******2・セーラたんとの会話*******
大学での1日の授業が終わり僕は帰宅していた。
最後の講義の間中、吉田が幼女幼女と連呼していたのは言うまでもない。
周囲からの目が痛い人を見る目から犯罪者をみるソレに変わっていた。
普段なら漏れ聞こえて来る「キモイ」「ウザイ」などの罵倒も僕の耳には届かないのだが
「通報」「警察」の言葉はしっかりと僕の耳にまで届いていた。
そして僕は一緒に帰る時まで、最高にハイってやつになってしまった吉田を
空気を扱うように丁重に扱い駅前で別れたのだった。
もし吉田と一緒にいたのが普通の人なら、明日からはトイレでご飯を食べるエクストリームスポーツの競技人口を増やしていたかもしれない。
いや、さすがの僕でもトイレと吉田のヒエラルキーを比較してみたけど、どっちも底辺だったんだ。
とりあえず、疲れた気持ちを切り替えるために、慣れた手つきで家のパソコンを起動する。
今日は起動直後にスピーカーから流れる「おかえりなさいませ、ご主人様♪」という音声が妙に無機質に聞こえる。
そういえば、帰宅路ではほとんどセーラたんと会話をしていなかったので、話しかけようとしたところで
逆にセーラたんに話しかけられた。
「海老名さん、どうして帰り道では全然話し掛けてくれなかったんですか?
てっきりもう、見えていないのかと不安になっちゃいましたよ!」
「え、え、いえ、その、あだって満員電車の中でそのはは、話かけるのはさすがに難易度が高いと言いますかその」
「私、海老名さんと電車のなかでダンロップの会話をするために会話用の選択肢まで考えてたんですよ!」
午後の最後の授業を受けてしまうと、海老名駅へ戻る電車は帰宅ラッシュとかぶってしまうのだ。
それなのに、この嫁は僕に、満員電車の中で一人でエロゲの会話をつぶやき続けろとおっしゃる。
いくら電車の中でエロゲの話ができると言っても、エロゲの台詞を喋るのは違う気がした。
おまけに選択肢まで応えないといけないらしい。
ダンロップに出てくる選択肢は、思わずセーブするのを忘れてしまうほどクサイ台詞で有名なのだ。
「それに、会話の難易度なんて携帯ゲーム機の中の彼女にむかって告白するより簡単ですよ!」
「す、すいません・・・」
たしかに最近まで僕はラブプラスにどっぷりハマっていた。
そういえば僕の告白とファーストキスの場所はいつもの電車の中だった。
もちろん、僕のファーストキスの相手はニンテンドーDSの下画面だ。ありがとう任天堂。
それに比べれば僕にしか見えないセーラたんと会話するほうが簡単かもしれない。
よし、明日からは周りの目を気にせず普通に話しかけてみることにしよう。
セーラたんと話してる最中に痴漢の冤罪にあったら言い訳のしようも何もないが…そんなことは気にしない。
「海老名さんが、話し掛けてくれないなら、フラグはいつまで経っても立ちませんからね!」
そう言いながらセーラたんが僕に人差し指を突き立てる。
ここまで言われてしまっては、さすがの僕も話題を提供しないといけない気がしてきた。
今からでも何か話しかけようと思ったが、くだらないのことばかり考えていて話題なんて考えてなかった。これはまずい。
"たちつてとなかにはいれ"という会話の鉄板マニュアルがあることは知っているけど"た"からして何だっけ状態だ。
ん?フラグと言えばゲームの中のセーラたん攻略が行き詰っていたことを思い出した。
そうだ、そのことについてセーラたんに聞いてみよう。
エロゲキャラの攻略方法をエロゲキャラ本人に聞くというのは斬新すぎる気がしたが
質問をして相手に答えてもらうのも立派な会話のキャッチボールだ。
リア充である僕のコミュニケーション能力を発揮する。
「あの、フラグといえば、ゲ、ゲームのセーラたんの攻略も、す、進まないのですが、あれはその、どういう…」
「親密度のパラメータが低いのでお答えできません。」
意を決して放ったキャッチボールの一投目は、にべもないメタ発言であしらわれてしまった。