Neetel Inside 文芸新都
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MTGについて少し話そうと思う
voL.5「東京カードショップ紀行~池袋・渋谷編~」

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 前回の新宿遠征をきっかけに筆者はカードショップ目当てに東京へちょくちょく通うことになるのだが、先の新宿の2店舗だけではその店舗の特性上どうしても入手できないカードがでてきた。イエローサブマリンはけっして安い価格設定とは言えなかったし(人気カードはとくにその傾向が顕著である)英語屋は品切れのバーゲンセールであった。そんなわけで新宿以外にもあらたなカードショップを新規開拓しようと筆者はいくつかの店をまわってみた。今回はそれについて話そう。
 サンシャインビルやIWGPなどで有名な(近年だと乙女ロードなるものが盛況らしい)池袋にとあるカードショップがある。埼京線の開通以来さいたまの植民地支配がつづくこのターミナル駅周辺には新宿と同様たくさんの商業施設やオフィスビルが建ちならび、平日休日関係なくさまざまな人々が往来している。東なのに西武のある東口から駅をでるとティッシュ配りのお兄さんや店舗前の路上でシェイクを販売するロッテリアの店員やラッセンの絵はがきを手に獲物を物色する絵売りの女性などをやりすごしながら筆者はサンシャインビルのほうへむかって歩いていく。そんな混沌とした街の一角……やはり陰鬱とした小さなビルの6階で「アメニティー ドリーム池袋パワー9店」は営業していた。筆者はこの店をパワーナインと呼び、新宿のイエサブや英語屋とならんでよく通った。この店でいちばんお世話になったのはシングル販売されていたコモンカードである。《悪魔の布告(TE)》《ショック(ST)》《カーノファージ(EX)》《対抗呪文(5th)》《火葬(5th)》などの人気コモンがレジ前のガラスケースの下段に積みあげられ、一枚50円から200円程度で売られている。ものによっては少々割高ではあるが、カードショップでは基本的にレアとアンコモンしかシングル販売されておらず(筆者の行ったことのある店では大抵そうだった)、またトレード用としてコモンカードを持ち歩いている人はほとんどいないのでブースターを購入する以外コモンカードを入手するのはなかなか大変なのである。小型エキスパンションなら1BOX買えば大抵コモンは4枚揃うが(大型エキスパンションでも3BOXも買えば揃う)、それができない人間にとってこのコモン販売は非常にありがたかった。筆者は不足していた《解呪(5th)》や《火葬(5th)》を揃え、《祭影師ギルドの魔道士(MI)》《堕ちたるアスカーリ(VI)》《大クラゲ(VI)》を4枚ずつ購入した。水原くんのために《火炎破(VI)》《スークアタの槍騎兵(VI)》も買った。もちろんレアやアンコモンのカードもちゃんと販売されており、値段もイエサブよりは安く英語屋よりはすこし高めという感じだった。しかしストレージボックスいっぱいに詰められたアンコモンの充実ぶりは魅力的で、レアのならぶショーケースにはなんとあの《Black Lotus(UN)》が重厚なガラス製のトップローダーにいれられてツタンカーメンの黄金マスクのように仰々しく飾られていた(非売品)。ある意味でMTGの頂点であり原点でもあるうるわしき黒い水蓮は「少年よ、わたしを使えるほどのMTGプレイヤーになれ。わたしはいつでもここでまっている」と筆者に語りかけてきた。筆者は無言でうなずき、いつか世界選手権を制することを彼女に誓った(もし読者のなかにMTG漫画を描く予定のある方がいらっしゃったら出だしにこのエピソードをぜひ使ってもらってかまわない。できれば主人公はブライアン・ハッカー似のイケメンで《黎明をもたらす者レイヤ(IN)》のような年下の彼女を持つ設定でお願いしたい。なおアイディア料は不要である)。
 もうひとつ特筆すべきは店内にもうけられたデュエルスペースである。簡素なイスとテーブルが置かれたそのスペースは店内の半分ほどを占め、知り合い同士でたのしそうに談笑しながら対戦する者、デッキをにぎりしめながら今かいまかと場所があくのをまつ者、守護霊のようにプレイヤーの背後に立ちアンタップわすれがないか注視しながらデュエルを観戦する者、カードバインダーを広げスコット・ボラスのようにしたたかな話術でトレード交渉をおこなう者たちなどでデュエルスペースは大いににぎわっていた。もしフェルメールが存命であればその光景は「カードゲームに興じる人たち」と題された絵画としてウィザーズ・オブ・ザ・コースト社のエントランスに飾られたことだろう。筆者もそこにえがかれた一人になりたかったのだが残念ながらデッキもトレード用のカードも持ってきていなかったのでチラッとのぞく程度にした。年齢的にもMTGにかんしても筆者よりずっと先輩であろう彼らはライフカンターやトークンカードなどをあたりまえのように使用していて、当時ライフ計算を暗算でおこなったり硬貨をトークンがわりにしてアンタップ状態なのかタップ状態なのかでよくもめたりしていた筆者をおどろかせた。なかでも衝撃的だったのは全員がカードスリーブを使用しているという点だった。それまで筆者たちはカードをそのままの状態で使用していたのだ。当然カードは傷つき、第5版のカードには黒カビ(のようなもの)が白枠部分に発生した。「なるほど、これならカードは傷つかないし不特定多数の人たちともトレードできる!」と筆者は感心し、さっそくサプライ品コーナーに行ってカードスリーブを物色した。耐久性の低い安価なものから背面が黒や赤だったりするもの、カードイラストのえがかれたデッキケース付きのものなど多種多様なカードスリーブがあったが、黒使いである筆者は「これしかあるまい」と黒スリーブを購入した。これを機に筆者たちのあいだでもカードスリーブの使用が常識となった。またこのデュエルスペースではいろんなTCGの大会が頻繁に開催されていて、のちに筆者もここでひらかれる大会に参加することになる。それについてはいずれ書くつもりである大会レポあたりに記そう。
 ちなみにパワーナインがはいっているビルのむかいに「桂花ラーメン」というラーメン屋があるのだが、ここのターロー麺がなんとも絶品なのである。九州のとんこつラーメンのようなかための細麺に煮タマゴやきくらげなどがはいっているのだが、なんといってもトロトロの太肉(ターロー)とシャキシャキした歯ごたえの角切りキャベツがたまらなくうまいのだ。マクドナルドやケンタッキーに飽きてきた筆者は池袋にくるとかならずここに寄った。価格は900円と少々高いが本当においしいので池袋に来た際にはぜひ一度行ってみてほしい(この桂花ラーメンは新宿や渋谷などにもあるのだが、新宿アルタ近くの店舗は非常にせまいため関取やプロレスラーの方には広々とした池袋店をオススメする)。
 こうして新宿のイエサブ、英語屋、パワーナインが筆者の東京遠征における3大拠点になるのだが、前回の終わりに「池袋・渋谷編」となかばノリで予告してしまったのでいちおう渋谷のカードショップについても触れておこう。店名はたしかフォーラムだったと思うが、べつにこれといった特徴のないごく普通の店でフィギュアやプラモデルやNゲージなども販売していた。新宿や池袋で大抵ほしいカードは入手できたのでそれほど利用頻度は高くなかったが、じつはこの店のすぐそばにDCI日本支部のはいったビルがあるのだ。当時DCI公認の大きな大会が何度もひらかれ、塚本俊樹や真木孝一郎や石田いたるなどの有名プレイヤーたちがこぞってあつまったこの場所はまさに日本MTG界の中枢であり聖地であった。筆者は一度だけこのビルにはいったことがあるが、その異様な雰囲気にくわえ入場料がかかるため入り口で引き返してしまった。間接照明で照らされたショーケースのなかにカードが飾られていたのが記憶にのこっている(なんのカードだったかはわすれてしまった。あるいはブースターだったかもしれない)。あれから何年もたって筆者も大人になったいま、ぜひあのときのリベンジを果たしたいところだったが残念ながら現在はもうないということだ。なお渋谷にも東急ハンズがあり、やはり意味もなく通ったことだけを追記しておこう。
 このようにいま考えるとどこからお金を捻出していたのかという疑問がのこる度重なる東京遠征によって筆者の「5CB」はほぼ完成した。《知られざる楽園(VI)》のかわりに《水蓮の谷間(WL)》がはいっていたり再生するたびに1点のダメージを起こす《リバー・ボア(VI)》が投入されていたり《極楽鳥(5th)》が1枚挿しされていたりとところどころアンバランスなところはあったが、そのデッキはまさしく当時の筆者の集大成といってよかった。ウルザ・ブロックが発売されミラージュ・ブロックがスタン落ちするまでのごく短いあいだではあるが筆者はその「5CB」で思う存分たたかった。《火葬(5th)》のおかげで《サルタリーの修道士(TE)》はもうこわくなかったし、《ネクラタル(VI)》はコー族を一瞬で葬ってくれたし、《大クラゲ(VI)》はけっきょく赤単にもどした水原くんの《ラースのドラゴン(TE)》を封じてくれた。《解呪(5th)》はあいかわらず致命的なカードを割ってくれ、《堕ちたるアスカーリ(VI)》の加入した黒き騎士団は圧倒的な攻撃力を誇った。プレイングも板についてきて筆者の勝率は非常に高くなった。ビジョンズのカードによってさらに火力の増した水原スライにはあいかわらず分がわるかったが、それでも以前ほどボロ負けすることはもうなくなった。筆者は確実に強くなってきたのだ。
 さて、連載開始から5話をついやして筆者のMTG生活の黎明期について話してきたが、つぎなる大型エキスパンションであるウルザ・ブロックの発売がもうすぐそこまでせまってきた。ウルザ・ブロック期はMTGにさらなる隆盛をもたらし、筆者にとっても多くの転機をむかえる時期となる。
 というわけで次回はミラージュ・テンペスト期を総括してこの作品もひと区切りしようと思う。

       

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