Neetel Inside ニートノベル
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パンチラ同好会
十七話「カルタシス」

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「――質問ですか?」
「ああ、質問」
 今にも泣き出しそうなミカちゃんを前に、一瞬――いや、今でもこの質問をぶつけていいのか……悩ましいところだが、言ってしまったものは仕方がない。
「……いいですよ……」
「ごめん。でも、確かめたいことがあったから」
「はい……それで質問っていうのは……その……何ですか?」
 夕日がオレのことを攻めるように、空を紅く照らす。
 オレは、本当に、本当に、こんなことを訊いてしまっていいのか? この子は、少なくともオレのことが好きだからこそ、告白してきたんであろうし、このまま、オレの質問を曖昧にして、順風満帆な高校生活を歩むことだって出来るんだぞ? いいのかオレ?
 ……いいも悪いもない。オレは、オレは……。
「ミカちゃんは、どうしてスカート長いの?」
「えっと……禁止令が出たから、みんなそうしてるからですけど……」
「いや、それは違うね」オレは紅く染まる空を眺めて。「確かに、確かにそうかもしれないけど、でも、ミカちゃん、禁止令が発令された日からスカートが長くなってた。あれはどう考えてもおかしい」
 いや、別におかしくないだろと、自分にツッコミを入れつつ、ミカちゃんの方に顔を向けると、ミカちゃんは「なんのことですか?」と逆ギレしそうな顔で。
「えっと……話が見えないのですが……」
「ごめん。でも、これだけは訊いておきたいんだ」
「……はい」
「ロングスカート愛好会って知ってるよね?」
「……えっ!?」
 これは……墓穴を掘ってしまったのか、オレ……? いやいやでもでも、焦るなオレ。
 ミカちゃんの行動、言動を振り返ってみろオレ。確かに、去年の入試の時にオレが案内してあげた受験生の中にミカちゃんがいたけど、でも、あれだけでオレのことが好きになるってありえないだろ!
 考えてみろよ、オレ! 前学期のパンチラ騒動があった後に、オレに付きまとうようになるなんておかしな話だろ! そうだろ? そうだよね、オレ!?
「じゃ、じゃあ訊くけど……どうして、あんな騒動があった後なのに、オレの所に来て、その付きまとうって言い方は語弊があるからあれだけど……一人ぼっちのオレにその、なんていうんだろう……」
 言葉がうまく出てこない。このためにまとめておいたはずの言葉が、頭の中からうまく出てきてくれない。
 さっきまでは一字一句、ばっちり覚えていたのに、何故、こんな緊張しているんだ? そうか告白のせいなのか? あー、もおおおおおおお!
「……それは……その……」
 ミカちゃんは何かを隠すようにうつむき、黙りこんでしまった。
「……ミカちゃん?」
「実を言うと、入学した時から……先輩のこと追いかけてたんです……」
 なんだと……? なにそのドキドキイベントみたいなの! ずるい! 気づかなかったオレも憎い!
「どういうこと?」
「入学式が終わって、その次の日です。タカシ先輩を探しに二年生のクラスの前をウロウロしてたら、タカシ先輩を見つけられたのは良かったんですけど……そのユカリ先輩もいて……ああ、わたしの入れる隙間なんてないのかなって……」
 ユカリイイイイイイイイイイイイイイイ!! と今、ユカリの名前を心の中で叫んだ所で、あの頃には戻れないし……。
「それで、あの騒動があって。騒動から二学期が始まるまで……わたしずっと悩んでたんです。このまま、先輩のこと好きでいるか、それとも諦めて……その……。それで、夏休みが明けて先輩の教室の前に行ったら、ユカリ先輩と先輩の雰囲気が変わってて。それで……これはと思って……」
 なつほど。オレからユカリの気配が消えて、その気にオレに付け入ろうって魂胆だったのか。
「……そうだったのか」
 オレの直感は信用出来無いんだな、そうなんだな。だって、ミカちゃんはロングスカート愛好会なるものとは関係なか――。
「……わたし、先輩に言ってないことがあったんですけど……でも、先に先輩に訊かれちゃったので、ちゃんと言いますね」
 ミカちゃんはオレの目をしっかり捉えて。
「……わたし、ロングスカート愛好会の人間です」
「……ん、ン、ん?」
 自分で話を振っておきながら、ミカちゃんからそれを聞いた途端、世界の歯車がぶっ壊れて時間が止まればいいのにと思ってしまった。
「確かに、先輩につきまとったのは、自分の意志だけじゃなくて、ロングスカート愛好会の意向があったのも事実です……でも、ほとんどはわたしの意思です……信じてください」
 その後、ミカちゃんは真実を語ってくれた。
 オレに告白しようか悩んでいる時に委員会の仕事で、この学校のロングスカート愛好会の主メンバーの人と仲良くなる。
 その人に恋愛相談をしていると、その人に「私達の仲間なって、私達に協力してくれればきっとその恋は叶う。だから私達の仲間にならない?」と持ちかけられ、半信半疑のままロングスカート愛好会へ入り、その後直ぐに、オレのあのパンチラ騒動が起きる。
 その騒動を知って、ミカちゃんは、かなりショックを受けていたらし。どうしようか悩んでいると、オレとユカリの雰囲気がどう見ても変わっていることに気づく。それをその人に言うと、「チャンスだよ! 傷ついている心を癒せばきっと!」と言われ、オレのことを監視することを条件に、ロングスカート愛好会として、オレを監視していた。ということらしい。
「で……その、恋の相談者って誰なの……?」
 もうすぐ夕日が落ちる。肌寒いだけじゃすまなくなる前に、話を片付けなれけばと内心焦りつつオレはミカちゃんにそう訊いた。
「生徒会副会長さんです……」
「は? オレがパンツみたあの人?」
「違います! もう一人の方の人です……」
 うちの高校は副会長が二人居る。二年生と三年生、から一人ずつ選出されるようになっている。オレがパンチラを覗いたのは三年生の副会長で、ミカちゃんが恋愛相談していたのは二年生の副会長らしい。
「そうだったのか……」
 少なくとも、ミカちゃんは敵側の人間ということが判明したが、果たしてミカちゃんは本当に敵側の人間なんだろうか? 違うな、オレのことが好きで、でも一歩踏み出すどころが、後退りしようとした時に、ロングスカート愛好会というものに背中を押されただけの、いうなれば利用……ん?
 なんで、ロングスカート愛好会の奴らはオレのことを監視してたんだ?
「ミカちゃん、どうしてオレのことを監視してたの?」
「それはロングスカート愛好会が――」
「あああっと、そうじゃなくて。ロングスカート愛好会は、どうしてオレのことを監視してたの?」
 ミカちゃんは少し困った表情で。
「わたしもよく分からないんです……ただ、恋のバックアップをするから、タカシ先輩の行動を報告しろって……」
「じゃぁ、今日のことも報告するの?」
「……そ、それは」と口ごもるミカちゃん。
 なら、開放してあげるしか無い。ミカちゃんも正直、得体のしれないロングスカート愛好会なる謎の組織にいるのが、オレへの恋愛感情からのものなら、ミカちゃんを開放する手立ては一つだ。
「ミカちゃん、さっきの告白の答えだけど……」

「――というわけだ」
<どういうわけだ?>
 光の速度でチャットをするショウゴのタイピング速度に憧れを抱きつつ、ここまで洗いざらい話したのに、なんで聞き返すのかな、この人は!
『タカシ死、話が見えないのですが?』
 カワサキくんもそんなこと言っちゃうの? もう! しかも氏じゃなくて死って聞こえた気がするんだけど、まぁ、聞こえなかったことにしよう。
<ミカちゃの告白は、結局、なんて答えたんだよ?>
「ああ、その話? それはまぁいいよ、それは置いておいて、とりあえずミカちゃんの話によると、生徒会の人間は全員黒らしい」
『置いておけませんよ。そもそも、あんな禁止令を作った生徒会が黒だなんて、最初っから分かってる話じゃないですか。それよりも、ミカ氏の告白は受けたんですか? どうしたんですか?』
 二人共、告白の部分しか興味ないのかよ。
 オレは必死の思いで手にいれてきた情報なのに、どうして聞く耳持ってくれないのよ!
「んまぁ、とりあえず、明日の放課後、生徒会室にお宮参りしてこようと思う。じゃ!」
 と、言い残し、オレはスカイプの通話を切った。



「やぁ、タカシくん。待っていたよ、君を」
 オレは昨日の宣言通り、放課後、生徒会室および生徒会長へと足を運んだ。
「なんで、オレの名前知っているんですか?」
 ここに入るために、荷物検査をやられた時点で、なんとなく分かっていたことだが。
「知っているとも! 我が生徒会副会長のパンツを覗きみた男だからね。男の欲望を丸出しにするのもいいが、それだと女の子に嫌われるよ?」
「女の子だけだったらよかったんですけどね。あれのおかげでほとんどの生徒から嫌われてしまいましたよ」
 アハハハハ! と生徒会長室中に響き渡るように生徒会長は笑った。
「そうか……それは……それは……」
「ええ、本当に生徒会長度ののおかげで、オレのパンチラ――じゃなくて、学校生活はめちゃくちゃですよ」
 生徒会長は、笑いという仮面を投げ捨てるように、百八十度表情を変えてオレの顔を凝視しつつ。
「ここに着たということは、われわれとの宣戦布告と受け取っていいのかな、パンチラ同好会主将どの」
「ええ、そう受け取ってもらえるとうれしいですね」
「そうか。ならこれはそのお近づきとして」
 生徒会長は胸ポケットから名刺いれを取り出し、オレに一枚渡してきた。
 そこには、「ロングスカート愛好会 高等生徒部 会長」という肩書きが書かれていた。
「二つとも会長ってわけですか」
「そのお陰で、俺のロングスカート化計画もうまくいったんだけどね。まぁ、君みたいなのがいたおかげなんだけどね」
「……そですか。今日はオレ、これから予定があるので、この辺で帰らせてもらいます」
「そう。もう少し喋っていたかったんだけど……まあいいや。君の荷物は隣の生徒会室の入り口のところに捨てられてあると思うから、拾って帰るよいいと思うよ」
「ありがとうございました」
 オレはそういいのこし、生徒会長室を後にした。

       

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