Neetel Inside 文芸新都
表紙

アサシーノス
嵐(コロシ)の去った朝

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少年と少女が砂浜で遊んでいる頃 ペレイラ邸では現場検証が行われていた
血で染まったベッドにはガムテープで死体の位置のマーキングが
行われており、民事警察の鑑識たちが現場検証を行っていた

「犯人はベッドで仰向けに寝ていた中尉の
 喉元に銃を押し付け、そのまま射殺した……」

ナシメントとマチアスはクリスチアーノ警備隊長の事情聴取を行っていた
ナシメントがクリスチアーノから話を聞き、マチアスがメモをとるといった形だ

「現場に駆けつけた時には中尉は虫の息でした……
 そして、あそこの窓が開いていました」

少女が侵入した窓を指差すクリスチアーノの指先を追うように
ナシメントは窓に近づいた

「侵入したのも脱出したのもこの窓ってわけか……」

ナシメントはしばし窓枠を見つめた後、近くにいた鑑識のジェルソンに声をかけた

「ジェルソン、ここの指紋は採ったか?」

「はい」

「よし、署に戻ったら2日以内に調べあげろ」

「無茶言わんで下さい 俺、明日と明後日は有給なんですよ」

ナシメントは無神経なことを言うジェルソンを軽く叱責した

「ずらしゃあいいだろうが このボケ」

「分かりましたよ……それより、警部
 これを見てください これが傷口から摘出された弾丸です
 中尉の搬送先の病院から押収してきました」

「……パッと見 
 45口径のACP弾ってところか……
 アメリカ製の大型拳銃だな」

「ギャングたちの仕業なら9㎜弾か5.56㎜NATO弾のはずですよね?」

「そうだ……汚職警官共が横流ししてる武器も
 そっち系が多いからな」

3人が話し込んでいる時、廊下では現場入りしたフェルナンデス大尉に
対する挨拶の声が聞こえ出した

その声を聞き、クリスチアーノ警備隊長はやや脅えた様子で身体を硬直させていた

ナシメントたちの居る事件現場に入ってきたフェルナンデス大尉の眼光は
クリスチアーノへの怒りで満ち溢れ、怒睨(どけい)の面を構えていた

フェルナンデスはスポーツ刈りのがっしりした体格の黒人で、歳は41歳……
着用する眼鏡から生み出される知的で鋭い眼光が、がっしりした体格と合わさり
文部両道の軍警察官という雰囲気をかもし出していた

「た……大尉!」

クリスチアーノがフェルナンデスの階級を呼び終える前に、
彼クリスチアーノの顔に大尉の拳骨が襲い掛かった

「げは!」

倒れかけるクリスチアーノを叩き起こすかのように
大尉は彼の胸倉をつかんで引っ張り起こすと壁に背中を叩き付けた

「お前がついていながら何てザマだ……!」

「も……申し訳ありません!」

「分かっているのか……?
 お前に大尉の護衛を託した俺の気持ちが……!」

大尉はもう一発、クリスチアーノの顔面に平手打ちを
3発叩き付けた

「も……申し訳ありませんっ!!」

クリスチアーノの目には大尉への恐怖のあまり、
目元が下がり、涙が流れていた
その様子を見ていた民事警察の鑑識は目の前の光景にすくんでしまっていた 
マチアスもその例外ではなかった

「謝って済むなら死刑は要らん!死ね!」
フェルナンデス大尉はもうクリスチアーノをもう一度殴りつけようと拳を振り上げた
だが、その拳はクリスチアーノに振り下ろされることはなかった

「ナシメント……!」

ナシメントは振り落とされようとするフェルナンデスの大木のような拳をおさえつけていた

「落ち着けって な?」

しばし、にらみ合う二人
フェルナンデス大尉はつかんだ腕を振り解くと
そのまま拳を地へと下ろした

「本当に殴るべき相手 間違えてねーか?ウン?」

「……そうだな」

「現場検証は終わった 今のところ無しだ……
 何か分かり次第、情報よこす」

「……ああ 分かった」

うつむく大尉を気遣ってかは分からないが、
ナシメントはすくんでいるマチアスの肩をポンと叩いた

「ジョアンナ、行くぞ」

ナシメントに肩を叩いてもらったお陰か、
すくんでいたマチアスの身体に力が入った
その力を使って、マチアスはナシメントと共に外へと出て行った

「…………」

ナシメントと共に署に戻るマチアスは俯き、
ただ呆然としていた

「ジョアンナ、ビビッちまったか?」

ナシメントに聞かれ、マチアスの口から出てきたのは謝罪の言葉であった

「……すみません 暴力を前にして足がすくんでしまって……
 警官失格ですね……」

謝るマチアスの空気を少しでも和めようと
ナシメントは少し微笑んだ

「俺なんか新人の頃、犯人にボコられて
 泣きながら小便漏らしたことあるぜ……
 それに比べたら全然大したことねーよ」

まさかの暴露話にマチアスは大爆笑した

「あはははは!ホントですか?それ?」

「ああ、マジだ……だから、メンデスのアホに
 チクったりするなよ」

「ぷふふっ……大丈夫ですって…あはははははははは!!」

「おい!そこまで笑うか?おめー!」

鬼刑事として署内でも、女性警察官間でも通っている
ナシメントの過去にしてはあまりにも似合わなさ過ぎる暴露話に
マチアスは大笑いした ただ、その大笑いはただナシメントを笑うだけのちっぽけなものでは無い
自分の恥を晒してまで慰めてくれたナシメントの優しさが
マチアスには嬉しくて、その嬉しさを黙って抑え込んでおくには
キツくて出てしまった笑いであった……


「それより、今日の事件で思うことはあるか?」

ナシメントの表情がマチアスの笑いをかき消した。
空気を読んで、マチアスはその質問に答えた

「ギャング殺しのホシと、今日の事件のホシは
 別ってところですかね……」

「だな 2つともコロシの手口がバラバラすぎる
 ギャング殺しのヤマは標的諸共 皆殺しなのに対して、
 今回のヤマは標的だけを殺している……」

「今回のヤマはプロの犯行と見て間違いないでしょうか?」

「どちらもプロさ 目撃者が一人もいないのが何よりの証拠だ」

「……どちらから調べます?」

「そうだなぁ……今回のヤマはエゼキエルに
 花持たせてやるとするか……」

「それじゃあ……」

自身の運転する車が焼肉店の前を通り過ぎたのを
ナシメントもマチアスも見逃しはしなかった
肉汁溢れる巨大な肉の串刺し達の香りが二人の食欲をそそった
車をUターンさせ、ナシメントは焼肉店の駐車場へと車を走らせた

「だが、その前に飯とするか」

「ですね」

自らの目指すべき目標が見つかり、2人は戦いの準備を整えるべく
焼肉店の扉へと走っていった

       

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Neetsha