Neetel Inside 文芸新都
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インディアン・サマーズ
7 その後、うるさい部屋の中で

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 阿片街道は市名坂脱退後、エイスケさんがドラムスを担当し、春日井さんが嫌々ギターをやりはじめた。劇的にクオリティが下がり、毎回、春日井さんがMCでげんなりして市名坂の悪口を連発していた。市名坂も春日井さんを引き続き社会的欠落者と呼んだりしており、これをヨーコさんは阿片戦争と呼んだ。そのうち市名坂はそれを言わなくなったので春日井さんもあきらめるかと思ったが、よく考えたら彼女、小学生のころヨーコさんに貸した鉛筆を折られたことを未だに根に持っていて、たびたび引き合いに出している。赦されることはないのだろう。どうしようもない人だ。
 エイスケさんはシンバルをまったく叩かないスタイルだった。それでもジュリさんよりはだいぶ手数があり、徐々にリズムも整っていった。春日井さんはまったくうまくならなかった。

 気が付いたらダラダラした具合で、オレは大学三年生になっていた。
 夏、とても暇だったので、ニコに花火大会にいかないか、と誘ったら、彼女の祭り批判に付き合わされることになった。まず「祭りってなにが面白いの?」ときた。人が多いだけだし、食べ物が高い、そして行ってなにか具体的なメリットがあるかと言えばない、とのことだ。オレは雰囲気を味わうためじゃねーの、と言ったが、じゃあ行かなくてもいいんじゃないの、などと彼女は言う。一理ある気がしたのでオレは黙り、しかたないので一人で行った。ニコが言った通り、食い物が高いので、オレは前日にコンビニで買ったビールと、事前に家で作った焼きそばを持参し、ほんとうに人が多いなこいつら何しに来てんだ? マジで満足感覚えて帰ってるのか? などということを考えながら食べ、もう来ないことに決めた。
 インディアンサマーズはパクった曲ばかり金太郎アメのようにずっとやり続けた。椎名くんが音楽的進歩をしなかったからだった。
 あるとき千羽が「失踪」した。バンドによくありがちな連絡なしで脱退するって意味とともに、マジで実家からもいなくなった。どうやら深山さんと駆け落ちしたらしい。経緯はよく分からないが、オレはドラマーがいなくなって困窮し、バンドを解散した。
 ヨーコさんも夏、インドへ旅行へ行くと言っていなくなり、それ以来会ってない。どこかでのたれ死んだのではないかと皆危惧している。今でも続いているバンドは阿片街道くらいだが、結局春日井さんはギターを弾かなくなった。
 他のバンドは自然にやらなくなっていくパターンがほとんどだった。
 その後、オレは授業に出なさ過ぎて大学を卒業できなかったので辞めて、ニコの実家に居候している。彼女の両親もなにも言わないのでどうにかなっているが、これがヤバくなりそうだったら色んな人から金を借り、オレもインドにでも旅立つつもりでいる。大学生がインドへ行くのは自分を探しにいくためなんかじゃない。逃げるためだ。今あることや、もしかすると自分自身から。オレもそうしたいし、ヨーコさんもそうしたかったのかもしれない。逃げ切れない何かから逃げるために、インドの夏の中へ。有象無象の中へ埋没。そうじゃない人もいるんだろうけど。
 とりあえず今のところ、オレは部屋をうるさくし続けてどうにかしてる。


   〈了〉

       

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