった。そう、なぜならインベイジョン・ブロックの大トリであるアポカリプスの発売がひかえていたからだ。そして高校生になったわれわれはまたひとつ次元をこえてしまう……
 というわけで次回はアポカリプスを箱買いしようと思う。

       

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