Neetel Inside ニートノベル
表紙

パンチラ同好会
三話「T」

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 オレが見たいのはオンリーワンのパンチラではなく、ナンバーワンのパンチラだ。
 ユカリのパンチラ写真が亡き今、オレがユカリに協力するアイデンティティも失われた。ん、アイデンティティってどういう意味だ? わっかんねけど、なんか発音がいいのでオッケーにしておこう。
 そんなわけで、盗撮魔調査とかいう無駄に疲れる無駄なことは切り上げ、我々本来の目的、そう、『パンチラ』を狙うがために誰よりも早く学校に来たわけだが、あまりにも早くついたせいか、まだ学校の門すら開いていない。
 どうするんだ、オレ。左腕につけてる腕時計は午前六時半を示している。気合を入れすぎたとかそんなレベルじゃない。普通に寝ぼけ眼で時計を見間違えたとかそんなレベルだ。 
 うーん……と正門の前で一分ほど悩んだ結果、学校最寄りの駅に行き階段でパンチラを狙うかとか思ったが、そもそもオレ、自転車通学な訳で……。
 そうだよ、自転車で帰れる距離なら家に帰ればいい話じゃないか。……帰るか。
 家に帰り、なんだか疲れていたので二度寝することにした。
 十分、いや、五分寝よう。余裕だろ。そんな甘い考えが頭を廻っている間に、いつの間にかオレは寝ていて……ハッと目を覚ますと――。
「『いいとも』やってるとか、まさか……」
 腕時計だけではなく、全ての時計が十二時半を示していた。
 やっちまったぜ、このご時世。寝る寝る詐欺ですか、なにしてるんだよ、朝一番に行って、警戒難易度が比較的低い朝一登校女子のパンチラを狙う予定が……とんだ誤算だ。
 ちょうど時間割的には昼休みだったのでリビングのテーブルの上に置いてあった弁当を食べ、チャリンコにのり学校までぶっ飛ばした。
 五時間目が始まる前に何とか登校できた。嬉しい。まだ希がある。希望がある。そして、学校には女子がいる。まさに天国!
 自転車を駐輪場に止め、行きつけのパンチラスポットへ行こうとしたその時、運命の金が鳴ってしまった。
 結局、五時間目が始まった教室に入っていかなければならなくなり、しかもクラスメイト達に小声で「あれ、今日あいつ居なかったんだー」だの「うは、全然気づかなかった」だの言われたが気にしない。パンチラ同好会主将であるオレにはそんなの関係ない。クラスにどれだけ居づらくても学校には行く、そう、パンチラのために。

 退屈な五時間目が終わり、十分休憩が始まった。ここが勝負だ。残るは放課後だが、放課後は生徒が分散しすぎてて、隠れる場所が殆ど無い。
 さあ、教室から出てパンチラスポットに行こうと立ち上がろうとした瞬間、ユカリが話しかけてきた。
「あんた何してたのよ」
 ちょっと、まってくださいよ……。
「え、えっと、ほら寝坊だよ、寝坊。例の事考えてたら、なんか、なんかすごい時間になっててさ! 寝れなかったんだ! じゃ、トイレ行ってくるから」
 立ち上がり、軽快に教室から出ようとしたその時、ユカリに肩を抑えつけられ上から力をかけられたため、まだ椅子にカムバックしてしまった。
「話は終わってない」
 いつになく怖いっすね、ユカリさん。
「あの……漏れそうなんですが……」
 時計を見ると休み時間は既に四分も経過していた。やばい、これでは間に合わない。
「んなの知ったことないわよ、それで……その例のあれについてなんだけど、この間――」
 クソ、駄目だ。今日こそはパンチラを見ないと死んでしまう。確かにユカリパンチラ写真は脳内のHDDに刻まれているが、あれは写真であって、オレが見たいのは本物なんだよ! しかたない、これだけはやりたくなかったんだが、背に腹は代えられない。
「ああああああああああああああああああああ、だめ! もうダメ! 漏れちゃうよう! ユカリさん、僕トイレに行ってくるね! トイレに行くだけだから! だからお話は後でしましょ! ね!」
 教室中、いや、隣の隣の教室まで聞こえたであろう、そのくらい大きな奇声を出し、オレはトイレ――否、パンチラスポットへと走りだした。
 いやー、オレが奇声を上げた後のあのクラスの静まりよう……すんばらしいかった。本当、この後あの教室に帰るのが憂欝になるくらい素晴らしかったね。
 廊下を全力ダッシュし、階段を駆け下りる、そして一階階段横にある物置場に身を潜める。
 三方向が壁に囲まれ、階段したにできた小さな余白――それが今オレがいる場所だ。ここにはいろいろものが積まれているので身を隠すのはうってつけだ。だが、逆に言うと外の様子を伺うもの大変ということだ。
 オレが今からしようとしていることは、こうだ。
 一、身を隠し、女子が来るのを待つ。ただ待つだけではダメだ。女子は鐘が成りそうで慌てて教室に戻る女子、そう、休み時間ギリギリまで一階居て慌てて教室に戻る女子がターゲットだ。
 二、階段を急いで(早歩き、または小走りな子が望ましいが)駆け上がり、ちょうど一階と二階の間の踊り場で方向を変えるとき、その時にオレが物陰から飛び出す。
 三、ただ飛び出すだけでは絶好のパンチラインは確保できないので、スライディングしながら飛び出す。これ超重要。
 四、そして伝説へ――。
 そんな訳で物陰に隠れ慌てふためく女子を待っているんだが、いかんせん、ここの廊下、人通りが少ない廊下として有名。人通りが少ないからこそ、スライディングを使ったアクロバットパンチラウォッチが出来るのだが……。
 休み時間は残り一分。やはり、今日もダメだったかと諦めようとした瞬間、奥のほうから足音が聞こえてきた。
 女子だ。この足音は絶対に女子だ。オレの聴力は並大抵じゃないからわかる。というか謎の第六感がそう言っている。
 タッタッタッタ……と女子と思われる足音が階段を軽快に上がって行く。なんとこれは、小走り状態じゃないですか! スカートスパーヒラヒラ状態になってるかもしれないじゃないですか! 
 一段、また一段を階段を登っていく足音。まだだ、まだ早い、踊り場まだ後五段ある。
 タッタッ……今だ!
 物陰から飛び出し、華麗にスライディングを決めるオレ。多分、スライディングだけだったらメジャー選手でも顔負けなくらいなスライディングだと自負している。
 いくぞおおおお、オレはやるぞおおおおおお。ひっさびさの獲物だああああああ!
 心で叫び、目を大きく開く。
 動体視力を研ぎ澄ませろ。
 目線、スライディングする速度、全てにおいて黄金比だ。行ける。パンチラインは頂いた。

 ……。
 久しぶりの獲物にオレは狂喜乱舞、違うな、昇天してしまった。

「タカシ氏、ごきげんがいいようですね」
 放課後、いつもと同じメンバーで誰も居ない教室を見つけ、今日の成果を話しあう。
「あ。わかるカワサキどの?」
「わかるもなにも、そんなにニヤついた顔をされていれば……」
 どうやら相当顔の筋肉が緩んでいるらしい。ほっぺを自分でさすってみたが、確かにニヤついている感じだ。
「……きも……」
 ショウゴが何か言った気がしたが、気にしない。今日はそれだけのこと、いや、それだけのモノを見てしまったのだから。
「で、タカシ氏」カワサキくんがオレの目を見据えて。「誰の、どんなパンチラを頂いたのか詳しく訊かせてもらいましょうか」
「え、そんなに聞きたいのかあ、しょうがないなあ。今日のは大物だぞ」
 ゴクリの二人が唾を飲むのが分かったのでオレは優越感に浸りながら今日の見たパンチラを説明することにした。
「今日見たのは、あの生徒会副会長のパンツだ」
 場の空気が騒然とする。
「た、タカシ氏! あの鉄のスカートと言われている、あのふくか、会長のぱ、ぱんつをみたっていうんで、でで、スカ!」
 あまりにも衝撃的すぎたのか、カワサキくんは勢い良く立ち上がっり、しかも言語機能は崩壊。ショウゴに関してはもう息をしていなかった。
「ああ、見たよ。見ましたとも」
「ししししいしかし、タカシ氏の方法であ、あの、顔フェイスまで確認できな、ないじゃない」
「ふっ、何のために動体視力とスライディングを極めたと思っているのかね。全く、これだから君はまだド三流なんだよ」
 だ、だがしかし! とカワサキくんがひつこく食い下がってきたので、オレは彼を黙らせるために禁断の一言を言うことにした。
「ティー」
 二人共、もう息はしていなかった。
 オレもそれを見た瞬間、その場で気絶するほどの破壊力を持った下着だった。
 そう、ティーバック。鉄のスカートとして有名なあの生徒会副会長の下着はティーバックだったのだ。
 オレはさらに追い打ちをかけるように続けた。
「黒」
 もう二人の姿はなく、そこには二人だったであろう灰が舞っていた。
 普通のパンチラを狙おうと思ったら、とんでもないモノを引き上げてしまったようだ。ダンボールを開いたつもりが、実はそれはパンドラの箱だった。そんな感じか。
 正直、そろそろ覗き方を変えようか悩んでいただけに、もう、なんと言っていいのか……。
 その後、二人は一言も喋らずに、オレもそれ以上なことを喋らずに、解散となった。
 もちろん、その晩はものすごいことになった。色々と新記録を達成したオレは、満足し、昇天し、深い、深い、とても深い眠りについた。



 目が覚めると昨日と同じく時計は一二時半を示していた。
 なんと言う開放感だ。まるで新しい世界が始まったかのような感じだ。
 学校へ行くか、このままサボッて夜の続きをするか悩んだ挙句、学校に行くことにした。
 いつも見る風景がとてもつもなく綺麗に見えた。木々は優しく風に揺られ、まるでオレを讃えているかのように見え、太陽はオレを照らすためだけにあるような、そんな気がした。

 学校につき、駐輪場に自転車を止め、上履きに履き替え、教室へ向かう。
 すれ違う生徒が皆、オレのことを意識しているかのような目線を感じた。そうか、これが新しいオレなのか。なるほど、パンチラを見て、出すモノ出しただけなのに、なんという事でしょう。オレじゃなくて、これからはボクって言ったほうがいいのかな。
 ガラガラと教室の扉を開き、教室に入ろうとした瞬間、どこからともなくユカリが現れ、オレの右手をひっぱり廊下へと飛び出した。
 あまりにもいきなり過ぎて、混乱するオレ。なにも言わないでオレの手を引っ張るユカリ。もしかして、これは告白的なアレですか。なるほど、とても嬉しいです。でも、オレの頭のなかには……などと野暮なことを考えながらユカリに屋上へと連行された。
 三百六十度の絶景。この学校は、周りより少し高い場所に立っているため屋上は超見晴らしがいい。こんなところで告白なんて、ユカリさんも乙女なのね。さすがのボクも断れないじゃないか。
 背中を向けていたユカリがオレの方を向くと共に一枚の紙を差し出してきたので、華麗に受け取った。
 ラブレターとは、なんと可愛い。ヤバイ。ユカリ可愛いよ、よく見るとスタイルもいいし、髪型的な意味でもオレの好みだ。ヤバイ、好きになりそう。
 ドキドキしながら「これ読んでいいの?」とユカリに訊くと、無言でコクリと相槌を打ったので、渡された紙を広げる。
 空を見ながら紙を広げ、手に持っている紙に視線を移すと、そこには――。

       

表紙

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Neetsha